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06:ほぼチートな能力を持っています。

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 俺と奏と清香は馬車の中で揺られていた。

「一先ずは安心だな」

 リリスは俺との約束通りロザリオ王国にゲストとして、聖ガブリエル騎士団を守ったことへのお礼を貰うために俺たち三人は馬車の中にいる。

「そうね。これで何か情報が手に入ればいいのだけれど……」
「王国だから何かしら情報は手に入るだろ」
「大きい国ならそれだけ情報が入りやすい場所にある。それにアタシたちが来たのは昨日のことだから何か世界に大きな変化が起きているかもしれないわね」
「あー、確かに。ここがどうしてダンジョンと呼ばれているのかは分からないけど上に行くナニカが現れれば噂にでもなるか」
「それがロザリオ王国の裏側の地域なら情報の入りは遅いでしょうけど」

 俺たちに今必要なものは安息できる場所だ。あの村は散々だったがそれがあれば少しは気持ちの整理もつけれる。

「あの、一つ疑問に思ったことがあります」
「どうした?」

 おずおずと手をあげた清香。

「私達は同時に落とされたのでしょうか?」
「あー、そうか。そういうことも考えられるのか」

 この異世界に同時に地球の全世界の人間が落とされたわけではなく次々と落とされたかもしれないということを言っているのか、清香は。

「でもそれはチュートリアルの小動物から「全人類がこのダンジョンに落ちた」って言われたのよ」
「それは逆に俺たちが最後だったのかもしれないな」
「……そういうこともありえるのね。清香の考えが正しいとして、どうして同時に落とさなかったのかしら?」
「まあそれは分からないな。今思い浮かんだのは同時に落としてしまったらこのダンジョンの容量が大変なことになる、とか? それは落とした何者かしか分からないし全員が同時に落とされたのかもしれないな」
「すみません。余計なことを言ってしまいました」
「そんなことはない。こうして会話をして二人の意見を知りたいし思考を増やして時間が早く進む」
「暇つぶしは会話くらいしかないから清香が気にすることはないわ」
「はい、分かりました」

 こうやって清香が遠慮しなくなってくれればいい。

「スマホもカメラ機能とメモ機能くらいしかないからな」
「現代病ね。すぐにスマホを取り出しているのは。でもスマホの電源を落としていないと充電が切れるわよ。もし何か使う時に困るわ」
「俺は充電できるから大丈夫だぞ」
「……は?」

 ド太い「は?」が奏の口から漏れ出た。

「どういうことかしら……?」
「俺の十二神将には雷を出せる奴がいるからな。それで充電……できる……ぞ?」
「だからアンタの術式すべて説明しなさいって言っていたでしょ!? そんな便利なことができるのならアタシもスマホを使っていたわよ! アタシも現代病はいスマホの電源を付けたわ! この中にある動画や画像で心を癒して時間を潰すわよ! 昨日アンタがスマホを使っていたのはこういうことだったのね! スマホを使っている時にそういうことを言ってくれてもいいじゃない!」
「はい、ごめんなさい」

 俺が気づけなかったせいだから鬼神のごとき顔の奏に素直に謝る。

「私のスマホもよろしいでしょうか……?」
「充電がないのか?」
「はい。昨日充電をし忘れていたので」
「ん? ……いいぞ」

 清香のスマホを受け取って充電を始める。

「ここの文明が発達していなければ俺が充電するか、雷魔法みたいな魔法を習得しないと難しそうだな」
「そうですね。でも文明は発達していないのではないでしょうか」
「どうしてだ?」
「騎士さんたちが連絡手段に使っていたのは魔法の鳥でした。文通のように連絡を送っているのですから文明レベルは低そうですね」
「へぇ、そうだったのか。細かいところまでよく見ていて偉いな」
「あ、はい、ありがとうございます……」

 文明レベルは異世界ファンタジー並みだとは思っているがどうなのだろうか。

「SNSを使えないのは不便ね……」
「それはどうしようもないだろ。使えたら使えたで技術チートだ」
「アンタの術式でどうにかできないの?」
「無茶言うな。そんな神さまみたいなことができるわけ――」

 俺が言いきる前に波夷羅から「できる」と告げられた。

「えっ、もしかしてできるのかしら?」

 ただ波夷羅から伝えられた情報を考えるに非常に使いにくい術式だということは分かった。

「できるのなら私にもしてほしいですね」
「そうね。文明が発達していないのなら便利なのは間違いないわ」

 波夷羅の能力は「再臨」。おそらく一番使わない能力だ。

「……聞いているの?」
「何か考え事をしているのでしょうか……?」

 この「再臨」は対象を生まれ変わらせる能力で、変化させるものによって魔力消費が激しくなる。

 相手を弱くすればいいとか考えるがこれは相手の同意がなければ再臨できない。意思がないスマホなら問題はないしこれは無機物でも可能だ。

 ここで問題なのは「スマホに無条件で通信機能を付ける」ということだ。

 例えばスマホの色を変える、スマホの破損部分を変えるとかなら魔力消費が少なくて済む。

 でも本来必要であったものを無視して必要でなくなるというものは魔力消費が激しくなる。

 人間の体で言えば四肢を直す、破損臓器を修復するは簡単。でも心臓を失くして生きていられる状態にするのは魔力消費が激しい。

 条件を無条件から何かしらの条件を足せばどうにかなりそうだが……三つのスマホをそれで再臨する場合どれくらい魔力がいるのだろうか。

 ……俺の魔力の半分。えっ、それだけならチョーお得じゃん。えっ、なになに、摩虎羅から俺の魔力の半分で三億人くらいの魔力だとか。

 そんなに魔力あるのか、俺。六億人の魔力が俺にはあるのか。へぇ。でもそう考えたら三つだけのスマホなのにかなり魔力を消費するってことか。

 ついでだけど魔力って増えるのか? ……摩虎羅から増えるとの回答を貰った。しかも今の俺は初期状態、Lv1みたいなものだからまだまだ増えるとか。イエーイ。

「よし、やるか」

 やると決めて前を向くと奏と清香が隣から顔を覗き込んでいた。

「ようやくこちらを見たのね。考え込み過ぎよ」
「悪い、少し能力の確認をしていただけだ」
「あの、そこまでお考えになられるのでしたら私のスマホは大丈夫です」
「いやいや、俺と奏だけを通信可能にしてもつまらないだけだって」
「そうよ。このおニートとだけなんて地獄だわ」
「俺は確かにおニートだった。でも今はそんな地位は過去のものだ」
「おニートであった過去はなくならないわよ」

 とりあえず今手に持っている清香のスマホを再臨させることにした。

 どこからか現れた大きな両手によって俺の手ごとスマホが包まれる。

「……これも、術式なのよね?」
「あぁ。これは波夷羅の能力で再臨だ。再構築させる術式で今このスマホを無条件で通信できるようにしている」
「できるんじゃないの。どうして何かを考えていたのかしら?」
「魔力消費が激しいから少し悩んでいたんだ。でも三台なら余裕で行けるぞ」
「それは今三台する必要があるの? 一台ずつやって魔力を回復させればいいだけじゃない?」
「やるなら一気にやった方が面白いだろ。一人だけやっている、一人だけ仲間外れはつまらないと思わないか?」
「そんなことよりもアンタがいないとアタシたちは簡単に死ぬのよ? 面白いだけで考えないでちょうだい」
「大丈夫だ。三台分で使う魔力は半分くらいらしいから」
「半分……いつもの千手でどれくらい使っているの?」

 どれくらいなんだ安底羅。

「……リリスと戦った時も含めて、一割も行っていないらしい」
「あれで!? ……アンタの魔力が多いのか、それとも燃費がいいのか」
「どっちもあるんじゃないのか?」
「前者だけならスマホを作り変えるのはとてつもなく魔力がいるということね」
「そうなるな……できたな」

 両手が離れて消えると清香のスマホが変わりなく見えた。

「はい、スマホの充電も済ませておいたぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「次はアタシね」
「はいはい、奏でからでいいよ」

 奏も同じようにスマホの再構築を行う。

 その間に奏が清香のスマホを覗き込んでいる。

「清香、全くアプリを入れていないのね。SNSアプリも入っていないわよ」
「そ、それは、その……」
「人それぞれだろ。俺はSNSとか入れてるけど見てないぞ」
「気になっただけよ。これはインストールできるのかしら……?」
「できないと困る」

 スマホを「再臨」したことで条件をすべて取っ払っている。だから例えアプリ提供していなくてもインストールできるという状態になっているはずだ。

「……できるわね。問題なくできたわ」
「勝手にやったのか?」
「あっ、ごめんなさい。ついやってしまったわ」
「い、いえ! 入れてくださってありがとうございます! 入れようと思っていましたから!」
「それならいいのだけれど」
「使い方も教えてあげればいい」
「そうね」

 奏が清香に使い方をレクチャーしている間に奏のスマホも再構築が終わり最後に俺のスマホの再構築を始めた。

「終わったのね。ありがとう」
「あぁ。お代は出世払いでいいぞ」
「私のスマホのお代は照耀様を養うことでよろしいですか?」
「それは対価になってないだろ」
「でもこのスマホを地上でも使えば圏外とか関係なく使えるのよね? チートね」
「ま、お代はいらないから連絡先でもくれ」
「あら、もしかして女の子と連絡先を交換するのは初めてかしら? それならちょうどいい対価ね」
「バカ言え。おニートでも女の子と連絡先くらいは交換するわ」
「ホントかしら?」

 クスクスと奏が笑ってくるが俺の発言は事実だ。

 俺と奏と清香はそれぞれ連絡先を交換して、それぞれに連絡できてメールを送れることも確認できたことで、俺たちは技術チートを得ることができたのだった。
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