逃げた修道女は魔の森で

千代乃

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シェリルの背中を見送りながら炎は不安だった。
(ちくしょう、人間たちに結界魔術を壊されたせいで外の様子がまったく分からない!シェリルがここで殺されたら、俺はどうなる……!?)
昨夜攻め込んできた人間たちの中に、魔術師が混ざっておりそいつが完全にこの拠点の結界を破壊していた。そのおかげで、これまで拡張していた意識がかまどの中の炎に集約され、始めて自我のようなものが生まれていた。最初おぼろげだったそれは、昨夜シェリルと目があった瞬間にはっきりとしたものになった。
(あの人間達はシェリルを連れて外にでるつもりのようだったな……)
炎は昨夜の様子を思い出していた。
(ここの術式が壊された以上、シェリルがここから離れてもそれで死ぬことはなかっただろうし、俺もここの拠点の結界を維持する必要がなくなったから、シェリルから魔力やら、生命力やらをもらう必要もなくなった)
自分の知りうる情報から、冷静に現状を推察してゆく。しかし、それが正しいという保障もなく、炎はかまどの中で落ち着かず、ぐるぐる回りながら考えていたが、燃料を余計に使うだけだと気づいて動きを止めた。
(俺はこれからどうなるんだ?拠点がつぶされるなら、俺はもうここに必要がないってことだ……俺は自分で動くことはできない……このまま、運命に身をゆだねるしかないのか……?)

昨夜、炎はたくさんの敵意をもつ人間を感知した。結界内では森番と意識を共有しているため、森番は即刻排除に動いた。本来なら魔女であるシェリルも炎が見せる【侵入者】の映像を見て、魔術で援護をするはずなのだが、彼女は魔術を使わないし、あるときから炎の見せる映像すら見ないようになっていた。シェリルはかまどに薪をくべる以上の仕事をせず、そのまま横になって寝てしまった。魔女が機能していれば、森番は敵の魔術師さえ仕留めればよかった。あとの兵士は炎が結界内の森で迷わせるなりできたはずだった。
森番ははなから魔女には期待していないので、とにかく片っ端から敵を排除していっていた。魔術師が炎の結界を壊す作業をしていても、邪魔をする余裕もなかった。そして、とうとう限界が来て持ち場を離れ、人狼族に助けを求めに行った。
(あの女は魔女……なんだよな)
それは間違いなかった。何しろシェリルの魔力を使って、炎はこの拠点を守る術式を維持していたのだから。しかし、シェリルは自ら魔術を使うそぶりすら見せたことがない。命の危機を感じて怯えていた、昨夜でさえ……

炎はようやく巡らせられるようになった思考でシェリルのことを考えた。
炎は一年前に術によって作られたものだった。シェリルの魔力と生命力によって拠点を守る魔術を維持してきた。
しかし炎は自分がどのように作られたのかは知らない。これまで考えたこともなかった。ただ、気づいたときにはこのかまどを中心に、この拠点一帯に術を張っていた。

炎は自分が生み出された後、死にかけていたシェリルを看病していた男がつぶやいていたことを思い出した。
【頼む、死なないでくれよ】
そう、男は言っていた。それはシェリルのためではなく、その男自身のための言葉のようだった。
【お前に今死なれたら困るんだ。俺も責任を取らされる……お前は次の聖女候補なのだから……】

炎も自分の命が有限であることは分かっている。だが、死ぬのは今日でもなければ、明日でもない。もっと先の話だ。
そして、この狭い世界で炎が味方だと期待できるのはシェリルただ一人だった。
(頼むよシェリル。死なないでくれ……そして戻ってきて、俺を助けてくれよ……!)

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