英雄は明日笑う

うっしー

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第六章 紋章の秘密

第五十二話 隠された村

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 シフォン大陸の港町に着いてすぐ、俺達は今日一日自由行動にして解散した。桔梗は一言も言わなかったけどオルグに挨拶したいんだろうなって、それを何も言われる事なく察したナナセは気を利かせてフレスヴェルグに乗せたままフレスナーガの町へと向かっていった。タケルも桔梗が気になったらしく付いて行くと聞かなかったから、結局ここに残ったのはテンと俺だけだ。テンが珍しく桔梗について行かないと思ってたら、自分はオルグを犠牲にする原因を作ってしまった一人だから居ない方がいいだろうと、アイツなりに気を利かせた結果らしかった。


「まー、ぼくはシャイニングバカでもからかいに行って来るよ! あと綺麗なおねぃさんとウフフしにね!」
 そのままテンは街の中に消えていった。俺としてもありがたい限りだ。そっと自身のズボンのポケットの中に手を入れ、中身を取り出した。
 それは宝石のように輝き鋭く尖っていたガルヴァの爪だ。ナナセが言っていた。ガルヴァの爪は懸賞金がかけられるほどだって。だからこれなら、ここで取り置いてもらってたあの宝玉と交換してくれるかもって思って何度か戦ってる間にこっそりいただいてきたんだ。べ、別にいいだろ。俺がニタとともに自分で倒してきた奴の物だ。盗んだわけでもないんだから誰にも文句は言わせねぇ。
 俺はその爪をそっと握り込むと、路地裏の店へとさっそく向かった。



「こ、これはっ……まさかガルヴァの爪!?」
 それを渡した途端、店主が腰でも抜かしそうな程驚いて俺をマジマジと見つめてきた。それからすぐに爪に視線を戻し、上にやったり下にやったり隅から隅まで眺めては感嘆の息を漏らす。
「これほどの代物……まさか生きている間に拝めるとは……」
「それとあの宝玉となら交換してくれるか?」
 何気なくそう言ったら店主が声を裏返らせて答えてきた。
「こここ、交換!? 何をいうんだ!! 高いと言ったけど、あの宝玉とガルヴァの爪じゃ価値が違いすぎる!! 買い取りたいのはやまやまだけどこちらの持ち合わせが間に合わないよ!! これ程の物大きな街の宝石商で買い取ってもらわなきゃダメだ」


 自分では価値なんてわからなかったけど、そんなすごいものなのか……? この爪に殺されかけた事を思えば少し複雑な気分だった。
「あー……じゃぁ、さ。余った分は子供たちを面倒見てくれてるおじさんと、あと、俺の仲間が多分フレスナーガ復興したいだろうから、その時に分けてやってくれないか? 俺、大きな街には行きづらいんだ。それに早くその宝玉を渡してやりたい奴がいるからさ」
 真剣にそう告げたら店主が微笑んで宝玉をこちらに渡してくれた。良かった。これでタケルに礼が伝えられる。あいつは物なんてなくても喜んでくれるだろうが、俺は形として渡したかったんだ。店主に礼を言ってその場を離れると、港へ行ってタケルから貰った種を取り出し宝玉と二つ並べて眺めた。





「……と、そうだ。これに俺の魔力を込めておかないとな」
 大事なことを忘れていたと、俺は宝玉に力を込める。虹色だったそれが微かに青と茶色を濃くした気がして俺の力が宿ったのかもって感じた。
「さー、明日からまた新天地だしな。オリオの奴とちょっと話して、今のうちに寝だめしとこう……」
 満足げに独り言ちて種と宝玉をポケットにしまうと、俺は宿屋に向かって歩き出した。




 翌日、ナナセがすぐに発とうと言い出したが見るからにフラフラだったし途中で魔力切れされちゃたまったもんじゃないと出発を二日後に遅らせた。ナナセはぶつぶつと文句を言っていたが、俺の判断は間違ってないと思う。その間にタケルにあの宝玉を渡そうとしたんだけど、アイツなんでこの街でたくさんの人に囲まれてんだ!? 人気者かよ!? 結局二日経っても渡せずじまいで俺達は港町を飛び立った。


「レガルってどんな所だろね」
 フレスヴェルグの上でタケルがウキウキとした声を出した。ホントコイツ新しい街とか好きだよな。記憶も結局思い出せてないって言うし、もしかしたら新しい知識を得られるのが嬉しいのかもしれないって感じた。
「ナナセ、この辺りで降りた方がいいかもしれない。その先に魔力の渦が巻いている」
 桔梗が真剣な声でナナセに話しかけた。俺も目を凝らしてみてみたが、全く分からない。けど桔梗はサレジストで魔力の見方を学んでいたみたいだから、その言葉の信頼度は高いだろう。相殺を使えるようになったかと問えば苦笑いしてたけどな。相殺を学ぶにはやはり時間が足りなかったみたいだ。
「渦……か。人が侵入できないようにしてるのかもね。分かった、この先は徒歩で行こう」


 フレスヴェルグが地に着くのを待って、俺達は地面に降り立つ。久しぶりに魔力切れせず精神的にもまともな状態だったナナセは、フレス、フレスといつまで経っても召喚獣に抱きついてちゅーちゅーやっていた。もちろん置いていくことに決めたよ。
「なんか、焦げ臭くないか……?」
「そうだな」
 俺の質問に桔梗が顔をしかめて答えた。木々の向こうにある何処かを見据えている。訝しんでいる俺達に木々が話しかけてきた。いや、正確には話しかける余裕もないほど叫んでいたってのが正しいな。


『狂気の精霊が我らの故郷レガルを破壊した』
『主が消えた』
『我々は近いうちに消え去るだろう』


 木々が半狂乱で言っていたのはそんな感じのものだ。俺と桔梗は顔を見合わせた。
「狂気の精霊……。ノワールか!?」
「レガルを破壊したってどういうことだよ!? 木々が消え去る……?」
 嫌な予感が湧き上がってきて、居てもたってもいられず俺は木々の向こうへと駆けた。桔梗もついて来る。
「ちょっとぉ!? どこ行くのさ!? ナナセはどーすんの!?」
「お前が見ててくれ!!」
「ええぇぇっ!!?」


 叫んでいたテンは置いたままタケルも後からついて来た。何だか分からないけど早くしなくちゃいけない気がしたんだ。
 どれだけ走っただろう、木々の向こうに開けた場所を見つけて、俺はそこにノワールが居るんじゃないかと踏んだ。魔法で剣を作り上げつつスピードを緩めて警戒しながらそこに近づいていく。影が揺らめいた。


「あああ~~~フレスぅ~~~、また呼ぶからしばしお別れだけど寂しがらないでね。うぅん、キミの羽毛は変わらず素敵だよぉ~~~」
「……なに、やってんの? うっしー。遊んでる?」
 ナナセのアホみたいな声が俺とテンの間に響く。剣を握り締めて警戒していた俺は力が抜けてそれを取り落とした。


 どーなってんだよ!? 俺達は確かに前に走ってたはずなのに何で一周廻って元に戻ってんだ!? 桔梗も俺の後に次いで呆けた顔をしたまま近づいて来た。
「もしかしたらここは迷いの森と同じ仕組みなのかもしれないな。しかもあそこよりもさらに警戒が強い。上空から見た魔力の渦がそうしているのかもしれない」
 少し冷静になったのか、状況を見てそれだけ告げる。木々が混乱している以上案内を頼むのも難しそうだ。さて、どうするか……。腕を組んで悩んでいたら、ようやく我に返ったナナセがフレスを消した後咳払いをしてこちらに近づいて来た。キョロキョロと見まわして、ある一つの事に気が付いたみたいだ。


「タケルは?」
「え?」
 そういえば、俺達の後をついて来ていたタケルの姿が一向に現れない。まさかこんな所ではぐれたのか!? いや、けど戻されるようになってるんならどこへ行ってもここへ戻ってくるはずだ。おかしい……。
 どんなに見まわしても姿が見えないことに、どんどん不安が膨れ上がってきた。レガルとタケルは何か関わりがあるみたいだし、ノワールがそこを襲っているのだとしたらまずいと思ったんだ。


「あの渦を歪めながら進むしかないのかもしれない」
 桔梗が何もない場所を指差している。悪いけど見えてるのは桔梗だけなんだよ。
「俺には分からないが渦があるなら怪しいな。桔梗、それ出来そうか?」
 俺の質問には少し眉間にシワを寄せつつ答えてくれた。
「難しそうだが出来なくはなさそうだ。テン、お前も見えなくはないだろう? 手伝ってくれ」
「おっけー! おねぃさんの頼みとあらば~」


 いきなり元気よくしゃしゃり出てきたテンと苦笑いの桔梗、不安はあったが、二人に頼んで渦の先に進むことにした。
 タケル、早まるな無事で居ろよ。そう願うばかりだ。
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