魔王にだって、運命を切り拓く権利がある

鏡水 敬尋

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第一部

集結

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「いらっしゃい。ルージュの酒場へようこそ」

 バーカウンターの向こうで、栗色のくせ毛を揺らしながら、ルージュが微笑ほほえんだ。
 ここは、冒険者のつどう場所。
 女主人であるルージュの、人柄と、人脈と、美貌びぼうが、多くの冒険者を引き寄せる。おかげで、酒場は絶えずにぎわっており、昼間だというのに、10卓以上もあるテーブル席は、ほぼ満席だった。

 テーブルを囲んで、様々な冒険者達が、それぞれの時間を過ごしている。次の冒険の計画を立てるもの達。ひと仕事終えて、打ち上げをするもの達。仲間を探しにきているのか、酒を飲まずに、しきりに店内を見回すもの。

 十人十色の感情が交錯する中、ミキモトはまっすぐにバーカウンターへと向かい、ルージュに話しかけた。

「俺とともに旅をしてくれる仲間を探している」
「どんな仲間をお望みかしら?」

「そうだな。あまり、ガツガツしてないのがいい。精力的なやつとか、努力一筋みたいなやつは苦手なんだ。ゆったり、マイペースに旅ができる仲間がほしい」
「あはは。変わった要望ね。それで、職業は?」

「無職だ」
「は? ……無職の仲間がほしいの?」

「あ、仲間の話か。俺の職業を聞かれたのかと思った。職業を聞かれると、条件反射で、つい、ね」
「あんた、無職なの? 勇者じゃないの?」

「勇者というのは、職業なのか?」
「まあ、それでゴールドを稼げるなら、職業なんじゃない? みんな、『職業は勇者』って言ってるし」

「じゃあ、俺も勇者ということで。先ほど、王様への挨拶も済ませてきた。まだ1ゴールドたりとも稼いではいないが、これから稼ぐ予定だ」
「おかしな人ね。じゃあ、希望する、仲間の職業を聞かせて」

「戦士、武闘家、僧侶で頼む。全員女性が良い」
「任せて」

 ルージュは、自信ありげに微笑むと、パンパン、と2回手を叩き、冒険者達でごった返すテーブル席へ、大声で呼びかけた。

「レイジィ、リージュ、アイドラ! お呼びがかかったよ!」

 ミキモトが後ろを振り返ると、それぞれ異なるテーブルに座っていたと思しき、3人の女性が、テーブルの間をすり抜けながら、バーカウンターのほうへと近づいてくるのが見えた。
 彼女達が、ミキモトのすぐそばまで来るのを待って、ルージュが言った。

「こちら、勇者ミキモトさん。あなたたちと、マイペースな冒険がしたいんだって。みんな、自己紹介して」

「わたくし、戦士のレイジィと申します」

 レイジィは、からす濡羽色ぬればいろのストレートヘアを、肩の下まで伸ばしていた。口調と、立ち居振る舞いから、しとやかで上品な印象を、ミキモトに与えた。

「ぼく、リージュ。武闘家……」

 語気弱く、うつむき加減で名乗ったリージュは、ショートの赤毛がぼさぼさなのを気にする様子もなく、少々、とっつきにくい空気を放っていた。

「あたいは、僧侶のアイドラだ。よろしくな」

 亜麻色のセミロングを、サイドでたばねたアイドラは、その明朗さと快活さは、まさに、男勝りと呼ぶに相応ふさわしい雰囲気であった。

 ミキモトは、彼女達のインパクトに気圧けおされながら言った。

「あの、みんな、職選び失敗してない? どう考えてもキャラクターと職業が、全然マッチしてない気がするんだけど」

 疑問を口にするミキモトに、ルージュがかぶせてきた。

「あら、それを言うなら、あなたも負けてないわよ」

 言われて、ミキモトは、それもそうかと納得した。そして、彼女達を見て、心に浮かんだ思いをそのまま言葉にした。

「あと、なんていうか、みんな、同じような見た目なんだね。例えば、戦士は、もっとゴツいよろいを着ていて、見ただけで戦士って分かるものかと思ってた」

 彼女達は3人とも、その辺に散歩にでも行くような、生地きじの薄い服を着ている。リージュ以外の2人は、その辺で拾ってきたような木の棒を、腰に差していた。

「あら、それは偏見というものですわ。戦士といえど、よろいを脱ぐこともありましょう。そして、よろいを脱げば、みな、同じ人間ですわ。もっとも、わたくしの場合は、昨日、戦士になったばかりでして、ゴールドもなく、よろいなどという高価なものは、欲しくても買えないのですけれど」

 ミキモトは、小柄なリージュを、少し見下ろしながら言った。

「君だけ、棒を差してないんだね」
「ぼくの武器は、こぶしだから」
「おお、格好いい。頼りになりそうだ」
「ぼくも、昨日、武闘家になったばかりだけど」

 ミキモトが、長身のアイドラを見上げて、何か言おうとしたが、それより先にアイドラが言葉を発した。

「奇遇だねえ。あたいも、昨日僧侶になったばかりなんだ」

 ミキモトの口から、素直な感想があふれる。

「いやー、不安だ。このメンバー、不安」
「お言葉ですが、そうおっしゃるミキモト様も、なかなかに不安をお与えになる風貌ふうぼうかと存じますわ」

 ミキモトはというと、無造作に乱れた髪には、30歳にして、早くも白いものが混ざり始めており、口とあごの周りは無精髭ぶしょうひげが生えるに任せていた。
 服は、今朝、起きて、家を出た時のままの格好であり、彼女達同様、普段着だ。もちろん、腰には、その辺で拾ってきたような木の棒を差している。

「まあ、そうか。俺も、ついさっき、王様にご挨拶をして勇者になったばかりなんだ。えらそうなことを言って、悪かったね」

 そのやりとりを眺めてみたルージュが、横から声をかけてきた。

「あはは。いいじゃない。お似合いよ、あなた達」
「なんだか、似たもの同士が集まっちゃって、不安なんだけど」
「あら、あなたの要望に最大限応えたつもりだけど、私の人選に文句があるの?」

 満面の作り笑いを浮かべたルージュに凄みを感じて、ミキモトは、抵抗をやめることにした。

「まあ、とりあえずこのパーティで行ってみようか」
「未熟者ですが、よろしくお願いいたします」
「ほどほどに、頑張る」
「よっしゃ。行こうぜ!」

 かくして、初心者を寄せ集めたパーティが誕生した。

 ミキモト達は、ルージュの酒場を後にし、町の大通りで、今後について話し合った。

「ミキモト様、これから、どういたしましょう」
「まずは、町の中を回ってみようか」
「賛成。外に出るの、面倒」
「情報収集は大事だからな!」

「まあ、のんびりやろうよ。焦っても、いいことないからね」

 その言葉に相応ふさわしい、ゆったりした口調でミキモトが言う。すると、突然、横から名前を呼ばれた。

「よお。ミキモトじゃねえか」

 声の主は、勇者モヘジだった。

「のんびりなんて言ってたら、誰かに先越されちまうぞ。ま、急いだところで、おめえに魔王を倒せるとも思えねえけどな。なんの取り柄もない、おめえによ。ふふん」

 それだけ言うと、満足したのか、モヘジは、彼のパーティを引き連れて、町中まちなかへと消えていった。

 リージュが、一層、陰にこもった声でつぶやく。

「何、あいつ。感じ悪い」
「ミキモト様の、お知り合いなのですか?」
「まあ、そんなところ。別に、仲はよくないけどね」

 相変わらずのんびり話すミキモトに、アイドラが苦言を呈する。

「おいおい。ちっとはなんか言い返してくれよ。あんたは、あたい達のリーダーなんだぜ」
「言いたいやつには、言わせておけばいいじゃないか。言い返したところで、なにが変わるわけじゃなし」
「ったく。覇気はきがねえ勇者様だな」
「他の勇者が先に魔王を倒してくれて、それで世界が平和になるなら、それはそれでいいと思ってるよ」

 アイドラは拍子抜けしてしまい、それ以上何も言わなかった。

「それじゃ、町で情報収集といこうかね」




 数日後。
 ミキモトのパーティは、まだ、町の中でのんびりしていた。

「もう、これ以上ないというほど、町を堪能たんのういたしましたわ」
「さすがに、飽きた。そろそろ、外、出たい」
「おう。いい加減、外で冒険しようぜ」

「じゃあ、そろそろ、外に出てみようか」

 と、ミキモトが言ったところで、また、あの声が聞こえてきた。

「おいおい。おめえら、この前と同じ格好じゃねえか。この数日間、何やってたんだよ」

 そこには、数日前より、少しだけいい装備を身に着けたモヘジが、嘲笑を浮かべて立っていた。

「いやあ、ちょっと情報収集と、店の確認をね」
「そんなことに何日かけてんだよ。おめえ、才能ねえから、今すぐ勇者やめたほうがいいぜ。パーティメンバーが気の毒だ」

 ついに、耐えきれなくなったアイドラが食ってかかった。

「おう! それ以上、うちの大将をバカにするのはよせや。気分が悪いぜ」
「なんだあ? ずいぶん気のつええ女だな。おめえ、戦士か?」
「僧侶だよ!」
「へっ。だっせえ服と、しょうもねえ棒しか持ってねえから、職業がなにかもわかんねえや。この駄目勇者にお似合いのメンバーだな」

 ミキモトが、今までに見せたことのない、真剣な顔で言った。

「仲間のことを悪く言うのはやめてくれないか」
「いっちょ前にリーダー気取りか。ま、せいぜいがんばんな」

 歩き去るモヘジの背中を見ながら、アイドラが吐き捨てるように言った。

「ちっ。本当にむかつくやつだぜ」

 それに、他の2人も続く。

「ぼく、あいつ、嫌い」
いささか、不愉快ですわね」

「みんな、ごめんな。俺のせいで嫌な思いをさせちゃって」

 そう言ったミキモトの顔は、気の抜けた、いつもの表情に戻っていた。さらに、ミキモトは、誰に問うわけでもなく言った。

「しかし、勇者の才能って、なんだろうね」

 パーティメンバーは、お互いに顔を見合わせ、肩をすくめた。

「じゃあ、今度こそ、町の外に行ってみようか。とりあえずは、町の周辺で弱い魔物を倒して――」

 そう言いながら、ミキモトが、町の出口に向かって歩き出したとき、遠くのほうから、ズン、ズン、と重低音が響いてきた。
 なんの音かと思っているに、音はどんどん大きくなり、地面が大きく揺れる。
 間もなく、ストラリア城の陰から、巨大な人影が現れた。

 それは、高さ10メートルはあろうかという巨大な体躯たいくを持つ、ひとつ目の魔物であった。ろうのように白い皮膚の下に、びっしりと張り巡らされた血管らしきものが透けて見え、青と白のまだら模様をなしている。
 その魔物は、町の出口をふさぐように立つと、真っ赤に裂けた口を大きく開けて、咆哮ほうこうした。

「サイクロプス……」

 町のどこかで、誰かが、声にならない声を漏らした。
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