不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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二章:共助/共犯

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 * * *

 目を覚ましたとき、ユーマはこの部屋にきた最初の頃を夢に見ていたのだと気がついた。起き上がるとそこは寝室のベッドの上で、ぼんやりと周りを見回した。窓の外の街は既に暗くなっていて、代わりにあちらこちらで灯る光によって騒がしい色が漂っている。
 帰らなきゃ、と口にしたユーマはふと自分の無意識に気が付いた。今一瞬、自分は組織に帰らなくては、と思った。それは夢が見せた、数年前の情景の所為か。まるで今が休日のようで、明日からまたおなじような日常が続く。そんな気がしたのだ。だが今は実際には違うことをすぐに理解して、ユーマはベッドから降りようとしたが、身体が重くて動くのが億劫だった。
 はぁっと溜息を吐く。
 ロスの事は好きだった。だが彼の愛情と自分の愛情は異なることを理解している。彼とは良い友でいいと思ったし、そうありたかった。だがロスは違った。だがそれを無理強いして向けるつもりもないと言って、彼は言葉を伝えることはしても、それ以上は望まなかった。
 それが余計にユーマにとっては痛かった。だからいっそ嫌いになってくれればいいと思って、何度目かに訪れた時にユーマは自分からキスをした。
 それがきっかけとなれば、簡単に自分は快楽へと溺れ沈んでいく。思考は停止して、羞恥も失せ、ただただ目の前にいる人間から与えられる快感を目一杯受け止めようとして、身体も心も明け渡す。

 それをロスは知っている。だからそれを拒む術を彼は知っていた。
 だからキスをしたときもロスはすぐに避けた。それはイヤだとストレートに拒絶した。
 だがユーマはそれしか知らない。そう呟いた一言に、ロスは驚いて、そしてキスをしないで抱きたいと言った。それをユーマはもちろん拒絶した。それでは自分の中で何かが違う。変わってしまう可能性がある。何、と明文化することはできなかったし、まんざらイヤでも無かったのだ。
 結局のところ、ロスの事は好きではあった。
 気の置けない仲の友人として、許される限り過ごしたいと思っていた。いっそのこと、このままずっと一緒にいられればと、思った事もあった。だから拒めなかった。
 だから始めて、意識も羞恥も全てあるがままに自分を抱いたのはロスが始めてだった。

「起きた?」
 声がして入口をみると、ロスが今日あった時とおなじ恰好で立っていた。
「あ……うん。ありがと」
「いいよ。それより何か飲む? 色々調べたから、ついでに話したいし。あー、そこでいいよ。変な体勢で無茶させたし」
 言いながらまた部屋を出て行くロスを見送り、 はぁっと溜息を吐いて両の手で顔を覆った。
 これから先は頼れない。頼ってはいけない。一緒にいてはいけない。迷惑がかかる。彼の人生を狂わせる。
 全く自分が情けなくなる。
 格好をつけて、全て綺麗に終わらせて、一人で街を出ようと思ったこともままならない。
 何もかも自分がダメだと思い知らされるだけで、結局この街からも、組織からも、ミナトからも、離れられないと言われているようでイヤになる。
 いっその事、死んでしまった方が楽なんだろうと思うほどに。だがそれさえも自由にはならない。

「先に一つ、言ってイイ?」
 戻ってきたロスの声にユーマは顔を上げた。ミネラルウォーターが入った透明なペットボトルをユーマに向けて差し出してロスは真剣な眼差しで見つめている。かつて見たことがないほどの痛い視線に、ユーマは少しだけ不安になる。片手にはタブレット端末を掴んでいて、その指先に強く力が入っているように見えた。
「なに?」
「今から俺と一緒に逃げるのは……ダメ?」
「なんでだよ」
 思わず笑って答えながらペットボトルを手にした。指先にひんやりと冷たさが伝わり、少しだけ心地がいい。
「多分それが一番イイよ。逃がすことも、逃げ切ることも、俺なら出来る。そのぐらい、自負してる。だけど一度戻っちゃったら、もう後戻りは出来ないよ」
「……何があるっていうんだよ」
 ユーマの問いに、ロスは溜息を吐いてベッドに腰を下ろした。
「少しぐらい、ユーマが俺の事を好きで居てくれてるって俺は思って良い?」
「……良いよ。じゃなきゃ……、しないよ」
「……あんだけキスをねだるくせに? 結局は正気を飛ばしたかったくせに?」
「それは……だって、今までにそんなことしてないから……、だから余計。それに結局は……俺にお前はもったいない。俺は別に誰とだってセックスは出来るし、ロスが俺を愛しているというように愛しているっていう感情が理解出来ない。たぶん、ずっと出来ない。だからもったいない。確かにお前の事は好きだと思うよ。でも……多分おなじ熱量で、好きって意味じゃないと思うから」

 暫く黙ったままロスはユーマを見つめていた。その視線を避けるでもなく、ユーマはゆっくりとペットボトルのキャップに手を掛けた。音を立てて封が解かれる。
「今、ユーマが一緒に居るハチって男のことを調べた。フリーランスだからこそ、色々と調べれば調べるほど情報はあるって思って潜ってみたけど」
 そう言って言葉を止めると、ロスはタブレット端末を操作した。
「確かに彼はフリーランスだ。だけど、驚くぐらいに過去の情報が無い」
 そう言ってロスは画面をユーマに見せた。そこにあるのはハチの写真だった。それは殆どの国民が登録されているID用の写真。意図的に削除しない限りは、そのIDは生まれた時から死ぬ時まで情報が管理されている。流浪者などはそういった情報も業者を使って不法に削除する者もいる。
 IDは普通に暮らすには便利な情報だが、裏に生きる人間にはもちろん足枷になることもある。だからユーマも登録はされているし更新はされているものの、それは組織によって偽装された表向きの情報が登録されている。
 普通のフリーランスの殺し屋ならば、仕事状況に関しての記述のところだけを業者に依頼して(この場合、ロスのような人間に依頼して)偽装データを登録することが多い。だがある程度の年齢までは事実が記録されていることが殆どだ。それを書き換えるには技術が必要となるために、莫大な金が必要となるからだ。尤も、国としてそんなものが簡単に金の力で書き換えられるのはどうかという意見もなくはないが、そんなものは表向きの意見であり殆どは気にしていない。ほとんどの行政の機能は破綻しているのだから。

「……これが、全部?」
「そう」
 だがやはり、それでもロスが見せてきたハチの情報は有り得ないほどに何もなかった。
「でも一つだけ見つけたこともある」
 ロスは少し間を置いた。その言葉を言えば、おそらくもう二度と会えないと思っているのだろうか。だが事実そうなるだろうとユーマは思っている。
 自分の問題に、自分の身勝手な願望に、彼を巻き込むのは忍びない。ここまで調べてくれただけでも、本当に申し訳がないのだ。謝礼を払うにしても足りないだろう。何かもっと返せるものがあればなんだって渡したい。だが一番ロスが望むものは、自分が与えられないものであることも理解している。
「そこから潜っていくのは……まぁ、骨が折れたし、正直結構ヤバいって思ってるから、俺も一度隠れるよ」
 だから逃げようと言ったのか、とユーマは納得する。と同時に、それほどヤバいというのはロスにしては珍しいというか始めてだった。
「何を見つけたの?」
 ロスはタブレットの画面をまた操作した。
 そして表示されたデータをみてユーマは小さく息を飲んだ。
「彼は元々、ユーマとおなじ組織の人間だ」
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