異世界転移騎士は、美醜逆転世界で執事となる。

山椒

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騎士と神器

071:騎士と封印の地。②

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 少しだけ憂鬱になりながらも、今日という日が来てしまった。まぁ、俺が約束したのだから行かないという選択肢はないし、ステファニー殿下の借りを返す絶好のチャンスだ。そう思いながら、俺たちは城が建っていた場所に足を進める。

 俺たちと言うのは、俺の他にもフローラさまにルネさま、サラさんにニコレットさん、そしてブリジットの全員が俺に付いてこられているからだ。何故かと言えば、俺が長期間フローラさまたちと離れるのなら、フローラさまたちがついて来るとのことだ。学園の方も休むそうだ。俺としては護衛できる距離におられるから何も文句はない。

「本当に跡形もなく崩れているわね」
「そうですね。何故城の真下に作ったのでしょうか」

 フローラさまの言う通り、城があった場所に近づくにつれて今もまだ瓦礫などが撤去できていない状態が続いているのが見える。こんなにも綺麗に崩れ去っているのに、城の崩壊での死者はいなかったそうだ。ドラゴンが暴れた時でも、俺があれを相手にしていたから重傷者は出たものの、死者はいなかった。

 それでも、国の象徴である城や街の復興は終わっていない。死者が出なかったのは不幸中の幸いだろうが、復興に一体どれくらいの時間がかかるのだろうか。それは俺が気にすることではないか。そもそも俺は創成が一切できない。俺にできるのは破壊のみ。

 城の現状を全員で眺めながら、目的の場所が見えてきた。目的の場所にはラフォンさんとラフォンさんの直属の部下である青髪の双子の女性、それにステファニー殿下と・・・・・・、俺が一番会いたくない俺の元いた世界から召喚された勇者の五人がそこにいた。ハァ、あの場所に行きたくない。そもそもあいつらが行く必要があるのか? 俺がいるだけで十分だろうが。俺の精神を削りに来ているのか? それなら俺は封印されていた場所から一瞬で帰ってくるぞ。

 俺たちがそちらに足を進めると、まず初めにラフォンさんがこちらに気が付いた。ラフォンさんは俺に向けて笑顔で手を振ってきた。俺はそれに答えて手を振り返した。ラフォンさんの行動で他の奴らもこちらに気が付いたようで、一斉にこちらに視線を送ってきた。

 あそこで一番驚いているのは、こちらの世界で初めて会うであろう茶髪でイケメンの男、稲田恒祐だった。あいつは俺の顔を見て目を見開いて固まっている。俺のことは周りの女たちから聞いているだろうに、どうして驚くのだろうか。

「今日はお越しいただいてありがとうございます」
「頭を下げるのはやめてください。それに、さすがに来ますよ」

 俺の元に来たステファニー殿下は頭を下げてきた。俺はそれを止めて、ステファニー殿下は頭をお上げになった。王女殿下に頭を下げさせるとか、どこかのお偉いさんかよ。遠巻きに俺たちの姿を見ている兵士などの復興作業をしている人たちには注目の的である。

「はい、本当にありがとうございます。それよりも、フローラたちはどうしてここにいるのですか? まさか一緒に行くおつもりですか?」
「あら、ステファニー殿下。私たちが一緒に行って何かいけないことでもあるのですか?」

 ステファニー殿下がフローラさまたちの方を見て言うが、フローラさまが前に出てステファニー殿下に問い返した。

「いえ、いけない理由はありませんが、封印の地に行く道のりは様々な危険が待ち受けています。ですから、共に行くことはお勧めしません」
「そこはご心配なさらず。そのためにアユムがいますので」

 俺がいる方が安心というのは、フローラさまも分かっておられるようだ。俺が傍にいなくても、≪騎士王の誓い≫ですぐにフローラさまの元に飛ぶことができるからそんなに心配はない。ただ、≪騎士王の誓い≫ではお助けするまでに時差があるから、やはりそばにいた方が良いという結論に至るわけだ。

「しかし・・・・・・」
「ステファニー殿下、アユムは騎士です。騎士は主が背にいるほど力を発揮するものです。危険ですが、アユムの実力を考えればシャロンたちをそばに置いても問題ないと思われます」

 納得しそうにないステファニー殿下であったが、そこはラフォンさんがステファニー殿下に進言して渋々納得してくださった。ステファニー殿下が言わんとすることは分かる。ラフォンさんですら危険な場所にフローラさまをお連れするなど、本当は危険なのだろうが、フローラさまがそれで納得するわけがない。

「・・・・・・アユム、少し変わったな」
「え? どこか変わりましたか?」

 ラフォンさんに身体の隅々を見られた後に、変わったと言われた。でも、俺のどこが変わったんだ? 特に変わっていないと思うが。

「身体的特徴のことを言っていない。いや、身体的特徴か? どこか雰囲気と言うか、今まで拡散していた力を直したと言った方が正しいか。私がいない間に何かやっていたのか?」

 まさか、一目見ただけで俺が身体を仕上げたことに気が付いたのか。さすがはラフォンさんと言ったところだ。ラフォンさんが言った通り、身体を鍛えたわけではなく、身体を技に耐えれるように元に戻しただけだ。

「少しだけ身体を元通りにしていただけです。あの深紅のドラゴンが再び来ても一撃で倒せるように身体を仕上げました」
「やる気だな。まさか勇者パーティーに入る気になったのか?」
「まさか。冗談はやめてくださいよ。もしもを想定して仕上げただけにすぎませんよ」

 嘘だ。ブリジットがランス帝国の王女の血を引いており、シャロン家が絶対に狙われるという理由があるから、俺は仕上げたに過ぎない。いつどこで誰がブリジットのことを聞いているのか分からないから、ここはブリジットのことを伏せてラフォンさんに説明した。

「そうか。で、ドラゴンを一撃で倒せそうか?」
「深紅のドラゴンが先日遭遇した程度なら、余裕です。他の五頭竜神もあれくらいの強さなのですか?」
「あれを程度で済ませるか、何とも頼もしいものだ。それよりも、他の五頭竜神の強さについてだが、それは分からない。何せ一番近くで五頭竜神が解き放たれたのは数百年も前だ。今生きている人々はその強さを目の当たりにしていないし、誰もその強さを比較しようとはしない。等しく恐れる対象だったからな。だが、数百年前の五頭竜神の被害を比べると、大差はないと七聖会議でその結論に至った」

 解き放たれたのは数百年前になるのか。五頭竜神の解放はそんなに頻繁に起こるものではなかった。それが今になって来てしまったと考えるべきなのか、それは下に行けば分かることか。

「そうですか。それじゃあ――」
「おい、本当にテンリュウジじゃないか」

 俺がラフォンさんに話し続けようとしたが、その横から俺に話しかけて邪魔をしてきた男がいた。その男は稲田であった。稲田はこちらを見てニタニタとした顔をして俺に話しかけてきている。そもそも俺とラフォンさんの会話を邪魔するんじゃねぇよ。

「・・・・・・それじゃあ、五頭竜神は余裕で倒せそうですね。前と強さが変わってなければの話ですけど」
「五頭竜神の強さは各国の王女の血を取り込まなければ変化はないはずだ。数百年前から今まで、王女を喰われたという文献は一つもないから、強さの変動はないだろう」

 俺は稲田と会話する気がなかったから、稲田の方をチラリと見た後ですぐにラフォンさんに視線を戻して会話に戻った。俺の行動に納得したラフォンさんも稲田を無視して俺との会話に戻った。

「おいおいおい、無視することはないんじゃないか? もしかして俺のことを忘れたか?」

 鬱陶しくも、稲田は俺の目の前に移動して存在をアピールしてくる。本当に鬱陶しくてたまらない。こいつは存在を鬱陶しくさせないと生きていけない存在なのか? それに、こいつがちゃんとあいつらの手綱を握っていなかったからこちらに迷惑が掛かったんだ。自覚してんのか?

「何だよ、稲田」
「分かっているなら返事くらいしてくれよ」

 こいつを無視していても良いが、そんなことをすればうざさを悪化させてしまう恐れがあるため、仕方なく返事をする。俺は、あいつらとつながるこいつと接したくないんだよ。早くどこかに行ってくれないかな。

「柚希から聞いていたが、本当にテンリュウジもこの世界に来ていたとはな。まさかお前も勇者として呼ばれたのか?」
「違う。勇者として呼ばれたのはお前たちだろう? 魔王やドラゴンを倒してくれる勇者さま一行」

 稲田の気配で強さを確認したが、こいつは他の勇者よりも弱いな。隠し玉があるのかと疑うくらいに弱く思える。確かにこの世界の王国兵士よりかは何倍も強いが、他の勇者はその何十倍以上強い。本当に勇者として働いてくれるのか疑問の強さだ。俺にその役が回ってこないことを祈っている。

「じゃあ、どうやってこっちに来たんだよ?」
「知らん。勝手に飛ばされていた。そもそもお前には関係のないことだ」
「そんなつれないことを言うなよ。お前も騎士としてこの世界に呼ばれたんだろ? 柚希たちが言っていたぞ。俺のクラウ・ソラスと似たような武器を持っていたってな」

 そう言うと稲田は俺の前で何もないところから刀剣を出現させて俺に見せびらかしてきた。その刀剣をクラウ・ソラスというようだが、クラウ・ソラス特有の白銀ではない。白銀ではなく、白色だな。素材は良いのだろうが、切れ味は悪そうだ。

「この剣を持って俺はこの世界に来たが、お前はどんな剣を持ってんだよ」
「別にお前に見せる必要はない」

 そうだよ、こいつが勇者として呼ばれたんだからこいつが勇者として働いたらいいじゃないか。本人もクラウ・ソラスを持っていると言っているんだから、こいつにやらせればいい。何も俺がやる必要はないだろう。俺はこの世界の誰かに召喚されたわけではないのだから。

「もしかして、俺の剣の方が立派だったから見せるのが恥ずかしいのか? そうだよな、俺の剣は格好いいからな」
「はいはい、そうだな」

 あぁ、鬱陶しい。こいつのことは大して恨んではいないが、それでもこうして絡んできているのが相当うざい。こいつはやたらとマウントを取ろうとしてくるから話したくないんだよ。

「それよりもさ、お前の後ろにいる美人さんたちは誰?」
「・・・・・・美人さん」

 早くどこかに行かないかと思っていると、稲田が俺の近くに来て俺の後ろにいるフローラさまたちをチラチラと見ながらそう聞いてきた。・・・・・・あぁ、そうか。こいつもあちらの世界の感性を持っているから俺と同じフローラさまたちのことを美人と思うのか。こちらの世界に慣れすぎて、一瞬だけ言葉が理解できなかった。

「もしかしてお前の彼女とか? でもそれだと複数いるからな。ハーレムか?」
「何度も言うが、お前に教える必要はない」
「でも、テンリュウジってそんな甲斐性があるわけないから、違うか。だってあんなに可愛い幼馴染がいて手を出さないんだからな」
「はいはい、そうですねー」

 稲田は稲田の後方にいる俺の腐れ縁たちの方を向いてそう言った。あれを可愛いと思えた時期は、もう過ぎた。俺の目には人の皮をかぶった悪魔にしか見えない。そして、こいつは俺のことを何度も小ばかにするが、そうしないと生きていけないのだろう。うん、確信した。久しぶりに会って忘れてた。

「それじゃあ、遠慮なく行かせてもらおっと」

 そう言って俺の後ろにいるフローラさまの元に歩き出した稲田。俺としては止めたいが、フローラさまが目で制してきたから俺は稲田を止めるのをやめた。稲田はフローラさまの前に立ち、喋り始めた。

「初めまして、美しいお嬢さん。俺は異世界から勇者として召喚されたコウスケ・イナダというものです。以後お見知りおきを」

 稲田はフローラさまとの距離を縮めながら自己紹介をした。俺はフローラさまに止められているから何もしないが、フローラさまに止められてなかったら稲田を吹き飛ばしているぞ。

「どうですか? これが終われば俺とお食事にでも行きませんか? あなたがよろしければ、今後良い関係を作りたいと思っています」

 そう言った稲田がフローラさまの手を取ってフローラさまの手に口づけしようとしている。さすがにダメだろうと俺が止めに入ろうとするが、その前にフローラさまが稲田の手を払いのけて稲田の頬を殴った。

「恥を知りなさい、下賎のものが」

 フローラさまの拳を受けた稲田は、本当に不意だったようで後ろに倒れ込んだ。フローラさまの腕力は女性として弱いものではないが、倒れ込んだ要因は不意だったというところが大きいだろう。フローラさまはいつも平手打ちではなく拳なんだな。

「・・・・・・えっ?」
「いつ私が触って良いと許可を出したの? 私に触れるなんて、万死に値するわ。あなたはそこで一生這いつくばっていなさい」

 唖然としている稲田にフローラさまが見下しながら稲田に言葉を投げかけた。さすがはフローラさまだ、俺が手を出さなくても解決してしまった。そう思っていると、フローラさまが俺を睨んでこられた。

「アユム、あなたもあなたでどうしてすぐに助けに来なかったの?」
「え、それはフローラさまが――」
「そうだったとしても、私よりも先に行動するのが騎士でしょう? 何をしていたのかと聞いているの」
「ただ見ていただけでした。申し訳ございませんでした」

 ふぅ、フローラさまの行動が早かったとか言い訳をするより、素直に謝っていた方が良いだろう。だからこいつらと関わりたくないんだよ。良いことなんて一つもないんだから。

「ッ! このクソアマが! こっちが良い顔をしていたら調子に乗りやがって!」

 我に返った稲田が起き上がってフローラさまに掴みかかろうとしてきた。俺はフローラさまに何か言われる前に、フローラさまと稲田の間に入り、さっきの鬱憤も込めて顔面がぐちゃぐちゃになるくらいの力で稲田の顔を殴ろうとした。だが、稲田の後ろに前野妹が現れて稲田を止めた。

「やめてコウスケ。これ以上すると大変なことになるよ」
「・・・・・・そうだな。俺がこれ以上するとテンリュウジを含めてそこの女たちが表通りを歩けない顔や身体にしてしまうからな」

 前野妹の言葉を変に勘違いした稲田。この男は、自分が俺より強いと疑っていないようだ。だから俺の前で平気な顔でフローラさまを痛めつけようとしたと堂々と言えるんだな。少しは自分の実力を自覚したらどうだろうか。そうでなければ、不意に後ろからぐちゃぐちゃにされるかもしれないぞ?

「この世界で生きていく中でせっかくの男ができるチャンスだったのに、不意にしたな。今なら土下座して謝れば許してやっても良いぞ?」
「あら、勇者でも冗談を言うのね。それもとびきり面白くも何ともない冗談。そんなことしか言わない口なら、縫い付ければ?」

 フローラさまと稲田の言い合いがヒートアップしそうだ。結局悪いのは稲田だから、こいつだけぶっ飛ばせばよくないか? こいつが何もしてこない無害な奴ならこんなことにはならなかった。

「いい加減にしろ、お前たち。こんなところで争っている場合ではないだろう。今は仁器を取りに行くことが第一目的だ」

 二人がヒートアップする前に、ラフォンさんが止めに入った。さすがにラフォンさんが止めに入ったことでフローラさまと稲田はそれ以上何も言うことはなくなった。だけど、俺としては稲田だけを咎めてほしかった。そうすればまとめて勇者たちがどこかに行かないかなと思った。ただそれだけだ。

「ステファニー殿下も行かれるのですか?」

 俺はふと動きやすい服装をしているステファニー殿下を見て一緒に行くのかとラフォンさんに尋ねた。フローラさまが行くことに反対していたのに、当のご本人である王女殿下はどうなのだろうか。

「あぁ、行かれるぞ。むしろこの中で一番行かなければならないのはステファニー殿下だ。深紅のドラゴンが封印されていた場所には王家の血筋が入ったものでないと開かない扉があるらしく、そこにステファニー殿下が自ら名乗り出て行かれることとなった」

 そうなのか。封印されていた場所は破壊されてるのに。俺一人で空いている大穴から落ちて、対となる神器を回収すれば早そうだけど、戻るのが大変そうだ。

「それでは皆さん、封印の地へと参りましょう」

 ステファニー殿下の言葉で俺たちは十五人という大所帯で封印の地に向かうこととなった。本当に多いな。勇者たちいるのか? 勇者が使い物にならないのだから俺がいるんだろうが。

 そう思いながら、俺たちはお城があった瓦礫だらけの場所を歩き、地下へと進む道が瓦礫の下から出てきた。薄暗いその地下へと続く道に、俺たち十五人は足を踏み入れた。
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