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希望の丘学園の劣等生
1.謎の青年
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モデル、アイドル、プロデューサー、声優等の様々な逸材を育てる超名門校である「希望の丘学園」に、私、出雲優花(いづもゆうか)は、3か月前に入学した。期待に胸躍らせ、自分の将来を輝かしいものにしようという覚悟を持って……。そう、そこまではいいものの、今は絶望のどん底にいる。実は言うと、3日前に、このままでは退学処分になるという伝えを、校長先生直々に受けてしまった。何でかって言われると、理由は大きく分けて2つある。1つ目は、自分の進みたい、進むべき道が見つからない事だ。入学して、本当はすぐに決めなければいけない道を、私は未だに決められずにいる、2つ目は、そもそも選べるような能力すら持ち合わせていないということだ。顔はそばかすだらけ、スタイルも中の下、ダンスも出来ない上に体力も演技力もない。万が一、プロデューサーにはなれる能力があったとしても、プロデューサー学科に入るためには、自分のプロデュースを希望する他学科の生徒が必要なのだ。友達すら片手の指だけで収まるほどの私には、そんな希望は見つからなかった。本当に、唯一の取り柄である勉強の出来だけで希望の丘に入ったのは間違いだったかもしれない。
「はぁ……。」
そんなことを思いながら、中庭のベンチに座りため息を一つ漏らす。今は昼休み中だが、午後からは学科事の授業や実習になるので、私の予定はがら空きになるということだ。最近はもうひたすらに、学園内やその周辺を歩き回って目に焼き付けている。そろそろ、お別れをする覚悟を決めなきゃ…。少しの間だったけれど、この学園にはお世話になった。まだ、ここに居たいという気持ちはあるけれど、どうしようも無いことに目が潤んでくる。せめて、仲良くしてくれた人達にはお礼を告げて去ろう。そう思っていた。
「ねぇ、もうそろそろ予鈴なるんじゃない?」
耳元で何者かが囁く。
ん?予鈴がなろうがならなかろうが今の私には一切関係はないのだが…。いや、そういう問題では無さそうだ。不意に声の聞こえた方を向く。
「こんなとこでため息なんかついて、何してんの。授業始まっちゃうんじゃない?」
そこには綺麗で艶のある金髪、惹き込まれるかのような深い蒼の目、光を通すかのような透明感のある肌…
「…そんなに褒められると照れるんだけど、どーも!」
一瞬思考停止する。今回想した事が全て言葉として口から出ていたなら、きっと私は穴があったら入りたい気持ちになるだろう。そこまで考えてやっと気づく。
「……ち、、、近いっ!近いです?!」
その青年の顔は、私の顔とわずか15センチほどの距離しかなかったのだ。
反射的に身を引こうとしたが、座っていた為後ろに転げ落ちた。
「いったぁ……。」
青年は驚いたようにこっちを見ている。こんなに恥ずかしいことは滅多にあることではない。段々顔が熱くなってくるのが分かる。あぁ、なんて不幸なことしか起きないのだろう。こんな事しかないのなら、いっその事フンコロガシに生まれ変わって、動物の糞を転がして生きていったほうがマシだ…。
「ぷっ…あはは!っ、ごめんごめん。驚かせちゃったよね。大丈夫?」
そういって、青年はこちらに手を差し出す。紳士的なその姿は、まるで異国の王子様かのようで、その前に考えていた事なんて、忘れてしまうほどに綺麗だった。
「……ねぇ、立ち上がらないのかな?」
つい見とれてしまって、反応に遅れをとってしまった。目の前の青年は首を傾げる。差し伸べられた手を払うわけにもいかず、有難く取らせていただく。男の子と手を繋ぐような機会は、小学生の時の遠足以来だ。青年は、私の手を優しく掴んだと思うと、強く握り締め、立ちやすいように引いてくれた。まるで少女漫画かのような出来事に、思わず胸が高鳴ってしまう。けれど、私は少女漫画のヒロインのような可愛さも、眼鏡を取ると美人になったりすることもない(そもそもメガネをつけてないし)。そんな現実に戻される。
「て、手を貸して頂き、ありがとうございます。」
人見知りの私でも、流石にお礼はしっかり言うことが出来て安心する。
「どういたしまして!」
青年は笑顔で、そういった。太陽のように眩しく輝いている。褒め過ぎだと言われるかもしれないが、本当にキラキラしているのだ。少なくとも、私の目に写っている青年はそうである。と、そんな事を思っている中、最初に青年が現れた時からずっと疑問に思っていることがあった。やはり、それを無視することは出来ないと思い、思い切って聞いてみる。
「あの…、私は科に所属していなくて…午後からは授業は無いのですが、貴方の方は何故ここに?」
質問するだけだと失礼にあたるかもしれないと思い、最初に青年がしてきた質問に答えつつ聞く。私は勝手に、きっとこの子も私と同じように、自分の道が決められない等の理由で科に入れていないのだろうと思っていた。
「あぁ、俺はさ」
うんうん。分かるよ。心の中で同情する。
「ここには、君に会いに来たんだよ。」
うん?
思っていた回答とは180°違っていた。今日2度目の思考停止状態に入る。目の前の青年が言っていることが理解出来ない。まさか、私は本当に少女漫画の世界に来てしまったのだろうか。だとしたら、神様、これ以上私が思い上がる前に元の世界へとお戻し下さい。
「おーい、聞いてる?」
青年の声にハッとする。私がいつも通り変な妄想で頭の中をパンクさせようとしている時に、青年は真剣に何かを話していたようだった。私は頭にその話し声が入っている訳がなく、キョトンとしてしまう。
「だからね、俺のプロデューサーになって欲しいんだって!」
今回はちゃんと聞いていた。そう、ちゃんと聞いていたはず。なのに、耳に入ってきた青年の言葉は、やはり理解し難い一言であった。
「い、……今なんと…?」
まさかと思い、もう一度確認の為に尋ねてみる。
「出雲優花さん、俺のプロデューサーになって欲しい。」
青年の言葉が頭の中を駆け回る。15年間生きてきた中で、1番の衝撃を受ける。
「……え、ぇぇぇぇえええええええええ?!」自分はこんなにも大きな声が出たんだと、感心するくらいに叫ぶ。その青年は、その時もまた、眩しいくらいの笑顔だった。
「はぁ……。」
そんなことを思いながら、中庭のベンチに座りため息を一つ漏らす。今は昼休み中だが、午後からは学科事の授業や実習になるので、私の予定はがら空きになるということだ。最近はもうひたすらに、学園内やその周辺を歩き回って目に焼き付けている。そろそろ、お別れをする覚悟を決めなきゃ…。少しの間だったけれど、この学園にはお世話になった。まだ、ここに居たいという気持ちはあるけれど、どうしようも無いことに目が潤んでくる。せめて、仲良くしてくれた人達にはお礼を告げて去ろう。そう思っていた。
「ねぇ、もうそろそろ予鈴なるんじゃない?」
耳元で何者かが囁く。
ん?予鈴がなろうがならなかろうが今の私には一切関係はないのだが…。いや、そういう問題では無さそうだ。不意に声の聞こえた方を向く。
「こんなとこでため息なんかついて、何してんの。授業始まっちゃうんじゃない?」
そこには綺麗で艶のある金髪、惹き込まれるかのような深い蒼の目、光を通すかのような透明感のある肌…
「…そんなに褒められると照れるんだけど、どーも!」
一瞬思考停止する。今回想した事が全て言葉として口から出ていたなら、きっと私は穴があったら入りたい気持ちになるだろう。そこまで考えてやっと気づく。
「……ち、、、近いっ!近いです?!」
その青年の顔は、私の顔とわずか15センチほどの距離しかなかったのだ。
反射的に身を引こうとしたが、座っていた為後ろに転げ落ちた。
「いったぁ……。」
青年は驚いたようにこっちを見ている。こんなに恥ずかしいことは滅多にあることではない。段々顔が熱くなってくるのが分かる。あぁ、なんて不幸なことしか起きないのだろう。こんな事しかないのなら、いっその事フンコロガシに生まれ変わって、動物の糞を転がして生きていったほうがマシだ…。
「ぷっ…あはは!っ、ごめんごめん。驚かせちゃったよね。大丈夫?」
そういって、青年はこちらに手を差し出す。紳士的なその姿は、まるで異国の王子様かのようで、その前に考えていた事なんて、忘れてしまうほどに綺麗だった。
「……ねぇ、立ち上がらないのかな?」
つい見とれてしまって、反応に遅れをとってしまった。目の前の青年は首を傾げる。差し伸べられた手を払うわけにもいかず、有難く取らせていただく。男の子と手を繋ぐような機会は、小学生の時の遠足以来だ。青年は、私の手を優しく掴んだと思うと、強く握り締め、立ちやすいように引いてくれた。まるで少女漫画かのような出来事に、思わず胸が高鳴ってしまう。けれど、私は少女漫画のヒロインのような可愛さも、眼鏡を取ると美人になったりすることもない(そもそもメガネをつけてないし)。そんな現実に戻される。
「て、手を貸して頂き、ありがとうございます。」
人見知りの私でも、流石にお礼はしっかり言うことが出来て安心する。
「どういたしまして!」
青年は笑顔で、そういった。太陽のように眩しく輝いている。褒め過ぎだと言われるかもしれないが、本当にキラキラしているのだ。少なくとも、私の目に写っている青年はそうである。と、そんな事を思っている中、最初に青年が現れた時からずっと疑問に思っていることがあった。やはり、それを無視することは出来ないと思い、思い切って聞いてみる。
「あの…、私は科に所属していなくて…午後からは授業は無いのですが、貴方の方は何故ここに?」
質問するだけだと失礼にあたるかもしれないと思い、最初に青年がしてきた質問に答えつつ聞く。私は勝手に、きっとこの子も私と同じように、自分の道が決められない等の理由で科に入れていないのだろうと思っていた。
「あぁ、俺はさ」
うんうん。分かるよ。心の中で同情する。
「ここには、君に会いに来たんだよ。」
うん?
思っていた回答とは180°違っていた。今日2度目の思考停止状態に入る。目の前の青年が言っていることが理解出来ない。まさか、私は本当に少女漫画の世界に来てしまったのだろうか。だとしたら、神様、これ以上私が思い上がる前に元の世界へとお戻し下さい。
「おーい、聞いてる?」
青年の声にハッとする。私がいつも通り変な妄想で頭の中をパンクさせようとしている時に、青年は真剣に何かを話していたようだった。私は頭にその話し声が入っている訳がなく、キョトンとしてしまう。
「だからね、俺のプロデューサーになって欲しいんだって!」
今回はちゃんと聞いていた。そう、ちゃんと聞いていたはず。なのに、耳に入ってきた青年の言葉は、やはり理解し難い一言であった。
「い、……今なんと…?」
まさかと思い、もう一度確認の為に尋ねてみる。
「出雲優花さん、俺のプロデューサーになって欲しい。」
青年の言葉が頭の中を駆け回る。15年間生きてきた中で、1番の衝撃を受ける。
「……え、ぇぇぇぇえええええええええ?!」自分はこんなにも大きな声が出たんだと、感心するくらいに叫ぶ。その青年は、その時もまた、眩しいくらいの笑顔だった。
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