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第17話:芦田幸太は歓迎されない?
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寺垣さんと美作さん、同期2人との飲み会の翌日。僕は昨日と同じく、静海課長補佐、吉良係長と職場に向かうバスに乗っていた。
静海さんが僕の隣、静海さんの前の席に吉良さんが座っていた。
昨日と同じだから、もしかしてこの席は固定になっちゃうのかな?
「おはようございます!」
そんな僕らに、バスの後ろの方の席から立ち上がった寺垣さんの声が聞こえてきた。
「運転中は、危ないですから立ち上がらないでください」
「あ、すみませーん!」
運転手の注意に明るく答えながら、僕と静海さんの後ろの席へと腰を下ろした。
「静海課長補佐、今日からよろしくお願いします!」
「えぇ」
静海さんは寺垣さんと視線も合わせず、冷ややかにそう返して黙り込んでいた。
さっきまで吉良さんと楽しそうに話していたのに。
不思議に思った僕が吉良さんに目を向けると、吉良さんは苦笑いを浮かべて肩をすくめて、前へと向き直っていた。
いや寺垣さん、なんで僕を睨むんですか。
僕何も言ってないからね?
むしろ僕だってこの状況は嫌なんだからね?
そう思いながら僕は、
「て、寺垣さん、二日酔いとか、大丈夫?」
そう彼に声をかけた。
でも寺垣さんは、静海さんにチラリと視線を向け僕の言葉を無視して、そのまま静海さん同様に黙り込んでしまった。
そっか。
昨日静海さんに言われたことを気にしてるんだ。
やってしまった。
でもだからって、無視しなくてもいいじゃないか。
結局僕もそのまま口を閉ざし、騎士ヶ丘大学に向かうバスは、とても居心地の悪い空間へと様変わりした。
「はぁ」
静海さんと吉良さん、それから寺垣さんと別れた僕は、居た堪れないあの雰囲気から脱したことに安堵のため息をつきながら、地方創生学部のある建物へと向かった。
昨日五島さんに案内してもらった僕の配属先となる地方創生学部教務課は、他の部署とは違って小部屋だった。
まだできて間もない学部だって五島さんは説明してくれていた。
それが理由なのか、他の2つの学部と違って地方創生学部教務課には、僕を含めて4人しかいないらしい。
ほかのところも正職員はあまり変わらないらしいけど、その分非常勤職員さん達が何人も居て、賑やかそうだったのを覚えている。
「お、おはようございます」
精一杯の声でそう言って、『地方創生学部教務課』と書かれた小さな紙の貼られている小部屋に入る僕に、視線が集中した。
「おはよう。君が芦田君だね」
そう言って笑顔で迎え入れてくれたのは、この教務課のドン、小林課長だった。
とはいっても、まだ出来て4年も経っていない学部なのでそれほど人員を割けないらしく、地方創生学部総務課の課長との兼任らしい。
つまり、実質的なこの学部の事務的なドンってことみたい。
「いや~、4月の忙しい時に初日から研修ってのは、ほんと勘弁してもらいたいよ。あ、芦田君に文句を言っているわけじゃないからな?」
そう言いながら笑いかけて来たのは、高橋係長。
僕の直属の上司になる人ね。
「はぁ。やっと人が増えたと思ったら新人なんて」
ため息混じりにそう言って僕に一瞬だけ視線を送ったのは、確か、松本さん。
僕と同じく高橋係長の部下で、僕の先輩になる人なんだけど・・・・
なんだか僕、歓迎されていないみたい。
「あ、あの、今日から、よろしくお願いします」
頭を下げる僕に頷いた小林課長は、松本さんに目を向けた。
「松本さん、今日の予定は?」
「明日の入学式の準備がてんこ盛りです。この無駄話をさっさと終わらせて準備に取り掛かりたいくらいに」
無駄話って松本さん・・・
「そうか。高橋君、学部長の予定は?」
「あぁ、今なら空いてますね」
松本さんの棘まみれの言葉を気にすることなく、小林課長は高橋係長へと声をかけていた。
どうやら松本さんの話しぶりは、いつものことみたい。
「よし、じゃぁさっさと学部長に挨拶済ませて、
仕事に取り掛かってもらおうか。これ以上待たせると、松本さんに後ろから刺されそうだしな」
「もういつでも刺す準備はできてますけど」
「はっはっは!松本さんは相変わらずキツいねぇ」
「新人しか取ってこれない課長に示す敬意は持ち合わせていないので」
「まぁそう言ってやるなって松本。もともと人は増やせないと言われていたこの部署に、こうやって新人を持っこれたのだって奇跡なんだから」
高橋係長は、そう言って松本さんを笑って諌めていた。
「そういうこと。少しは私の手腕を認めてくれてもいいじゃないか」
そう言った小林課長は、僕をチラリと見た。
「っと。芦田君が困っているじゃないか。とにかく、2人は先に準備を進めていてくれ。私は芦田君を連れて学部長の所に行ってくる。後で私も手伝うから」
「手伝うっていうか、それもあんたの仕事」
「松本、あれでも課長だぞ?あんたはないだろ。それより課長。総務課からも人手を出してもらえると助かります」
「あぁ・・・うん。あっちに余裕があったらな」
「絶対来ないわね、総務課。まったく、役に立たない課長だこと」
「聞こえてるぞ~」
辛辣な松本さんにそう返しながら僕に手招きしている小林課長について、僕はその小部屋をあとにした。
なんていうか、上下関係ってここにはないのかな?
高橋係長も優しそうに見えて、微妙に小林課長をディスってるし。
まぁ新人の僕は、先輩達の真似はできそうにもないけどね。
「松本さんの言うことは、あまり気にしないでくれ。君にどうこう思っているわけではないからね」
廊下を進む小林課長の苦笑いを浮かべた言葉に僕が頷いていると、僕らは別の小部屋の前へと立ち止まった。
『学部長室』
と手書きの文字が書かれた半紙の掲げられたその扉を、小林課長はノックした。
「学部長、失礼します。小林です。今日から教務課に配属された芦田と挨拶に伺いました」
「入りたまへ」
扉の向こうから、そんな威厳ある声が響いてきた。
静海さんが僕の隣、静海さんの前の席に吉良さんが座っていた。
昨日と同じだから、もしかしてこの席は固定になっちゃうのかな?
「おはようございます!」
そんな僕らに、バスの後ろの方の席から立ち上がった寺垣さんの声が聞こえてきた。
「運転中は、危ないですから立ち上がらないでください」
「あ、すみませーん!」
運転手の注意に明るく答えながら、僕と静海さんの後ろの席へと腰を下ろした。
「静海課長補佐、今日からよろしくお願いします!」
「えぇ」
静海さんは寺垣さんと視線も合わせず、冷ややかにそう返して黙り込んでいた。
さっきまで吉良さんと楽しそうに話していたのに。
不思議に思った僕が吉良さんに目を向けると、吉良さんは苦笑いを浮かべて肩をすくめて、前へと向き直っていた。
いや寺垣さん、なんで僕を睨むんですか。
僕何も言ってないからね?
むしろ僕だってこの状況は嫌なんだからね?
そう思いながら僕は、
「て、寺垣さん、二日酔いとか、大丈夫?」
そう彼に声をかけた。
でも寺垣さんは、静海さんにチラリと視線を向け僕の言葉を無視して、そのまま静海さん同様に黙り込んでしまった。
そっか。
昨日静海さんに言われたことを気にしてるんだ。
やってしまった。
でもだからって、無視しなくてもいいじゃないか。
結局僕もそのまま口を閉ざし、騎士ヶ丘大学に向かうバスは、とても居心地の悪い空間へと様変わりした。
「はぁ」
静海さんと吉良さん、それから寺垣さんと別れた僕は、居た堪れないあの雰囲気から脱したことに安堵のため息をつきながら、地方創生学部のある建物へと向かった。
昨日五島さんに案内してもらった僕の配属先となる地方創生学部教務課は、他の部署とは違って小部屋だった。
まだできて間もない学部だって五島さんは説明してくれていた。
それが理由なのか、他の2つの学部と違って地方創生学部教務課には、僕を含めて4人しかいないらしい。
ほかのところも正職員はあまり変わらないらしいけど、その分非常勤職員さん達が何人も居て、賑やかそうだったのを覚えている。
「お、おはようございます」
精一杯の声でそう言って、『地方創生学部教務課』と書かれた小さな紙の貼られている小部屋に入る僕に、視線が集中した。
「おはよう。君が芦田君だね」
そう言って笑顔で迎え入れてくれたのは、この教務課のドン、小林課長だった。
とはいっても、まだ出来て4年も経っていない学部なのでそれほど人員を割けないらしく、地方創生学部総務課の課長との兼任らしい。
つまり、実質的なこの学部の事務的なドンってことみたい。
「いや~、4月の忙しい時に初日から研修ってのは、ほんと勘弁してもらいたいよ。あ、芦田君に文句を言っているわけじゃないからな?」
そう言いながら笑いかけて来たのは、高橋係長。
僕の直属の上司になる人ね。
「はぁ。やっと人が増えたと思ったら新人なんて」
ため息混じりにそう言って僕に一瞬だけ視線を送ったのは、確か、松本さん。
僕と同じく高橋係長の部下で、僕の先輩になる人なんだけど・・・・
なんだか僕、歓迎されていないみたい。
「あ、あの、今日から、よろしくお願いします」
頭を下げる僕に頷いた小林課長は、松本さんに目を向けた。
「松本さん、今日の予定は?」
「明日の入学式の準備がてんこ盛りです。この無駄話をさっさと終わらせて準備に取り掛かりたいくらいに」
無駄話って松本さん・・・
「そうか。高橋君、学部長の予定は?」
「あぁ、今なら空いてますね」
松本さんの棘まみれの言葉を気にすることなく、小林課長は高橋係長へと声をかけていた。
どうやら松本さんの話しぶりは、いつものことみたい。
「よし、じゃぁさっさと学部長に挨拶済ませて、
仕事に取り掛かってもらおうか。これ以上待たせると、松本さんに後ろから刺されそうだしな」
「もういつでも刺す準備はできてますけど」
「はっはっは!松本さんは相変わらずキツいねぇ」
「新人しか取ってこれない課長に示す敬意は持ち合わせていないので」
「まぁそう言ってやるなって松本。もともと人は増やせないと言われていたこの部署に、こうやって新人を持っこれたのだって奇跡なんだから」
高橋係長は、そう言って松本さんを笑って諌めていた。
「そういうこと。少しは私の手腕を認めてくれてもいいじゃないか」
そう言った小林課長は、僕をチラリと見た。
「っと。芦田君が困っているじゃないか。とにかく、2人は先に準備を進めていてくれ。私は芦田君を連れて学部長の所に行ってくる。後で私も手伝うから」
「手伝うっていうか、それもあんたの仕事」
「松本、あれでも課長だぞ?あんたはないだろ。それより課長。総務課からも人手を出してもらえると助かります」
「あぁ・・・うん。あっちに余裕があったらな」
「絶対来ないわね、総務課。まったく、役に立たない課長だこと」
「聞こえてるぞ~」
辛辣な松本さんにそう返しながら僕に手招きしている小林課長について、僕はその小部屋をあとにした。
なんていうか、上下関係ってここにはないのかな?
高橋係長も優しそうに見えて、微妙に小林課長をディスってるし。
まぁ新人の僕は、先輩達の真似はできそうにもないけどね。
「松本さんの言うことは、あまり気にしないでくれ。君にどうこう思っているわけではないからね」
廊下を進む小林課長の苦笑いを浮かべた言葉に僕が頷いていると、僕らは別の小部屋の前へと立ち止まった。
『学部長室』
と手書きの文字が書かれた半紙の掲げられたその扉を、小林課長はノックした。
「学部長、失礼します。小林です。今日から教務課に配属された芦田と挨拶に伺いました」
「入りたまへ」
扉の向こうから、そんな威厳ある声が響いてきた。
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