【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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番外編2.出張中の執事(三人称です)

68.屋敷

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 何かあったらオーフィザンを頼るようにシーニュに言って、セリューはダンドとともに、フイヴァ家の屋敷に向かった。

 日が沈んだ頃になって、そこにたどり着いたが、広い敷地は高い塀に囲まれている。

 ダンドが腰に手を当て、ため息まじりに言った。

「大きなお屋敷だねえ……伯爵の部屋に忍び込んで、伯爵が何をしようとしているのかつきとめて、ついでに証拠も盗み出すんだよね? あっ、釘のこともか。見つかるかな……?」
「伯爵の部屋を探せば出てくるはずだ」
「だけど、門からなんて入れてくれるはずないし、どうする?」
「塀を乗り越える」
「これを? セリューの背丈の倍はあるよ」
「お前はこれくらい、乗り越えられるんじゃないのか?」

 セリューは短剣をザクっと塀に刺し、それを足がかりにして、塀の上まで飛び上がる。ダンドもすぐにそれを追ってきた。

「セリューって、普段からこんなことしてるの?」
「あの方の執事は、色々とすることが多いんだ」
「色々……オーフィザン様だから、仕方ないかあ……」

 二人は静かに足音を立てないように走って、中が真っ暗な窓の前まで来た。当然鍵がかかっているが、鍵を開けることには慣れている。セリューがカバンから出した布を窓に当てると、すぐにカチャンと音がしてカギが開く。

「セリュー、すごいね。今度魔法の道具の使い方、俺にも教えてよ」
「聞いてどうする気だ?」
「今度執事になるときに役に立つかもしれないだろ」
「……執事を続ける気なのか?」
「だって、またセリューと仕事がしたいから」
「…………」

 なんとなく気恥ずかしくて、セリューは顔をそむけた。それでも、ダンドとまた仕事ができるかもしれない、そう思うと自然と嬉しくなる。なるべくそれを表に出さないように無表情を決め込んだ。

 窓を開いて、二人で中に入る。そこは廊下で、人の気配はない。

「さて、セリュー、どこへ行く?」
「伯爵の部屋を探す」
「探すって、どこにあるのか知らないの? ここに来たことあるのかと思ってた」
「あるにはある。だが、だいぶ幼い頃の話だ。父についてきたときだが、あの時はコリュムがあまりに鬱陶しすぎて何も覚えていない」
「じゃあ」

 ダンドが言いかけたところで、廊下の角から男が出て来た。明らかに侵入者のこちらを見て、悲鳴をあげようとした彼に、セリューはかけより、先ほどのお守りを押し当てた。

 男は全身の力を奪われ、気絶して廊下に倒れる。使用人らしき彼にこんなことをするのは気がひけるが、今は証拠を探すことの方が先だ。

「セリューって、貴族で執事の割には、そういうの得意だね。誰に習ったの?」
「先輩にだ」
「セリューの前にいた人? 鍵開けたり人眠らせたり、そんな技、使うことあるの?」
「ほとんどない。しかし、こういうレッスンを受けているとストレス解消になる」
「ああ……なるほど……」
「さあ、伯爵の部屋を探すぞ。釘でも竜でも、どちらかに絡んでいるのなら、魔力の跡があるかもしれない」

 セリューは魔力を探知する香炉を床に置いた。そこから生まれた犬は、屋敷の奥に向かって走り出す。ダンドがそれを指差して言った。

「……あれ、またオーフィザン様じゃないよね?」
「二度もあんなことはなさらないだろう」
「あれ、可愛くてよかったけどね。犬オーフィザン様」
「犬とオーフィザン様を並べて呼ぶな!!」
「だって、あれひどいよ。俺ら真面目にやってるのにからかうなんて。今朝の石鹸だって、本当はオーフィザン様かもよ?」
「そんなはずが」
「あ、急がないと逃げられちゃう!」
「おいっ!!」
「急いで、セリュー!!」

 犬はしばらく走って、一つの豪華な扉の前で立ち止まり、それを引っ掻き出す。

 セリューは、中の気配をうかがってから鍵を開け、部屋に入った。

 そこは、きらびやかな調度品で飾られた部屋だった。壁には巨大なコリュムの肖像画がかけられている。

 セリューはうんざりした。伯爵の部屋ではないだろう。探していた部屋ではなかった上に、気味の悪いものを見てしまい、吐き気がする。隣にいたダンドも、うんざりしたように言った。

「キッモ……早く出て行こう」
「待て……せっかく来たんだ。釘の証拠を探すぞ」
「……え……本気? この部屋で探し物するの? 俺、もう気分が悪くて……」
「いいから探せ……なんでもいい。伯爵が魔法使いを探していたというのが本当なら、コリュムはそのうちの一人と接触したのだろう。何か……あいつが指示した証拠があればいい……」

 セリューはなるべく肖像画を見ないようにしながら机の引き出しを開けた。どれも、ほとんどからだったが、一つだけ、鍵のかかった引き出しがある。それを開くと、中から書類が出て来た。その中の一つに地図があった。最初に釘が打たれた花屋のところにバツが書いてある。

 ダンドが、それを覗き込んで言った。

「これを使って指示してたのかな?」
「しかし、花屋以外にも印がついたところはあるが、全く別のところだ。これは……民家ばかりだな……」
「民家も狙ってたのかな? わ!!」

 急に地図はふわりと浮き上がる。

「な、なんだ!?」

 驚くダンドの前を、地図はふわふわ浮いて、突然机の上に落ちた。

 ダンドは、それを指して言った。

「またでたよ。オーフィザン様」
「……何かわけのわからないことが起こった時にオーフィザン様の仕業と決めつけるのはやめろ」
「だって、俺はずーっと嫌な感じがしているんだ。オーフィザン様に笑われている気がする」
「オーフィザン様はお前がいうようないたずらものではない。私たちの主人だぞ」
「セリューはオーフィザン様を誤解している」
「していない。伯爵は魔法使いを探していたのだろう。今回の釘の犯人も魔法使いだ」
「じゃあ、あれを操ってるのは……釘の犯人の魔法使い? この部屋のどこかに、オーフィザン様以外のいたずら魔法使いが……」
「その、オーフィザン様を侮辱するような発言をやめろ!!」
「侮辱してないです。あ!」

 地図は空中で光り、一匹の猫に姿を変える。香炉から出てくる犬に似ている気がした。

 ダンドが腕を組んでセリューに言った。

「ほら、やっぱりオーフィザン様だ」
「……違う。あれは猫だ。オーフィザン様じゃない」
「オーフィザン様って、犬派?」
「犬でも猫でも、あの方は可愛いものがお好きだ。とにかく、あれに魔法をかけている魔法使いは、オーフィザン様じゃない……うわっ!!」

 猫は急にセリューに飛びかかってきた。慌てて避けたが、猫はすぐにまたセリューに飛びかかってくる。セリューは短剣を抜いた。しかし、猫はその一撃をあっさり避け、セリューの肩に乗る。

「お、おい! 離れろ!」
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

 近づいてくるダンドに、猫はとびうつり、彼の頬に顔を擦り付けている。甘えているようだ。ダンドはその猫を抱き上げた。

「よしよし……いい子じゃないか……」
「ダンド、あぶないぞ。その猫を離せ」
「何もしないよ。セリューはびっくりしすぎ。早く短剣しまって」
「……猫は嫌いだ」
「セリューは犬派?」
「そうではなくて、動物が苦手なんだ。噛み付いてくるだろう」
「そんなことしないよ。俺は猫派なんだから、猫を悪く言わないで。だいたい、これ、猫じゃないだろ? 魔法使いが遠くから操っているんだから……ん?」

 猫はくいくいとダンドの服を引く。そしていきなり喋り出した。

「あ、あ、あ、あな……あなた……こ、こ、こ、狐妖狼?」
「え…………う、うん……そうだよ」
「…………た、た、た、た、た、助けて……」
「助ける? あなたを?」
「き、き、き、き、来て……」

 猫はダンドの服を何度も引っ張る。必死な様子の猫に、ダンドがきいた。

「どこかへ行って欲しいの?」
「は、はや……早く……はや………………」

 言いかけた猫は、いきなり飛び上がり、丸いボールになってしまう。コロコロ転がり、セリューたちの周りを回ったり、飛び跳ねたりしていた。

 ダンドがそれを見て首をかしげた。

「どうしたのかな?」
「どうやら、相手の魔法使いはあまり魔法が得意ではないようだな。うまく操ることができないのだろう」
「え、魔法に下手くそとかあるの?」
「あるに決まっているだろう。オーフィザン様ほどの魔法使いはそういない」
「イタズラ好きだしねー」
「おい、ダンド……」
「あ……行っちゃう!」

 ボールはコロコロ転がり、部屋を出て行く。セリューもダンドもそれを追った。

「助けてって言ってたね。コリュムの仲間の魔法使いじゃないのかな?」
「分からない……」
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