冷遇された僕、思いが募るばかりなので遠ざかったら嫉妬心を見せつけた隊長が襲いかかってくる。僕じゃなくても良い、邪魔するなって言ってたのに……

迷路を跳ぶ狐

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4.いい? いいよね!? 早くいいって言って!

 その日以降、僕がヴァンフィルイト様の部隊と行動を共にすることはなかった。
 その代わりなのかは分からないけど、魔法の研究で名を馳せた公爵家の側近の魔法使いで、魔法の研究所の所長、ブレロブル・ロレヴァス様が、新しく彼の部隊に入ったらしい。

 ……やっぱり……僕なんか、本気でヴァンフィルイト隊長が誘うわけないよな…………

 ブレロブル様といえば、この国で一番力を持つラーフィガテス公爵家の一番の側近として有名だ。魔力、魔法、実力、それに家柄……もう、僕とは比べ物にならない。

 誘われた時にあんなに喜んだりしちゃったりして、僕って……本当に、自分でも呆れるくらい馬鹿だ…………

 よかったんだ。あの時断って。

 ヴァンフィルイト様に損をさせるところだった。

 これで……よかったんだ…………

 ……ちょっとモヤモヤするけど…………

 ヴァンフィルイト隊長には迷惑だっただろうけど、彼のそばで任務につくことは好きだった。

 だけど、だからこそ役立たずな僕より、任務をこなせる人が部隊に入った方がいいよな!

 僕は伯爵の部隊に戻り、そこでまた、うんざりするような日常に戻った。

 それからしばらくして、ヴァンフィルイト様の部隊は、第二王子が率いる王家の部隊と共に、ずっと長い間魔物だらけだった森へ魔物退治に出かけて行った。

 彼らはそこで、長くその地を荒らして暴れ回り、民の命を危険に晒してきた魔物の群れの討伐に成功するという、大きな功績を上げた。

 それから、一ヶ月。

 僕は、第二王子殿下に呼び出された。

 僕らの部隊はよく、第二王子殿下の護衛についていた。だから、殿下にお会いしたことは数回ある。

 だけど…………だからと言って、部隊の隊長で伯爵様のテトルマズ様だけならともかく、一緒に僕まで呼び出されるなんてっ…………!!

 一体、どうなってるんだ……!?

 僕……何かした!?

 こんなこと初めてで、廊下を歩く伯爵の後ろを歩きながら、僕は、ひどく緊張していた。

 ……どうしよう…………第二王子が僕なんかに、一体何の用だ?

 伯爵様だけなら分かる。多分、今後の任務の話だろう。

 だけど……だったら僕まで呼ぶ必要はないはず……

 僕らの部隊は、第二王子の護衛についたことがあるから、面識はある。
 だけど、だったら話したことがあるかと言えば、あるわけない!

 ……なにより僕は、部隊の中でもいつも端にいて、雑用しているくらいの下っ端なのに……なんでそんな奴が、部隊の隊長で伯爵様の優秀な魔法使いと一緒に、この国の王子殿下に呼ばれてるんだ……

 ど、どうしよう…………もしかして、また何か処分があるんじゃないのかな…………

 俯いて歩く僕に、一緒に呼び出された伯爵が振り向く。この人によく嵌められては処分される僕は、そうされるだけで怖い。

 いつもひどく僕を馬鹿にしたような目をする背の高い男で、魔法も魔力も恐ろしいほどあるらしく、王都を守る誰もが知る優秀な魔法使いだ。

「おい、役立たず」
「は、はいっ……!」

 振り向くと、伯爵は恐ろしい顔で僕を見下ろしている。

「殿下の前では、絶対に無礼な真似をするな。俺の評価にも関わる。お前は、黙って俺に従っていればいい」
「はい…………」
「だったらそんな辛気臭いツラをしていないで、もっとやる気のあるところを見せたらどうだ? 実力もないくせに、やる気もない……王家に仕える資格があるとは言えないぞ」
「……申し訳ございません…………」
「謝る暇があるなら、鍛錬でも詰め。あとで俺がしごいてやる……訓練場に来い」
「え…………で、でもっ……まだ、昨日の傷がっ……!」
「傷? 俺の訓練でか? それはお前が無能だからだろう?」
「…………はい……」
「……それでいい。役立たずは黙って従っていろ」
「はい……」

 うわ……最悪だ…………

 昨日、魔法の練習だって言って的にされたばかりなのに。





 殿下に呼ばれたのは、城の奥の狭い部屋で、普段、殿下が部隊を集めて作戦なんかを立てるための会議室だ。

 僕たちがそこにつくと、部屋の扉には、魔法で鍵がかけられていた。それも、かなり強力なものだ。よほど大切な話をしているのだろう。

 伯爵様が会議室のドアを叩く。

「失礼します」

 彼が魔法でドアを開き、僕も中に入った。

 そこは、カーテンが全て閉まっていて、薄暗い。

 部屋の一番奥にいた王子殿下が、僕らに微笑んだ。

「やあ……遅かったね」

 言って微笑む彼は、どこか優しそうにも見えるけど、王族では一番の魔力を持つと言われた第二王子のクレズログ殿下。人懐こい印象を受ける可愛らしい目に、ふわふわの髪。細身で、魔法も剣も、かなりの腕だと言われている。

 そして、彼の隣には、この国で最も力を持つ公爵家の側近の男がいた。

 あの人……ヴァンフィルイト様の部隊に新しく入ったって言うブレロブル・ロレヴァス様だ……

 容姿端麗な長い髪の男の人で、貴重な魔法のローブを身につけた彼は、魔法の研究所の所長。ヴァンフィルイト様の部隊では、副隊長をしているはずだ。

 部屋にいたのは、その二人だけ。殿下の護衛の方はいないみたい。

 どうしよう…………

 い、生きた心地がしないっ……!

 だって、どう考えてもこれ……内密な話をする空気じゃないか!! それも、第二王子がいるんだから、多分、王家に関すること…………

 そんなところに……

 な、なんで……

 僕が…………

 何で僕がこんなところに呼ばれてるんだああっっっっ!!!!

 僕が隣にいることすらおこがましいような方々が並んでいて怖い…………

 僕だけ、場違いだ。

 こんなところに、僕まで呼ばれるなんて、おかしい。

 やっぱり僕……

 ……何かしちゃったのかっ!!?

 何か、知らないうちにとんでもないことをしでかしていて、これから断罪される……とか…………

 ありそうだ。

 何しろ、何かと失敗を繰り返してきた僕だ。また、自分でも知らないうちに何かしでかしたのかもしれない。

 王子殿下が「君、斬首になったから。首、切らせて?」なんて言われたら、どうしよう……

 ビクビクしながらも、王子殿下の前だ。俯くことも顔を背けることも許されなくて、泣きそうになりながらじっと立っていると、殿下は、僕の予想に反して、嬉しそうに、歓声にも聞こえるような声を上げた。

「よく来てくれたねーー!! 嬉しいよ! 早速だけど! お願いがあるんだーー」

 そう言って殿下は、なぜか僕の方に近づいてくる。

 な、なんで、僕!??

 やっぱり断罪!?

 怯える僕に、殿下はますます迫ってくる。

「いい? いいよね?? ディストリュウィクにしか、頼めないんだよ!」
「…………え、えっ……と…………」
「いいよね!? 早くいいって言って!」

 殿下……

 どうしたんだろう……

 急にこんな調子で王子殿下に迫られて、彼を知らない人からしたら、みんな驚くかもしれないけど、この王子殿下は、いつもこんな感じ。

 それでも、僕に頼みごとがあるなんて王子殿下が言ったのは初めてだ。
 しかも、僕にしか頼めないといって迫ってくるくせに、一体何の用なのかは、僕に言わない。

 ……とにかく「引き受けます」って言わせる気だ……
 どうやら、そうでもしないと引き受けてもらえないようなことを頼みたいらしい。

 頼み事ってことは、僕が断罪されるわけではなさそうだけど……

 そうだとしたら、一体……何の用なんだ?

「あ、あの…………殿下……た、頼み事って……一体……な、何を……」
「それを聞くってことは、引き受けるってこと?」

 そうは言ってない…………

 なのに、王子殿下は嬉しそうに僕を見つめている。

 困っていたら、殿下のそばにいた、公爵家の側近のブレロブル様が、助け舟を出してくれた。

「殿下……内容が分からなくては、彼も引き受けてはくれません。姑息なやり方はやめて、最初から説明するべきです」

 言われて、殿下は彼に振り向く。そして、じっと彼を睨んでいた。

「そう…………だね。うん……僕も、そう……思うよ」

 そう言ったかと思えば、殿下は今度は僕に笑顔で振り向いた。

「今度魔物討伐に成功した森……侯爵家の領地になることになったんだ」
「へ!?? こ、侯爵家の!?? それって……ヴァンフィルイト様の……」
「そうだよ! 今回の勝利に、彼は多大な貢献をしている! むしろ、彼の力のおかげで得た勝利とも言えるんだ!! だから、あの森は彼の領地になることになった。ヴァンフィルイトが、侯爵家を継ぐことは聞いた?」
「は、はい…………存じ上げております…………ヴァンフィルイト様が侯爵家を継いで、当主になることが決まったと」
「うん。それで、彼は明日、新しく領地になった森へ部隊を引き連れて帰る。僕も、彼と共にそこに向かう予定なんだ。僕の護衛には、ブレロブルと、伯爵の部隊についてもらう」

 ……じゃあ、もしかして、その護衛のことで呼び出されたのか……?

 だとしたら、伯爵だけ呼び出せば済むような気もするけど……

 けれど、殿下は、僕ににっこり笑った。

「そこで君には、ヴァンフィルイトの護衛についてもらいたいんだ!!」
「…………え……?」
「もちろん、ついてくれるよね?」
「え……えっ……と…………ぼ、僕が……ですか?」

 王子殿下は何を言い出すんだろうと思ったけど、彼は「護衛、してくれるよね?」と繰り返すばかり。

 本気だ。

「な、なんで僕がっ……ヴァンフィルイト隊長の護衛?! む、無理です!! そんな大役っ……侯爵家の方々だって、納得しません!」

 慌てて言うけど、殿下は「そんなことないよ」と呑気な様子。

 そんなことないって……

 あるんだよ!!
 あるに決まってるだろ!!

 僕は普段は、王家側の貴族と言われる伯爵様の部隊にいる。

 そんな奴が、いきなりヴァンフィルイト様の部隊に行っても歓迎されないことは、もう身に染みて分かっている。

 もちろん、僕は彼の部隊の邪魔をしようなんて思わないし、役に立てたら嬉しいけど……やっぱり無理だよ!

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