不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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四章:愛情/執着

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 駅を降りるとまばらな人々が思い思いに遊歩道を歩いていた。湾岸エリアというだけあって、遠くには海が拡がっている。とはいえ埋立地も広がっているこの地域は、今歩いている場所も含めて人工的に作られた場所である。
 恐らく視覚端子をつけていれば、うるさいほどの情報が溢れているはずだ。だが何もつけていなければ、視界にはいるものはどれも自然のものばかりだ。
 来たはいいものの、どこに行きたいという目的はない。ハチを見てユーマはどうするか、と問おうとした時、スマートフォンが着信を告げた。
 ユーマは端末を手にすると目配せでハチに合図を送る。着信があるのはロスしかない。だからハチはそれを理解していて、頷いて出るように促した。

「もしもし?」
『一応、ものは出来たよ。どうする?』
「ありがとう。どこかのターミナルにお願いできる?」
 受け渡しは直接に顔を合わせることはない。基本的にはロッカーを使って顔を合わせることなく渡すのがロスのやりかただ。
『わかった。また送るけど……どうなのよ、今』
「今は湾岸エリアに来たんだけど」
『はあ? 今更デート気分?』
「うっさいなぁ。仕方ないだろ? あんま人がいなさそうなところが良くて」
『まぁ平日だし……ね。あと何かいるものは?』
 その問いにユーマはハチを見た。
 しかしハチはユーマが電話を初めてから、少し離れた場所で案内図を眺めている。この辺りの地形や建物、使えそうなものは頭に叩き込んだ方がいいとユーマも思う。だが彼は視覚端子を使えば早いのではないかと思った。
 ふと、ロスの言葉にユーマは思いついたお願いをする。もちろん彼に無理ばかり言っていることはわかっていた。だが今は使えるものは使いたい。
『え? まぁいいけど……別料金、徴収するよ?』
「いいよ。いくら?」
 すんなりと答えると、ロスは少し黙った。
 今度はロスが少し黙って考えるような時間が流れる。その間もハチはまだ案内図を眺めていた。

『街を出た先で会いたい。別に、何かを期待するわけじゃない。ただ、手伝いでもいいから』
「……は?」
『どうせ俺も街を出るつもりだし、一時的には身を隠した方がいいと思ってるし。だから手配は全てやるから、俺も一緒に行く。それが別料金でどう?』
「それはダメだ!」
 声を上げるとハチが振り向いた。思わずユーマもそちらを見たので二人の視線が合う。
「どうしたの?」
「いや……その」
 ハチの声にユーマはなんと答えようか戸惑った。だが先にハチの手が伸びてきて、ユーマのスマートフォンへと伸ばされた。
「貸して」
「あ」

 手に取るとハチは少し離れた場所に行き、ヒラヒラとユーマに手を振る。返せと向かうにも勢いがでず、そのままユーマは手持ち無沙汰に立ち尽くした。
 ロスにやはりこれ以上頼ることはしないほうがいい。そう思うが、彼しか頼る相手もいない。
 暫くハチは離れて話をしていた。それを眺めていて、ふと、視線を別方向へ向けた。

「暢気なものですねぇ」
 声がしてユーマは息を止める。
「貴方がこの場所を選んだのも理解できます。が、しかしそれにしても、悠長すぎますよ」
 声は後ろからする。だが視界に声の主の姿は見えない。
「あの男も必要です。が、まずは貴方が帰らないことには、話が始まらない」
「俺は……必要ないだろ、別に。アイツがいれば……俺の仕事も終わる」
 後頭部に何か押し当てられている感触があった。銃口だ。だがその姿は視覚認識できないだろうと想像できた。振り返ったところで姿が無い事は明らかだ。
 強化外骨格を使う、とは思っていた。それで圧倒的に有利になるから。だが光学迷彩まで使用してくるとなれば、組織の開発している装備をフルで使うつもりだ。
「でももう、時間切れですよ。痺れを切らしてあの方も来ましたから」
「え?」
 思わず振り返った。
 やはりそこに誰もいなかった。
 眉間に銃口が押しつけられている感触。
 そして、視線の先には一人の男の姿。
「ミナ、ト?」
「ふーせてー!」

 まるで空気を読まないハチの声がして、ユーマははっと我に返る。
 咄嗟に言葉に従うと、ユーマはその場にしゃがみ込んだ。伏せてはいないが、コレでも良いだろう。
 湾岸エリアの駅の近くともなれば、人通りはそれなりにあるはずだ。平日であれど、ある程度は。だがおかしいほどに、今、ここに人の流れが無い事に気が付いた。
 と、同時に、銃声が後ろから響き、カキンと当たる音がする。ユーマが顔を上げると、ノイズが風景に走り光学迷彩が解除され、そして一人の男の姿が露わになる。
「シュン」
「いやぁ、すごいねぇ。光学迷彩に、こりゃなんだ? 視覚情報でのなんか? それとも光使ったやつ? とにかく組織の技術大博覧会って感じじゃない?」
 ハチの明るい声が響く。
「さっきまで、ある程度人は居たと思ったけど。あれも全部幻覚かなんか? ホログラム? まぁどうでもいいや。とりあえず暴れたっていいってことっしょ?」

 近づいて来るハチの足音にユーマは立ち上がり、後ずさりして近づいて行く。
 と、同時に、シュンよりも後方にいた男はこちらへと近づいて歩いてくる。
 アスファルトの上を歩いてくる足音が大きく響いて聞こえるのは、自分の緊張の所為だとユーマは思った。
 まさか彼自身が出てくるとは思わなかった、というのが本音だ。距離が縮まっていくなか、ハチは笑って銃口を近づいて来る男――ミナトに向けた。
 ユーマも銃を構えると、安全装置を解除して焦点をミナトに合わせた。
「お前は……シュンをやるんだろ?」
 小さくユーマが囁いた。スマートフォンをユーマに返しながら、ハチは笑った。
「そうだね。そっちはいいの? 任せて」
「……いいよ。どうせ」
 アイツに俺は殺せない。
 自惚れともいえる言葉を吐くと、ハチは笑って面白いと声を上げて言った。
「よし。始めようぜ」
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