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番外編13.恩返しします!

145.絶対たどりつく!

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 うーん……どうやって門のところまで行こう……

 このままじゃ、門に着く前に、笹桜さんがきちゃう。

 うううーー!! 絶対にオーフィザン様のお役に立つって決めたんだ!! 絶対に笹桜さんを迎えに行く!

「兄ちゃん……こうなったら、最後の手段だよ!!」
「最後の手段? なんだ? 何かいい手があるのか?」
「うん!! 最初からドジをするのはどう? ここから飛び降りるんだ!」
「こ、ここからっ!?」

 兄ちゃんは、屋根の下を見て顔色を変える。確かにここは、お城で一番高い屋根の上。こんなところから飛び降りるなんて、絶対無理だけど、庭にはさっきのオーフィザン様の魔法がかかってるんだ!

 最初はびっくりしてた兄ちゃんも、僕に振り向いた。

「……そうか!! 落ちても、さっきみたいにふわってなるなら怖くない!!」
「そうだよ! 兄ちゃん!!」
「先にドジをしておけば、後で予期せぬドジを踏むこともなくなる!! そうか! これだ! すごいぞ!! クラジュ!!」
「うん!」
「よし! じゃあ行くぞ!!」

 兄ちゃんが僕の手を握ってくれる。そして屋根の下の庭を見下ろすけど……

 あ、あれーー………………? こ……こんなに高かったかな?

 思いついたときはすごくいい案だって思ったのに、いざここから飛び降りようと思って地上を見下ろすと……ものすごく高い…………

 魔法で大丈夫って分かってるけど、さすがにこの高さは怖いよううぅぅっっ!!

 だけど、絶対に笹桜さんを連れてくるって約束したんだ。オーフィザン様のためだもん!! こんな高さ、全然怖くないもん!!

 でも……

 僕は兄ちゃんに振り返る。

 兄ちゃんだって、僕の大事な人だ。

「兄ちゃん……」
「どうした? クラジュ」
「兄ちゃんは危ないから、屋根からゆっくり降りて! 兄ちゃんは僕と違って、壁を伝って降りることができるんだよね?」
「それはできるが……お、お前を置いていけるか!! 飛び降りるのが怖いなら、兄ちゃんがお前を担いで降りてやるから……」
「ダメだよ! ここはさっきの木の上と違って高いし、兄ちゃん一人ならともかく、僕を担いで降りたりなんかしたら、兄ちゃんが危ないよ!! 笹桜さんも待たせちゃう! 僕は大丈夫!」
「クラジュ……」
「二人で、オーフィザン様のお役に立つんだよ!!」
「……クラジュー……」

 兄ちゃんは急にポロポロ涙を流しだす。

「に、兄ちゃん!? どうしたの?」
「…………クラジュ……お前、立派になったなあ……」
「え? え? そ、そうかな??」
「……む、昔からお前はドジで……群れのみんなに助けてもらってばかりだったお前が……そ、そんなに立派なことを言うようになって……兄ちゃんは嬉しいぞ!!」
「兄ちゃん……」
「だけどなクラジュ!! 兄ちゃんはお前だけに危険なことをさせられない! 兄ちゃんも一緒にいく!」
「でも…………」
「大丈夫だ!! 二人で、オーフィザン様のお役に立つんだろう?」
「兄ちゃん…………」

 兄ちゃんは、僕の手をぐって強く握って、城の屋根から庭を見下ろす。

「行くぞ……クラジュ!!!!」
「う……うんっ!! 兄ちゃん!!」
「大丈夫か? 怖いなら、俺が抱き上げてやろうか?」
「大丈夫!! 怖くないもん!! 行こう!!」
「よ、よし!! 行くぞ!!」

 僕は兄ちゃんと、下の庭目指して飛び降りた。

 うわあああああああ!!!! 下から風が吹いてくるみたい! 庭がどんどん近づいてくる!!!!

 怖い……けど、絶対大丈夫! オーフィザン様、すごい魔法使いだもん!!

 一気に庭が近づいてきて、ふわあああって僕らの体が浮く。すっごく高くから落ちたからか、地面の雪まで一緒に浮き上がる。

 うわあ! すごい! フワって飛ばされて、雪の散る中にいるみたい!!

「クラジュ!! やったな!」
「う、うん! 頑張ったよ!! 兄ちゃん!!」

 ふわふわしたまま、僕ら二人は庭に着地。やったああああ! 成功だ!

 これであとは庭を横切って門に行くだけ!

 庭の雪は全部浮き上がって、少し濡れた庭が広がっている。
 これなら門まですぐ行ける!

「兄ちゃん!! 後は門まで行くだけだよ!!」
「ああ! そうだな!! 行くぞ!!」

 ほっとしたのも束の間、空から冷たいものが落ちてくる。

 空を見上げれば、浮き上がった雪が溶けて水の塊になって落ちてきていた。

「わっ!! わああああ!!」

 うわあああん! 冷たい!!

 まるで僕より大きな雨粒が落ちてくるみたい!

 大きな水の玉はいくつも空から落ちてくる。その上、浮き上がっても溶けなかった雪まで固まって、大きな氷の塊になって降ってきた!

「うわああああん!! なにこれ!!」
「く、クラジュ! 走るんだ!!」

 兄ちゃんが僕の手を握って、門に向かって走り出す。

 雪がなくなった後の庭はびちょびちょ。走りにくいし、気を抜いたら転んじゃいそう!!

「に、兄ちゃああああん!! どうしよううう!!」
「お、落ち着け! 落ち着くんだ! クラジュ!! 走れーー!!」

 何度も転びそうになりながら、水と氷の塊が降る中を走る。

 門まであとちょっと!!

 僕らの前にドンって大きな水の玉が落ちてくる。地面がえぐれて泥が飛んで、僕も兄ちゃんもドロドロ!!

 飛び散る泥の向こうに、門が見える。

 兄ちゃんが空から飛んでくる氷の塊を叩き壊して、僕に向かって鍵を投げた。

「クラジュ!! 兄ちゃんが防いでいる間に門を開けろ!」
「うん!! …………に、兄ちゃん……あれ!」

 今度は、城の方から大きな氷の塊が転がってきた。このままじゃぶつかる!

「く、クラジュ! か、鍵を開くんだ!」
「うん!」

 僕は鍵を握る。そしたら、鍵は僕の身長くらい大きくなって、光を放つ。この光が門を包めば、門は開くはずなんだ。

 だけど……なんで!? 門が開かない!!

「な、なんでーーー!? なんで開かないの!?」
「クラジュ、落ち着くんだ!! 焦っていては開くものも開かない!!」
「だって……なんで開かないのーー!!」

 背後から、氷の塊が迫ってくる。うわああああん! もうダメだ!!

 泣き出しそうになる僕の隣で、兄ちゃんが、ぽんって手を叩いた。

「あ、そうか。それ裏口の鍵だ」
「え!?」
「ダンドさんがくれた裏口の鍵だよ。俺に渡してくれたじゃないか」
「そ、そうか……じゃあ、門の鍵は……僕が持ってるやつだ!!」

 僕が鍵を入れたポケットに手を入れると、兄ちゃんはだんだん青くなっていく。

「門の鍵は確かお前がっ…………お前が……持っていたんだったな? な、なくしたんなら、兄ちゃんがっ……門を叩き壊してやる!!」
「兄ちゃん!! 僕、鍵、持ってるよ!!」

 僕は大切にポケットに入れておいた鍵を取り出す。これは絶対なくしちゃダメって思ったから、大事に取っておいたんだ!!

「く、クラジュ!! お前っ……鍵を持ってるじゃないか!! 落とさなかったのか!? す、すごいぞ!! どうしたんだ!!」
「僕、オーフィザン様のお役に立つんだもん!!」
「クラジュ……お前……すごいぞ!! さあ、門を開くんだ!」
「うん!!」

 氷と水の玉がいくつも落ちてくる。さっきの氷の塊だって、僕らに向かって転がってきてる。

 早く門を開かなきゃ!

 僕が鍵を握り、それを高く掲げると、門の扉は光に包まれて消え、僕らは外に逃げだした。

「く、クラジュっ!?」
「わ!! わ!? さ、笹桜さん!!??」

 門の外に立っていたのは、桜と同じ色の羽織を着た笹桜さん。真っ白な着物を着た雨紫陽花さんともう一人と一緒に、少し雪が積もった傘をさして立っている。

「クラジュ? 一体どうしたんだ?」

 僕らの背後から迫ってくるものを見て、笹桜さんも驚いているみたい。

 ど、どうしよう!! このままじゃせっかく来てくれたお客さんまで傷つけちゃうよ!!

 僕と兄ちゃんは、迫ってくる氷の塊に振り向いた。

「クラジュ!! お前はさがっていろ!!」
「い、嫌だもん! 僕だって、オーフィザン様と約束したもん!!」

 兄ちゃんの隣で構えて立つ。

 あんなの僕らが受け止めてやる!

 だけど、急に後ろから引っ張られた。

「さ、笹桜さん!??」

 僕らを引っ張った彼は、僕らに向かって微笑んだ。

「もう大丈夫だ。二人とも」
「え!? わああああ!!」

 もう氷の塊は目の前まで迫ってる。

 だけどそれは目の前で、バンって大きな音を立てて弾け飛んで、中から猫じゃらしがいっぱい飛び出してきた。

「わ? わ?? え!? ね、猫じゃらし!?」

 びっくりする僕の頭に、いくつも猫じゃらしが落ちてくる。

 な、なにこれ?? 氷が全部猫じゃらしになっちゃった。

 振っていた氷も水の玉も、城の屋根に積もっていた雪まで、ふわふわした猫じゃらしに変わっていく。

 庭は緑に覆われて、周りの空気まで、少し、春に近づいたみたい。

 ふわああああ…………あったかい……

 優しい風が吹いて、僕らの前に、空から大きな魔法の杖を持ったオーフィザン様が降りてきた。

「大丈夫か? クラジュ」
「お、オーフィザン様…………おーふぃざんさまあああ…………」

 もう泣きそう。

 オーフィザン様が魔法で助けてくれたんだ。

 だけど……

 周りは水でびちょびちょ。泥が飛び散って、せっかくオーフィザン様にもらった服も泥まみれ。笹桜さん達まで服が濡れちゃって、門も泥だらけだ。

 これって……やっぱり失敗したことになるのかな……

 また……迷惑かけちゃったのかな……

 もう顔をあげられなくなっちゃう。

 ずっと俯く僕の頭に、ぽんって大きな手が触れた。オーフィザン様の手だ。

「クラジュ……」
「……っ!」

 びくって体が震える。

 あれだけ「役に立つーー」って言いながら、失敗しちゃったんだ。お仕置きになっても仕方ない。また迷惑かけちゃって、どう謝っていいのかわからないよ……

 ……今度こそ、本当に嫌われちゃうかも……

 いつもはお仕置きが怖いのに、今はオーフィザン様の次の言葉が怖い。

 もう怖くて動けなくて、ガタガタ震える頭に、そっと優しい手が触れた。オーフィザン様が、頭を撫でてくれたんだ。

 え……? 僕、失敗したのに、なんで?

 恐々、オーフィザン様を見上げる。

 そしたらオーフィザン様は、すごく優しい顔で僕を見下ろしていた。

「よくやったな……」
「え……?」
「今日は成功したじゃないか」
「…………でも……僕…………」
「よくやった」
「………………僕……お役に立ちましたか?」
「ああ」

 オーフィザン様が笑ってくれた…………

 大きな手で、何度もくすぐったいくらい頭を撫でてくれる。

 僕……オーフィザン様のお役に立てたの……?

 周りの泥も水も、オーフィザン様の魔法が消し去ってくれて、僕も兄ちゃんも笹桜さんたちも、びしょ濡れだった体が風に吹かれて乾いていく。

 ぎゅって僕を抱きしめて、オーフィザン様は兄ちゃんに振り向いた。

「ディフィク……お前もよくやった」
「オーフィザン様……あ、ありがとうございます!!」

 深々と頭を下げる兄ちゃん。あんな嬉しそうな兄ちゃん、久しぶりに見た。

 僕もオーフィザン様を見上げようとしたら、急に大きな手が、僕のお尻に触れて、むにゅって撫でられちゃう。

「お、オーフィザン様!? 僕……ひゃ!!」
「終わったら、尻を撫でられる約束だろう?」
「え……え!? そ、そうでしたか!?」

 オーフィザン様の大きな手。すごく嬉しいけど……今は恥ずかしいよう! だって今は、兄ちゃんも笹桜さんたちもいるんだよ!?

「褒美に今日はたっぷり触ってやる」
「え!? い、今はダメっ……! や、やだ! お、オーフィザン様! ご、ご褒美は他のがいいです!!」
「終わったら尻を撫でられる約束だ」
「そ、そうですけど……」

 えっと……確かにそうだけど……あれ? 僕、ご褒美の時もお仕置きの時も、結局いっぱい触られちゃうの!?

「お、オーフィザン様……」
「もう少し楽しみたいが……こっちが先だな」

 オーフィザン様は、門の向こうに立った笹桜さんたちに振り返る。

 笹桜さんたちも、僕に微笑んでくれた。

 そうか……オーフィザン様の役に立つって決めたんだ! 最後までちゃんとやらなきゃ!

 僕は、オーフィザン様から離れて、笹桜さん達に振り返った。

「お迎えにあがりました! お客さま!!」


*番外編13.恩返しします!*完
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