魔王にだって、運命を切り拓く権利がある

鏡水 敬尋

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第一部

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 勇者達は、たしかに、旧・玉座の間の中に入ってきた。しかし、俺は、ドラキャットの姿で、ここに横たわっている。
 ブランの話では、勇者が玉座の間に入ってくると、俺は、強制ワープをさせられ、変身も解かれ、フルグラの姿で玉座に座らされるはずなのだ。
 しかし、そうはならない。

「魔王が居ないぞ!」

 勇者達は、ご丁寧に、わざわざからの玉座の前まで行き、俺の不在を確認した。
 あの反応を見る限り、勇者達には、本物の玉座の間かどうかを見分ける能力はないらしい。その能力は、俺にしかないということか。

「玉座の間、移動成功ニャン」
「やったね!」

 アキナが、俺の頭をもみくちゃにする。

「ア、アキナのおかげニャン」
「そうよ。感謝しなさい」

 別部屋への通路を見つけた勇者達が、こちらに近づいてくる。
 俺は、アキナの膝枕から離れ、4本の足で身体からだを持ち上げると、アキナの前に歩み出た。

 部屋の入り口はデスデスが守ってはいるが、一応、俺もアキナを守る位置についていたほうがいいだろう。

 勇者が、デスデスの股越しにこちらを見る。

「アキナは渡さないニャン!」

 俺は、頭を低くして、毛を逆立て、威嚇いかくのポーズをとりながら言った。

「ドラキャット風情が笑わせる! 姫、この骨とネコを倒して、すぐに助けにいきます!」
「ああ、勇者様! わたしのことは捨て置いてください。わたしは、ここで、魔物の世話をして暮らします。魔王と、そう約束したのです」

 今回、アキナはウソは言わなかった。しかし、その言い方では、はいそうですかと納得してもらえるはずもない。

「おのれ魔王め! 力づくで、そのような約束を交わすとは卑劣な!」

 勇者達が剣を抜く。

「フルグラ様を悪く言うやつは許さないデス!」

 何かが、勇者達4人の前を、横一閃に疾走はしったかと思うと、4つの身体からだは、腰から真っ二つに切れて、回転しながら吹っ飛び、壁にぶつかる前に消滅した。
 勇者達が立っていた場所に、あとから突風が吹き荒れる。
 俺の目の前には、つるぎを右に振り抜いた体勢の、デスデスが立っていた。

 すごい。デスデスが戦っているところを初めて見た。なんて速さだ。こいつ、ちゃんと強かったんだ。

 俺は、威嚇のポーズを解き、尻をぺたんと地面につけて座った。

「デスデス。よくやったニャン。お前、初めて役に立ったんじゃないかニャン?」

 こちらに振り向いたデスデスは、身をかがめて、顔をぐっと地面に近づけた。

「ドラキャットに言われたくないデス! それに、お前のためにやったんじゃないデス!」

 えらい剣幕で怒られた。
 こいつは、俺がフルグラであることに気づいていないようだ。

 俺のことを悪く言うやつは許さない、か。一応は、魔王として敬愛されているようでよかった。

「デスデスちゃん、ありがとうー」
「アキナは、わたしが守るデス!」

 そう言ってデスデスは、再びこちらに背を向けた。

「えっへっへー」

 アキナが、にやにやしながら俺の顔を覗き込む。

「な、なんだニャン」
「あんた、さっき、なんて言った?」

「ニャン?」
「アキナは渡さない、とかなんとか」

 言った。極自然に言ってしまっていた。

「最初、勇者が来たときは、連れて帰ってよいぞ、とか言ってたよねえ」

 アキナは、俺の眉間を指でつつく。
 くそ。この女、完全に遊んでやがる。なんとか一矢いっしむくいたい。

「ごめんニャさい。アキナには、ここに居てほしいニャン」

 俺は、再びこうべを垂れた。

「しょうがないなー。もうしばらく、ここに居てあげる」

「アキナが居るから、俺は安心して外に行けるニャン。魔物達の世話を頼むニャン」
「まかせて!」

 アキナは、両手を腰に当てて、胸を張った。
 これから、魔王城の魔物はどんどん増える予定だ。いやというほど世話をしてもらおうじゃないか。

 旧・玉座の間の中に、ブランが現れた。

「フルグラ様。首尾はいかがでしたか」

 俺は、ブランの近くまで駆け寄った。

「成功だニャン!」

 ブランは、しげしげと俺を見下ろしている。

「……フルグラ様ですか?」

 もう変身は解いてもいいか。
 俺は、ありのままの姿へと戻った。

「強制ワープは発動しなかった。玉座の間の移動は成功だ」
「おお、素晴らしい」

 玉座の間は、移動できることが確認できた。であれば、これを利用して、ひと仕事やってやろうじゃないか。俺の、一世一代の大博打おおばくちだ。
 そして、俺が、これからやろうとしていることに、ブランの協力は不可欠だろう。

「ブラン」

 俺は、ブランに目配せをして、超空間へと移動した。
 色彩の薄くなった空間の中、俺の横には、すでにブランが居た。

「私は、人間との共存を目指そうと思っている」

 人間と魔物の共存。それは、俺とアキナの間で、勝手に取り交わされた話であり、ブランにとっては初耳のはずだ。

 魔王が人間との共存を目指す。その考えを、ブランはどう思うか。驚かれるのは間違いないだろう。それどころか、猛反対されるかもしれない。
 ブランに話すと気まずい感じになりそうで、今まで、なんとなく話せずにいた。

 しかし、ブランに隠しごとをしたままでいるのは、俺にとっても本意ではない。ブランには、すべてを聞いてもらった上で、協力してほしい。

「ほほう」

 あれ?
 ブランのリアクションが、思ったよりも薄くて心配になる。

「……もっとこう、なんと! といった反応をされるかと思っていたのだが」
「そういった話をされたのは、これが初めてではございませんので」

「なんと!」

 こんなことなら、さっさと相談しておけばよかった。

「歴代の魔王達の中にも、人間との共存を目指したものが居たのか。して、その魔王達はどうなったのだ」

 興奮して、つい聞いてしまったが、愚問だと気づく。

「私が知る限り、すべての魔王様方は、勇者に倒されています。こちらから和平を持ち出したところで、勇者達は聞く耳を持ちませぬ」

 そうなのだ。先に勇者達をなんとかしなければ、和平も共存もない。
 俺は、自分が考えている計画を、ブランに打ち明けてみた。

「なんと! そのようなご計画を!」

 うむ。今度は驚いてくれた。

「どう思う。上手くいけば、勇者達を殲滅せんめつできる」
「なんと大胆な。しかし、成功する保証はありませんぞ」

「たしかに、保証はない。しかし、やってみる価値はあると思わないか」
「うーむ。しかし、そのあとのことは考えておられますか?」

 さすがブランだ。俺も、そこに懸念はある。

「具体的な案はまだないが、勇者さえ殲滅せんめつしてしまえば、あとは時間をかけて、どうとでもなると考えている」
「心配です。フルグラ様は、少しアレでございますから、非常に心配です」

 アレってなんだ。

「お前の協力が必要だ」
「フルグラ様が、やるとお決めになったのであれば、喜んで協力いたします」

 ブランは最終的には、俺の言うことを聞いてくれる。それはありがたいのだが、実は、心中穏やかじゃなく、不満を溜めているのではないだろうかと心配になる。

 俺は魔王城の外へとワープし、カッカに声をかけた。

「これからもっと忙しくなるぞ。大改築だ!」

 俺の改築プランを伝えると、カッカは、その髭面ひげづらに笑みを浮かべた。

「フハハハハハ! それは面白い。吾輩わがはいの大工としての腕が鳴ります」

 本業は大工ではないはずなのだが、楽しそうなので、まあいいだろう。

「いけそうか」
「デスワームが、もっと要りますな」

「好きなだけ集めてもらって構わん。早晩、すべての魔物は魔王城に集結する予定だ」
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