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昔の話、今の話。
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コーヒーを飲んでから純一もシャワーを浴びるといい、その間に悠人は荷物の中で眠っていたスマホを充電させてもらうことにした。
ソファまでケーブルがくるようになっていて、コネクタを差し込むとソファに沈み込み悠人はアプリ通知をぼんやりと眺めて処理していった。
ほとんどは登録してあるショップのお知らせなどの通知だったが、その中に見知った名前の通知を見つけて悠人はタップして詳細を見た。
連絡をよこしてきたのは宮本晴樹だった。晴樹は悠人の大学時代の友人であり、今でもやりとりをする数少ない友人の一人だった。
何度も店に来たこともあり、その際に意気投合したらしい冬真に時折ゲームに巻き込まれているらしい。晴樹本人もよい仲間が出来たと喜んでいる。
彼は作家である。
元々、就職活動をするのが嫌だという理由でずっと趣味で書いていた小説をさらに大学時代に力を入れて書き続け、あげくの果てにデビューしたのだからすごいと悠人は常々思っている。
何度も彼の習作を読んで一般的読者の感想を求められたりしたことも、学生時代の良い思い出だ。
「あー……今週はなぁ、ちょっと」
そんな晴樹とは今も休みの日によく顔を合わせる。
食事に行ったり、映画に行ったり、買い物に行ったりという、互いに一日だらだらと適当に過ごすことが多い。
仕事の話だったり愚痴であったりという、同業者相手にはしにくい話をすることも多く、普段引きこもり体質な晴樹に取ってはかなりの気分転換らしいということは聞き及んでいた。
悠人にとっても気の置けない仲なので、彼の誘いは基本的には断らない。
大体は悠人の休みの日にその誘いを送ってくる。店休日は家のことや自分のことをするのは、まさにこの晴樹の誘いが悠人の定休日に送られてくるからである。
そんなわけで晴樹からは今度の木曜日に何か食べに行かないか、というものが送られてきていた。
彼の締め切りも終わったらしく、ぱーっとしたい、と泣きながら喜んでいる動物イラストのスタンプが送られてきていた。
是非ともその誘いには乗ってやりたい。むしろ自分の方も今の状況を話してみたい気もする。
だがしかし、今日の休みが純一に巻き取られてしまうことが確定している今となっては、出来れば次の木曜日はゆっくりとしたいのが本音だ。
「来週ならいいか」
来週の木曜日ならいいと送る。晴樹の返信は遅い。多分今頃寝ているのだろうと思うのは、彼がメッセージを送ってきているのが夜中の三時頃だからだ。
おそらく、仕事を終えてそのテンションで送ってきたのだろう。
となればまるっと一日寝ていそうだ。そういう奴なのだ。
返信し終えてスマホを充電しながら悠人はため息をついた。
なんとも気が重い。
これが普通に単純に、素直に、好きだという想いが成就されることに幸福を覚えるならば良かったのだろう。
だが悠人にとっては少し違う。
確かに純一のことは好きだったし、今も多分好きなのだ。だからこそ過去のことは良い思い出と悪い思い出として、すべてを美化しておいておくのが悠人にとっての最善だった。
実家を出てから一度も帰っていない。両親とのやりとりも最低限のものにしていて、今の住まいを知らせることもしていない。
田舎においてΩであるということは何かと息苦しい。当人にとってもだし、家族にとってもだ。
悠人の地元にΩはどのぐらいいたのかはよく知らない。それでもやはり、虐げられ、まるでヒトとして扱われないで自ら命を絶った者がいるというのは知っている。
そういった小学校時代から行われる差別問題の学習は、幼心に怖かった思い出がある。
Ωもαも人口における割合は数パーセントだ。どちらも希少であるが故にαは羨望を、Ωは絶望を得る。
αは特に家系に依るところが多く、悠人の地元では数人そういった家系がある程度だった。
αについては大手を振って宣言されているようなところもあるが、Ωについては秘匿されているところがほとんどで、どのぐらい居たのかは悠人も知らない。
時折αも隔世遺伝があるとは、学校の授業中に聞いたことがあったので純一もそれだろうとは思った。
彼は最初から、なんとなくそういう気質が外見にあるように思えたのだ。
だからあの時も、まだ表だって香る前のかすかな香りを悠人は敏感に嗅ぎつけて手を伸ばしたのだ。
「二日酔い?」
突然視界に現れた純一に驚くと、悠人はソファの上で軽くはねた。
「び、びっくりした」
「そんなびっくりしないでよ。で、大丈夫?」
「あー……うん。飲み過ぎたとは思うけど、まぁ……大丈夫」
上半身は脱いだまま、ジーパンだけの格好で目の前に現れた純一に、ドキリとする。
目のやり場に困りながら視線を逸らすと意識しているのが丸わかりだ。
デザイナーをしている、座り仕事をしている、というわりにはしっかり鍛えられている身体は、おそらく普段からきちんとトレーニングをしているに違いない。
逸らした視線をチラリと向けると、特に気にした様子もなく純一は「水もうちょい飲む?」と言った。
いっそのこと嗤うなり、揶揄するなりしてくれれば良いのにと思うが、そうされると羞恥で気を失いそうでもある。
「飲む」
短く答えて悠人は深く長いため息をついた。
ソファまでケーブルがくるようになっていて、コネクタを差し込むとソファに沈み込み悠人はアプリ通知をぼんやりと眺めて処理していった。
ほとんどは登録してあるショップのお知らせなどの通知だったが、その中に見知った名前の通知を見つけて悠人はタップして詳細を見た。
連絡をよこしてきたのは宮本晴樹だった。晴樹は悠人の大学時代の友人であり、今でもやりとりをする数少ない友人の一人だった。
何度も店に来たこともあり、その際に意気投合したらしい冬真に時折ゲームに巻き込まれているらしい。晴樹本人もよい仲間が出来たと喜んでいる。
彼は作家である。
元々、就職活動をするのが嫌だという理由でずっと趣味で書いていた小説をさらに大学時代に力を入れて書き続け、あげくの果てにデビューしたのだからすごいと悠人は常々思っている。
何度も彼の習作を読んで一般的読者の感想を求められたりしたことも、学生時代の良い思い出だ。
「あー……今週はなぁ、ちょっと」
そんな晴樹とは今も休みの日によく顔を合わせる。
食事に行ったり、映画に行ったり、買い物に行ったりという、互いに一日だらだらと適当に過ごすことが多い。
仕事の話だったり愚痴であったりという、同業者相手にはしにくい話をすることも多く、普段引きこもり体質な晴樹に取ってはかなりの気分転換らしいということは聞き及んでいた。
悠人にとっても気の置けない仲なので、彼の誘いは基本的には断らない。
大体は悠人の休みの日にその誘いを送ってくる。店休日は家のことや自分のことをするのは、まさにこの晴樹の誘いが悠人の定休日に送られてくるからである。
そんなわけで晴樹からは今度の木曜日に何か食べに行かないか、というものが送られてきていた。
彼の締め切りも終わったらしく、ぱーっとしたい、と泣きながら喜んでいる動物イラストのスタンプが送られてきていた。
是非ともその誘いには乗ってやりたい。むしろ自分の方も今の状況を話してみたい気もする。
だがしかし、今日の休みが純一に巻き取られてしまうことが確定している今となっては、出来れば次の木曜日はゆっくりとしたいのが本音だ。
「来週ならいいか」
来週の木曜日ならいいと送る。晴樹の返信は遅い。多分今頃寝ているのだろうと思うのは、彼がメッセージを送ってきているのが夜中の三時頃だからだ。
おそらく、仕事を終えてそのテンションで送ってきたのだろう。
となればまるっと一日寝ていそうだ。そういう奴なのだ。
返信し終えてスマホを充電しながら悠人はため息をついた。
なんとも気が重い。
これが普通に単純に、素直に、好きだという想いが成就されることに幸福を覚えるならば良かったのだろう。
だが悠人にとっては少し違う。
確かに純一のことは好きだったし、今も多分好きなのだ。だからこそ過去のことは良い思い出と悪い思い出として、すべてを美化しておいておくのが悠人にとっての最善だった。
実家を出てから一度も帰っていない。両親とのやりとりも最低限のものにしていて、今の住まいを知らせることもしていない。
田舎においてΩであるということは何かと息苦しい。当人にとってもだし、家族にとってもだ。
悠人の地元にΩはどのぐらいいたのかはよく知らない。それでもやはり、虐げられ、まるでヒトとして扱われないで自ら命を絶った者がいるというのは知っている。
そういった小学校時代から行われる差別問題の学習は、幼心に怖かった思い出がある。
Ωもαも人口における割合は数パーセントだ。どちらも希少であるが故にαは羨望を、Ωは絶望を得る。
αは特に家系に依るところが多く、悠人の地元では数人そういった家系がある程度だった。
αについては大手を振って宣言されているようなところもあるが、Ωについては秘匿されているところがほとんどで、どのぐらい居たのかは悠人も知らない。
時折αも隔世遺伝があるとは、学校の授業中に聞いたことがあったので純一もそれだろうとは思った。
彼は最初から、なんとなくそういう気質が外見にあるように思えたのだ。
だからあの時も、まだ表だって香る前のかすかな香りを悠人は敏感に嗅ぎつけて手を伸ばしたのだ。
「二日酔い?」
突然視界に現れた純一に驚くと、悠人はソファの上で軽くはねた。
「び、びっくりした」
「そんなびっくりしないでよ。で、大丈夫?」
「あー……うん。飲み過ぎたとは思うけど、まぁ……大丈夫」
上半身は脱いだまま、ジーパンだけの格好で目の前に現れた純一に、ドキリとする。
目のやり場に困りながら視線を逸らすと意識しているのが丸わかりだ。
デザイナーをしている、座り仕事をしている、というわりにはしっかり鍛えられている身体は、おそらく普段からきちんとトレーニングをしているに違いない。
逸らした視線をチラリと向けると、特に気にした様子もなく純一は「水もうちょい飲む?」と言った。
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