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最終章 英雄が笑う時
最終話 英雄は明日笑う
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ああ、父さん……俺を迎えに来たのか……? 目の前で熱が拡散して全てが焼かれるかと思ったら、なぜか父さんが笑顔で目の前に現れた。
え? なに? 何でお前まで笑ってるかって……? 今までの俺を見てきた父さんなら分かるだろ……。そうだよ、それが答えだ。だから俺は笑うんだ。
父さんが俺の紋章に触れる。力が、全て抜けていくみたいだ。そうだな……もうだるいし、少し眠るよ……。今出来ることをしてきたし、後悔なんてしてない。俺は誘われるままに目を閉じた。
「うっしー?」
ツイッタ村、大爆発の轟音を聞いたタケルは不安で腐敗した大地の方向を見つめていた。手にはウッドシーヴェルから貰った宝玉が握られている。その青と茶色を濃くしていた色が、徐々に薄れ元の虹色に戻っていった。まるで撫でるかのように、タケルの髪を風がさらっていく。
「うそ、そんな!? 嘘だよ、嘘だって言ってよ、うっしー!!」
タケルは宝玉を握り締めたままその場にくず折れ、ただ瞳から滴をこぼした。
――――☆☆☆☆――――☆☆☆☆――――☆☆☆☆――――
――――一年後――――
「ナナセ、遅かったじゃないか」
「ごめん、桔梗。また国やコタロウ様の事で公爵様達がもめていてね。レスター卿と共に彼らをなだめるのに必死だったんだよ。ようやく落ち着いて彼に『君も一緒に行こう』と言ったんだけど、遅刻してまで行く気はないって言い張って……。仕方なく僕だけ来たんだ」
ここはツイッタ村。焼け焦げた跡も今はなく、周囲は草木で青々と茂っていた。西の方角にはウッドシーヴェルが植えた植物が芽吹き、その小さな枝を一生懸命に伸ばし始めている。ここに来るのは実はナナセ達も久しぶりだったりするのだ。
何故ここにやってきたのかと言えば、大地の腐敗が治り始めてからちょうど一年、今日は大切な人達の墓参りをする日だった。タケルたちと別れた時にそう約束をしていた。それなのにナナセがやってきた時にはすでに夕方に差し掛かっていたのだ。
「コタロウとヴェリア……か。まだあの二人の死体は見つからないのか? やはり生きているのではないか? 最後に残した言葉も気になるし、あのコタロウなら何かしら仕掛けていそうだ」
「そうだね……。でも大地の腐敗は治って来てるし、”紋章持ち”の力も奪われたものは消えかけてきてる。例え生きていたとしても、彼らにはもう大した事は出来ないと思うよ」
ナナセの言葉に桔梗は一つ嘆息した。
「……そうだといいんだが……。それにしてもレスターの奴、遅刻だから来ないなどあいつにとって一番関わりがあるというのに薄情な奴だ」
「泣いてしまうのが恥ずかしいんじゃないのかい? 僕だって、うっしーがあんな姿で発見された時は本当にっ……」
隠れてそっと目元をぬぐうナナセだったが、それを目ざとく桔梗に見つけられてしまいからかうように、だが笑う事はせず口を開いた。
「体が残っていただけましじゃないか。あの大規模な爆発だ、肉塊すら消えていてもおかしくはなかった。……ナナセ、泣くなら私の肩を貸してやろうか?」
「……冗談もほどほどにしてくれ」
今にも滴をこぼしそうな目元を再びぬぐって、ナナセは村の奥の方へと視線を巡らせる。姿が見えない二人の名を口に出した。
「タケルとテンは? 奥?」
「ああ。すでに墓磨きに入ってるよ。オリオも来てる」
「それなら僕たちも行こう」
ナナセに促されるまま、桔梗も後に続いた。
「あーーー!! このシャイニングバカ!! そこはぼくがやるって言っただろー!! お前不器用なんだからあっちの綺麗そうな墓やってろよ!!」
「うっせー! この根暗ブレイカー!! それはオレの母ちゃんの墓なんだよ!! テメーこそあっちやってろよ!」
ナナセが近づくころにはオリオとテンがぎゃあぎゃあとやっていた。その光景にクスリと笑みがこぼれる。
「君達は全く成長していないね。久しぶりに会うはずなのにまるで昨日会ったみたいだよ」
「「こいつがガキなんだよ!!」」
テンとオリオが同時に叫ぶ。ナナセの背後で桔梗が噴き出した。
「テン~欲しいって言ってたのこのスポン……ちょあっ!」
建て直してあった家の中から出てきたのは、大きなざるの上にびちゃびちゃに濡らしたスポンジをいっぱい乗せて運んで来ていたタケルだ。そのスポンジも今は木の幹につまずいたことによって宙を舞っている。しかも転びそうになったことによって手をついた墓石がドミノのように倒れていった。被害に遭ったのはグエッと鳴くカエルだ。暫く固まった後苦し気に墓石の下から這い出てきた。
「ッテ、メ~ら……さっきからヒトの頭上でぎゃぁぎゃぁうるっせーんだよ!! しかも止めがこれか!! 落ち着いて墓掃除も出来ねーじゃねーか!!」
いや、鳴き声を漏らし立ち上がったのはカエルではなくウッドシーヴェルだ。
「タケル! テメーはそこの……」
そこでべちゃっと宙を舞っていたスポンジが彼の頭頂に落ちる。無惨にも頭上から水を滴らせ、わなわなと震えていた。
「全員そこに直れぇ!! 俺が一から指導し直してやらぁ!!」
遅刻してきたナナセと、ちゃっかりサボっていた桔梗、ケンカばかりのオリオとテン、最後になぜかタケルのドジまで怒った後、ウッドシーヴェルは自分が植えた種の場所まで歩いていった。芽吹いたばかりの小さな命を眺めしみじみと思う。
父さん……。
いつもの夕日を見てふと思い出す。あの日、確かに爆発は起こった。おかげで今は徐々に腐敗も治り、ツイッタ村の周辺も緑が満ち溢れてきていた。もう少し大地が回復すれば”紋章持ち”も生まれなくなるだろう。この小さな命も徐々に大きくなるに違いない。
あの時、父さんは俺の紋章に触れて最後の封印を解いていったんだ。桔梗が解除しきれなかった封印。それのおかげで俺の周りにあった魔力を機械で相殺できたらしい。良く分からないが桔梗が恐らくそうだろうと言っていた。父さんは最後まで俺と居て、俺を守ってくれてたんだ。迷いの森や魔導砲で俺に色々教えてくれてたのも、もしかしたら父さんだったのかもしれないって今は思う。
俺はそっと右の胸に触れた。そこにあった紋章はもう消え去っている。魔法も使えなくなったけど、後悔はしてねーよ。これのおかげでみんなとこうして笑っていられるんだからさ。
「うっしー、そろそろ腹が減っただろう? 私が腕によりをかけて……」
「いや、満腹だ。それより……」
腕まくりしそうな勢いの桔梗の申し出を断り、俺は急いで話題を変えた。この間フレスナーガを訪ねた時、ちょっとは勉強したのだと出された青緑色の液体を食した後は、三日ぐらい寝込んだからやはり食べないに越したことはないと誓ったばかりだ。
「学校の方はどうだ? うまくやってるか?」
「ああ。現代史においては完璧だぞ。当事者だからな。英雄うっしー様の名前も轟かせてやっている」
「いや、うっしーじゃなくてウッドシーヴェルだろ!?」
「教科書にもうっしーと載ったんだぞ? 私だけが嘘を教える訳にはいくまい?」
いったい誰の差し金だよ!? 犯人探しをして訂正させたかったが、桔梗の『まぁいいじゃないか、今さら変更されたら生徒たちが迷ってしまう』という言葉に押されて黙るしかなかった。
「ぼくもノワールが大きくなったらおねぃさんの学校に通わせるんだ~。そして保護者と先生の禁断の恋ッ!!」
バカなことを言っているテンは総無視でサレジストの状況を聞いてやった。ノワールは成長するのが早いらしく、一年たった今は既に四歳ぐらいまで成長しているらしい。反抗期のうえにニタに懐いてしまって困ってるってぼやくテンに、つい笑ってしまった。けど”紋章持ち”については皇帝陛下の考えが少し変わったらしく、奴隷制度も廃止の方に向かってるって嬉しそうに語ってた。
「クロレシアは相変わらずみたいだな」
ナナセに話しかける。あいつも眉間にシワを寄せてうなずいた。
「元々は王政だったからね。いきなり頭を失ったんじゃ統率も取れないよ」
それでもナナセが頑張っている事を知っているから、それ以上は何も聞かなかった。そうだ、ナナセの所に居たメイドのヨンは今の仕事をしながら、コタロウの後を引き継いでまた研究者の道へ戻ったらしい。レスターの機械の調整とかもしてくれてるみたいなんだ。ありがたい事この上ない。
俺は皆に背を向けると、タケルの方へと向かった。タケルの身体も無事治ったみたいでほっとしてる。
「まだ拗ねてんのかよ?」
「拗ねてない。反省してるの」
「どうせまたやるんだろ」
「うん……」
こいつのドジも全く変わってねーからな。最近はさっきみたいな不意打ちじゃなきゃ避けられるようになってきた。俺もちゃんと成長してんだよ、と言ってやりたいぐらいだ。
「ちょっと来いよ」
キョトンとした顔のタケルの腕を引き、俺の大事な人の墓の前まで連れてきた。俺の父さんの墓だ。今まで作ろうって思った事なんてなかったけどさ、ここに帰って来てようやく思い立ったんだ。父さんがどんな気持ちで母さんを愛し、俺を守ってくれていたか、なんとなく分かったから……感謝ってやつかな。
「父さん、俺ずっと言ってなかったけど、こいつ……俺の大事な人だから」
父さんの墓の前でタケルの腕を引いてそれだけ告げた。タケルが驚いた顔の後、蕩けるように笑う。こいつのこの顔、俺一生忘れないと思う。
「なぁに~? こんな所で告白~? うっしーもやるじゃん。全裸で発見された英雄様とは思えない状況だよね~。あの時はタケルが悲鳴上げちゃって、ナナセが慌てて自分の上着でくるんでさ~、ほんっと大変だったんだからね~」
からかうようにテンに背中を小突かれた。しまった、見てたのかよ!? ってか全裸で発見されたのは関係ねーだろ!? 色々考えて一気に恥ずかしくなる。
「ウッドシーヴェル兄ちゃんにタケル姉ちゃんか。悪くねぇな」
オリオの言葉にタケルまでゆでダコになった。桔梗がフクロウのようにホウホウと声を漏らす。
「かっ……からかうんじゃねーよ! あーくそ! 今すぐ忘れろ!! 全部忘れろ!!」
あまりにも恥ずかしすぎて俺は耐えきれずしゃがんで頭を抱えた。くそ、今すぐ消え去りてぇっ……。
「式の日取りは早めに頼むよ。僕が召喚獣たちと最高の芸を披露するからね」
ナナセに止めを刺され俺はうがぁっと声をあげた。
「あはは! うっしーがマジで動物になってら」
「うるせぇ! 黙れ!!」
笑うテンを羽交い絞めにして頭をぐりぐりしてやる。タケルがテンだけずるいとナナセを引き連れ間に入ってきた。
「まったく、子供しかいないのか、ここには」
呆れた桔梗の言葉も束の間、すぐに参加してくる。結局みんなで夜までバカみたいにはしゃいで笑った。
この先にはまだ辛い事もいっぱいあるだろう。悲しい事もあるかもしれない。それでも皆が思い出す俺の顔は笑顔であってほしいから、だから俺はこれからも笑い続けてやるんだ。
明日も明後日も……ずっと皆の先で笑い続けてやる。
皆の明日を笑顔にするために。
最後までお読みくださりありがとうございました。
え? なに? 何でお前まで笑ってるかって……? 今までの俺を見てきた父さんなら分かるだろ……。そうだよ、それが答えだ。だから俺は笑うんだ。
父さんが俺の紋章に触れる。力が、全て抜けていくみたいだ。そうだな……もうだるいし、少し眠るよ……。今出来ることをしてきたし、後悔なんてしてない。俺は誘われるままに目を閉じた。
「うっしー?」
ツイッタ村、大爆発の轟音を聞いたタケルは不安で腐敗した大地の方向を見つめていた。手にはウッドシーヴェルから貰った宝玉が握られている。その青と茶色を濃くしていた色が、徐々に薄れ元の虹色に戻っていった。まるで撫でるかのように、タケルの髪を風がさらっていく。
「うそ、そんな!? 嘘だよ、嘘だって言ってよ、うっしー!!」
タケルは宝玉を握り締めたままその場にくず折れ、ただ瞳から滴をこぼした。
――――☆☆☆☆――――☆☆☆☆――――☆☆☆☆――――
――――一年後――――
「ナナセ、遅かったじゃないか」
「ごめん、桔梗。また国やコタロウ様の事で公爵様達がもめていてね。レスター卿と共に彼らをなだめるのに必死だったんだよ。ようやく落ち着いて彼に『君も一緒に行こう』と言ったんだけど、遅刻してまで行く気はないって言い張って……。仕方なく僕だけ来たんだ」
ここはツイッタ村。焼け焦げた跡も今はなく、周囲は草木で青々と茂っていた。西の方角にはウッドシーヴェルが植えた植物が芽吹き、その小さな枝を一生懸命に伸ばし始めている。ここに来るのは実はナナセ達も久しぶりだったりするのだ。
何故ここにやってきたのかと言えば、大地の腐敗が治り始めてからちょうど一年、今日は大切な人達の墓参りをする日だった。タケルたちと別れた時にそう約束をしていた。それなのにナナセがやってきた時にはすでに夕方に差し掛かっていたのだ。
「コタロウとヴェリア……か。まだあの二人の死体は見つからないのか? やはり生きているのではないか? 最後に残した言葉も気になるし、あのコタロウなら何かしら仕掛けていそうだ」
「そうだね……。でも大地の腐敗は治って来てるし、”紋章持ち”の力も奪われたものは消えかけてきてる。例え生きていたとしても、彼らにはもう大した事は出来ないと思うよ」
ナナセの言葉に桔梗は一つ嘆息した。
「……そうだといいんだが……。それにしてもレスターの奴、遅刻だから来ないなどあいつにとって一番関わりがあるというのに薄情な奴だ」
「泣いてしまうのが恥ずかしいんじゃないのかい? 僕だって、うっしーがあんな姿で発見された時は本当にっ……」
隠れてそっと目元をぬぐうナナセだったが、それを目ざとく桔梗に見つけられてしまいからかうように、だが笑う事はせず口を開いた。
「体が残っていただけましじゃないか。あの大規模な爆発だ、肉塊すら消えていてもおかしくはなかった。……ナナセ、泣くなら私の肩を貸してやろうか?」
「……冗談もほどほどにしてくれ」
今にも滴をこぼしそうな目元を再びぬぐって、ナナセは村の奥の方へと視線を巡らせる。姿が見えない二人の名を口に出した。
「タケルとテンは? 奥?」
「ああ。すでに墓磨きに入ってるよ。オリオも来てる」
「それなら僕たちも行こう」
ナナセに促されるまま、桔梗も後に続いた。
「あーーー!! このシャイニングバカ!! そこはぼくがやるって言っただろー!! お前不器用なんだからあっちの綺麗そうな墓やってろよ!!」
「うっせー! この根暗ブレイカー!! それはオレの母ちゃんの墓なんだよ!! テメーこそあっちやってろよ!」
ナナセが近づくころにはオリオとテンがぎゃあぎゃあとやっていた。その光景にクスリと笑みがこぼれる。
「君達は全く成長していないね。久しぶりに会うはずなのにまるで昨日会ったみたいだよ」
「「こいつがガキなんだよ!!」」
テンとオリオが同時に叫ぶ。ナナセの背後で桔梗が噴き出した。
「テン~欲しいって言ってたのこのスポン……ちょあっ!」
建て直してあった家の中から出てきたのは、大きなざるの上にびちゃびちゃに濡らしたスポンジをいっぱい乗せて運んで来ていたタケルだ。そのスポンジも今は木の幹につまずいたことによって宙を舞っている。しかも転びそうになったことによって手をついた墓石がドミノのように倒れていった。被害に遭ったのはグエッと鳴くカエルだ。暫く固まった後苦し気に墓石の下から這い出てきた。
「ッテ、メ~ら……さっきからヒトの頭上でぎゃぁぎゃぁうるっせーんだよ!! しかも止めがこれか!! 落ち着いて墓掃除も出来ねーじゃねーか!!」
いや、鳴き声を漏らし立ち上がったのはカエルではなくウッドシーヴェルだ。
「タケル! テメーはそこの……」
そこでべちゃっと宙を舞っていたスポンジが彼の頭頂に落ちる。無惨にも頭上から水を滴らせ、わなわなと震えていた。
「全員そこに直れぇ!! 俺が一から指導し直してやらぁ!!」
遅刻してきたナナセと、ちゃっかりサボっていた桔梗、ケンカばかりのオリオとテン、最後になぜかタケルのドジまで怒った後、ウッドシーヴェルは自分が植えた種の場所まで歩いていった。芽吹いたばかりの小さな命を眺めしみじみと思う。
父さん……。
いつもの夕日を見てふと思い出す。あの日、確かに爆発は起こった。おかげで今は徐々に腐敗も治り、ツイッタ村の周辺も緑が満ち溢れてきていた。もう少し大地が回復すれば”紋章持ち”も生まれなくなるだろう。この小さな命も徐々に大きくなるに違いない。
あの時、父さんは俺の紋章に触れて最後の封印を解いていったんだ。桔梗が解除しきれなかった封印。それのおかげで俺の周りにあった魔力を機械で相殺できたらしい。良く分からないが桔梗が恐らくそうだろうと言っていた。父さんは最後まで俺と居て、俺を守ってくれてたんだ。迷いの森や魔導砲で俺に色々教えてくれてたのも、もしかしたら父さんだったのかもしれないって今は思う。
俺はそっと右の胸に触れた。そこにあった紋章はもう消え去っている。魔法も使えなくなったけど、後悔はしてねーよ。これのおかげでみんなとこうして笑っていられるんだからさ。
「うっしー、そろそろ腹が減っただろう? 私が腕によりをかけて……」
「いや、満腹だ。それより……」
腕まくりしそうな勢いの桔梗の申し出を断り、俺は急いで話題を変えた。この間フレスナーガを訪ねた時、ちょっとは勉強したのだと出された青緑色の液体を食した後は、三日ぐらい寝込んだからやはり食べないに越したことはないと誓ったばかりだ。
「学校の方はどうだ? うまくやってるか?」
「ああ。現代史においては完璧だぞ。当事者だからな。英雄うっしー様の名前も轟かせてやっている」
「いや、うっしーじゃなくてウッドシーヴェルだろ!?」
「教科書にもうっしーと載ったんだぞ? 私だけが嘘を教える訳にはいくまい?」
いったい誰の差し金だよ!? 犯人探しをして訂正させたかったが、桔梗の『まぁいいじゃないか、今さら変更されたら生徒たちが迷ってしまう』という言葉に押されて黙るしかなかった。
「ぼくもノワールが大きくなったらおねぃさんの学校に通わせるんだ~。そして保護者と先生の禁断の恋ッ!!」
バカなことを言っているテンは総無視でサレジストの状況を聞いてやった。ノワールは成長するのが早いらしく、一年たった今は既に四歳ぐらいまで成長しているらしい。反抗期のうえにニタに懐いてしまって困ってるってぼやくテンに、つい笑ってしまった。けど”紋章持ち”については皇帝陛下の考えが少し変わったらしく、奴隷制度も廃止の方に向かってるって嬉しそうに語ってた。
「クロレシアは相変わらずみたいだな」
ナナセに話しかける。あいつも眉間にシワを寄せてうなずいた。
「元々は王政だったからね。いきなり頭を失ったんじゃ統率も取れないよ」
それでもナナセが頑張っている事を知っているから、それ以上は何も聞かなかった。そうだ、ナナセの所に居たメイドのヨンは今の仕事をしながら、コタロウの後を引き継いでまた研究者の道へ戻ったらしい。レスターの機械の調整とかもしてくれてるみたいなんだ。ありがたい事この上ない。
俺は皆に背を向けると、タケルの方へと向かった。タケルの身体も無事治ったみたいでほっとしてる。
「まだ拗ねてんのかよ?」
「拗ねてない。反省してるの」
「どうせまたやるんだろ」
「うん……」
こいつのドジも全く変わってねーからな。最近はさっきみたいな不意打ちじゃなきゃ避けられるようになってきた。俺もちゃんと成長してんだよ、と言ってやりたいぐらいだ。
「ちょっと来いよ」
キョトンとした顔のタケルの腕を引き、俺の大事な人の墓の前まで連れてきた。俺の父さんの墓だ。今まで作ろうって思った事なんてなかったけどさ、ここに帰って来てようやく思い立ったんだ。父さんがどんな気持ちで母さんを愛し、俺を守ってくれていたか、なんとなく分かったから……感謝ってやつかな。
「父さん、俺ずっと言ってなかったけど、こいつ……俺の大事な人だから」
父さんの墓の前でタケルの腕を引いてそれだけ告げた。タケルが驚いた顔の後、蕩けるように笑う。こいつのこの顔、俺一生忘れないと思う。
「なぁに~? こんな所で告白~? うっしーもやるじゃん。全裸で発見された英雄様とは思えない状況だよね~。あの時はタケルが悲鳴上げちゃって、ナナセが慌てて自分の上着でくるんでさ~、ほんっと大変だったんだからね~」
からかうようにテンに背中を小突かれた。しまった、見てたのかよ!? ってか全裸で発見されたのは関係ねーだろ!? 色々考えて一気に恥ずかしくなる。
「ウッドシーヴェル兄ちゃんにタケル姉ちゃんか。悪くねぇな」
オリオの言葉にタケルまでゆでダコになった。桔梗がフクロウのようにホウホウと声を漏らす。
「かっ……からかうんじゃねーよ! あーくそ! 今すぐ忘れろ!! 全部忘れろ!!」
あまりにも恥ずかしすぎて俺は耐えきれずしゃがんで頭を抱えた。くそ、今すぐ消え去りてぇっ……。
「式の日取りは早めに頼むよ。僕が召喚獣たちと最高の芸を披露するからね」
ナナセに止めを刺され俺はうがぁっと声をあげた。
「あはは! うっしーがマジで動物になってら」
「うるせぇ! 黙れ!!」
笑うテンを羽交い絞めにして頭をぐりぐりしてやる。タケルがテンだけずるいとナナセを引き連れ間に入ってきた。
「まったく、子供しかいないのか、ここには」
呆れた桔梗の言葉も束の間、すぐに参加してくる。結局みんなで夜までバカみたいにはしゃいで笑った。
この先にはまだ辛い事もいっぱいあるだろう。悲しい事もあるかもしれない。それでも皆が思い出す俺の顔は笑顔であってほしいから、だから俺はこれからも笑い続けてやるんだ。
明日も明後日も……ずっと皆の先で笑い続けてやる。
皆の明日を笑顔にするために。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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