68 / 174
番外編2.出張中の執事(三人称です)
68.屋敷
しおりを挟む何かあったらオーフィザンを頼るようにシーニュに言って、セリューはダンドとともに、フイヴァ家の屋敷に向かった。
日が沈んだ頃になって、そこにたどり着いたが、広い敷地は高い塀に囲まれている。
ダンドが腰に手を当て、ため息まじりに言った。
「大きなお屋敷だねえ……伯爵の部屋に忍び込んで、伯爵が何をしようとしているのかつきとめて、ついでに証拠も盗み出すんだよね? あっ、釘のこともか。見つかるかな……?」
「伯爵の部屋を探せば出てくるはずだ」
「だけど、門からなんて入れてくれるはずないし、どうする?」
「塀を乗り越える」
「これを? セリューの背丈の倍はあるよ」
「お前はこれくらい、乗り越えられるんじゃないのか?」
セリューは短剣をザクっと塀に刺し、それを足がかりにして、塀の上まで飛び上がる。ダンドもすぐにそれを追ってきた。
「セリューって、普段からこんなことしてるの?」
「あの方の執事は、色々とすることが多いんだ」
「色々……オーフィザン様だから、仕方ないかあ……」
二人は静かに足音を立てないように走って、中が真っ暗な窓の前まで来た。当然鍵がかかっているが、鍵を開けることには慣れている。セリューがカバンから出した布を窓に当てると、すぐにカチャンと音がしてカギが開く。
「セリュー、すごいね。今度魔法の道具の使い方、俺にも教えてよ」
「聞いてどうする気だ?」
「今度執事になるときに役に立つかもしれないだろ」
「……執事を続ける気なのか?」
「だって、またセリューと仕事がしたいから」
「…………」
なんとなく気恥ずかしくて、セリューは顔をそむけた。それでも、ダンドとまた仕事ができるかもしれない、そう思うと自然と嬉しくなる。なるべくそれを表に出さないように無表情を決め込んだ。
窓を開いて、二人で中に入る。そこは廊下で、人の気配はない。
「さて、セリュー、どこへ行く?」
「伯爵の部屋を探す」
「探すって、どこにあるのか知らないの? ここに来たことあるのかと思ってた」
「あるにはある。だが、だいぶ幼い頃の話だ。父についてきたときだが、あの時はコリュムがあまりに鬱陶しすぎて何も覚えていない」
「じゃあ」
ダンドが言いかけたところで、廊下の角から男が出て来た。明らかに侵入者のこちらを見て、悲鳴をあげようとした彼に、セリューはかけより、先ほどのお守りを押し当てた。
男は全身の力を奪われ、気絶して廊下に倒れる。使用人らしき彼にこんなことをするのは気がひけるが、今は証拠を探すことの方が先だ。
「セリューって、貴族で執事の割には、そういうの得意だね。誰に習ったの?」
「先輩にだ」
「セリューの前にいた人? 鍵開けたり人眠らせたり、そんな技、使うことあるの?」
「ほとんどない。しかし、こういうレッスンを受けているとストレス解消になる」
「ああ……なるほど……」
「さあ、伯爵の部屋を探すぞ。釘でも竜でも、どちらかに絡んでいるのなら、魔力の跡があるかもしれない」
セリューは魔力を探知する香炉を床に置いた。そこから生まれた犬は、屋敷の奥に向かって走り出す。ダンドがそれを指差して言った。
「……あれ、またオーフィザン様じゃないよね?」
「二度もあんなことはなさらないだろう」
「あれ、可愛くてよかったけどね。犬オーフィザン様」
「犬とオーフィザン様を並べて呼ぶな!!」
「だって、あれひどいよ。俺ら真面目にやってるのにからかうなんて。今朝の石鹸だって、本当はオーフィザン様かもよ?」
「そんなはずが」
「あ、急がないと逃げられちゃう!」
「おいっ!!」
「急いで、セリュー!!」
犬はしばらく走って、一つの豪華な扉の前で立ち止まり、それを引っ掻き出す。
セリューは、中の気配をうかがってから鍵を開け、部屋に入った。
そこは、きらびやかな調度品で飾られた部屋だった。壁には巨大なコリュムの肖像画がかけられている。
セリューはうんざりした。伯爵の部屋ではないだろう。探していた部屋ではなかった上に、気味の悪いものを見てしまい、吐き気がする。隣にいたダンドも、うんざりしたように言った。
「キッモ……早く出て行こう」
「待て……せっかく来たんだ。釘の証拠を探すぞ」
「……え……本気? この部屋で探し物するの? 俺、もう気分が悪くて……」
「いいから探せ……なんでもいい。伯爵が魔法使いを探していたというのが本当なら、コリュムはそのうちの一人と接触したのだろう。何か……あいつが指示した証拠があればいい……」
セリューはなるべく肖像画を見ないようにしながら机の引き出しを開けた。どれも、ほとんどからだったが、一つだけ、鍵のかかった引き出しがある。それを開くと、中から書類が出て来た。その中の一つに地図があった。最初に釘が打たれた花屋のところにバツが書いてある。
ダンドが、それを覗き込んで言った。
「これを使って指示してたのかな?」
「しかし、花屋以外にも印がついたところはあるが、全く別のところだ。これは……民家ばかりだな……」
「民家も狙ってたのかな? わ!!」
急に地図はふわりと浮き上がる。
「な、なんだ!?」
驚くダンドの前を、地図はふわふわ浮いて、突然机の上に落ちた。
ダンドは、それを指して言った。
「またでたよ。オーフィザン様」
「……何かわけのわからないことが起こった時にオーフィザン様の仕業と決めつけるのはやめろ」
「だって、俺はずーっと嫌な感じがしているんだ。オーフィザン様に笑われている気がする」
「オーフィザン様はお前がいうようないたずらものではない。私たちの主人だぞ」
「セリューはオーフィザン様を誤解している」
「していない。伯爵は魔法使いを探していたのだろう。今回の釘の犯人も魔法使いだ」
「じゃあ、あれを操ってるのは……釘の犯人の魔法使い? この部屋のどこかに、オーフィザン様以外のいたずら魔法使いが……」
「その、オーフィザン様を侮辱するような発言をやめろ!!」
「侮辱してないです。あ!」
地図は空中で光り、一匹の猫に姿を変える。香炉から出てくる犬に似ている気がした。
ダンドが腕を組んでセリューに言った。
「ほら、やっぱりオーフィザン様だ」
「……違う。あれは猫だ。オーフィザン様じゃない」
「オーフィザン様って、犬派?」
「犬でも猫でも、あの方は可愛いものがお好きだ。とにかく、あれに魔法をかけている魔法使いは、オーフィザン様じゃない……うわっ!!」
猫は急にセリューに飛びかかってきた。慌てて避けたが、猫はすぐにまたセリューに飛びかかってくる。セリューは短剣を抜いた。しかし、猫はその一撃をあっさり避け、セリューの肩に乗る。
「お、おい! 離れろ!」
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
近づいてくるダンドに、猫はとびうつり、彼の頬に顔を擦り付けている。甘えているようだ。ダンドはその猫を抱き上げた。
「よしよし……いい子じゃないか……」
「ダンド、あぶないぞ。その猫を離せ」
「何もしないよ。セリューはびっくりしすぎ。早く短剣しまって」
「……猫は嫌いだ」
「セリューは犬派?」
「そうではなくて、動物が苦手なんだ。噛み付いてくるだろう」
「そんなことしないよ。俺は猫派なんだから、猫を悪く言わないで。だいたい、これ、猫じゃないだろ? 魔法使いが遠くから操っているんだから……ん?」
猫はくいくいとダンドの服を引く。そしていきなり喋り出した。
「あ、あ、あ、あな……あなた……こ、こ、こ、狐妖狼?」
「え…………う、うん……そうだよ」
「…………た、た、た、た、た、助けて……」
「助ける? あなたを?」
「き、き、き、き、来て……」
猫はダンドの服を何度も引っ張る。必死な様子の猫に、ダンドがきいた。
「どこかへ行って欲しいの?」
「は、はや……早く……はや………………」
言いかけた猫は、いきなり飛び上がり、丸いボールになってしまう。コロコロ転がり、セリューたちの周りを回ったり、飛び跳ねたりしていた。
ダンドがそれを見て首をかしげた。
「どうしたのかな?」
「どうやら、相手の魔法使いはあまり魔法が得意ではないようだな。うまく操ることができないのだろう」
「え、魔法に下手くそとかあるの?」
「あるに決まっているだろう。オーフィザン様ほどの魔法使いはそういない」
「イタズラ好きだしねー」
「おい、ダンド……」
「あ……行っちゃう!」
ボールはコロコロ転がり、部屋を出て行く。セリューもダンドもそれを追った。
「助けてって言ってたね。コリュムの仲間の魔法使いじゃないのかな?」
「分からない……」
0
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
欲にまみれた楽しい冒険者生活
小狸日
BL
大量の魔獣によって国が襲われていた。
最後の手段として行った召喚の儀式。
儀式に巻き込まれ、別世界に迷い込んだ拓。
剣と魔法の世界で、魔法が使える様になった拓は冒険者となり、
鍛えられた体、体、身体の逞しい漢達の中で欲望まみれて生きていく。
マッチョ、ガチムチな男の絡みが多く出て来る予定です。
苦手な方はご注意ください。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる