38 / 53
変わりゆく日常
8
慌てて悠人はドアを閉めようとした。
だが身体は思うように力が入らず、元々の力の強さでも純一には勝てなかっただろうことは明白だ。
一歩中にはいった純一は、後ろを少し振り向いて言う。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
冬真の声がした。
何故二人がここにいるのか分からず、悠人は諦めてドアノブから手を離すと純一から離れようとした。
「悠人!」
強く名を呼ばれ、悠人はびくりと身体を震わせた。
匂いが強い。
ずっと欲しかった匂いがする。
「あ……、あぁ、ダメ」
着ているシャツを強く握り絞め後退った。
首を横に振り、もう一度ダメと口にする。
だが本心では、欲しくて堪らない。
今すぐに満たして欲しいと願う。
「薬……飲むんだろ?」
「……飲む、飲みたい」
はっと息を吐いて悠人は声を絞り出す。
足はその場で止まった。
入口を入ればすぐにダイニングキッチンだ。
純一は靴を脱いで上がると、置いてあった適当なカップに水道水を入れて悠人に渡した。
両手でカップを受け取って、悠人は我慢出来ずその場にしゃがみ込んだ。
薬が入っている袋から一錠取り出して包装からも押し出すと純一は膝を突いて傍に寄った。
「一錠で、大丈夫って言ってたから……」
錠剤を手に純一は言った。
それを悠人に渡そうとしている。
悠人はぼんやりと純一を見た。
薬を飲まなければ、飲みたいと思う反面で、もう一つの欲望が頭を擡げる。
「なんで……シないの?」
純一は眉間に皺を寄せると、唇を噛んで視線を逸らした。
それからまた視線を合わせると、無理して笑みを作る。
「まだ、ちゃんと話せてない」
「なにを? 俺は……いま、純一がほしい、のに?」
「それは……俺が、αだから?」
口を開いて悠人は首を傾げた。
言いたい言葉と、考えていることが、ちぐはぐで、混ざり合っている。
理性と欲望が渦巻いていて、本当に言いたい言葉が見当たらない。
混乱する思考と感情によって、涙がこみ上げ前が滲み始める。
「それを……まだちゃんと、話せてないよ」
「でも、むつも……今、匂い、するでしょ?」
「するよ。すごい、久しぶりに」
「欲しくないの?」
甘ったるい声で問う。
純一は小さく何度も頷いて、ゆっくりと深呼吸をした。
「欲しいよ。すごく。でも、多分それは、悠人の本意じゃないでしょ?」
視線を泳がせて悠人は口をパクパクとさせた。
何と答えるのがいいのか。どう答えるべきなのか。
考えるよりも、今はただただ快楽が欲しい。
「薬を、とりあえず飲んで。それで……少しは落ち着くらしいから」
「落ち着く?」
「うん。少しだけど、ヒートはおさまるらしいから」
「やだ、今すぐ欲しいのに……」
答えた言葉に対して、純一はまた大きく息を吸って、吐く。
「今なら、あの時の悠人がすげーってこと分かるわ」
「あの時?」
「うん。あの時、多分今の俺みたいに、今すぐ……欲しかったのに、ソレは違うって思って、俺を突き飛ばせたんだ。俺は今、そうしてるから。だから……まずは、ソレを飲んで」
「飲ませて」
そう言って悠人は赤く濡れた舌を覗かせ口を開けた。
少しだけ純一は考えるようにしたが、悠人の手からカップを掴み上げると口に含んだ。
錠剤を悠人の舌の上に置くと、すぐに口づけた。
薄く開いた唇から、口の中の熱よりも冷たい水が流れ込んでくる。
こくりと音を立てて水を飲み込むと、錠剤も一緒に喉の中を通っていく。
水が全て悠人の口に移されると、純一は唇を離そうとした。
だが悠人はソレを嫌がるように、両手で純一の顔を掴むと引き寄せて舌を滑り込ませた。
純一の手は優しく悠人の肩を掴んだ。
始めの内は引き離そうと、少しだけ指先に力が込められる。
だが、悠人はそれを嫌がるように舌を絡めていく。
表面のざらつきを味わうように舌を伸した。唾液も甘く感じるのは、匂いと同じだからだろう。
もっと欲しいと角度を変えて深く口づけると、純一の手にぐっと強く力が込められた。
舌を絡み合わせながら、純一のものが悠人の咥内へと侵入してくる。
上顎を擦り、歯列をなぞり、口の中を味わっていく。
何もかも甘かった。
じんと身体の奥から脳の奥まで痺れる程の甘い味がする。
「あ……ッ、ぅふ」
舌を軽く噛まれると声が漏れた。
他者から与えられる刺激は、甘くむず痒く心地が良い。
純一がするように、悠人も彼の咥内を味わうように舌を滑らせた。上顎、歯列、全てを味わっていくと、飲み込めない唾液が口の端から零れていく。
心地がよくて離れるのが嫌だった。
それでも純一が少しだけ身体を離したので、名残惜しいながらも、悠人は唇を喰んでから離れた。
手は首に回したまま。悠人はそれ以上離れることを嫌った。
はぁっと互いに息を吸う。
眉間に皺を寄せたままの純一をみて、悠人は小さく笑った。
霞がかかった思考のなかでも、言わなくてはいけない言葉は見つかった。
「俺は……むつが好きだ、よ。だから、むつが、欲しいよ。αだからじゃなくって、むつじゃないと、イヤだ」
「悠人」
「だから……、今すぐ、欲しい」
だが身体は思うように力が入らず、元々の力の強さでも純一には勝てなかっただろうことは明白だ。
一歩中にはいった純一は、後ろを少し振り向いて言う。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
冬真の声がした。
何故二人がここにいるのか分からず、悠人は諦めてドアノブから手を離すと純一から離れようとした。
「悠人!」
強く名を呼ばれ、悠人はびくりと身体を震わせた。
匂いが強い。
ずっと欲しかった匂いがする。
「あ……、あぁ、ダメ」
着ているシャツを強く握り絞め後退った。
首を横に振り、もう一度ダメと口にする。
だが本心では、欲しくて堪らない。
今すぐに満たして欲しいと願う。
「薬……飲むんだろ?」
「……飲む、飲みたい」
はっと息を吐いて悠人は声を絞り出す。
足はその場で止まった。
入口を入ればすぐにダイニングキッチンだ。
純一は靴を脱いで上がると、置いてあった適当なカップに水道水を入れて悠人に渡した。
両手でカップを受け取って、悠人は我慢出来ずその場にしゃがみ込んだ。
薬が入っている袋から一錠取り出して包装からも押し出すと純一は膝を突いて傍に寄った。
「一錠で、大丈夫って言ってたから……」
錠剤を手に純一は言った。
それを悠人に渡そうとしている。
悠人はぼんやりと純一を見た。
薬を飲まなければ、飲みたいと思う反面で、もう一つの欲望が頭を擡げる。
「なんで……シないの?」
純一は眉間に皺を寄せると、唇を噛んで視線を逸らした。
それからまた視線を合わせると、無理して笑みを作る。
「まだ、ちゃんと話せてない」
「なにを? 俺は……いま、純一がほしい、のに?」
「それは……俺が、αだから?」
口を開いて悠人は首を傾げた。
言いたい言葉と、考えていることが、ちぐはぐで、混ざり合っている。
理性と欲望が渦巻いていて、本当に言いたい言葉が見当たらない。
混乱する思考と感情によって、涙がこみ上げ前が滲み始める。
「それを……まだちゃんと、話せてないよ」
「でも、むつも……今、匂い、するでしょ?」
「するよ。すごい、久しぶりに」
「欲しくないの?」
甘ったるい声で問う。
純一は小さく何度も頷いて、ゆっくりと深呼吸をした。
「欲しいよ。すごく。でも、多分それは、悠人の本意じゃないでしょ?」
視線を泳がせて悠人は口をパクパクとさせた。
何と答えるのがいいのか。どう答えるべきなのか。
考えるよりも、今はただただ快楽が欲しい。
「薬を、とりあえず飲んで。それで……少しは落ち着くらしいから」
「落ち着く?」
「うん。少しだけど、ヒートはおさまるらしいから」
「やだ、今すぐ欲しいのに……」
答えた言葉に対して、純一はまた大きく息を吸って、吐く。
「今なら、あの時の悠人がすげーってこと分かるわ」
「あの時?」
「うん。あの時、多分今の俺みたいに、今すぐ……欲しかったのに、ソレは違うって思って、俺を突き飛ばせたんだ。俺は今、そうしてるから。だから……まずは、ソレを飲んで」
「飲ませて」
そう言って悠人は赤く濡れた舌を覗かせ口を開けた。
少しだけ純一は考えるようにしたが、悠人の手からカップを掴み上げると口に含んだ。
錠剤を悠人の舌の上に置くと、すぐに口づけた。
薄く開いた唇から、口の中の熱よりも冷たい水が流れ込んでくる。
こくりと音を立てて水を飲み込むと、錠剤も一緒に喉の中を通っていく。
水が全て悠人の口に移されると、純一は唇を離そうとした。
だが悠人はソレを嫌がるように、両手で純一の顔を掴むと引き寄せて舌を滑り込ませた。
純一の手は優しく悠人の肩を掴んだ。
始めの内は引き離そうと、少しだけ指先に力が込められる。
だが、悠人はそれを嫌がるように舌を絡めていく。
表面のざらつきを味わうように舌を伸した。唾液も甘く感じるのは、匂いと同じだからだろう。
もっと欲しいと角度を変えて深く口づけると、純一の手にぐっと強く力が込められた。
舌を絡み合わせながら、純一のものが悠人の咥内へと侵入してくる。
上顎を擦り、歯列をなぞり、口の中を味わっていく。
何もかも甘かった。
じんと身体の奥から脳の奥まで痺れる程の甘い味がする。
「あ……ッ、ぅふ」
舌を軽く噛まれると声が漏れた。
他者から与えられる刺激は、甘くむず痒く心地が良い。
純一がするように、悠人も彼の咥内を味わうように舌を滑らせた。上顎、歯列、全てを味わっていくと、飲み込めない唾液が口の端から零れていく。
心地がよくて離れるのが嫌だった。
それでも純一が少しだけ身体を離したので、名残惜しいながらも、悠人は唇を喰んでから離れた。
手は首に回したまま。悠人はそれ以上離れることを嫌った。
はぁっと互いに息を吸う。
眉間に皺を寄せたままの純一をみて、悠人は小さく笑った。
霞がかかった思考のなかでも、言わなくてはいけない言葉は見つかった。
「俺は……むつが好きだ、よ。だから、むつが、欲しいよ。αだからじゃなくって、むつじゃないと、イヤだ」
「悠人」
「だから……、今すぐ、欲しい」
あなたにおすすめの小説
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結】獣王の番
なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。
虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。
しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。
やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」
拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。
冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!