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第15話:同期の3人は飲みに行く
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「・・・お前、よくこんな店知ってるな」
寺垣さんが、複雑な表情で僕を見ていた。
僕達は今、小料理屋『あで~じょ』に来ている。
寺垣さんはまだこのあたりの地理に慣れておらず、美作さんは元々騎士ヶ丘大学出身らしいんだけど、ほとんど飲みに出ることがなかったらしく、周りの店を知らないみたいだった。
なので結局は僕が唯一知っているこの店に、3人で来ることになったというわけだ。
なんとなく、寺垣さんの視線が痛い。
寺垣さん、僕はべつに『こんな大人な店知ってるんだよ』アピールなんてしてないんです。
ただ、この店しか知らないだけなんです。
ちなみに多分この寺垣さんの視線は、ただこの店を知っているからってだけではない。
「はい幸太。じゃ、ゆっくり楽しみなよ」
普段着でなく着物に身を包んだ津屋さんが、フレンドリーにそう言って料理をテーブルに置いて去っていった。
「芦田さん、顔馴染みなんですね」
美作さんが、笑顔を向けてくる。
これこれ、問題は。尊敬の眼差しとまではいかないけど、なんとなく感心したような美作さんの声に、寺垣さんは憎々しげに僕を睨みつけていた。
僕の前に2人が座っているから、美作さんに寺垣さんの表情は見えないんだろうけど、でも、さすがにその顔は見られたらまずいでしょ?
ここは大人になってよ寺垣さん。
僕は心の中でため息をつきながらも、仕方なく口を開いた。
「べ、別にここに通い詰めてるってわけじゃなくて・・・その・・・」
どうしよう、しゃべることちゃんと決めずに話し始めてしまった。
「もしかして、あの女将さんと知り合いとか?」
流石美作さん。いや、まだ今日初めて会ったばっかりだけどさ。
でも、ナイスフォローです、美作さん。
「そ、そうなんです。僕が住んでる、あ、アパートの管理人でもある人で・・・」
「あら幸太、来てたのね」
僕が必死に話していると、カウンターの方からそんな声が聞こえてきた。
「あ、静海さん、あ、いや、静海課長補佐」
僕らの席をのぞき込む静海さんに、僕は慌てて呼び方を訂正した。
「いつもどおり静海でいいわよ。さすがに、職場では勘弁してほしいけどね。あら、こちらは・・・っ!?」
静海さんに対する僕の呼び方に、静海さんは笑ってそう答えながら美作さんと寺垣さんに目を向けて口を噤んでいた。
「し、静海さん??」
僕が静海さんの顔を覗き込むと、
「明日も仕事なんだから、あまり飲み過ぎないようにね」
静海さんはそれだけ言って、カウンターの方へと戻っていった。
静海さん、急にどうしたんだろう。もしかして、意外と人見知りが激しい?
でも、この2人とは一度、大学で顔を合わせてるはずなんだけどな。
まぁ僕らの自己紹介の時、静海さんは仕事の片手間に聞いている感じではあったけど。
「おい、今の、財務課の静海課長補佐か?」
僕が静海さんの様子を気にしていると、寺垣さんが僕に声をかけてきた。
「う、うん」
「芦田さん、もう職場の偉い人と顔見知りなんだ!」
美作さんが笑ってそう言った。
ちょ、やめて美作さん。寺垣さんの額に少し青筋が浮かんでる。
やっぱり、この人天然なのかな。
いや、寺垣さんの僕に対する気持ちに気づいていないだけか。
「さ、さっき言ったアパート、静海さ、課長補佐も住んでて・・・」
「ふ~ん。俺、ちょっと挨拶に行ってくるわ」
寺垣さんは、僕の話に興味なさそうにそう言って、席を離れていった。
「・・・・・・」
気まずい。気まずいよ寺垣さん。何故僕を美作さんと2人っきりにするの。
あなた、美作さんを狙ってるんじゃなかったの?
でもまぁ、社会人としては上司への挨拶も大事なのか。
どうしよう、この雰囲気・・・
僕は少し考えて、
「あ、し、静海課長補佐、そ、総務課の吉良係長と仲良いから、も、もしかしたら一緒に来てるかも・・・」
いつもよりもつっかえながら、そう言った。
「そうなの?じゃぁ、私もちょっと挨拶に行ってくるわね」
そう言って美作さんは、席を立った。
よし!なんとかこの気まずい雰囲気を脱出できる!
やればできるじゃないか、僕!
僕が心の中でガッツポーズしていると、
「芦田さん、ありがとね♪」
カウンターと僕らの席の間にある仕切りの先から、美作さんがそう笑って、そのまま彼女は仕切りの向こうへと消えていった。
可愛いな。
いやいやいや。確かに可愛いけどさ。さすがに僕には無理でしょ。
っていうかそもそも、職場で彼女作るとかリスキーでしょ。別れたときとか。
・・・捕らぬ狸の皮算用、ってやつだね。
そんな心配、僕には無用だよ。
はぁ。
ため息をつきながらお茶に手を伸ばしていると、カウンターの方から吉良さんと美作さんの、女子女子した声が聞こえてきた。
よかった。ひとまず、吉良さんも来てたみたいだ。
さっきの「ありがとね♪」が無駄にならなくてよかったよ。
寺垣さんが、複雑な表情で僕を見ていた。
僕達は今、小料理屋『あで~じょ』に来ている。
寺垣さんはまだこのあたりの地理に慣れておらず、美作さんは元々騎士ヶ丘大学出身らしいんだけど、ほとんど飲みに出ることがなかったらしく、周りの店を知らないみたいだった。
なので結局は僕が唯一知っているこの店に、3人で来ることになったというわけだ。
なんとなく、寺垣さんの視線が痛い。
寺垣さん、僕はべつに『こんな大人な店知ってるんだよ』アピールなんてしてないんです。
ただ、この店しか知らないだけなんです。
ちなみに多分この寺垣さんの視線は、ただこの店を知っているからってだけではない。
「はい幸太。じゃ、ゆっくり楽しみなよ」
普段着でなく着物に身を包んだ津屋さんが、フレンドリーにそう言って料理をテーブルに置いて去っていった。
「芦田さん、顔馴染みなんですね」
美作さんが、笑顔を向けてくる。
これこれ、問題は。尊敬の眼差しとまではいかないけど、なんとなく感心したような美作さんの声に、寺垣さんは憎々しげに僕を睨みつけていた。
僕の前に2人が座っているから、美作さんに寺垣さんの表情は見えないんだろうけど、でも、さすがにその顔は見られたらまずいでしょ?
ここは大人になってよ寺垣さん。
僕は心の中でため息をつきながらも、仕方なく口を開いた。
「べ、別にここに通い詰めてるってわけじゃなくて・・・その・・・」
どうしよう、しゃべることちゃんと決めずに話し始めてしまった。
「もしかして、あの女将さんと知り合いとか?」
流石美作さん。いや、まだ今日初めて会ったばっかりだけどさ。
でも、ナイスフォローです、美作さん。
「そ、そうなんです。僕が住んでる、あ、アパートの管理人でもある人で・・・」
「あら幸太、来てたのね」
僕が必死に話していると、カウンターの方からそんな声が聞こえてきた。
「あ、静海さん、あ、いや、静海課長補佐」
僕らの席をのぞき込む静海さんに、僕は慌てて呼び方を訂正した。
「いつもどおり静海でいいわよ。さすがに、職場では勘弁してほしいけどね。あら、こちらは・・・っ!?」
静海さんに対する僕の呼び方に、静海さんは笑ってそう答えながら美作さんと寺垣さんに目を向けて口を噤んでいた。
「し、静海さん??」
僕が静海さんの顔を覗き込むと、
「明日も仕事なんだから、あまり飲み過ぎないようにね」
静海さんはそれだけ言って、カウンターの方へと戻っていった。
静海さん、急にどうしたんだろう。もしかして、意外と人見知りが激しい?
でも、この2人とは一度、大学で顔を合わせてるはずなんだけどな。
まぁ僕らの自己紹介の時、静海さんは仕事の片手間に聞いている感じではあったけど。
「おい、今の、財務課の静海課長補佐か?」
僕が静海さんの様子を気にしていると、寺垣さんが僕に声をかけてきた。
「う、うん」
「芦田さん、もう職場の偉い人と顔見知りなんだ!」
美作さんが笑ってそう言った。
ちょ、やめて美作さん。寺垣さんの額に少し青筋が浮かんでる。
やっぱり、この人天然なのかな。
いや、寺垣さんの僕に対する気持ちに気づいていないだけか。
「さ、さっき言ったアパート、静海さ、課長補佐も住んでて・・・」
「ふ~ん。俺、ちょっと挨拶に行ってくるわ」
寺垣さんは、僕の話に興味なさそうにそう言って、席を離れていった。
「・・・・・・」
気まずい。気まずいよ寺垣さん。何故僕を美作さんと2人っきりにするの。
あなた、美作さんを狙ってるんじゃなかったの?
でもまぁ、社会人としては上司への挨拶も大事なのか。
どうしよう、この雰囲気・・・
僕は少し考えて、
「あ、し、静海課長補佐、そ、総務課の吉良係長と仲良いから、も、もしかしたら一緒に来てるかも・・・」
いつもよりもつっかえながら、そう言った。
「そうなの?じゃぁ、私もちょっと挨拶に行ってくるわね」
そう言って美作さんは、席を立った。
よし!なんとかこの気まずい雰囲気を脱出できる!
やればできるじゃないか、僕!
僕が心の中でガッツポーズしていると、
「芦田さん、ありがとね♪」
カウンターと僕らの席の間にある仕切りの先から、美作さんがそう笑って、そのまま彼女は仕切りの向こうへと消えていった。
可愛いな。
いやいやいや。確かに可愛いけどさ。さすがに僕には無理でしょ。
っていうかそもそも、職場で彼女作るとかリスキーでしょ。別れたときとか。
・・・捕らぬ狸の皮算用、ってやつだね。
そんな心配、僕には無用だよ。
はぁ。
ため息をつきながらお茶に手を伸ばしていると、カウンターの方から吉良さんと美作さんの、女子女子した声が聞こえてきた。
よかった。ひとまず、吉良さんも来てたみたいだ。
さっきの「ありがとね♪」が無駄にならなくてよかったよ。
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