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第二章 旅立ち
第八話 俺と彼女と潜入
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「ぃよっしゃーーーーー!!!! マジでだな!? 今の言葉取り消し不可だぞ!!」
「ぁえ……?」
やべぇ、今俺めちゃくちゃハイテンションだ。だって、だってだぞ!? あの厄介事と不安が一気に解消されるんだぜ!? しかもタダで!!
一目惚れだってんならこいつがタケルに酷いことをする事もないだろう。ツイッタ村でもホレられた女たちはいつも幸せそうだった。
「よろしく頼む!! さっそく服貸してくれ!!」
俺は帽子の男の手をガシッと掴むと上下にぶんぶんと振った。ああ、こいつは神か何かか……。
いきなりこんな反応を返されるとは思っていなかったんだろう、帽子の男は呆気にとられ俺を見つめるだけだった。だがその頃になってようやく気付いたのか、タケルが近づいてきて俺の袖を引く。
「ちょ、どういうことよ!? 嘘でしょ、うっしーッ!」
俺はタケルの手を振り払い、向き直った。真剣な顔でタケルを見る。
「俺と居るよりこいつと居た方が安全だ。レガルの事はちゃんと調べてやるから待ってろ」
これは本心だ。実は俺、大地の腐敗を治すことだけじゃなくて”紋章持ち”の人達を助けることも考えてる。そうなれば俺はクロレシアに更に追われる立場になるわけで……。そんな状況にたまたま居合わせただけのタケルを巻き込むわけにはいかないんだ。
不安そうに瞳を揺らすタケルから視線を外し、帽子の男の方を見る。
「俺はウッドシーヴェル。こいつはタケルだ。服はできるだけぶかいのを貸してくれ」
帽子の男はため息をつきつつ前髪を指先で払った。
「僕はゴンゾー。服はあげるけど、一言だけいいかな」
なんだ、と思った瞬間真横からタケルが叫んできた。
「あたし、行かない!!」
「……?」
一瞬、何を言ったのか理解できなくてぽかんとタケルを見つめる。タケルはキッとこちらを睨みつけると、もう一度同じことを言った。
「あたし、うっしーとじゃないと行かないから!!」
「はぁ!? 何でだよ!? 俺とお前だってついこの間出会ったばっかだろ!? だったらこいつとだって大して変わんねーじゃねーか!!」
「変わるよ!! だってうっしーすごく分かりやすいもん! でもこの人何考えてるか分かんない!!」
タケルが指さした先に居たゴンゾーは心外だとばかりに目を見開いた。
「し、失礼なっ……」
「はあぁ!? じゃぁ何か!? 俺は分かりやすい単純バカだとでも言いたいのかよ!?」
「うんっ!」
勢い良くうなずくタケルに俺の中で血管が切れる音が響き渡った。
テメェにだけは言われたくねーわ!!
怒りに任せてゴンゾーの胸ぐらをつかむ。つい睨みまで利かせてしまった。
「とっとと服寄こせ」
ゴンゾーは深く深くため息をつくと、俺の手を振り払って今は遠くにしか見えないアスレッドの門を仰ぎ見た。
「君たちはクロレシアの技術をバカにしてるのかな」
「へ?」
「あの国はかなり機械技術が発達してるからね、一度顔を見られてたなら服替えたぐらいじゃまず間違いなく捕まるよ」
「嘘……だろ!?」
十年……いつの間にそんなに進化してたんだ!?
驚く俺の腕にタケルはギュッと捕まると、勝ち誇ったような顔で見上げてきた。
「通れないならしょうがないよね! 何か他の方法探そうよ!!」
くそ、マジで俺から離れる気ないのか、この疫病神……。
ガッカリ肩を落としていると、俺の神、ゴンゾーが素晴らしいことを言い出した。
「方法ならあるよ。ちょっと待ってて」
そのまま自分が引いていた荷車まで近づいていくと、ひときわ大きな箱の中から平たい剣を何本も取り出し、その箱の中に入れと促してきた。どんなものか気になって俺も近づいて中をのぞいてみたが、それはただの四角い箱だった。見た目以外は。見た目は芸にでも使うんだろう、かなり派手な赤色に白い星がちりばめられている。
「こんな怪しくて大きな箱、中見られないか?」
「間違いなく見られるだろうね。どうにかするよ」
どうするんだと聞いてみたが、ゴンゾーはうっすら笑んだだけで何も答えてはくれなかった。タケルの言う通り何考えてるか分かんねー奴だ……。
「タケル」
振り返りこちらへ来いと名前を呼んでみたが、タケルはピクリと肩を震わせただけで視線を外しうつむいた。仕方のない奴だな……。
俺はタケルの近くに戻ると勢いよく腕を引き、そっと耳打ちした。
「街に入っちまえばこっちのモンだろ。俺が大地の腐敗の事調べてる間にゴンゾーから逃げ出して来い。そうしたら連れてってやるよ」
「ホント!?」
急にタケルが目を輝かせてこちらを見上げてきた。現金な奴だ。
「ただし殺すなよ」
「うん!」
タケルはにっこにっこ笑いながら軽い足取りで箱の中にぴょんっと入っていく。おいおい、あんまり態度変わるとバレても知らないからな、……なんて思いながら俺も箱の中に入った。俺はどっちでもいいんだ。タケルが無事ならな。
そこまで考えてアレっとなる。俺、いつの間にかタケルのことを心配してる……? 何でついこの間出会ったばっかのやつを……。
訳が分からなくてもっと深く思考しようとしたが、それは頭上からかかったゴンゾーの声に止められた。
「今から動くから楽な姿勢とって」
ゴンゾーの言葉通りに姿勢を取る。タケルも隣でゴソゴソ動いていたが、やがて静かになった。それを確認して見上げる。
「これでいいか?」
「いいよ。じゃぁ、今から一ミリも動かないでね」
それだけ言い残し、ゴンゾーは箱の蓋を閉めてきた。一気に真っ暗になる。
一ミリもって……音を立てるなってことだろ? 大げさだな。そう思ってる間に外で何かを確認するようにコツコツ指で箱を叩く音がしたかと思えば、すぐに荷車がガタンと動き出した。ここからアスレッドまではそう大した距離じゃない。ガタガタ揺れる衝撃で少し尻が痛くなって身じろいだが、あっという間にその動きも止まった。外から先程の門番であろう奴の声が聞こえてくる。
「大道芸人か……。今港の方にはクロレシアの軍船が停まっている。芸をするなら商店街の方を使ってくれ」
クロレシアの軍船……? そういえばあのムカつく兵士が帰りがどうとか言ってたっけ……。奴らまだ帰らずに居たのか……。
俺は思考を巡らせながらじっと外の声に耳を傾けた。
「分かりました」
「あと、その荷物一通り調べさせてもらうぞ」
「かまいませんよ」
は!? 構わないって、おいゴンゾー嘘だろ!? どうにかするって言ってなかったか!?
俺は内心焦ったまま暗い天井を見上げた。横から荷物を調べているんだろう、ガサガサという音が聞こえてくる。その後カタンと、蓋に手をかけられる音がした。冷や汗が俺の頬を伝う。
「待ってください。それにはマジックの種が仕掛けてあるんです。何も入っていないと証明しますから、中は見ないでいただきたい」
「どう証明するんだ?」
俺も気になる……そう思った途端、小さな音とともに俺の目の真横を何かが走った。俺の髪が数本切れ飛びはらりと落ちる。
ちょ、ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待て!!! 何でいきなり剣が突き刺さってくるんだ!?
慌てる俺をよそに、2本目の剣が三角に折っている俺の膝下をズサリと走った。まさか、あの箱から出してた剣全部ぶっ刺すつもりかぁっ!!? 今さらながらに一ミリも動くなと言った理由が分かった。かなりタケルの方が気になったが顔を動かすのも危険に感じてそのまま固まる。その間にも剣は次から次へと縦やら横やら斜めやらへと走っていく。
「どうですか? これでも怪しい物が入っているとお思いですか?」
「いや、通っていいぞ」
門番の言葉で俺の全方向から生えていた剣が一本ずつ引き抜かれていく。危うく声を出しそうになったが思いとどまってタケルの方を見た。暗くてよく見えなかったがあいつ……、笑ってる……? 恐ろしい奴……。
荷車は再びガタガタと動き出すと、暫くして止まり蓋が開けられた。横に居たタケルが飛び出していく。
「ゴンゾー! 今のすごいね!! なんかいっぱい剣だった!!」
「え、ああ……うん」
タケルの勢いに押されてゴンゾーはたじたじだ。そりゃそうだろうよ、まさかこんな反応するとは思ってねーだろうからな。かくいう俺の膝は完全に笑っている。ある意味恐ろしい女だ。
「じゃぁ、俺行くわ。サンキューな、ゴンゾー」
「ああ、これ、持って行って」
ゴンゾーから布の塊……、おそらく服だろう。それを受け取ると、もう一度礼を言って笑う膝に鞭打ち箱から出る。周りを見て見ればここは商店街の路地裏みたいだ。
ここから先は情報収集だな。あいつから逃げ出せるかはタケル次第として、俺は影で服を着替えると、表路地へと向かって歩き出した。
「ぁえ……?」
やべぇ、今俺めちゃくちゃハイテンションだ。だって、だってだぞ!? あの厄介事と不安が一気に解消されるんだぜ!? しかもタダで!!
一目惚れだってんならこいつがタケルに酷いことをする事もないだろう。ツイッタ村でもホレられた女たちはいつも幸せそうだった。
「よろしく頼む!! さっそく服貸してくれ!!」
俺は帽子の男の手をガシッと掴むと上下にぶんぶんと振った。ああ、こいつは神か何かか……。
いきなりこんな反応を返されるとは思っていなかったんだろう、帽子の男は呆気にとられ俺を見つめるだけだった。だがその頃になってようやく気付いたのか、タケルが近づいてきて俺の袖を引く。
「ちょ、どういうことよ!? 嘘でしょ、うっしーッ!」
俺はタケルの手を振り払い、向き直った。真剣な顔でタケルを見る。
「俺と居るよりこいつと居た方が安全だ。レガルの事はちゃんと調べてやるから待ってろ」
これは本心だ。実は俺、大地の腐敗を治すことだけじゃなくて”紋章持ち”の人達を助けることも考えてる。そうなれば俺はクロレシアに更に追われる立場になるわけで……。そんな状況にたまたま居合わせただけのタケルを巻き込むわけにはいかないんだ。
不安そうに瞳を揺らすタケルから視線を外し、帽子の男の方を見る。
「俺はウッドシーヴェル。こいつはタケルだ。服はできるだけぶかいのを貸してくれ」
帽子の男はため息をつきつつ前髪を指先で払った。
「僕はゴンゾー。服はあげるけど、一言だけいいかな」
なんだ、と思った瞬間真横からタケルが叫んできた。
「あたし、行かない!!」
「……?」
一瞬、何を言ったのか理解できなくてぽかんとタケルを見つめる。タケルはキッとこちらを睨みつけると、もう一度同じことを言った。
「あたし、うっしーとじゃないと行かないから!!」
「はぁ!? 何でだよ!? 俺とお前だってついこの間出会ったばっかだろ!? だったらこいつとだって大して変わんねーじゃねーか!!」
「変わるよ!! だってうっしーすごく分かりやすいもん! でもこの人何考えてるか分かんない!!」
タケルが指さした先に居たゴンゾーは心外だとばかりに目を見開いた。
「し、失礼なっ……」
「はあぁ!? じゃぁ何か!? 俺は分かりやすい単純バカだとでも言いたいのかよ!?」
「うんっ!」
勢い良くうなずくタケルに俺の中で血管が切れる音が響き渡った。
テメェにだけは言われたくねーわ!!
怒りに任せてゴンゾーの胸ぐらをつかむ。つい睨みまで利かせてしまった。
「とっとと服寄こせ」
ゴンゾーは深く深くため息をつくと、俺の手を振り払って今は遠くにしか見えないアスレッドの門を仰ぎ見た。
「君たちはクロレシアの技術をバカにしてるのかな」
「へ?」
「あの国はかなり機械技術が発達してるからね、一度顔を見られてたなら服替えたぐらいじゃまず間違いなく捕まるよ」
「嘘……だろ!?」
十年……いつの間にそんなに進化してたんだ!?
驚く俺の腕にタケルはギュッと捕まると、勝ち誇ったような顔で見上げてきた。
「通れないならしょうがないよね! 何か他の方法探そうよ!!」
くそ、マジで俺から離れる気ないのか、この疫病神……。
ガッカリ肩を落としていると、俺の神、ゴンゾーが素晴らしいことを言い出した。
「方法ならあるよ。ちょっと待ってて」
そのまま自分が引いていた荷車まで近づいていくと、ひときわ大きな箱の中から平たい剣を何本も取り出し、その箱の中に入れと促してきた。どんなものか気になって俺も近づいて中をのぞいてみたが、それはただの四角い箱だった。見た目以外は。見た目は芸にでも使うんだろう、かなり派手な赤色に白い星がちりばめられている。
「こんな怪しくて大きな箱、中見られないか?」
「間違いなく見られるだろうね。どうにかするよ」
どうするんだと聞いてみたが、ゴンゾーはうっすら笑んだだけで何も答えてはくれなかった。タケルの言う通り何考えてるか分かんねー奴だ……。
「タケル」
振り返りこちらへ来いと名前を呼んでみたが、タケルはピクリと肩を震わせただけで視線を外しうつむいた。仕方のない奴だな……。
俺はタケルの近くに戻ると勢いよく腕を引き、そっと耳打ちした。
「街に入っちまえばこっちのモンだろ。俺が大地の腐敗の事調べてる間にゴンゾーから逃げ出して来い。そうしたら連れてってやるよ」
「ホント!?」
急にタケルが目を輝かせてこちらを見上げてきた。現金な奴だ。
「ただし殺すなよ」
「うん!」
タケルはにっこにっこ笑いながら軽い足取りで箱の中にぴょんっと入っていく。おいおい、あんまり態度変わるとバレても知らないからな、……なんて思いながら俺も箱の中に入った。俺はどっちでもいいんだ。タケルが無事ならな。
そこまで考えてアレっとなる。俺、いつの間にかタケルのことを心配してる……? 何でついこの間出会ったばっかのやつを……。
訳が分からなくてもっと深く思考しようとしたが、それは頭上からかかったゴンゾーの声に止められた。
「今から動くから楽な姿勢とって」
ゴンゾーの言葉通りに姿勢を取る。タケルも隣でゴソゴソ動いていたが、やがて静かになった。それを確認して見上げる。
「これでいいか?」
「いいよ。じゃぁ、今から一ミリも動かないでね」
それだけ言い残し、ゴンゾーは箱の蓋を閉めてきた。一気に真っ暗になる。
一ミリもって……音を立てるなってことだろ? 大げさだな。そう思ってる間に外で何かを確認するようにコツコツ指で箱を叩く音がしたかと思えば、すぐに荷車がガタンと動き出した。ここからアスレッドまではそう大した距離じゃない。ガタガタ揺れる衝撃で少し尻が痛くなって身じろいだが、あっという間にその動きも止まった。外から先程の門番であろう奴の声が聞こえてくる。
「大道芸人か……。今港の方にはクロレシアの軍船が停まっている。芸をするなら商店街の方を使ってくれ」
クロレシアの軍船……? そういえばあのムカつく兵士が帰りがどうとか言ってたっけ……。奴らまだ帰らずに居たのか……。
俺は思考を巡らせながらじっと外の声に耳を傾けた。
「分かりました」
「あと、その荷物一通り調べさせてもらうぞ」
「かまいませんよ」
は!? 構わないって、おいゴンゾー嘘だろ!? どうにかするって言ってなかったか!?
俺は内心焦ったまま暗い天井を見上げた。横から荷物を調べているんだろう、ガサガサという音が聞こえてくる。その後カタンと、蓋に手をかけられる音がした。冷や汗が俺の頬を伝う。
「待ってください。それにはマジックの種が仕掛けてあるんです。何も入っていないと証明しますから、中は見ないでいただきたい」
「どう証明するんだ?」
俺も気になる……そう思った途端、小さな音とともに俺の目の真横を何かが走った。俺の髪が数本切れ飛びはらりと落ちる。
ちょ、ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待て!!! 何でいきなり剣が突き刺さってくるんだ!?
慌てる俺をよそに、2本目の剣が三角に折っている俺の膝下をズサリと走った。まさか、あの箱から出してた剣全部ぶっ刺すつもりかぁっ!!? 今さらながらに一ミリも動くなと言った理由が分かった。かなりタケルの方が気になったが顔を動かすのも危険に感じてそのまま固まる。その間にも剣は次から次へと縦やら横やら斜めやらへと走っていく。
「どうですか? これでも怪しい物が入っているとお思いですか?」
「いや、通っていいぞ」
門番の言葉で俺の全方向から生えていた剣が一本ずつ引き抜かれていく。危うく声を出しそうになったが思いとどまってタケルの方を見た。暗くてよく見えなかったがあいつ……、笑ってる……? 恐ろしい奴……。
荷車は再びガタガタと動き出すと、暫くして止まり蓋が開けられた。横に居たタケルが飛び出していく。
「ゴンゾー! 今のすごいね!! なんかいっぱい剣だった!!」
「え、ああ……うん」
タケルの勢いに押されてゴンゾーはたじたじだ。そりゃそうだろうよ、まさかこんな反応するとは思ってねーだろうからな。かくいう俺の膝は完全に笑っている。ある意味恐ろしい女だ。
「じゃぁ、俺行くわ。サンキューな、ゴンゾー」
「ああ、これ、持って行って」
ゴンゾーから布の塊……、おそらく服だろう。それを受け取ると、もう一度礼を言って笑う膝に鞭打ち箱から出る。周りを見て見ればここは商店街の路地裏みたいだ。
ここから先は情報収集だな。あいつから逃げ出せるかはタケル次第として、俺は影で服を着替えると、表路地へと向かって歩き出した。
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