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40.僕を手放す気なの?
しおりを挟むシーニュと一緒に、僕は広間まで来た。そこの扉を力一杯開く。中にいたのは、狐妖狼のみんなだ。みんな僕と同じ、狼の耳と狐の尻尾がある。
その中の一人が、僕に振り向き、目を丸くして叫んだ。
「クラジュ!」
「兄ちゃんっっ!!」
僕は、彼に駆け寄り抱きついた。一年ぶりの兄ちゃんだ……すごく懐かしい。
ずっと会えなかったけど、僕より、ちょっとだけ背が高くて、抱きしめられるとすごく気持ちよくて安心するところとか、温かくて、触れていると落ち着く腕とかは、全然変わらない。いつも僕に優しくて、僕を守ってくれていた兄ちゃんだ。
兄ちゃんは涙を流しながら、僕を抱きしめてくれた。
「クラジュ……心配したぞ……クラジュ……」
「兄ちゃん……ぼ、僕……もう会えないかと思った……」
「ずっと探していたんだ……まさか、こんな遠くにいたなんて……」
「と、遠く?」
兄ちゃんを見上げると、兄ちゃんは僕のおでこを撫でて言った。
「お前、パトに魔法で連れてこられたんだろう? ここは群れがいた森より、山を一つ越えた向こう側だ」
「え……」
そんな遠くまで来ていたんだ……パトから逃げた後、いっぱい歩いたけど、全然仲間に会えなかったのは、僕が遠くまで来ていたからだったんだ。でも、そんな遠くにいるはずの兄ちゃんまでここにいるってことは……
「に、兄ちゃんたちもパトに捕まっていたの?」
「ああ……ずっと、知らない山の中の小屋に、他の仲間と一緒に監禁されていたんだ」
「……兄ちゃんも……城下町で、盗みをさせられていたの?」
「……いいや……俺はずっと拒否していた……そのせいで……」
兄ちゃんは自分の尻尾を僕に見せてくれる。ふわふわで気持ちよかった兄ちゃんの尻尾は、真ん中で千切られていた。
「に、兄ちゃん……し、尻尾……」
「大丈夫だ……オーフィザン様が、治してくれる」
「……お、オーフィザン様が?」
「ああ。あいつらに拷問された傷も、全部、オーフィザン様が治してくださったんだ。狐妖狼の力の源になる耳と尻尾は、少し時間がかかるみたいだけど……だから、心配しなくていい」
「でも……でも……兄ちゃん……」
「泣くな……クラジュ……」
兄ちゃんが、優しく何度も「泣くな」って言ってくれる。それでも、僕は涙が止まらない。しがみついて泣く僕を、兄ちゃんはずっと抱きしめてくれた。
隣にいるシーニュも、僕の背中を撫でてくれる。
「クラジュ……泣くなよ。せっかく家族に会えたんだから」
「う、うん……」
やっと顔を上げた僕に、シーニュはハンカチを渡してくれる。
兄ちゃんが、シーニュに頭を下げた。
「ありがとうございます。シーニュさん。クラジュがお世話になりました……」
「き、気にしないでください。俺は……世話なんて、そんな大げさなことしたつもりないです」
「でも、クラジュは……その…………ドジで……色々迷惑をかけたんじゃないですか?」
「あー…………え、えっと……ま、まあ……少しは…………」
「少し、なんて、気を使わないでください。クラジュは群れにいても、水を汲みにいって迷ったり、集めた果物を川に流したり、薪を集めようとして、木から焚き火の中に落ちたりしてましたから……」
「さ、最後のやつ、なんで無事だったんですか?」
「多分やるなーと思った仲間が、落ちる寸前に火を消してくれたんです。みんなもう、クラジュのドジには慣れてますから」
「……群れの人たちが慣れるより、クラジュの方をなんとかした方がよくないですか?」
「それはだいぶ前に諦めました。とにかく、俺が陛下の城から帰れるようになったら、クラジュは連れて行きます」
え……? でも、オーフィザン様は?
兄ちゃんを見上げると、兄ちゃんは、僕の頭をポンポンと軽く叩いた。
「クラジュ、俺が陛下の城に行ってる間に、ちゃんとここの皆さんにご挨拶しておけよ」
「で、でも……ぼ、僕、オーフィザン様に、話さなきゃ……僕……」
うまく説明できない僕に代わって、シーニュが口を開く。
「……お兄さん、クラジュは、オーフィザン様の性ど…………じゃなくて、あ、あの……オーフィザン様にお仕えしている身です。その……勝手に出て行くことはできないんです」
「分かっています。きちんとオーフィザン様にはお話しします。いやあ、クラジュを拾ったのが、オーフィザン様のような、素晴らしい魔法使いの方で本当によかった。魔法でクラジュが壊したものを元に戻せるらしいじゃないですか。弁償を迫られたらどうしようかと、群れのみんなもヒヤヒヤしていたんです。クラジュのことは引き取りますので、損害賠償とかはなしでいいですよね?」
「……」
シーニュは少し黙ってから、僕に小声で言う。
「お前の兄ちゃん、ちょっと図々しい気がするんだが……」
「ご、ごめん……こうでないと、僕の兄ちゃんなんて、やってられないみたいで……」
「なるほどな」
すごくあっさり納得された……ちょっと傷つく……
兄ちゃんは、シーニュの手を握って言った。
「とにかく、オーフィザン様に話して、ちゃんとクラジュは引き取ります。クラジュ、それまで、何も壊さず、騒ぎも起こさないようにするんだぞ」
「で、でも、兄ちゃん……オーフィザン様は、僕に城を去ることは許さないって言ってて……」
「心配するな、クラジュ。お前を引き取りたいなんて、度胸のある人はいない。一年もお前の世話をしてくれたオーフィザン様は、本当に素晴らしい人だよ」
「……」
横にいるシーニュが、また僕をツンツンつついて、小声で言う。
「お前の兄ちゃん、図々しいっていうより、ひどくないか……?」
「う、うん……でも……ぼ、僕たち、両親が死んじゃって、家族は兄ちゃんだけで……僕の一人きり家族って、すごく大変みたいで……」
「……お前も、あんまり俺が納得しまくる理由言うなよ……俺、兄ちゃんに同情しちゃうだろ」
「……ううう……」
何か反論したいけど、僕が失敗するたびに、群れの仲間に頭を下げてくれた兄ちゃんのことを思うと、何も言えない……ごめん。兄ちゃん……
「いいか、クラジュ。兄ちゃんが陛下のお城に行っている間、魔法でも直らないものを壊さないように、じっとして待ってるんだぞ」
「う、うん……」
兄ちゃんに気圧され、僕は頷いた。群れのみんなも、僕に駆け寄ってきてくれる。
「クラジュー! クラジュだー!!」
「クラジュ、ずっとここにいたの!?」
「クラジュ、帰ってくるの?」
「クラジュ、今度は何を壊したの?」
「な、何も壊してないもん……」
嘘だから、小さい声でしか答えられないけど、懐かしいみんなに囲まれて嬉しい。
それなのに、みんなと話すことより、オーフィザン様のことを考えてしまう。オーフィザン様、僕を手放す気なのかなあ……
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