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始まりの鐘。

オリヴァ―と少女たちの特訓。

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 俺たちは王都から東にある平原で多種のモンスターと遭遇している。今は、硬さだけ言えばランクAにも劣らない甲羅を持ったカメ型の巨体のモンスター、メタートルとカンナと共に戦っている。俺は一撃でメタートルの甲羅を砕き急所を露にし、メタートルの体勢を崩す。

「カンナ!」
「はぁっ!」

 その瞬間俺の後ろにいたカンナに向けて合図を送り、俺のスキル≪魔力武装≫とさっき習得した≪魔力具現化≫で作った剣を持ったカンナがメタートルの下に潜り込み、メタートルの心臓に剣を突き立てる。俺はすぐにメタートルの下敷きにならないようにカンナを抱きかかえてその場を離れる。メタートルはその場に倒れ動かなくなった。

「今のはいい感じだったぞ」
「ありがと。あ、レベル10になった」
「三体目でレベル10か。まぁまぁだな」

 王都に帰る道中、少しだけ寄り道をして、レベルを上げるべくランクBの敵を狩っていた。今のメタートルもランクBのモンスターだ。ランクFでレベル1の彼女たちと俺が倒せば、一気にレベルが上がるのは確かだ。それに戦い方を学ばせないといけない。まぁ、それは自分で模索するとかスキルが発現するとかあるかもしれないからこうしろとか言えない。

 今日、初めてモンスターと遭遇した時は恐怖や驚き、それに単純に剣などの技術不足で戦い方が危うかったが、今は何とかモンスターを殺せる程度には成長している。

「さて、次はミユキだな」
「はい! 頑張ります!」

 腕を丸々隠せるほどの盾を装備している、三人の中で唯一まともな装備をしていたミユキ。ミユキに盾と合わせるように少し長い剣を渡している。盾と腕の間に剣を納めれるように盾を新調してやり、それも渡している。ミユキは他の二人と違い、魔法などを気にしなくても良いステータス的にも性格的にも前衛向きだ。それを彼女自身も最初から理解しているからありがたい。

「あ、何か鳥が飛んでますよ?」
「・・・あれは、確か『プテランド』」

 上空から大きな羽に大きなくちばしが特徴的な紫色の鳥がこちらの様子を伺っている。

「プテランドはそれなりに早く飛ぶ生物だが、風魔法と大地魔法を使う鳥だ。ランクはBBだったか」
「BB・・・私にできますか?」
「できるだろ、俺がいるからな。合図したらしっかりとトドメをさしに行け。俺はトドメをさせる時しか合図をしないから、安心しろ」
「・・・はい、分かりました」

 少し落ち着いた感じでミユキは戦いに臨む。俺は≪魔力武装≫で槍を作り出し、まずプテランドの体をすれすれに通るような軌道で槍を飛ばす。当然プテランドには当たらなかったが、プテランドは挑発と見てすぐにスピードをつけてこちらに突撃してくる。距離が良い程度になった瞬間を狙い、俺は槍を両手に持ち、二本の槍を同時に投げる。二槍はプテランドの両羽に当たり、勢いが殺されたプテランドはちょうど俺たちの前に来るような場所に落ちようとしている。

「ミユキ!」
「はいっ!」

 プテランドは地面には落ちているが、威力をまだ殺し切れていないため地面を滑っている。そのタイミングで俺は合図を出した。ミユキは俺の意図に気が付いたのか、威力を殺し切れていないプテランドを盾で受け止めて、その首を長剣で切り落とした。

「ふぅ・・・あ、レベルが11になった!」
「今ので11か。それなりに上がるな。さっきの盾で受けたのは、よく逃げなかった。良かったぞ」
「本当ですか!? ありがとうございます」

 最初はレベルが上がりやすいから、達成感が出ているだろう。

「次はモモネだな」
「分ってるし」

 カンナ・ミユキ・モモネの順にレベルを上げている。一人一体ずつモンスターを倒して行っており、今は三週目だ。それぞれのレベルはカンナが10、ミユキが11、そしてモモネが7となっている。

「二個目の魔法詠唱は大丈夫だな?」
「当たり前!」

 カンナとミユキは接近戦を主体としているが、モモネはその魔力の高いステータス上、接近戦ではなく魔法を主体とした戦闘方針を取っている。モモネには魔法の才能もあったことから、一週目と二週目は魔法でモンスターを倒した。

「さて、次は・・・ん?」

 どのモンスターにしようか探していると、少し遠くからこちらに集団で来ているモンスターたちを発見した。視力を強化してそっちを見ると、手足が短いが全長が長いトカゲのような表面と目を持っている『アイグアナ』だった。

「ちょうどこっちに来ている『アイグアナ』しよう」
「あ、アイグアナ? 何それ?」
「集団で行動しているトカゲを大きくした姿をしているモンスターだ。その視力の良さからそう呼ばれている」
「へぇ・・・この距離からでも見えるわけ?」
「あぁ、こっちに狙いを定めて約100体の集団がこちらに来ているぞ」
「・・・そのモンスターのランクって、どんくらいなん?」
「『アイグアナ』は個体だとBランクだったが、集団で行動する習性からAランクに該当するな」
「・・・それって、かなりまずくない? あたしの魔法で倒せるの?」
「今の魔力はいくつだ?」
「413」

 413か。Aランクを魔法で倒すのなら、魔力は少なくとも1000は欲しいところだ。

 俺はステータス画面からスキル一覧を開き、その中から魔力を受け渡しできるスキルがないか探す。このスキル一覧は欲しいスキルがどういうものかと思い浮かべるだけで、そのスキルだけが表示される。そして表示されたスキルは≪魔力付与≫というものであった。

『≪魔力付与≫・・・自身の魔力を人や物に付与することができる。魔力量は自由に操作できる。ただ、その器に見合った魔力量でなければ器は壊れてしまう。消費スキルスロット1』

 この説明を見れば、俺が魔力量を調整しないといけないということになる。微調整をしていては、アイグアナの集団が来てしまう。これをすぐに操作できるスキルは何かないか?

『≪潜在力感知≫・・・半径100mの範囲にいる人や物の潜在力を測る。消費スキルスロット1』
『≪神眼≫・・・見たいものをすべて見ることができる。消費スキルスロット30』

 ・・・≪神眼≫はやめた方が良いな。今は必要ないし、30も消費するのなら消費スキルスロット1の≪潜在力感知≫の方がまだ良いか。

「アイグアナが来てるよ!」

 カンナの言葉に、すぐに≪魔力付与≫と≪潜在力感知≫を習得し、モモネの肩に手を乗せる。乗せた拍子にモモネの潜在力を確認すると、魔力を10000も送れることが分かった。これなら十分にアイグアナを倒せなおかつ、これほどの潜在力があるとは驚きだ。

「今からモモネに魔力を送る。俺の魔力分を上乗せと上級魔法を放てば倒せる。良いな?」
「上級魔法? ・・・うん、分かった」

 視力強化をしなくても見える範囲にいるアイグアナを前に、モモネは目を閉じ、魔法詠唱を唱える態勢に入る。それに乗じて俺はモモネに魔力をジワジワと送る。最初は何ともなかったモモネが少しすると顔を赤くして吐息を荒くしていた。

「っ! なに、これ。身体が、熱い」
「俺が潜在力ギリギリの魔力を送っているからな。それよりも今から魔法を唱えないと間に合わなくなるぞ」
「分ってるし! 後で覚えときな!」

 俺の方を赤くしている顔で睨めつけてきても、何も怖くない。むしろ強気な女が恥辱にまみれた顔をしているともっとイジメたくなる。

「『正義の炎よ、我が呼び声に応えよ! 罪人の業を煮やす炎をその手に受けることを許したまえ。されば罪人は渦巻く炎の牢獄に囚われ、極熱の炎により一切を天上へと帰す』。『フレイム・クライシス!』」

 アイグアナの群れを覆う渦巻く炎が現れ、中にいるアイグアナを逃げられないようにして外から焼き尽くしている。これは上級魔法の『フレイム・クライシス』。俺が念のためにと教えていた上級魔法だ。炎は離れていてもその熱さを感じさせるほどの火力であり、アイグアナの群れを一瞬にして燃やし尽くしてすべてを灰にしていた。上級魔法ということもあるだろうし、俺の魔力も相まっているのもあるだろうが、そもそもこの魔法は本来こんな威力を発揮しないはずだ。変な方法で魔法が発動してしまったようだ。

「す、すご――」

 モモネは炎の威力の感想を言い終える前に、後ろに倒れそうになった。しかし、俺はそれをしっかりと受け止めて倒れることを防いだ。

「「モモネ!?」」

 二人が意識がないモモネの元へと駆け寄ってきた。

「大丈夫だ。魔力を使いすぎて意識を失っただけだ。モモネには申し訳ないが、時間がもったいない。このままここで寝かせて、次に行くぞ」

 俺は容量拡張袋から枕を出し、モモネを地面に寝かせる。ミユキはモモネのことが心配なのか、それに異を唱えようとしてきた。

「で、でも・・・」
「お前らが心配したところで、モモネは魔力を回復するまでしばらく起きない。それよりもレベルを上げて今後何があっても対処できる力を身に着けるほうが先だろう。良いな?」
「分かった、続きを始める。次は私から」
「はい・・・分かりました」

 カンナは俺の意見に何も文句はないようだが、ミユキはモモネのことが余程心配なようだったが、文句はなさそうだった。

「よし、次を始めるぞ」



 ぶっ通しで戦い続けること数十時間後、すでに日は落ち俺たちはまた夜営をしていた。俺とカンナとミユキで今後のことについて少し会話していたが、その最中、モモネが目を覚ます声が聞こえた。

「う・・・ん」
「起きたか?」
「・・・ここ、どこ? なんであたし・・・」
「ここはまだ平原で、魔力切れで眠っていたんだ」

 あれから結局モモネは起きることはなく、今起きた。ようやく魔力が全開になったんだろう。

「大丈夫、モモネ?」
「どこも何ともない?」
「うん・・・大丈夫。少し怠いくらい」

 ミユキがモモネに『アマスギルン』を煮だしたハーブティを渡して一息つかせる。

「ふぅ、美味しい・・・・・・それよりも、あの魔法かなり疲れる。て言うか、上級魔法ってどれもあんなに消費するものなの?」
「いや、それはない。そもそもあの魔法はあんな威力じゃないしな」
「どういうこと?」
「あれは魔法を放つ時に無意識に俺が付与した魔力を無理に吐き出そうとしたから、自身の魔力も根こそぎ吐き切ってしまったんだ。その結果、あんな炎の威力となり、気絶することになったんだろうな」
「そういうこと・・・気絶なんて初めてした」
「魔力保有量を超える魔力消費魔法を使おうとすれば、さっきみたいに気絶するか発動しないかのどちらかだ。覚えておくといい」
「ん、分かった。・・・あ、二人はどれくらいレベルが上がったん?」

 やはりそこが気になるのか、モモネは二人のレベルを聞いている。

「私はレベル32。頑張った」
「私はレベル28だよ」

 カンナとミユキのレベルは駆け出し冒険者が一日で到底上げれないレベルへとなっていた。目標のレベルは特になく戦い続け、できる限りレベルを上げることを念頭に置いていた。最低限Bランク以上のステータス値へとなればいいと思っていた。

「そんなに上がったんだ」
「お前はどうなんだ、モモネ」

 俺の言葉にモモネは自身のステータスを見るが、ステータスを見て驚いている。

「えっ!? どういうこと?」
「どうした? 頭がおかしくなってステータスが出せなくなったか?」
「そんなわけないじゃん! 馬鹿にしすぎだし! ・・・それよりこれ見て!」
「見れないぞ。やっぱりおかしくなったか?」
「あぁっ! 人を逆なでするようなことを言うなし!」
「悪かった。どうしたんだ?」
「ゴホン、それより、あたしのレベルが34になってるの!」

 驚いていたのはそのことか。別に大したことではなかった。

「今ので34か。だいぶ上がっているとは思ったが、それくらいか」
「え・・・何でそんな知っている風な感じなん?」
「知ってて当たり前だろ。お前は俺の魔力を借りたとは言え、100体ものBランクモンスターを倒したんだぞ? それくらい上がっていても不思議ではない。今日はあれだけ倒しておけば十分だろう」
「そっか、そうだよね。集団でAランクって言ってたんだから、それくらい上がるか」

 彼女は納得しているようだが、そんなことで1日で30付近まで上がることなんてない。俺とパーティを組んでいるということもあるかもしれない。通常、手助けした人にも経験値は行くし、レベルが高い奴の方に経験値が多く行く。だから俺たちのやり方を他のパーティがやってもレベルアップの効率は悪い。俺の場合は、≪闇ノ神の情愛≫のおかげで経験値が一切俺に入らないことで、彼女たちにすべて経験値が行く。だから俺と組んでいけば経験値がごっそり得られるわけだ。だがそれを鑑みてもこれは異常だ。彼女たちの初期ステータスもそうだが、レベルの上がり方も普通じゃない。これは相当やばい奴等を異世界転移させて来たんじゃないかと思っている。

「さっき二人に聞こうとしたが、全員のステータスを聞いても良いか?」

 彼女たちは俺の言葉を素直に聞いて各々のステータスを言ってくれた。
『モモネ Lv.34
 筋力:533
 物理耐久力:1108
 速力:989
 技術力:6750
 魔法耐久力:3789
 魔力:9500』
『カンナ Lv.32
 筋力:3700
 物理耐久力:3575
 速力:3998
 技術力:4095
 魔法耐久力:3305
 魔力:3880』
『ミユキ Lv.28
 筋力:6370
 物理耐久力:7500
 速力:2357
 技術力:4077
 魔法耐久力:6989
 魔力:309』

 3人のステータスを聞いて、飛びぬけていた俺でも少し驚いてしまったと同時に俺と同じやつがいると親近感がわいた。俺がレベル30の時は全部10000は越えていたか。レベル30の時、称号が≪闇の王≫だっけか。≪闇の王≫はステータス値+50000だったから、総合で60000か。

「これってすごいの?」
 モモネがふとした疑問をぶつけてくる。
「あぁ、一般的に言えばすごいことだ。お前らのレベルでそのステータス値は基本的にありえないからな」
「ふぅん。あたしたちのステータス値でのランクはどの辺なん?」
「1000からBランクだから、Bは行っている。だが、大体7000付近からAと認定されることが多いことから、モモネとミユキのステータスの一部だけを見れば、Aに行っているだろう」
「こんなに上がるものなの?」
「上がらない。ステータスの上り幅は人それぞれだが、通常、30までで1000を越えていれば良い方だ。自覚した方が良い、お前らは異常だ。これから着実にレベルが上がっていき、数十人しかいないSランクの域にも必ず行く。果たして、その力が世界を救う力となるか、世界を下す力となるか。そしてその身体で元の世界に戻れるのか。・・・別に怖がらせているわけではないからそんな顔をするな」

 俺の話に、3人がこわばった顔をしてしまっていた。俺という先輩の立場から助言しただけなのだから。

「この話は別に適当に受け流していて構わない。ただ、力を持たないものから見れば、異常というのは自分たちが理解しがたい存在なんだろう。理解できないものは、近づくのではなく離れて恐れる。そのことを理解した上で、普遍の者たちとどう接するかを考えておけばいい」
「・・・それは、実体験?」

 カンナが恐る恐るそう聞いてくるが、別にそう身構える案件ではない。

「あぁ、そうだ。俺も俺以外の人間を理解できなくて失敗した。まぁ、理解していたとしても俺の運命は定められていたから別に良いんだが。・・・さ、この話は終わりだ。さっきまでカンナとミユキとで話していた話の続きをしようか」
「話?」
「いつ王都に戻るかという話をしていたんだが、そのステータス値なら問題ないだろう。俺はここでのレベル上げを1週間くらい想定していたが、1日で終わるとは想定外だったが、問題ない。冒険者登録をしていないと言っていたな?」
「うん、していないよ」

 カンナがそう答えるが、冒険者登録していないものがどうやってゴブリン討伐のクエストを受けたのだろうかと疑問に思った。

「待て。今更だが、冒険者登録していないお前らが何故あんな所にいたんだ?」
「なぜって、それはゴブリン討伐のクエストをしに行っていたからだけど・・・」
「クエストは冒険者登録していないと受けられないはずだが?」
「あのクソ野郎・・・大橋大輝だけ冒険者登録していたから受けれたよ」

 いや、それはない。ゴブリンだろうと一人で行くには最低B以上じゃないと行けないはずだ。駆け出しならパーティで行くことを絶対順守しているはず。

「そいつのランクは?」
「・・・さぁ? 最低ランクじゃない? 登録したばかりだったから」

 なおさら可笑しい。Fなら行けるはずがない。それにあんな遠くの森のクエストを駆け出しに受けさせるか? 考えられる可能性があるとすれば、そのオオハシダイキが偽装スキルを持っている、もしくは受付嬢に催眠スキルを使った。あるいは、ギルドにバカがいたのか、異世界転移者と知ってランクを無視して許可したのか。俺の知ったところではないが、気になるところではある。

「まあ良い。王都・ザイカに帰り、冒険者登録することは構わないな」

 俺の質問に3人は頷いて答える。

「レベルが早くに上がり、ステータス値も申し分ないのは構わない。だが、早くレベルが上がりすぎたことによりお前らは目に見えない経験値、すなわちレベルに見合った場数を踏んでいないことになる。それにスキルの方も覚えないといけない。この世界で生き残りたいなら、ステータス値以外にも、知識・スキル・経験からの技術を身に着け、場数を踏まなければならない。死にたくはないだろう?」
「当たり前じゃん、死にたいなんて思う奴なんているの?」
「なら、ザイカに帰った後でもやることはあるぞ。良いな?」
「当たり前! 死に物狂いでやってやるし!」
「上等」
「はい、分かりました!」

 3人の元気な声を受け、俺もこの元気に応えないといけないと思った。こんなにも人の心に触れたのは久しぶりだ。師匠以来か。昨日のバオル町でもそうだが、最近、人に関して俺にしてはいいことばかりだと思うんだが。何かの前触れかもしれない。
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