30 / 61
三章:過去/自由
2
しおりを挟む
「じゃあ、お前は俺より先に組織にいたって、こと?」
「そうなるのかなぁ?」
首を傾げながらハチは言った。
「まぁ俺はね、物心ついた時から組織にはいたのよ。ユーマと違って親に売られたっぽいから。まぁその辺は、興味ないから知らないけど」
人が死ぬことは常に近くにあった。だから目の前の男が死んでいるのを見た時、ユーマは冷静に「ああ、死んでいるな」と思っただけだった。悲しいだとか辛いだとかの感情はわき上がることなくいた。第三者の人間が見れば、それはもしかしたら衝撃的な現実を前に硬直していたように見えたかもしれない。だがもちろん、そんなことはなかった。
「俺を見たのは、覚えてない?」
「俺は……俺は、あの人に言われたことをやって、遣いを終えて戻って来た時に……死んでるあの人を見ただけで……」
「そう。入ってきたユーマを俺は確かに見たんだよね。だからユーマを見た時に、この人も殺さないとテストは合格じゃないのかな、ってちょっと迷ったんだよね。それは事前の説明に入って無かったから」
事もなげに言いながらハチは肩を竦めた。
「だけど別にこんな話はどうでもいいんだよ? 別に、だからどうってわけでもない。別にユーマがこの事実を知って俺を殺したいっていうなら殺せばいいけど」
「別にそんなことはしない。あの人に感謝はしているけど、別に……だからって情があったわけでもないし。それにあの頃から、別段他人に対して何も思うところはなかったし」
側にいる人間はいつだってすぐに離れるものだし、敵でもあった。特に男の元に拾われるまでは、側にいる子ども達は皆敵同然だったのだ。
その日の食事を食べる為にも、自分の食事を守る為にも、誰もが敵だった。誰もが仲間とは思っていなかった。
だから側にいる人間に対して、強く執着することもなければ、仲間意識であったり信頼という言葉を理解することもなかった。
そうだった筈なのに、自分にそういった情の欠片を与え育て上げたのは他でもないミナトだ。
「でも、なんでこんな話をしたんだ?」
「俺が元々組織にいたって事を知ったなら、絶対にユーマはこの事を気にすると思って」
確かにその通りではあった。だがだからといって、詳細を知ったところで何かが変わるとは思えない。
しかし一方で、ハチが共に行動することを良しとしているのは、何か裏があるのではないかと勘繰りたくなっているのも確か。これは帰り道、車の中で考えていたことだ。だがハチにとって黙っていることで、またバレたところで何か有利になるというものでもない気がした。
「それにユーマが調べてくれて、分かったなら話が早くなる」
「早くなる?」
「そ。俺は今はただのフリーランスだ。そして実験体の成功例。ユーマの仕事内容から察するに、俺はおそらく今、組織が喉から手が出るほど欲しい成功例なんだよ。色々あって俺のデータは残ってないからね。別に組織に対して恨みはないし、恩義があるとかもないし。あるとすれば俺を育てた人への恩だけだし。その人のお陰で俺のデータは残ってない。だから別にユーマと出会わなければ俺としては組織のことなんて気にする必要もなくて、この先も来る仕事を毎日こなすだけだったんだけど。まぁこれはチャンスでしょ? だからユーマの依頼に乗るし、絶対に俺は裏切らないって誓うよ」
そう言うとハチは恭しくユーマの手を掴み、その手の甲に唇を押し当てた。
「依頼人なんだから、俺を上手く使えばいい」
「……お前はなんで、組織を出られたんだ? その恩人っていうのは一体……?」
ユーマの問いに、今度はハチが昔の話を語り始めた。
「そうなるのかなぁ?」
首を傾げながらハチは言った。
「まぁ俺はね、物心ついた時から組織にはいたのよ。ユーマと違って親に売られたっぽいから。まぁその辺は、興味ないから知らないけど」
人が死ぬことは常に近くにあった。だから目の前の男が死んでいるのを見た時、ユーマは冷静に「ああ、死んでいるな」と思っただけだった。悲しいだとか辛いだとかの感情はわき上がることなくいた。第三者の人間が見れば、それはもしかしたら衝撃的な現実を前に硬直していたように見えたかもしれない。だがもちろん、そんなことはなかった。
「俺を見たのは、覚えてない?」
「俺は……俺は、あの人に言われたことをやって、遣いを終えて戻って来た時に……死んでるあの人を見ただけで……」
「そう。入ってきたユーマを俺は確かに見たんだよね。だからユーマを見た時に、この人も殺さないとテストは合格じゃないのかな、ってちょっと迷ったんだよね。それは事前の説明に入って無かったから」
事もなげに言いながらハチは肩を竦めた。
「だけど別にこんな話はどうでもいいんだよ? 別に、だからどうってわけでもない。別にユーマがこの事実を知って俺を殺したいっていうなら殺せばいいけど」
「別にそんなことはしない。あの人に感謝はしているけど、別に……だからって情があったわけでもないし。それにあの頃から、別段他人に対して何も思うところはなかったし」
側にいる人間はいつだってすぐに離れるものだし、敵でもあった。特に男の元に拾われるまでは、側にいる子ども達は皆敵同然だったのだ。
その日の食事を食べる為にも、自分の食事を守る為にも、誰もが敵だった。誰もが仲間とは思っていなかった。
だから側にいる人間に対して、強く執着することもなければ、仲間意識であったり信頼という言葉を理解することもなかった。
そうだった筈なのに、自分にそういった情の欠片を与え育て上げたのは他でもないミナトだ。
「でも、なんでこんな話をしたんだ?」
「俺が元々組織にいたって事を知ったなら、絶対にユーマはこの事を気にすると思って」
確かにその通りではあった。だがだからといって、詳細を知ったところで何かが変わるとは思えない。
しかし一方で、ハチが共に行動することを良しとしているのは、何か裏があるのではないかと勘繰りたくなっているのも確か。これは帰り道、車の中で考えていたことだ。だがハチにとって黙っていることで、またバレたところで何か有利になるというものでもない気がした。
「それにユーマが調べてくれて、分かったなら話が早くなる」
「早くなる?」
「そ。俺は今はただのフリーランスだ。そして実験体の成功例。ユーマの仕事内容から察するに、俺はおそらく今、組織が喉から手が出るほど欲しい成功例なんだよ。色々あって俺のデータは残ってないからね。別に組織に対して恨みはないし、恩義があるとかもないし。あるとすれば俺を育てた人への恩だけだし。その人のお陰で俺のデータは残ってない。だから別にユーマと出会わなければ俺としては組織のことなんて気にする必要もなくて、この先も来る仕事を毎日こなすだけだったんだけど。まぁこれはチャンスでしょ? だからユーマの依頼に乗るし、絶対に俺は裏切らないって誓うよ」
そう言うとハチは恭しくユーマの手を掴み、その手の甲に唇を押し当てた。
「依頼人なんだから、俺を上手く使えばいい」
「……お前はなんで、組織を出られたんだ? その恩人っていうのは一体……?」
ユーマの問いに、今度はハチが昔の話を語り始めた。
20
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる