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第五章 守りたいもの
第四十話 分かり合う心
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もうすぐで初めてこの大陸に降り立った港町だって所で、アスレッドから来たという旅人に出くわした。アスレッドは俺とタケルが初めてナナセと出会った場所だし、あれから色々あったから思い出せば懐かしい。
そんな事を考えながらそいつの話を聞いていると、やはりあの地震は大地の腐敗が進行したものみたいだと分かる。自分は腐敗に呑まれるのが怖くて逃げてきたんだって話してた。
「う、ん……。どれだけ進行したのかは分からないけど、彼の話によると迷いの森付近までは来ているかもしれないという事だから……ともすれば世界の北西部分はほぼ全滅かもしれないね」
ナナセの言葉に俺はそわそわとしだした。迷いの森付近ってことはツイッタ村や、もしかしたらオリオが戻ったあの研究所も腐敗に呑まれたんじゃないかって思ったんだ。
それに腐敗が広がるってことは原因があるわけだし、これからの為にも見ておきたい。そう考えて、言いづらいまま話を切り出した。
「なぁ……、迷いの森に一度戻ってみないか……? 腐敗の原因も探りたいし……できればあそこの研究所に知り合いが居るから無事なら助けたい……」
もしも賛成してくれないなら自分一人ででも行くつもりで皆の顔を見渡す。テンがため息をつきつつも一番に答えた。
「どーせ自分一人ででも行くつもりでしょ! ぼくは遠くに離れられないんだから聞くまでもないと思うけど」
「あたしも! うっしーについてく」
「大地の腐敗の原因を探るんだろう? 聞かれるまでもなく付き合うぞ」
皆の返事を聞いて俺は嬉しくなった。何だよお前ら……もしかして俺達結構団結してきた? 少しだけ喜びつつ最終的に一人答えていないナナセの方を見た。ナナセがため息をつき答えてくれる。
「子供たちを街の人に預けたらフレスを召喚してみるよ。魔力も回復してるからアスレッドの辺りまでなら行けると思う」
「マジで!? うおおっ! さすが俺の神ぃー!!」
めちゃくちゃ嬉しくなって抱きついたら暑苦しいとはがされた。まったく、お前照れ屋だなーっなんて調子のいい事まで考えてしまう。それだけ俺達の気持ちが通じ合えたんじゃないかって思って嬉しかったんだ。あんな事があった後に不謹慎かもしれないけど、さ。それでもこの関係はオルグが作ってくれたもののような気がして、だから余計に嬉しかった。
それにこいつらだって、俺が笑ってればたまにつられて笑顔を浮かべるんだ。オルグだってずっと悲しんだ顔のままでいるより笑顔の方がきっと嬉しいんじゃないかって思う。自分を犠牲にしてでも他を救おうとした人だから、さ。だから俺は空元気だろうが今のままでいようって決めたんだ。
「何笑ってんのさ、気持ち悪っ……!」
分かってる分かってる。テン、お前照れてんだろ。今は何を言われてもいい方向にしか考えないようにしたから、わざとでもニヤニヤ笑った。
「……とりあえず今日は宿に泊まって作戦を練ろう。僕とタケルで宿代稼ぐから君たちは子供たちの住処探しと情報集めでもしてて」
港町に着いてすぐ、ナナセがそう言ってタケルとともに街の中に入っていく。何だよあいつらマジで結託してるのか……? 複雑な心境で見つめていたら俺の両隣りをテンと桔梗に固められた。
「ぼく普段アドバイスとか人の恋愛に首突っ込んだりしないんだけどぉ、盗られても知らないよ?」
「自分の気持ちに正直にならないと全て失うことになるぞ」
意味不明な言葉を残したまま二人も先に町の中へと入っていく。なぜか子供達三人が俺の後ろに残っていた。あいつら……始めから俺に任せるつもりだったのかよ!?
そう思ったけど、桔梗もテンもさすがにまだ吹っ切れてはいないだろうし考えたいこともあるんだろう。仕方なく子供たちを連れて街の中へと入った。
三人も頼むのはかなり難しいかと思ったんだけど、一番最初に話しかけた気さくなおじさんが意外とあっさり引き受けてくれた。良かったと安心したのも束の間、この間の魔物襲撃で奥さんと子供を亡くしたと聞いて戸惑った。だってなんか悪い気がするだろ……。落ち込んでるところに面倒まで押しつけるなんて……さ。だけどおじさんは淋しさを紛らわせられるから助かる、もっとたくさん連れてきてもいいんだぞーなんて、冗談なのか本気なのか分からない事まで言ってくれたからついつい甘えてしまった。
ホント、俺いったい誰を、何を救えてるんだろう。渋い顔をしていたら感謝までされて何とも言えない気分になった。ダメだな俺……。ホントもっと頑張らないと。
「ここまで連れて来てくれてありがとう。お兄ちゃんのおかげでオルグ先生が居なくなっても私たち寂しくないよ」
密かに落ち込んで肩を落としていた俺に知ってか知らずか子供たちの一人、女の子が唐突に俺に花をくれた。しかもそれをあまりにもびっくりした変な顔で見ていたんだろう、彼女は可笑しそうにふふっと笑った。アホか俺、ダサすぎだろ……。
「お礼したくて途中で摘んできたの!」
自分に呆れてぽりぽりと頭を掻いていたら、にこにこしながら花を押しつけられた。それを戸惑った笑顔で受け取る。何だか余計恥ずかしくなったよ。
「あ、ああ、こっちこそありがとう……」
まだ十歳前後の子なのにちゃんとお礼までしてくれるんだよな……、なんて思ったら俺もあいつらに礼をしたくなって堪らなくなってきた。いつも考えるだけで行動してなかったからさ。アイツらに世話になった礼をちゃんとしなきゃって思ったんだ。
子供たちと別れた後、もらった花を指先で弄びながら街の中をぶらついた。金はなかったから買うことはできなかったけど今度金を持って来たときに迷わず買えるよう、皆に合いそうなものを手にとっては想像したんだ。タケルが俺に種を選んでくれた時こんな気持ちだったのか……って考えたらなんだかくすぐったくて仕方がなくなった。
「これ……綺麗だな……」
それは路地裏にあった質素な店先に一つだけあった、虹色に輝く指の先ほどの大きさの宝玉だ。手に取って俺は無意識に呟いてた。
「ああ、それはクロレシアの方から仕入れたものだよ。なんと”紋章持ち”の力を込めることができるらしい不思議な玉なんだそうだ」
「”紋章持ち”の!?」
興味深げに問いかければ店の主が俺の顔を見てああ、と一つうなずいた。
「この町を救ってくれた”紋章持ち”の人だね。込めた力は使えないそうなんだけど同じ力が共鳴して引き合うそうだよ。恋人に送ったりするらしい。いかがかな?」
店主の言葉に俺は渋い顔で答えた。
「残念だけど、今持ち合わせがないんだ……」
きっと俺の力を込めて渡したらタケルが喜ぶんじゃないかと思ったけど、ダメだな……。ナナセならどうにかして買ってやるのかもしれないんだろうけど……。
金を稼ぐ術すらない自分に歯噛みした。
「うーん……、この街を救ってくれたお礼としてプレゼントしたいのはやまやまなんだけど……、それは見た目もいいしとても高価でね。今は渋って売ってはいないんだけど、”紋章持ち”じゃないけど買いたいって人もいるんだ。私にも生活が懸かっている、ごめんよ。」
「いや、気にしないでくれ」
後ろ髪をひかれながら俺は立ち上がった。今度来たときにはもうないかもしれないと思ったけれど、今買う事もできないから仕方ないよな……。そう思っていたら店主が声をかけてくれた。
「その花と交換でしばらく取り置きをするというのはどうだろう?」
俺が女の子からもらった花を指差し、そんな提案を持ち掛けてくる。買えるかどうかも分からないと言ったけどそれでもいいと言ってくれたから頼んでおくことにした。あの子と店主、感謝する相手が増えたな。俺もちゃんと返せるようになろうって思った。
ウッドシーヴェルが店でそんなやり取りをしていた頃、桔梗は一人港に来ていた。手には二通の封筒。それはオルグが卒業する自分たちに宛てたもので、一つには己の名前が書かれたもの、もう一つには別の名前が書かれたもの、だ。自分宛てのもの以外は置いてくるつもりだったがどうしても気になって持って来てしまっていた。何しろそこにはこう書かれていたのだ。
ヴェリアへ
と。ヴェリアという少女の記憶はある。赤い髪で眼鏡をかけ、いつも常に自信なさげにうつむいていた。自分とも誰かとも、話すどころか同じ空間に居ても顔を見ることすらほぼなかった。だからあのヴェリアとは同名なだけだと思っていたのだ。けれど衝動に勝てずその封筒を開けてしまった。そこに書かれていた内容がこうだった。
ヴェリア、君が研究者になるとこの学校を出て行ってどれだけが経っただろう。
私は今でも君の事を生徒だと思っているよ。
だから言わせてくれ。卒業おめでとう。
君は自分の見た目をとても気にしていたけれど、
私はくすんだ赤い髪も骨ばった手足も酷いと思ったことはないよ。
それに、君はとても美しい心を持っていると思うんだ。
君が嬉しそうに研究者になると言い出した時、
あの輝く瞳を見て心配することはやめた。
君なら大丈夫だと信じているよ。
どうか幸せに……。
これを読んで間違いなくあのヴェリアだと確信した。自分の事を覚えていなかったのも偽名を使っていたのと、いつもうつむいていて他人の顔をまともに見たことがなかった為だろう。
「オルグ……私はどうすれば……」
「ぼくに頼ってよ」
呟いた途端真横から聞こえた声に桔梗は言葉通り飛び上がった。いつの間にそこに居たのか、テンが海を見つめたまま言葉を続けた。
「ぼくら秘密にしすぎたんだよ。だからあんな事になっちゃったんだ。おねぃさんも迷ったらもっとさらけ出していいと思う。ぼくももう隠し事はしないよ」
子供の姿の割に凛々しい横顔に桔梗は苦笑した。自分よりも長く生きている、精霊という存在だったのだと今さらながらに自覚した。
「……そうだな、私ももう隠すことはしないよ。テン、疑ってすまなかった。オルグに力を貸してくれてありがとう」
「~~~~~~!!!」
桔梗の礼の言葉を聞いて、更には珍しく綺麗に笑んだ桔梗の顔を見て、テンがサイレンのような奇声を発した。顔が蜜のように蕩けていく。直後大声で叫び出した。
店の主に宝玉を取り置いてもらった後、またあちらこちら回ってあいつらに贈る物の目星をつけてから港の方へ来た。もしかしたらアスレッドの方から逃げて来た人がまだ居るかもしれないと思ったから少しでも情報を集めようとしたんだ。そこでめちゃくちゃ甲高いサイレンの音を聞いて、魔物でも襲って来たのかと驚いて振り返った。
「ぼくらのぉ!! 間にぃ! 隠し事は! なぁーい!!」
「全てぇ! さらけ出して!! 繋がろう!!」
「さぁ! 隠す物なんて何もいらなぁーい! 嘘も、言い訳も、服もぉーーーー!!!!」
サイレンの後に聞こえてきたのはテンのそんなアホみたいな叫び声だ。直後桔梗に巻き付こうとしていたテンに迷わず近づいて行ってげんこつを落とした俺は間違ってないと思う。呻いた後黒光りする虫のように地面に這ったが自業自得だ。同情する余地なんてない。
「少しの間しおらしくしてるかと思ったらもうこれか。お前の心臓には毛でも生えてんじゃねーか?」
「なんだ、うっしーかよ。んふふ、毛が生えてるのは心臓じゃないから。フフフ……」
「頭に生えてんのは分かってるっつの」
不機嫌にそう言ったら何故か桔梗が噴き出しやがった。
「まったく……。お前達と居たら悩む暇も悲しむ暇もないな。そろそろナナセ達とも合流しよう」
そのまま桔梗は歩きだしていく。テンのおかげなのか少しだけ元気が出たみたいだ。
「テン……」
「ぼくは、別れには慣れてるから……さ。大丈夫だよ」
苦しげに笑うテンの頭を俺はかきまぜた。文句を言われたけどやめてやらない。こいつは自分が苦しくても元気に振る舞う奴なんだって分かったから、さ。気がまぎれる……おじさんの言っていたことがなんとなくわかった。
「辛いなら俺の胸、貸してやろうか?」
冗談交じりに聞いたら足を踏まれた。
「借りるならおねぃさんのムニムニフニフニな胸を借りるよ、バーカ!!」
そう言いながらも辛そうな顔が少しだけ和らいでほっとする。こいつらが笑っててくれるだけで何故か俺も嬉しくなった。
翌日、ナナセの呼び出した召喚獣フレスヴェルグに乗って迷いの森を抜けた先にある国境の街アスレッドに辿り着いた。ナナセがフレスヴェルグを召喚するにはまだかなり集中力がいるらしく、半時ぐらいは待たされたけどどうにか呼べたらしい。
けどなぜアスレッドの外なのかと言えば、研究所付近は下りられるか分からないうえ旋回しているうちに魔力切れ、なんてことになったら大変だし、かといって街中だとクロレシア王城であんな事があった後だ、兵士に捕まるといけないし出入りするのも大変かもしれないから、ということらしかった。そんなわけで俺とナナセが初めて出会った場所でもある街の入り口から少し離れた草むらに降りた。
「ここにはまだ腐臭は漂ってないな……」
「そうだね。研究所に行くって言ってたけど、場所は分かってるのかい?」
迷いの森を抜けるための機械がないから不安に思ったんだろう。俺と桔梗がうなずき合った。
「木々たちが無事なら話を聞けるはずだ。どこまで行けるかは分からないがとにかく進んでみよう」
「研究所……か。あたしが居た場所なんだよね。全く思い出せないんだけど……」
タケルのつぶやきに意外だとばかりに反応した。力を吸ったから研究所の時の事は思い出してるかと思ってたんだけど……。
「記憶、思い出してないのか?」
「うん。全然! あたしが作られた存在なら元々記憶なんてないのかもしれないけど……ね。」
それでも最初に言っていた『レガル』って言葉が気になる。ノワールが禁書を見て言っていた言葉でもあるってことは確実にこの世に存在しているんだろう。研究所が無事ならもう一度探ってみるのもいいかもしれないと思った。
「とにかく進も!! あの時の男の子がまだそこに居るかもしれないんでしょ?」
「そうだな。できるなら安全な場所に来て欲しい……」
どんな反応を返されるかなんてわからないし、また残るって言われるかもしれない。けど……とにかく行ってみるしかないって、そう思った。
そんな事を考えながらそいつの話を聞いていると、やはりあの地震は大地の腐敗が進行したものみたいだと分かる。自分は腐敗に呑まれるのが怖くて逃げてきたんだって話してた。
「う、ん……。どれだけ進行したのかは分からないけど、彼の話によると迷いの森付近までは来ているかもしれないという事だから……ともすれば世界の北西部分はほぼ全滅かもしれないね」
ナナセの言葉に俺はそわそわとしだした。迷いの森付近ってことはツイッタ村や、もしかしたらオリオが戻ったあの研究所も腐敗に呑まれたんじゃないかって思ったんだ。
それに腐敗が広がるってことは原因があるわけだし、これからの為にも見ておきたい。そう考えて、言いづらいまま話を切り出した。
「なぁ……、迷いの森に一度戻ってみないか……? 腐敗の原因も探りたいし……できればあそこの研究所に知り合いが居るから無事なら助けたい……」
もしも賛成してくれないなら自分一人ででも行くつもりで皆の顔を見渡す。テンがため息をつきつつも一番に答えた。
「どーせ自分一人ででも行くつもりでしょ! ぼくは遠くに離れられないんだから聞くまでもないと思うけど」
「あたしも! うっしーについてく」
「大地の腐敗の原因を探るんだろう? 聞かれるまでもなく付き合うぞ」
皆の返事を聞いて俺は嬉しくなった。何だよお前ら……もしかして俺達結構団結してきた? 少しだけ喜びつつ最終的に一人答えていないナナセの方を見た。ナナセがため息をつき答えてくれる。
「子供たちを街の人に預けたらフレスを召喚してみるよ。魔力も回復してるからアスレッドの辺りまでなら行けると思う」
「マジで!? うおおっ! さすが俺の神ぃー!!」
めちゃくちゃ嬉しくなって抱きついたら暑苦しいとはがされた。まったく、お前照れ屋だなーっなんて調子のいい事まで考えてしまう。それだけ俺達の気持ちが通じ合えたんじゃないかって思って嬉しかったんだ。あんな事があった後に不謹慎かもしれないけど、さ。それでもこの関係はオルグが作ってくれたもののような気がして、だから余計に嬉しかった。
それにこいつらだって、俺が笑ってればたまにつられて笑顔を浮かべるんだ。オルグだってずっと悲しんだ顔のままでいるより笑顔の方がきっと嬉しいんじゃないかって思う。自分を犠牲にしてでも他を救おうとした人だから、さ。だから俺は空元気だろうが今のままでいようって決めたんだ。
「何笑ってんのさ、気持ち悪っ……!」
分かってる分かってる。テン、お前照れてんだろ。今は何を言われてもいい方向にしか考えないようにしたから、わざとでもニヤニヤ笑った。
「……とりあえず今日は宿に泊まって作戦を練ろう。僕とタケルで宿代稼ぐから君たちは子供たちの住処探しと情報集めでもしてて」
港町に着いてすぐ、ナナセがそう言ってタケルとともに街の中に入っていく。何だよあいつらマジで結託してるのか……? 複雑な心境で見つめていたら俺の両隣りをテンと桔梗に固められた。
「ぼく普段アドバイスとか人の恋愛に首突っ込んだりしないんだけどぉ、盗られても知らないよ?」
「自分の気持ちに正直にならないと全て失うことになるぞ」
意味不明な言葉を残したまま二人も先に町の中へと入っていく。なぜか子供達三人が俺の後ろに残っていた。あいつら……始めから俺に任せるつもりだったのかよ!?
そう思ったけど、桔梗もテンもさすがにまだ吹っ切れてはいないだろうし考えたいこともあるんだろう。仕方なく子供たちを連れて街の中へと入った。
三人も頼むのはかなり難しいかと思ったんだけど、一番最初に話しかけた気さくなおじさんが意外とあっさり引き受けてくれた。良かったと安心したのも束の間、この間の魔物襲撃で奥さんと子供を亡くしたと聞いて戸惑った。だってなんか悪い気がするだろ……。落ち込んでるところに面倒まで押しつけるなんて……さ。だけどおじさんは淋しさを紛らわせられるから助かる、もっとたくさん連れてきてもいいんだぞーなんて、冗談なのか本気なのか分からない事まで言ってくれたからついつい甘えてしまった。
ホント、俺いったい誰を、何を救えてるんだろう。渋い顔をしていたら感謝までされて何とも言えない気分になった。ダメだな俺……。ホントもっと頑張らないと。
「ここまで連れて来てくれてありがとう。お兄ちゃんのおかげでオルグ先生が居なくなっても私たち寂しくないよ」
密かに落ち込んで肩を落としていた俺に知ってか知らずか子供たちの一人、女の子が唐突に俺に花をくれた。しかもそれをあまりにもびっくりした変な顔で見ていたんだろう、彼女は可笑しそうにふふっと笑った。アホか俺、ダサすぎだろ……。
「お礼したくて途中で摘んできたの!」
自分に呆れてぽりぽりと頭を掻いていたら、にこにこしながら花を押しつけられた。それを戸惑った笑顔で受け取る。何だか余計恥ずかしくなったよ。
「あ、ああ、こっちこそありがとう……」
まだ十歳前後の子なのにちゃんとお礼までしてくれるんだよな……、なんて思ったら俺もあいつらに礼をしたくなって堪らなくなってきた。いつも考えるだけで行動してなかったからさ。アイツらに世話になった礼をちゃんとしなきゃって思ったんだ。
子供たちと別れた後、もらった花を指先で弄びながら街の中をぶらついた。金はなかったから買うことはできなかったけど今度金を持って来たときに迷わず買えるよう、皆に合いそうなものを手にとっては想像したんだ。タケルが俺に種を選んでくれた時こんな気持ちだったのか……って考えたらなんだかくすぐったくて仕方がなくなった。
「これ……綺麗だな……」
それは路地裏にあった質素な店先に一つだけあった、虹色に輝く指の先ほどの大きさの宝玉だ。手に取って俺は無意識に呟いてた。
「ああ、それはクロレシアの方から仕入れたものだよ。なんと”紋章持ち”の力を込めることができるらしい不思議な玉なんだそうだ」
「”紋章持ち”の!?」
興味深げに問いかければ店の主が俺の顔を見てああ、と一つうなずいた。
「この町を救ってくれた”紋章持ち”の人だね。込めた力は使えないそうなんだけど同じ力が共鳴して引き合うそうだよ。恋人に送ったりするらしい。いかがかな?」
店主の言葉に俺は渋い顔で答えた。
「残念だけど、今持ち合わせがないんだ……」
きっと俺の力を込めて渡したらタケルが喜ぶんじゃないかと思ったけど、ダメだな……。ナナセならどうにかして買ってやるのかもしれないんだろうけど……。
金を稼ぐ術すらない自分に歯噛みした。
「うーん……、この街を救ってくれたお礼としてプレゼントしたいのはやまやまなんだけど……、それは見た目もいいしとても高価でね。今は渋って売ってはいないんだけど、”紋章持ち”じゃないけど買いたいって人もいるんだ。私にも生活が懸かっている、ごめんよ。」
「いや、気にしないでくれ」
後ろ髪をひかれながら俺は立ち上がった。今度来たときにはもうないかもしれないと思ったけれど、今買う事もできないから仕方ないよな……。そう思っていたら店主が声をかけてくれた。
「その花と交換でしばらく取り置きをするというのはどうだろう?」
俺が女の子からもらった花を指差し、そんな提案を持ち掛けてくる。買えるかどうかも分からないと言ったけどそれでもいいと言ってくれたから頼んでおくことにした。あの子と店主、感謝する相手が増えたな。俺もちゃんと返せるようになろうって思った。
ウッドシーヴェルが店でそんなやり取りをしていた頃、桔梗は一人港に来ていた。手には二通の封筒。それはオルグが卒業する自分たちに宛てたもので、一つには己の名前が書かれたもの、もう一つには別の名前が書かれたもの、だ。自分宛てのもの以外は置いてくるつもりだったがどうしても気になって持って来てしまっていた。何しろそこにはこう書かれていたのだ。
ヴェリアへ
と。ヴェリアという少女の記憶はある。赤い髪で眼鏡をかけ、いつも常に自信なさげにうつむいていた。自分とも誰かとも、話すどころか同じ空間に居ても顔を見ることすらほぼなかった。だからあのヴェリアとは同名なだけだと思っていたのだ。けれど衝動に勝てずその封筒を開けてしまった。そこに書かれていた内容がこうだった。
ヴェリア、君が研究者になるとこの学校を出て行ってどれだけが経っただろう。
私は今でも君の事を生徒だと思っているよ。
だから言わせてくれ。卒業おめでとう。
君は自分の見た目をとても気にしていたけれど、
私はくすんだ赤い髪も骨ばった手足も酷いと思ったことはないよ。
それに、君はとても美しい心を持っていると思うんだ。
君が嬉しそうに研究者になると言い出した時、
あの輝く瞳を見て心配することはやめた。
君なら大丈夫だと信じているよ。
どうか幸せに……。
これを読んで間違いなくあのヴェリアだと確信した。自分の事を覚えていなかったのも偽名を使っていたのと、いつもうつむいていて他人の顔をまともに見たことがなかった為だろう。
「オルグ……私はどうすれば……」
「ぼくに頼ってよ」
呟いた途端真横から聞こえた声に桔梗は言葉通り飛び上がった。いつの間にそこに居たのか、テンが海を見つめたまま言葉を続けた。
「ぼくら秘密にしすぎたんだよ。だからあんな事になっちゃったんだ。おねぃさんも迷ったらもっとさらけ出していいと思う。ぼくももう隠し事はしないよ」
子供の姿の割に凛々しい横顔に桔梗は苦笑した。自分よりも長く生きている、精霊という存在だったのだと今さらながらに自覚した。
「……そうだな、私ももう隠すことはしないよ。テン、疑ってすまなかった。オルグに力を貸してくれてありがとう」
「~~~~~~!!!」
桔梗の礼の言葉を聞いて、更には珍しく綺麗に笑んだ桔梗の顔を見て、テンがサイレンのような奇声を発した。顔が蜜のように蕩けていく。直後大声で叫び出した。
店の主に宝玉を取り置いてもらった後、またあちらこちら回ってあいつらに贈る物の目星をつけてから港の方へ来た。もしかしたらアスレッドの方から逃げて来た人がまだ居るかもしれないと思ったから少しでも情報を集めようとしたんだ。そこでめちゃくちゃ甲高いサイレンの音を聞いて、魔物でも襲って来たのかと驚いて振り返った。
「ぼくらのぉ!! 間にぃ! 隠し事は! なぁーい!!」
「全てぇ! さらけ出して!! 繋がろう!!」
「さぁ! 隠す物なんて何もいらなぁーい! 嘘も、言い訳も、服もぉーーーー!!!!」
サイレンの後に聞こえてきたのはテンのそんなアホみたいな叫び声だ。直後桔梗に巻き付こうとしていたテンに迷わず近づいて行ってげんこつを落とした俺は間違ってないと思う。呻いた後黒光りする虫のように地面に這ったが自業自得だ。同情する余地なんてない。
「少しの間しおらしくしてるかと思ったらもうこれか。お前の心臓には毛でも生えてんじゃねーか?」
「なんだ、うっしーかよ。んふふ、毛が生えてるのは心臓じゃないから。フフフ……」
「頭に生えてんのは分かってるっつの」
不機嫌にそう言ったら何故か桔梗が噴き出しやがった。
「まったく……。お前達と居たら悩む暇も悲しむ暇もないな。そろそろナナセ達とも合流しよう」
そのまま桔梗は歩きだしていく。テンのおかげなのか少しだけ元気が出たみたいだ。
「テン……」
「ぼくは、別れには慣れてるから……さ。大丈夫だよ」
苦しげに笑うテンの頭を俺はかきまぜた。文句を言われたけどやめてやらない。こいつは自分が苦しくても元気に振る舞う奴なんだって分かったから、さ。気がまぎれる……おじさんの言っていたことがなんとなくわかった。
「辛いなら俺の胸、貸してやろうか?」
冗談交じりに聞いたら足を踏まれた。
「借りるならおねぃさんのムニムニフニフニな胸を借りるよ、バーカ!!」
そう言いながらも辛そうな顔が少しだけ和らいでほっとする。こいつらが笑っててくれるだけで何故か俺も嬉しくなった。
翌日、ナナセの呼び出した召喚獣フレスヴェルグに乗って迷いの森を抜けた先にある国境の街アスレッドに辿り着いた。ナナセがフレスヴェルグを召喚するにはまだかなり集中力がいるらしく、半時ぐらいは待たされたけどどうにか呼べたらしい。
けどなぜアスレッドの外なのかと言えば、研究所付近は下りられるか分からないうえ旋回しているうちに魔力切れ、なんてことになったら大変だし、かといって街中だとクロレシア王城であんな事があった後だ、兵士に捕まるといけないし出入りするのも大変かもしれないから、ということらしかった。そんなわけで俺とナナセが初めて出会った場所でもある街の入り口から少し離れた草むらに降りた。
「ここにはまだ腐臭は漂ってないな……」
「そうだね。研究所に行くって言ってたけど、場所は分かってるのかい?」
迷いの森を抜けるための機械がないから不安に思ったんだろう。俺と桔梗がうなずき合った。
「木々たちが無事なら話を聞けるはずだ。どこまで行けるかは分からないがとにかく進んでみよう」
「研究所……か。あたしが居た場所なんだよね。全く思い出せないんだけど……」
タケルのつぶやきに意外だとばかりに反応した。力を吸ったから研究所の時の事は思い出してるかと思ってたんだけど……。
「記憶、思い出してないのか?」
「うん。全然! あたしが作られた存在なら元々記憶なんてないのかもしれないけど……ね。」
それでも最初に言っていた『レガル』って言葉が気になる。ノワールが禁書を見て言っていた言葉でもあるってことは確実にこの世に存在しているんだろう。研究所が無事ならもう一度探ってみるのもいいかもしれないと思った。
「とにかく進も!! あの時の男の子がまだそこに居るかもしれないんでしょ?」
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王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
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⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
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