誰にでも悩みはある。神様も、化物も、人間も、桃太郎も。

中村雨歩

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第9話 チーム水亀、のんびり新幹線の旅

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 吉野さんのカウンセリングから一週間後に、僕たちチーム水亀は岡山県の吉備津彦神社に向かった。吉野さんとは現地で集合することになっている。吉備津彦神社がある備前一宮駅までは、ここ新横浜駅から三時間半くらいだろうか。新横浜から西の方へ新幹線で行くのは修学旅行以来だから、本当ワクワクする。二人が来る前に、お弁当やお菓子を買い込んでしまった。

「お待たせしました」

 先生と茜ちゃんの到着だ。先生も茜ちゃんもいつもとは少し違うラフな出立ちで新鮮さを感じる。また、あのカウンセリングルームは常に異世界のような雰囲気が漂っているので、普通の世界の中で二人を見ると普通の人間に見えて何だか嬉しい。思えば、家族と旅行に行ったという記憶も無いし、友達とも行ったことが無い。本当に修学旅行くらいしか友達と旅行に行ったことが無い。だから、こんなにも心が踊るのかもしれない。

「兼人くん、もうお弁当を買ってくれていたのですか?」

「はい、いくつか人気のお弁当とお菓子を買っておきました。これで大丈夫でしょうか?」

「有難うございます。私は特選幕の内弁当を頂きますね」

「私は、鳥弁当!」

「茜ちゃんは、猫だから海鮮かと思った。」

「猫が魚好きってのは思い込みだよ。江戸時代の日本人は魚食だったからね。猫は元々肉食だし、鳥の方が一羽まるごと食べるとバランスよく栄養が摂れるから鳥のがいいね。まあ、雑食ではあるし、魚が嫌いな訳ではないけど、鰹節かけたご飯をねこまんまなんて言って、猫が好きなご飯だと思っているなら勘違い甚だしいね。犬と猫を一緒くたにしている感じもするよね」

 江戸時代の日本人の食文化・・・それで猫はお魚が好きだと思っていた訳か・・・。視点を変えて見ないと分からない事ってたくさんありそうだな・・・。

「じゃあ、茜ちゃんが鳥弁当で、僕が海鮮弁当で。ではでは、大事なお弁当が決まりましたので、行きましょう!」

「兼人、ハイテンションだね」

 茜ちゃんが笑いながら言った。茜ちゃんも外で見ると普通の女の子だ。むしろ、ちょっと可愛いくらいだ。誰も齢二百年を超える化け猫だとは思うまい。

「では、行きましょう」

 先生の雰囲気はいつもと同じでゆったりとしたおおらかな空気を纏っている。まあ、神様だとは誰も思わないと思うけど。

 僕たちは新幹線のぞみに乗って新横浜の駅を後にした。岡山までは約三時間半、先生には色々聞いておきたい。この前の吉野さんのカウンセリングは謎だらけだ。カウンセリングが終わってからの一週間の間に吉野さんの出演作品やインタビュー記事などを探して読んでみたが、「桃太郎」とつながりそうなものは何も無かった。作品からも「桃太郎」を想起させるものは何も感じられない。強いて言うなら、ヒーロー繋がりという点だけだ。正統派、ダークヒーロー問わず、ヒーローものには多く出演している。

「先生、何で今日は電車なのですか?」

 茜ちゃんがシートに座るなり先生に問いかけた。岡山に行くのに、新幹線に何か方法があるのだろうか?飛行機ということだろうか?

「いくつか理由はあるのですが、一つ目は、カウンセラーも心を休めたり、楽しいことをする時間が必要ですからね。笑顔になるのは気力を満たす一番効果的な方法だと私は思っています。二つ目は、岡山までに行く時間で、この前のカウンセリングで二人が感じている疑問について話しがしたいと思いました。そして、三つ目は、新幹線に乗ってみたいなと思いました」

 先生は笑いながら答えた。三つ目の理由は意外だったが、僕たちのことを考えてくれている理想の上司だと思った。水亀先生の下で仕事ができて幸せです。まだ、ほぼ何も仕事していませんが・・・。

「ということなので、岡山駅までお弁当を食べたり、おしゃべりを楽しみながら行きましょう」

「はい!まずはお弁当を楽しみましょう」

 明るい気持ちで旅路はスタートしたが、前回のカウンセリングは謎が多過ぎるし、鬼とか怨霊とかちょっと怖い気もする。何から質問していいのかも迷ってしまう。何が一番の疑問なのだろうか?お弁当を噛み締めながら、頭を整理しようとしたが、やはり、最大の謎は「鬼とは何か?」だろう。
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