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第七章 決戦
第五十八話 ゲーム開始
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ナナセの屋敷をひっそり出て城へと向かおうとした階段の途中で、俺達は兵士に見つかった。しかも何故か挟み撃ちで背後から”紋章持ち”達が襲って来る。事情を知らない人たちはナナセを未だクロレシアの貴族だと思ってるみたいだった。
「く、こんな所でっ……! ごめん、僕のせいで……」
「どうするの!? 罪もない人達を攻撃なんてできないよっ」
テンの言う通りだ。どうにかできないかと戸惑ってる間にナナセがフェンリルを召喚した。
「フェン、辺りに壁を作って」
ナナセに言われるまま、俺達を囲んでいた兵士や”紋章持ち”達を巨体で弾き飛ばすと、すぐに氷の壁を作り出す。フェンリルの見事な動き、圧巻だ。あっという間に進路以外の通路が氷漬けになり、その氷壁の向こうに”紋章持ち”と兵士たちが居た。これなら当分俺達を追っては来られないだろう。だけど……と、俺はナナセに向き直った。
「助かった。けどフェンリルってフレス以上に魔力使うんだろ? 控えとけよ」
「分かってるよ。すぐ解除するから走って!!」
はは、俺が言うまでもなかったか。ナナセの声とともに俺達は駆け出した。めちゃくちゃ長い階段をひーひー言う間もなく上り、城内に駆け込む。一応警戒して扉を開けたけど、なぜか中には人の影が全くなかった。
「どう……なってんだ?」
薄暗くしんと静まり返る城内に不安が膨れ上がってくる。コタロウの野郎は絶対何か企んでる。城の中なのに人っ子一人いないなんておかしいだろ。しかも以前来たときよりも何処か、何かが違う気がした。以前は正面に階段があった、そこを上れば玉座だったはずなのに今はなぜか通路が一本、奥に向かって伸びているだけだったんだ。
コタロウ……いったい何を企んでやがるんだよ。嫌な汗と動悸が俺を苛む。一番最後に城内に入って来たナナセを確認して、俺は皆の顔を見た。
「多分何か仕掛けてある。気を付けて進もう」
皆でうなずき合った直後、桔梗が扉についてた何かをポチリと押した。冷や汗というより脂汗が額を伝う。絶対嫌な予感がする。ヤバい気しかしねー。それでも一応聞いておきたくて、俺は桔梗に引きつった笑顔で問いかけた。
「お前……今何押した?」
「ん? このスイッチだが。扉の鍵じゃないのか?」
とてつもなく嫌な予感がする。お前の詰めの甘さをすっかり忘れてたよ。とりあえず扉を開けておこうと手をかけた途端、ゴウンと扉がこちらに向かって移動を始めた。それと同時に左右の壁も狭まってくる。
「うっしー、扉こっち来るよ?」
「ど、どーすんの!? ぼく扉に潰されて人生終えるなんてやだよー!! せめておねぃさんの胸にぃ!!」
「お前人じゃねーし、グダグダ言ってねーで通路の向こうまで走れ!!」
桔梗の胸に飛びつこうとしていたテンの首根っこを引っ掴むと、俺は走り出した。罠だ、一本道の向こうに追い立てられるなんて罠に決まってんだろ!! それでも逃げ道がそちらにしかない以上俺達は一本道の通路を駆け抜けるしかなかった。
「ナナセ、召喚獣でどうにかできねーのかよ!?」
「バカ言うなよ!! あのスピードじゃ召喚している間に潰されてしまうよっ」
「無駄だ。あのスイッチを押した途端、扉に魔力の障壁が生まれた。おそらく魔法で破壊は出来ないだろう」
ってかお前が冷静に言ってんじゃねーよ桔梗!! それでもすでになってしまったことは何を言っても戻らないだろうと、通路の最終地点、暗くて良くは見えなかったが、恐らく開いたままだろう扉の先に飛び込んだ。めちゃくちゃひどい衝撃音の後そこにあった扉の枠にぴたりとはまるように、動いて来ていた扉が止まる。暫くしてタケルが駆け寄り、拳で扉を叩きだした。
「この扉びくともしないよ。あたしたち閉じ込められた?」
「かもしれないな……」
くそ、コタロウいったい何考えてんだよ……。多分桔梗があのスイッチを押しても押さなくても何かしらの方法で俺達はここに閉じ込められてたんだろう。そう思ったら悔しくてたまらなかった。未だに俺達あいつの手のひらの上で踊らされてるんだ。それでも恐らく魔導砲の核には近づけたはず、とどうにかして脱出する方法を考えた。だけど辺りを見回しても暗くて良く見えない。くそ、もう少し何か見えれば……そう思っていたらいきなり部屋に明かりが灯った。
俺たちが居るのは半円の部屋で、背後の迫ってきていた扉を除いて円形状になっている前方に五つ扉があった。その扉の上には何かの板がそれぞれついていて、そこに人が映し出されていた。その映し出されていた人達を見て、俺は……俺達は声をあげた。
「フフ。ようやくご到着かクソ共。待ちくたびれたよ。今からゲームの説明をするからもう少し黙っていてくれ」
「ゲームって……ふざけんなよ!! 俺達は遊びに来てるんじゃねーんだぞ!!」
正面の扉の上、何かの板に映っているコタロウに向かって俺は叫んだ。だけど気はそれぞれの板に映った人物にそれてる。左の端からそれぞれレスター、ヴェリア、中央のコタロウ、ノワール、ヤエの順で映し出されてたんだ。もしかしてコタロウが言ってたゲームのコマってこの事だったのかよ、と思い出す。
「どういうことだよ。何なんだよコレ……」
睨みつける俺にコタロウはクククっと笑った。
「ゲームだと言っただろう? お前たちが求めてるのは魔導砲の核だ。だけどこちらとしても、はいどうぞ、とあげる訳にはいかないからねぇ。といって、ただ殺し合うなんて面白みがないだろう? だからこそのゲームさ」
「悪趣味な」
ナナセがヤエの方を見つめたまま吐き出す。その言葉のどこがツボに入ったのか、コタロウは声をあげて笑い出した。あいつ、目は笑ってないけどな。
「それじゃぁゲームの説明をするよ。君達にはこの五つの扉のうち三つを突破した時点で魔導砲への道が開けるようにしてある。ただし、入った扉を閉じた時点でその扉は開閉不可となり扉の上のモニターに映っている人物と戦わなければいけない。ああ、ここで補足だ。君たちがそこの扉を開かなければ魔導砲へと通じる扉は開かない。それから魔導砲側の扉を開いた途端、もしくはゲームが終了した時点で彼らが居る部屋は崩れるようにしてあるから相手を殺すつもりで頼むよ」
コタロウの野郎、完全に楽しんでやがる。言うだけ言って板に映っていた姿が全員ぷつりと消えた。その代わりに扉の先に居る人物の名前が映し出された。あいつ、人の命を何だと思ってんだよ。聞いてもきっと思ったような答えは返って来ないんだろうと思ったら余計に悔しくなった。
「コタロウ! 一つ、聞いていいか? 扉三つ突破すればいいなら、ここに残る人がいてもいいのか? そしてそいつの事は助けてくれるのか?」
体の為にもタケルをこれ以上戦いには巻き込みたくなかった。だからこれだけは聞いておきたかったんだ。俺の質問にはすぐに答えが返ってくる。
「ルールは扉三つ以上クリアすること。例え一人相手に二人でも三人でも挑んで構わないよ、フフ。ただし入った人物はここに戻れなくなる。一部屋に三人行ったとすると、残りは一人づつ挑戦しないとその時点でゲームオーバーだ。それに、君達が開かなかった扉の先の人物は助からないと意識しておいてもらわないとねぇ。ああそうそう、ここに残った人物は扉の先が全て崩れさった時点で助けてあげるよ。そんな腰抜けボクには必要ないからね。それじゃぁ、クソ共がどんな選択をするか、楽しみに待っているよ」
ぷつりという音とともにコタロウの声も聞こえなくなった。どうやら完全に切ったらしい。どうせあいつの事だ、例え俺達が行かなかったとしても自分だけは犠牲になるようなことはないだろう。そう思ったら余計にムカついてきた。だけどコタロウの言葉を聞いて安心したのも確かだ。あいつ、やる事はひどいけど言う事だけは嘘はないって思ったからさ、ここに残れば助けてくれるんだって確信が持てた。
「さて、どうする?」
俺の質問に答えることなく、ナナセがヤエの名前がついている扉に手をかけた。
「おい、ナナセ!?」
「他の誰にも戦わせたくないし、一人にしておくこともしたくない。生死がかかってるならなおさらだよ。僕の人生はヤエとともにあったんだから……」
ナナセの目は真剣だった。止めても行くんだろうな。俺は一つうなずくと、それ以上は何も言わなかった。そのままナナセはヤエが居る扉の先へと進んでいく。
「おねぃさん、ごめん。勝手言っちゃうけど、ぼく一人でノワールの元へ行かせて」
テンも視線をそらせることなくずっとノワールのいる扉を睨みつけてた。桔梗の事を考えつつ、それでもノワールと話がしたいんだろう。それだけ言って扉のノブに手をかけた。
「気にするな。これが最後のチャンスなら……私もヴェリアと話したいことがあるんだ」
桔梗の返事の後、テンは黙って進んでいく。桔梗もヴェリアが居る扉のノブを開いた。
「悪いなうっしー、タケルも。私も一人で行かせてもらう」
「ああ。俺もお前と同じ気持ちだから分かるよ。気をつけてな」
「何か理由があるんだよね。油断しちゃだめだよ!」
「……そうか。ありがとう」
俺達に表情は見せず桔梗も進んでいく。残ったのは俺とタケルだ。俺はタケルの方へと視線を向け、また勝手に決めてしまうけれど許して欲しいと思いながら口を開いた。
「タケル、俺もレスターと一対一で話がしたいんだ。お前はここに残っててくれるか?」
不安げに問いかける俺にタケルはにこりと微笑んだ。
「ん! いーよ。あたし一人じゃコタロウには敵わないだろうしここで待ってる!! 絶対戻って来てね!!」
手を振ってくるタケルに気まずげに手を振り返し、俺はレスターのいる扉の先へと進んだ。結局俺、どうしてレスターを攻撃してしまったのかはまだ分かってない。だけど、だけど今度こそちゃんと話し合って分かり合いたいって思ったんだ。
「うっしー……。ごめんね」
ウッドシーヴェルの背に向けて手を振っていたタケルが、扉が閉まるのと同時に呟いて力無げに手を下ろした。
「……このまま兵器として腐っていく姿を見られるぐらいならあたし、ヒトとして死にたい。大丈夫だよ……キミの背中の向こうに、大地を救って英雄になった姿あたしには見えるから。心配はしてないよ」
そのまま暫く黙っていたかと思えば、キッと顔を上げて正面の扉を見据える。
「決着つけるんだから、今度こそ」
そのままタケルはコタロウが居る扉の先へと進んでいった。
「く、こんな所でっ……! ごめん、僕のせいで……」
「どうするの!? 罪もない人達を攻撃なんてできないよっ」
テンの言う通りだ。どうにかできないかと戸惑ってる間にナナセがフェンリルを召喚した。
「フェン、辺りに壁を作って」
ナナセに言われるまま、俺達を囲んでいた兵士や”紋章持ち”達を巨体で弾き飛ばすと、すぐに氷の壁を作り出す。フェンリルの見事な動き、圧巻だ。あっという間に進路以外の通路が氷漬けになり、その氷壁の向こうに”紋章持ち”と兵士たちが居た。これなら当分俺達を追っては来られないだろう。だけど……と、俺はナナセに向き直った。
「助かった。けどフェンリルってフレス以上に魔力使うんだろ? 控えとけよ」
「分かってるよ。すぐ解除するから走って!!」
はは、俺が言うまでもなかったか。ナナセの声とともに俺達は駆け出した。めちゃくちゃ長い階段をひーひー言う間もなく上り、城内に駆け込む。一応警戒して扉を開けたけど、なぜか中には人の影が全くなかった。
「どう……なってんだ?」
薄暗くしんと静まり返る城内に不安が膨れ上がってくる。コタロウの野郎は絶対何か企んでる。城の中なのに人っ子一人いないなんておかしいだろ。しかも以前来たときよりも何処か、何かが違う気がした。以前は正面に階段があった、そこを上れば玉座だったはずなのに今はなぜか通路が一本、奥に向かって伸びているだけだったんだ。
コタロウ……いったい何を企んでやがるんだよ。嫌な汗と動悸が俺を苛む。一番最後に城内に入って来たナナセを確認して、俺は皆の顔を見た。
「多分何か仕掛けてある。気を付けて進もう」
皆でうなずき合った直後、桔梗が扉についてた何かをポチリと押した。冷や汗というより脂汗が額を伝う。絶対嫌な予感がする。ヤバい気しかしねー。それでも一応聞いておきたくて、俺は桔梗に引きつった笑顔で問いかけた。
「お前……今何押した?」
「ん? このスイッチだが。扉の鍵じゃないのか?」
とてつもなく嫌な予感がする。お前の詰めの甘さをすっかり忘れてたよ。とりあえず扉を開けておこうと手をかけた途端、ゴウンと扉がこちらに向かって移動を始めた。それと同時に左右の壁も狭まってくる。
「うっしー、扉こっち来るよ?」
「ど、どーすんの!? ぼく扉に潰されて人生終えるなんてやだよー!! せめておねぃさんの胸にぃ!!」
「お前人じゃねーし、グダグダ言ってねーで通路の向こうまで走れ!!」
桔梗の胸に飛びつこうとしていたテンの首根っこを引っ掴むと、俺は走り出した。罠だ、一本道の向こうに追い立てられるなんて罠に決まってんだろ!! それでも逃げ道がそちらにしかない以上俺達は一本道の通路を駆け抜けるしかなかった。
「ナナセ、召喚獣でどうにかできねーのかよ!?」
「バカ言うなよ!! あのスピードじゃ召喚している間に潰されてしまうよっ」
「無駄だ。あのスイッチを押した途端、扉に魔力の障壁が生まれた。おそらく魔法で破壊は出来ないだろう」
ってかお前が冷静に言ってんじゃねーよ桔梗!! それでもすでになってしまったことは何を言っても戻らないだろうと、通路の最終地点、暗くて良くは見えなかったが、恐らく開いたままだろう扉の先に飛び込んだ。めちゃくちゃひどい衝撃音の後そこにあった扉の枠にぴたりとはまるように、動いて来ていた扉が止まる。暫くしてタケルが駆け寄り、拳で扉を叩きだした。
「この扉びくともしないよ。あたしたち閉じ込められた?」
「かもしれないな……」
くそ、コタロウいったい何考えてんだよ……。多分桔梗があのスイッチを押しても押さなくても何かしらの方法で俺達はここに閉じ込められてたんだろう。そう思ったら悔しくてたまらなかった。未だに俺達あいつの手のひらの上で踊らされてるんだ。それでも恐らく魔導砲の核には近づけたはず、とどうにかして脱出する方法を考えた。だけど辺りを見回しても暗くて良く見えない。くそ、もう少し何か見えれば……そう思っていたらいきなり部屋に明かりが灯った。
俺たちが居るのは半円の部屋で、背後の迫ってきていた扉を除いて円形状になっている前方に五つ扉があった。その扉の上には何かの板がそれぞれついていて、そこに人が映し出されていた。その映し出されていた人達を見て、俺は……俺達は声をあげた。
「フフ。ようやくご到着かクソ共。待ちくたびれたよ。今からゲームの説明をするからもう少し黙っていてくれ」
「ゲームって……ふざけんなよ!! 俺達は遊びに来てるんじゃねーんだぞ!!」
正面の扉の上、何かの板に映っているコタロウに向かって俺は叫んだ。だけど気はそれぞれの板に映った人物にそれてる。左の端からそれぞれレスター、ヴェリア、中央のコタロウ、ノワール、ヤエの順で映し出されてたんだ。もしかしてコタロウが言ってたゲームのコマってこの事だったのかよ、と思い出す。
「どういうことだよ。何なんだよコレ……」
睨みつける俺にコタロウはクククっと笑った。
「ゲームだと言っただろう? お前たちが求めてるのは魔導砲の核だ。だけどこちらとしても、はいどうぞ、とあげる訳にはいかないからねぇ。といって、ただ殺し合うなんて面白みがないだろう? だからこそのゲームさ」
「悪趣味な」
ナナセがヤエの方を見つめたまま吐き出す。その言葉のどこがツボに入ったのか、コタロウは声をあげて笑い出した。あいつ、目は笑ってないけどな。
「それじゃぁゲームの説明をするよ。君達にはこの五つの扉のうち三つを突破した時点で魔導砲への道が開けるようにしてある。ただし、入った扉を閉じた時点でその扉は開閉不可となり扉の上のモニターに映っている人物と戦わなければいけない。ああ、ここで補足だ。君たちがそこの扉を開かなければ魔導砲へと通じる扉は開かない。それから魔導砲側の扉を開いた途端、もしくはゲームが終了した時点で彼らが居る部屋は崩れるようにしてあるから相手を殺すつもりで頼むよ」
コタロウの野郎、完全に楽しんでやがる。言うだけ言って板に映っていた姿が全員ぷつりと消えた。その代わりに扉の先に居る人物の名前が映し出された。あいつ、人の命を何だと思ってんだよ。聞いてもきっと思ったような答えは返って来ないんだろうと思ったら余計に悔しくなった。
「コタロウ! 一つ、聞いていいか? 扉三つ突破すればいいなら、ここに残る人がいてもいいのか? そしてそいつの事は助けてくれるのか?」
体の為にもタケルをこれ以上戦いには巻き込みたくなかった。だからこれだけは聞いておきたかったんだ。俺の質問にはすぐに答えが返ってくる。
「ルールは扉三つ以上クリアすること。例え一人相手に二人でも三人でも挑んで構わないよ、フフ。ただし入った人物はここに戻れなくなる。一部屋に三人行ったとすると、残りは一人づつ挑戦しないとその時点でゲームオーバーだ。それに、君達が開かなかった扉の先の人物は助からないと意識しておいてもらわないとねぇ。ああそうそう、ここに残った人物は扉の先が全て崩れさった時点で助けてあげるよ。そんな腰抜けボクには必要ないからね。それじゃぁ、クソ共がどんな選択をするか、楽しみに待っているよ」
ぷつりという音とともにコタロウの声も聞こえなくなった。どうやら完全に切ったらしい。どうせあいつの事だ、例え俺達が行かなかったとしても自分だけは犠牲になるようなことはないだろう。そう思ったら余計にムカついてきた。だけどコタロウの言葉を聞いて安心したのも確かだ。あいつ、やる事はひどいけど言う事だけは嘘はないって思ったからさ、ここに残れば助けてくれるんだって確信が持てた。
「さて、どうする?」
俺の質問に答えることなく、ナナセがヤエの名前がついている扉に手をかけた。
「おい、ナナセ!?」
「他の誰にも戦わせたくないし、一人にしておくこともしたくない。生死がかかってるならなおさらだよ。僕の人生はヤエとともにあったんだから……」
ナナセの目は真剣だった。止めても行くんだろうな。俺は一つうなずくと、それ以上は何も言わなかった。そのままナナセはヤエが居る扉の先へと進んでいく。
「おねぃさん、ごめん。勝手言っちゃうけど、ぼく一人でノワールの元へ行かせて」
テンも視線をそらせることなくずっとノワールのいる扉を睨みつけてた。桔梗の事を考えつつ、それでもノワールと話がしたいんだろう。それだけ言って扉のノブに手をかけた。
「気にするな。これが最後のチャンスなら……私もヴェリアと話したいことがあるんだ」
桔梗の返事の後、テンは黙って進んでいく。桔梗もヴェリアが居る扉のノブを開いた。
「悪いなうっしー、タケルも。私も一人で行かせてもらう」
「ああ。俺もお前と同じ気持ちだから分かるよ。気をつけてな」
「何か理由があるんだよね。油断しちゃだめだよ!」
「……そうか。ありがとう」
俺達に表情は見せず桔梗も進んでいく。残ったのは俺とタケルだ。俺はタケルの方へと視線を向け、また勝手に決めてしまうけれど許して欲しいと思いながら口を開いた。
「タケル、俺もレスターと一対一で話がしたいんだ。お前はここに残っててくれるか?」
不安げに問いかける俺にタケルはにこりと微笑んだ。
「ん! いーよ。あたし一人じゃコタロウには敵わないだろうしここで待ってる!! 絶対戻って来てね!!」
手を振ってくるタケルに気まずげに手を振り返し、俺はレスターのいる扉の先へと進んだ。結局俺、どうしてレスターを攻撃してしまったのかはまだ分かってない。だけど、だけど今度こそちゃんと話し合って分かり合いたいって思ったんだ。
「うっしー……。ごめんね」
ウッドシーヴェルの背に向けて手を振っていたタケルが、扉が閉まるのと同時に呟いて力無げに手を下ろした。
「……このまま兵器として腐っていく姿を見られるぐらいならあたし、ヒトとして死にたい。大丈夫だよ……キミの背中の向こうに、大地を救って英雄になった姿あたしには見えるから。心配はしてないよ」
そのまま暫く黙っていたかと思えば、キッと顔を上げて正面の扉を見据える。
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