キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗

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執着/愛着

 悠人の部屋まではタクシーを使って来たという。だから純一の部屋に行くにしても同じ手段を使うことになる。
 しかし純一は自分で言いながらもあまり良い手段ではないと唸った。
「なんで」
「俺はなんていうかよくわかんないけど、他の人にしたら匂いがするのかなぁ、って」
「あー……」

 そうかと思い至り悠人は自分の腕を軽く匂った。それで匂いを感じるわけではないが、ついついしてしまう。
 Ωである以上、ヒートを忌避する理由はここにもある。
 いくら自分は他人の匂いを感じないとしても、他人には自分の匂いが分かるはずだ。でなければ、ヒートが近い時に冬真が注意してくれることもないし、先日の香瑠のような忠告もないはずだ。
 ふと悠人は思いついて自分の首筋を指先で指し示した。
「やっぱ、噛んで貰った方がはやかったんじゃ……ないの?」
 言いながら少し赤くなる。
 番になれば匂いをまき散らすことはなくなる、とも聞く。
 それが事実なのかどうか悠人はしらない。そんな知人は周りに居ないからだ。
「まぁ、そうだけど。そんな急がなくてもいいでしょ、それに関しては」
 純一は少し険しい表情でそう言った。
 意外な感じがして悠人は素直に驚いた顔を見せた。それをみて純一が首を傾げる。
「なんかもっと……そこにぐいぐいくるかと思った。その……昨日も、だけど」
 ヒートの最中も、悠人は何度も口にしていた。もっとも、純一が噛みたそうに首回りに口づけたり、歯を立てたりしていたから余計だ。
 おかげで首筋には痕が残っていて、出かけるにしてもコレをどうするか少し悩んでいる。
「だってヒート中のことだし。あとで後悔されてもヤダし」
「今、は……違うぞ」
「だとしても、もう少し考えてからでいいよ」
 そう言って純一は頭を撫でる。
 指先が髪を梳く。心地良さに目を閉じそうになる。
「あとで、やっぱイヤだなんて言われても、どうしようもないし」
「今さら……あ、あんなことしといてイヤだは、ないと……おもう、けど。それにそもそもお前がそれを許すのかよ」

 純粋な疑問だった。
 純一は笑って首を横に振った。
「まさか。でもだからこそ。後悔しない方がいいよ。だからといって今さら、手放す気はないんだけど」
「俺にどうしてほしいんだよ」
 ため息交じりに呟いた。
 今さら逃げるつもりはない。
 好きだと認めたことで心は軽くなっているし、それを口にして、抱かれたことであの餓えも治まったのは確かだ。
 純一は目を細めて微笑んだ。
 それは昔からの彼の笑い方だ。だが今は、少しだけ、得物を見定めた者の笑みではないかと錯覚する。
 多分何度も、抱かれているときにその笑みを見たからだ。
「一緒にいてくれればいいの。あとはその内分かるから」
「わかんねぇよ」
 弱音を吐き捨てるように呟くと、純一は声を出して笑って抱きしめた。
「とりあえず、タクシー使うか。俺が一緒だし大丈夫っしょ」
 そう言われるとそうだろうとしか思えず、悠人は腕の中で小さく頷いた。
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