【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
108 / 174
番外編6.執事になる!

108.汚名返上のために頑張る

しおりを挟む

 ダンドが馬車の手綱を握り、オーフィザン様がセリューの体を支えて、馬車は山の斜面を駆け下りる。山道は長く人が通っていないのか、砂利や雑草が伸びかけていて、馬車の中はガタガタと激しく揺れた。

 ぐったりとオーフィザン様に寄りかかるセリューは真っ青な顔をしていて、今にも呼吸が途絶えてしまいそう。だ、大丈夫かな……? 僕のせいだ……

 しばらく行くと、坂道を下った先に、花の咲いた木々に囲まれた大きなお屋敷が見えてきた。

 あそこが目的地だ!! あそこまで行けば、セリューの治療もできるらしい。

 ダンドが操る馬車は、山麓に吹き降りる山風を追い越す勢いで走り、その屋敷の門の前まで来た。

 門の前には、誰かが立っている。僕は初めて見る、着物っていうものを着た、オーフィザン様と同じくらいの背の、深い山と同じような色の長い髪の男の人だ。頭にはちょっと長くて、ぺたんで垂れた半透明な猫の耳、お尻にはふわふわした地面までつく長い尻尾がある。

 ちゃんと自己紹介したいけど、今はゆっくり挨拶はしていられない。ダンドが馬車を急停止させ、オーフィザン様はセリューを抱きかかえて馬車を降りた。僕も持てるだけの荷物を持って、オーフィザン様の後を追う。

 門の前の人が、こっちに向かって手を振って僕らを迎えてくれる。

「オーフィザン、よく来たな。ん……? その方はどうされたのだ?」

 その人は、オーフィザン様に抱きかかえられたセリューを、心配そうに見つめていた。セリューは倒れた時よりも、ずっと顔色が悪い。呼吸も荒くて、それがすごく怖かった。

 不安でたまらない僕は、怖くて荷物を落としそうになっちゃうのに、オーフィザン様はすごく落ち着いていた。

「俺の執事が途中で魔物に襲われ怪我をした。休ませてやりたい。部屋を用意してくれ」

 その人はぐったりするセリューに近づき、緊張した面持ちで、セリューのおでこに手を当てる。

「魔物の毒か……中へ入れ。すぐに薬を用意する」
「助かる」

 薬、あるんだ……セリュー、元気になるよね!?

 僕らは屋敷の奥の部屋に案内された。初めて見る造りの部屋は、床が少し柔らかくて、植物の匂いがする。下に敷いてあるものは、畳っていうらしい。部屋の端には、平らな花瓶に花が生けてあった。

 僕らを案内してくれた人は、笹桜ささざくらさんと言うらしく、畳の上に布団を敷いて「すぐに薬を持って来る。少し待っていろ」と言って部屋を出て行った。

 布団に寝かされたセリューはすごく苦しそう。

 あまりに申し訳なくて、僕はもう顔を上げられない。しゅんってなっちゃった僕の頭を、ダンドがポンポン撫でてくれた。

「クラジュ、あんまり気に病まないで」
「でも……僕……僕のせいで……」
「クラジュも、わざとやったんじゃないだろ? クラジュがそんな顔してたら、セリューだって、安心して休めないよ」
「ダンド……」

 ダンドはいつも僕に優しいんだ。なんだか胸がじんわりあったかい。セリューが、早く元気になるといいな。

「そのクソ猫が気に病んで消えてくれた方が私は休める……」

 呪うような声で呻きながら、セリューが目を覚ました。ううう……毒で辛いはずなのに、すごい迫力……

「セリュー、具合、どう?」

 ダンドに聞かれ、セリューは顔を隠して答える。

「……平気だ……このくらい……」

 セリューは、なんとか布団から起き上がろうとしているみたいだけど、まだ顔は真っ青。平気なはずがない。それでも起きようとするセリューを、オーフィザン様が布団に押し戻した。

「寝ていろ。セリュー。体が治るまで、眠るんだ」
「ですが……オーフィザン様……私は……」
「休むんだ。セリュー」

 再度促され、セリューは渋々といった様子で布団に戻る。そして僕を睨みつけてきた。

 ううう……怖い。だけど、今回悪いのは僕。セリューは僕を助けるために怪我をしたんだ。ちゃんと謝らなきゃ!

「あ、あの……せ、セリュー様……も、ももも、申し訳ございませんでした……僕のせいで……本当に……た、助けていただいて、ありがとうございました」
「寝言を抜かすな! 礼を言うなっ!! クソ猫が!! 誰が貴様など助けるか!! 私はオーフィザン様のお荷物をお守りしただけのこと……中身が貴様だろうがゴミだろうがそうする!! 貴様を助けたわけじゃない! ゴミ猫!」

 ううううー!! ひどい!! だけど、今回は何を言われても反論できない。全部僕が悪いんだもん。

 ダンドがセリューの体を撫でながら言った。

「セリュー、そんなに喚かないの。体に響くでしょ? ちゃんと寝て」
「ダンド! お前も適当なことを言うな!」
「まあまあ。落ち着いて。さあ、寝て」

 なだめられて、セリューは布団に戻る。そこへ、笹桜さんが湯気をあげる陶器のコップを持って戻って来た。

「薬だ。飲んでしばらく寝れば、少しずつ良くなる」
「ありがとうございます……」

 セリューはお礼を言い、それを飲んで布団に戻る。そしてすぐに寝息を立て始めた。さっきまであんなに怒っていたのに、今は気持ちよさそうにしているから、僕もホッとする。

 笹桜さんも、セリューの布団を挟んで僕らの向かいに座り、セリューの顔色を確かめてから言った。

「すぐに良くなる……すまなかったな。オーフィザン。こんな時に来てもらって」
「いいや。こちらも警戒が足りなかった」
「……最近、魔物達の動きが活発になっている。予測ができないのも、無理はない。お前に頼みたいことは、後で話す。せっかく来たんだ。ゆっくり休んで行け」

 笹桜さんはセリューの枕元に薬を置いて、部屋を出て行く。しばらくの間はゆっくりしていていいみたい。

 眠るセリューを見下ろし、オーフィザン様も、ふう、と安心したように息を吐いた。

「落ち着いたか……ダンド、お前はセリューについていろ。魔物達の件は俺だけでいい」
「オーフィザン様……でも……」

 ダンドはすごく心配そう。これから魔物達の相手をするのに、セリューもダンドもいなくなったら、オーフィザン様だって困るはず。セリューは怖いけど、執事としては優秀で、いつもオーフィザン様のお仕事を助けている。ダンドだってそうだ。僕だって、何かしたいよ!

「オーフィザン様! ご安心ください!! 僕が執事になります!!」

 叫んで、僕は立ち上がる。セリューは僕のせいで寝込んじゃったんだ。僕がセリューの穴を埋めなきゃ! それに僕がそうしたいっていったから、フィッイルが魔法をかけたんだ!!

 だけど、オーフィザン様は困った顔になっちゃう。

「……執事に?」
「はい! セリュー様の穴は僕が埋めます! ですからどうか」
「ふざけるな貴様ああああああああっっ!!!!」

 わあああ!! セリューが起きた!!

 僕を怒鳴りつけたセリューは、さっきまで動くのも辛そうだったのに、今はさっきの魔物なんか目じゃないくらい怖い顔をしている。寝てたんじゃなかったの!?

「貴様……舐めた口を……私の代わりを貴様がするだと?」
「せ、セリュー様……落ち着いて……」
「もう許せんっ!! このまま殺してやるっ!!」
「セリュー、落ち着いて」

 ダンドが後ろからセリューの後頭部を叩くと、セリューはそのままベッドに倒れた。

 い、いいのかな?

 だけどダンドは気にせず僕に振り向く。

「クラジュ、なんで急に執事なんて言い出したの?」
「それは……だって、僕のせいだから……」
「クラジュのせいじゃないよ。だから、そんな顔しないで」
「でも……僕、オーフィザン様の役に立ちたいんだ! それに、セリュー様にも休んでほしいし……」

 震える僕を、オーフィザン様は撫でてくれるけど、執事の件には反対みたい。

「クラジュ、お前の気持ちはわかるが、大人しくしていろ。ここにあるものには、俺の魔法が効かない。壊れたら元に戻らないんだ」
「お……オーフィザン様! 僕は何も壊しません!!」
「……だがな……」

 オーフィザン様が渋っている……ううう……絶対僕が悪さするって思われちゃってる!!

「僕、絶対にドジしませんっっ!! セリュー様がこんなことになったのは僕のせいだし、ぼ、僕、オーフィザン様のお役に立ちたいんです!」

 一生懸命お願いするけど、オーフィザン様は難しい顔。執事なんて一度もしたことがない僕が、いきなりこんなことを言っているんだから、オーフィザン様がこんな顔をするのもわかる。だけど、僕も何かしたいよ。僕だって、みんなの役に立ちたいんだ!!

 何度かお願いしますを繰り返すと、ダンドが僕の味方についてくれた。

「オーフィザン様。クラジュもこう言ってるし、手伝ってもらったらどうですか? 魔物相手に戦うのに、クラジュが心配なのはわかりますけど、一人でおいて置くわけにもいかないでしょう?」
「……」

 オーフィザン様はしばらく黙って、僕の頭にポンと手を置いて言った。

「相手は魔物だ。追い払えないようなものではないが、甘く見てかかれる相手でもない。俺のそばを離れないと約束できるか?」
「え……は、はいっ!! もちろんですっ!!」

 やったあ! オーフィザン様、頷いてくれた!! 連れて行ってもらえるんだ!! 頑張るぞ!!

「では、クラジュ。お前に俺の執事を頼む。今日は一日、何も起こさないように、いい子にしてるんだぞ」

 オーフィザン様が、僕の頭を撫でてくれる。すると、僕の服があっという間に、ダンドが着ているような燕尾服になった。うわあああ! 初めて着た!!

「……よく似合ってるよ。クラジュ」
「ほ、本当!? ありがとう!」

 ダンドに褒められたのが嬉しくて、つい自分の着ているものをまじまじと見つめちゃう。これが執事の服……うう、気が引き締まる!!

 ピンっと背筋を伸ばして立つ僕に、立ち上がったダンドが言った。

「じゃあ、執事の先輩の俺が、クラジュが執事になるために必要なことを教えてあげる」
「え? う、うん!! ありがとう!!」
「じゃあ、クラジュが執事になるために必要なこと、その一」
「はい!!」
「壊れ物に触らない」
「……え??」
「はい、繰り返して。壊れ物に触らない」
「で、でも、セリューもダンドも触ってるじゃん……ぼ、僕もティーカップとか使って、セリューみたいに紅茶入れたりしたい……」
「ダメ。クラジュは俺の後輩だろ? お茶をいれるのは、先輩の俺の役目。クラジュは俺のやり方をよーく見て、いつかお茶をいれるときのために、勉強しておくんだよ」
「う、うん……」
「じゃあ、クラジュが執事になるために必要なこと、その二。なにがあっても絶対に、オーフィザン様のそばを離れないこと。常にオーフィザン様のそばにいて、オーフィザン様のことをお助けするんだ」
「うんっ! 分かった!!」
「よーし。いい子だね。じゃあ、クラジュが執事になるために必要なこと、その三」
「うん!!」
「走らないこと」
「は、走らない?」
「うん。クラジュは走るとよく物を壊すからね」
「わ、わかった……」
「よーし。ぜんぶ守れたら、オーフィザン様がいっぱい褒めてくれるからね」
「本当!?」

 僕がオーフィザン様に振り向くと、オーフィザン様は僕の頭を撫でてくれた。

「いい子にしていられたら褒美をやる。くれぐれも、魔物には気をつけるんだぞ」
「は、はい!!」

 よし!! オーフィザン様のためにも、セリューのためにも、一生懸命頑張るぞ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

双子のスパダリ旦那が今日も甘い

ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

処理中です...