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番外編1.日陰の雑談(三人称です)
46.後編
しおりを挟むオーフィザンは、部屋に入ってきたクラジュを見て、こっそり微笑んだ。
クラジュは、キョロキョロしながら冷や汗を流している。また何やら、可愛いことしているらしい。
「あ、あれ……? あれ? な、なんで……ここ、物置じゃありませんでした?」
物置は、ちょうどこの下の階だ。どうやら間違えたらしい。
道に迷うくらいであれば別に構わない。しかし、彼は、びしょびしょに濡れて土で汚れたマントを持っていた。
なんとなく、何をしたか想像できたが、一応聞く。
「クラジュ……どうした……?」
「あ、あの……あの……えっと……迷ったみたいで……」
「……そのマントはどうした?」
「あ、あ、あの……ち、違うんです! ひ、拾ったんです! そこの……廊下に落ちてました!」
「……そんなはずがないだろう。嘘をつくな」
「……ううう……あ、あの……へ、部屋でオーフィザン様を待っていたら、寂しくて……マントに包まっていたら、暇で……べ、ベッドの上でスルメ食べてジュース飲んでたらひっくり返して……それで、兄ちゃんと洗ったんですけど、兄ちゃんが他に汚れたものがないか、部屋に確認しに行ってる間に、か、風に飛ばされそうになったマントをおさえようとしたら、つまづいて引っ張って地面に落としてぐちゃぐちゃになってその上破れて……縫いに行こうとした途中で迷いました……」
「………………セリュー、陛下を門まで送れ。行くぞ、クラジュ。仕置きだ」
つい、ほくそ笑んでしまう。こういうことをした時、クラジュは可愛さを増す。
彼はいつもどおり、可愛く焦り出した。
「え? え?」
「来い」
すっかり機嫌が直ったオーフィザンは、戸惑うクラジュの手を強く引いて客間を出た。
*
部屋に取り残された王は、ため息をついた。まさか一国の王を放り出して、クラジュの相手をしに行ってしまうとは思わなかった。
とはいえ、オーフィザンは、日頃から敬語すら使ったことがなく、敬意など感じたことがない。竜と魔族のハーフであるオーフィザンには、人間の国の王など、畏れるものではないのかもしれない。
「ずいぶん気に入っているようだな……」
クラジュに対する嫉妬混じりに呟いて、王は立ち上がった。
盗賊達のことが落ち着き、息抜きをするつもりでここへ来たが、オーフィザンがあれでは帰るしかない。
なにより、早く出て行けと言わんばかりにセリューが横に控えている。
「門までお送り致します。陛下」
恭しく頭を下げているが、嫌悪感がひしひしと伝わってくる。
彼は、元はこの国の貴族で、大臣だった父親について、よく働いてくれていた。その頃とは、雲泥の差だ。彼の父親の失脚を防げなかったことを恨まれている気がしてならない。
廊下を歩きながら、王は、セリューにいつも持ちかける話をしてみた。
「セリュー、城に来ないか? お前は優秀な男だ。こんな山奥の城にいるのは」
「お断り致します。私の主人は生涯、オーフィザン様ただ一人です。他のどなたにも、仕える気はございません」
主人の無礼が移ったらしいその男は、こちらの話を遮り冷たく言って、さっさと歩き出してしまう。
態度だけは、愛想のない主人にそっくりだ。
王は、再びため息をついた。
「しつけのうまい男だ……」
*
城の門を出て、セリューは、去っていく王とその護衛達を見送った。
やっと面倒な男の相手が終わり、ホッとする。体の力が抜けて、ため息だか深呼吸だか分からない息が、ゆっくり口から漏れた。
あの王に会うと、気分が悪くなる。何よりあの同情するような態度が嫌いだった。
父の失脚は、酒に溺れて騙された父自身のせいでもあるし、没落した家にもう未練はない。それは、あの王の城に対しても同じだ。
幼い頃は、あの城で国を動かすのだと意気込んだが、今は興味すらわかない。
今、セリューの頭にあるのは、ただ一人の主人、オーフィザンに全身全霊を尽くし仕えることだけだ。
それなのに、あの王は、会うたびにお門違いの同情を始める。何度かもう未練はないと伝えたのだが、分かっていると言われるだけだった。
門をくぐり、城の扉を開くと、入ってすぐの広間にある石像に、ダンドが寄りかかっていた。
彼は、セリューに向かって微笑む。
「お疲れ様。セリュー」
「……次に陛下がいらしたら、お前がお相手しろ。肩が凝る……」
「揉んであげようか?」
「……いらん」
そんなことをして欲しくて言ったのではなく、少し愚痴を聞いて欲しかった。
いつも気を張っているセリューは、仕事が終わっても緊張が解けないことが多かったが、ダンドと話していると、リラックスできた。
初めて彼と仕事をした時は、戸惑うことも多かったが、今では彼は、気が置けない仲間だ。
歩き出したセリューに、ダンドは小さな包みを渡してきた。
「じゃあ、これ、食べない? 疲れが取れるよ」
「……」
受け取った包みを開くと、中には小さなチョコレートがあった。
つまんで口に放り込むと、確かに少し休まる気がした。
やっと落ち着いたのに、ダンドが今度は嫌な話を始める。
「あ、クラジュ知らない?」
「……オーフィザン様のマントを汚して仕置きを受けている」
「また……? せっかくクラジュが好きなクッキー作ったのに……後でオーフィザン様に渡すか……」
「……そうやってお前達が甘やかすから、あのバカ猫は同じことを繰り返すんだ。ランキュのことをオーフィザン様に話したのも、お前だろう?」
「クラジュには内緒ね? 話さないでって言われてるんだから」
「……」
「ランキュ、真っ青だったね。多分オーフィザン様に、よっぽど怖いお仕置きされたんだね」
「……お前は? 手を出したんじゃないのか?」
「俺はしないよ。キレたオーフィザン様に襲われたランキュを見たら、俺、何もできなくなっちゃったから」
「……そうか……」
セリューがため息をつくと、ダンドがなだめるように、背中を撫でてくれた。
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