巫女姫はかく語る

境 美和

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女神さまはかく語る

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 神に選ばれた巫女姫が神の使いと共に神事の地で消えてから、一年が経とうとしていた。

 この事態に王と王妃は嘆き悲しみ、やがては、やはり神に嫁いだのだと諦めるようになった。

 

 この日、国は新たな王であるテュターンと隣国リザの王女との婚姻の儀を迎えようとしていた。

 或いは妹姫を失くした為か、テュターンは人が変わったように隣国リザの水害対策や貧困対策に身を捧げるようになり、二国間で行われる和平の元、二つの国が一つにになるに十分な下地作りを行ってきた。そしていよいよ隣国と国を一つにするという時、城の大広間の末席に、ひとり、目深にヴェールを被った女が現れた。

 女は、誰とも知れず新しき王と王妃の前に進み出て、深くその場に傅くと我が王よ、とテュターンに呼びかける。

 その時、不思議な事が起こった。

 白中そこかしこに飾られていた花々が一斉に蕾になり、ついで新たにみずみずしく咲き誇ったのだった。緋色の髪が美しい王妃の纏う真っ白なドレスに細かな文様が浮き上がり、それは見る間に花々へと姿を変えて王妃を一段と着飾らせもした。

 城中が、否、国中が花の都と化したその中で、新たな王となったテュターンに傅いたまま、女はこう言った。



「この千の花の咲き誇る国の建国を祝って、わたくしから新たな加護と幾千もの花を贈りましょう。

 新たな王と王妃よ。

 わたくしの名はプロティシア

 この国を護り安寧に導く者でございます」



 女は垂れていた頭を上げた。

 瞬間、テュターンと王妃とは揃って息をのむ。

 それは、その女の顔は、或いは今は亡きテュティ、神の最後の巫女姫にも、リザを守護する女神のレリーフにも良く良く似ていた。ただ、その女――――女神の髪の色は眩いばかりの黄金で、リザ家の守護女神は黒髪と伝えられていたけれど。

 いつの間にやら、プロティシアと名乗った女神は白い鷹と茶色の髪の少女を連れていた。

 そして、同じく広間の末席に在った若い傷痍軍人の一人の前に進み出ると、その者の手を取り、こう告げた。



「わたくしはあなたと子を成し、この地を永久に守りましょう」



 こうして、ここにダリル家が誕生したのだと、後世にはそう伝わっている。







知られなかった昔ばなしがひとつ

神になった巫女姫は、神に嫁ぐとき己の神の源――――祈りの結晶に新たな命を与え、祖国へと送った。

巫女姫はこうして、砂漠を往く白い鷹、魔術師の傍に在るのだという。
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