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第八話
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休みだと言うのに、拓也が静江の運転する車で迎えに行った時、光子は制服であった。
「……まさか、私服持ってねぇ……とか言わねえよな?」
「失礼ですね」
恐る恐る後部座席に並んで座っている時に訪ねると、キツと睨まれてしまった。曰く、警察の一組織の本部に向かうんですから、こちらのほうが正解かと思いまして。つらつらと返ってきたのはそんな優等生の鏡たる返答だった。
思わず拍手する。運転している静江も感心し、溜息を漏らした。光子は真っ直ぐと背筋を正して座って、拍手する拓也に視線だけをちらと向ける。
「……初めて来た時もそんな感じの服装でしたけど、いいんですか、本部に行くんでしょう?」
「んんん?」
拓也は言われて拍手を辞め、自分の姿を見下ろした。いつものように黒を基調とした、ソフトパンクファッションである。学校ではしていなかった指輪もじゃらじゃらと復活し、ブーツも蹴られたら痛そうな堅さと形をしている。横に置いてあるバッグも、くたりとした斜めがけの黒いショルダーバッグだ。
拓也はへらっと笑った。
「これが俺の制服なんだよ」
途端に、光子が胡散臭い物を見る目に変わった。ごめんごめんと軽い口調で謝罪する。
銀色の蛇が自分の尻尾を飲み込んでいる指輪を取り外して、光子の前に掲げて見せた。しっかりと見るように促すと、光子は眼鏡を上げつつ顔をこちらに向けて、じっと指輪を見る。
ツンなんだか素直なんだか、やっぱちょっと天然だ。拓也は思わずこみ上げた笑みを噛み殺し、光子によく見せる為に指輪を裏表をひっくり返した。
「種も仕掛けもあるんだけど、例えばこの指輪。このピアスからベレッタ出したの、見たよね?」
「はい。これも銃になるんですか?」
拓也は悪戯をする前の様に笑い、おふぃりすん、と呟いた。
呟いた瞬間、蛇がぶるりと震えて咥えていた自らの尻尾を離し、仄かに輝きながら見る見るうちに膨らんで、蛇の交じった模様が彫り込まれている鞘のナイフへと変化した。光子の狐目の瞳が丸くなる。
すら、と抜けば怪しく光を弾くダガーナイフが姿を見せる。曇り一つないそれに自分の姿が写り込み、光子は前のめりになっていた体をびくりと後ろに引いた。
「ああ、ごめん、怖いよな」
慌てて鞘に戻し、ふろいぞん、と呟いて元の指輪に戻して指にはめた。光子は緩く首を振り、大丈夫ですと言うと引いていたぶんまた体を前に出して元に戻り、じいと拓也の両手を見た。その姿に好奇心が見えて、拓也はよく見えるように両手を並べて広げてやる。
合計して五つ、黒い石や青い石がはまったもの、先程の蛇の様なものからつるりとしている中にワンポイント模様があるものまで、それぞれが滑らかな銀色に輝いている。
「唱えてるのは、一応ドイツ語。うちにいっぱいあるのを五個まで付けてる。ピアスは今付けてるのしか持ってねえな、ウォレットチェーンも使えるけども、これ以上は企業秘密」
「……凄いですね」
「なぁー?これが俺の制服だろ?」
そう言いながら、またへらと笑う。一瞬納得しかけた光子だったが、直ぐにまた胡散臭い物を見るように眉根を寄せて体を起こし、真っ直ぐと座りなおした。
でも殆ど趣味でしょう。ズバと言われて拓也が肩を落とす前に、くすくすと静江が笑った。その通りだ、拓也も後部座席に深く座り直し、開き直る。
「いいんだよ、うちは自由なんですぅ。私服の方が地下活動しやすいのは確かだしな」
「そうだけど、拓也くんのは悪目立ちするよ。光子ちゃんお待たせ、到着したよー」
ぐるりとハンドルを回した先は、一見するとただのオフィスビルだった。静江が駐車場に車を停めてくるからと、拓也と共に先に下ろされた光子が物珍しそうにビルを見上げる。作りは新しく、本当にただのオフィスビルだ。確かに光子が住む街には無い、都心の方にあるオフィス街ではよく見られる外観である。見上げるほど高く、一階にはカフェがある。
俺も最初に来た時はそうだったな、拓也は幼き日を思い出す。拓也も初めて来た日、光子と同じようにぼんやりとビルを見上げた。
「俺もね、丁度両親が死んだばっかりの時にここに来たんだ。マジ、死んで半月ぐらい」
「えっ……」
驚く光子の言いたい事はわかる。光子は、源次郎が拓也の養父だとは知らない。三十代後半の源次郎は若いが、無理をすれば童顔の父親に見えるのかもしれない。
「七歳になる前かな、交通事故でね。柴田源次郎は、俺の母さんの弟」
途端に光子が、悪い事を聞いてしまった様な表情をする。何らかの謝罪の言葉が出る前に、拓也は思いっきり光子の背中を叩いた。
「いっ……!」
「もう十年も前の話!今はしばたげんじろーが、俺の父さん!」
ぎっと睨みあげてくる光子の涙目に、思ったより力を入れていたかと焦る。罪悪感が芽生えることを阻止するのは成功したが、ちょっと不味かった?そう思っていると後ろから、じとりとした静江の声が聞こえた。
「そんな指輪した手で叩いたら痛いよ、っていうか女の子叩いちゃ駄目だよ」
ああ、と光子を叩いた右手を見れば指輪が三つ、ごつごつと鈍い銀色に輝いている。こ
「……すみませんでした」
「もう!ごめんね、光子ちゃん!背中大丈夫?」
「大丈夫です」
静江が光子を労わりつつ、ビルに入るのに拓也も溜息をついて続いた。そのまま静江が受付と会話を交わすのを、少し離れた位置で並んで待っているとき、ちらと光子を見ると光子も拓也を見上げていて、思い切りばちりと目があった。
痛みはもう本当に大丈夫で、それに対する怒りも一切ないらしい。その目は今までで一番真っ直ぐと、柔らかく拓也を見てくれている気がした。
「……私も……亡くなった祖父母が、今は私の両親です」
ややこしいですけど、そう首を傾げつつ顔を伏せる光子に、拓也は深く深く、自分の過去を言ってよかったと思った。
外が見えるタイプのエレベーターでぐんぐんと上に上がり、最上階より二つ下で下ろされる。一階のロビーは、受付と数人の業者らしき人物ぐらいでしんとしたものだったが、広い廊下には十人ほどのこどもが忙しなく、ばたばたはしゃぎ走り回っていた。
エレベーターが開いた瞬間、何人かがこちらに気付いてぴたりと止まり、おはよおございます、と叫ぶ。すると、気付いてなかった子達も拓也達の方へ次々と振り向き、おはよおございますを元気に投げかけてきた。その元気の良さに、思わず三人とも笑みがこぼれる。拓也が手を挙げ、挨拶を返す。
「はい、おっはよーございまーす。朝からほんと元気だな、お前ら」
「この子達は……」
またわらわら、ある子は拓也に駆け寄って撫でて貰い、ある子は何処かの部屋に入って行き、まさに蜘蛛の子を散らすように動き出したこども達に走らないよう注意しつつ、静江が光子の問いに説明する。
「ここは光子ちゃんと同じ、力を持った子をスカウトして訓練する所なの」
「訓練?」
「そう!だいたい高校生くらいまでの子がここに、おうわあ」
ついにどすんとこどもが一人、静江にぶつかって会話が盛大に崩れた。ごめんなさい!と即座に謝罪したのは、やっと少女と呼ばれるようになったであろう幼いその子で、はしゃいだせいかセミロングの髪はぴんぴんと乱れている。空色のふわふわとしたワンピースに身を包んでいるが、甘いデザインを着ていても膝小僧の絆創膏のせいか、活発さがにじみ出ている。
可愛らしく頭を下げ顔を上げた瞬間、少女を見た光子がえっ!と短く驚いた声を上げた。
「汐織ちゃん?」
「あ、ミツねーちゃんだ!」
「知り合いなの?」
静江の問いに、光子が驚いた様子で頷く。それににこやかに少女、汐織が答えた。
「私の兄ちゃんと、小学校んときと中学校んときの同級生なんだ!そんでね、家近所だからミツねーちゃんのおばーちゃんに、ジャム貰ったりしてたの!」
両手を上下させながらのじたばたした説明に、静江がそうなんだあと深く頷いた。その横で見ていた拓也が呆れたように、しずえさあんと言いつつ頭をかく。
「人喰い鬼の手鏡の封印が緩んだ時、森の方がちょっとおかしいって言ってくれたの、しぃとその友達でしょ?そん時同じ説明してたじゃんか」
そうだった!静江はしまったと眉をハの字するが、直ぐに笑顔で光子に向き直る。
「あ、その次の日に光子ちゃんに会いに行ったんだよ」
光子は汐織を未だに信じられない表情のまま、頭をことりと斜めに倒した。
今まで、光子にとって自分以外に見えるのは祖父母の他には拓也達だけだった。拓也達との出会いも衝撃だったのに、思わぬところから日常が崩れている。ここにいるということは、そういうことなのだろう。けれど訪ねるのに緊張して、喉が渇いた。常識が崩れて行く。
「み……見える、の?……汐織ちゃん」
光子の戸惑いなど露知らず、汐織はまたぱあと笑って大きく頷いた。正解を言って貰えた、まさにそんな笑顔だった。
「幽霊とか妖怪とか?見えるよ!お兄ちゃん達はちょぴっとだけ!あとねえ、いっちゃんとノブも見えるよ」
その笑顔を、光子は眩しい物を見るように何度もまばたきした。
まばたきを繰り返し、小柄な光子よりもう少し背の小さい汐織の両腕に手を伸ばす。きゅうと掴んでも、眩しい汐織は消えない。変わらぬ純真無垢な笑顔で光子を見上げている。丸い汐織の瞳には、光子がきらきらと映って見えた。
「……まさか、私服持ってねぇ……とか言わねえよな?」
「失礼ですね」
恐る恐る後部座席に並んで座っている時に訪ねると、キツと睨まれてしまった。曰く、警察の一組織の本部に向かうんですから、こちらのほうが正解かと思いまして。つらつらと返ってきたのはそんな優等生の鏡たる返答だった。
思わず拍手する。運転している静江も感心し、溜息を漏らした。光子は真っ直ぐと背筋を正して座って、拍手する拓也に視線だけをちらと向ける。
「……初めて来た時もそんな感じの服装でしたけど、いいんですか、本部に行くんでしょう?」
「んんん?」
拓也は言われて拍手を辞め、自分の姿を見下ろした。いつものように黒を基調とした、ソフトパンクファッションである。学校ではしていなかった指輪もじゃらじゃらと復活し、ブーツも蹴られたら痛そうな堅さと形をしている。横に置いてあるバッグも、くたりとした斜めがけの黒いショルダーバッグだ。
拓也はへらっと笑った。
「これが俺の制服なんだよ」
途端に、光子が胡散臭い物を見る目に変わった。ごめんごめんと軽い口調で謝罪する。
銀色の蛇が自分の尻尾を飲み込んでいる指輪を取り外して、光子の前に掲げて見せた。しっかりと見るように促すと、光子は眼鏡を上げつつ顔をこちらに向けて、じっと指輪を見る。
ツンなんだか素直なんだか、やっぱちょっと天然だ。拓也は思わずこみ上げた笑みを噛み殺し、光子によく見せる為に指輪を裏表をひっくり返した。
「種も仕掛けもあるんだけど、例えばこの指輪。このピアスからベレッタ出したの、見たよね?」
「はい。これも銃になるんですか?」
拓也は悪戯をする前の様に笑い、おふぃりすん、と呟いた。
呟いた瞬間、蛇がぶるりと震えて咥えていた自らの尻尾を離し、仄かに輝きながら見る見るうちに膨らんで、蛇の交じった模様が彫り込まれている鞘のナイフへと変化した。光子の狐目の瞳が丸くなる。
すら、と抜けば怪しく光を弾くダガーナイフが姿を見せる。曇り一つないそれに自分の姿が写り込み、光子は前のめりになっていた体をびくりと後ろに引いた。
「ああ、ごめん、怖いよな」
慌てて鞘に戻し、ふろいぞん、と呟いて元の指輪に戻して指にはめた。光子は緩く首を振り、大丈夫ですと言うと引いていたぶんまた体を前に出して元に戻り、じいと拓也の両手を見た。その姿に好奇心が見えて、拓也はよく見えるように両手を並べて広げてやる。
合計して五つ、黒い石や青い石がはまったもの、先程の蛇の様なものからつるりとしている中にワンポイント模様があるものまで、それぞれが滑らかな銀色に輝いている。
「唱えてるのは、一応ドイツ語。うちにいっぱいあるのを五個まで付けてる。ピアスは今付けてるのしか持ってねえな、ウォレットチェーンも使えるけども、これ以上は企業秘密」
「……凄いですね」
「なぁー?これが俺の制服だろ?」
そう言いながら、またへらと笑う。一瞬納得しかけた光子だったが、直ぐにまた胡散臭い物を見るように眉根を寄せて体を起こし、真っ直ぐと座りなおした。
でも殆ど趣味でしょう。ズバと言われて拓也が肩を落とす前に、くすくすと静江が笑った。その通りだ、拓也も後部座席に深く座り直し、開き直る。
「いいんだよ、うちは自由なんですぅ。私服の方が地下活動しやすいのは確かだしな」
「そうだけど、拓也くんのは悪目立ちするよ。光子ちゃんお待たせ、到着したよー」
ぐるりとハンドルを回した先は、一見するとただのオフィスビルだった。静江が駐車場に車を停めてくるからと、拓也と共に先に下ろされた光子が物珍しそうにビルを見上げる。作りは新しく、本当にただのオフィスビルだ。確かに光子が住む街には無い、都心の方にあるオフィス街ではよく見られる外観である。見上げるほど高く、一階にはカフェがある。
俺も最初に来た時はそうだったな、拓也は幼き日を思い出す。拓也も初めて来た日、光子と同じようにぼんやりとビルを見上げた。
「俺もね、丁度両親が死んだばっかりの時にここに来たんだ。マジ、死んで半月ぐらい」
「えっ……」
驚く光子の言いたい事はわかる。光子は、源次郎が拓也の養父だとは知らない。三十代後半の源次郎は若いが、無理をすれば童顔の父親に見えるのかもしれない。
「七歳になる前かな、交通事故でね。柴田源次郎は、俺の母さんの弟」
途端に光子が、悪い事を聞いてしまった様な表情をする。何らかの謝罪の言葉が出る前に、拓也は思いっきり光子の背中を叩いた。
「いっ……!」
「もう十年も前の話!今はしばたげんじろーが、俺の父さん!」
ぎっと睨みあげてくる光子の涙目に、思ったより力を入れていたかと焦る。罪悪感が芽生えることを阻止するのは成功したが、ちょっと不味かった?そう思っていると後ろから、じとりとした静江の声が聞こえた。
「そんな指輪した手で叩いたら痛いよ、っていうか女の子叩いちゃ駄目だよ」
ああ、と光子を叩いた右手を見れば指輪が三つ、ごつごつと鈍い銀色に輝いている。こ
「……すみませんでした」
「もう!ごめんね、光子ちゃん!背中大丈夫?」
「大丈夫です」
静江が光子を労わりつつ、ビルに入るのに拓也も溜息をついて続いた。そのまま静江が受付と会話を交わすのを、少し離れた位置で並んで待っているとき、ちらと光子を見ると光子も拓也を見上げていて、思い切りばちりと目があった。
痛みはもう本当に大丈夫で、それに対する怒りも一切ないらしい。その目は今までで一番真っ直ぐと、柔らかく拓也を見てくれている気がした。
「……私も……亡くなった祖父母が、今は私の両親です」
ややこしいですけど、そう首を傾げつつ顔を伏せる光子に、拓也は深く深く、自分の過去を言ってよかったと思った。
外が見えるタイプのエレベーターでぐんぐんと上に上がり、最上階より二つ下で下ろされる。一階のロビーは、受付と数人の業者らしき人物ぐらいでしんとしたものだったが、広い廊下には十人ほどのこどもが忙しなく、ばたばたはしゃぎ走り回っていた。
エレベーターが開いた瞬間、何人かがこちらに気付いてぴたりと止まり、おはよおございます、と叫ぶ。すると、気付いてなかった子達も拓也達の方へ次々と振り向き、おはよおございますを元気に投げかけてきた。その元気の良さに、思わず三人とも笑みがこぼれる。拓也が手を挙げ、挨拶を返す。
「はい、おっはよーございまーす。朝からほんと元気だな、お前ら」
「この子達は……」
またわらわら、ある子は拓也に駆け寄って撫でて貰い、ある子は何処かの部屋に入って行き、まさに蜘蛛の子を散らすように動き出したこども達に走らないよう注意しつつ、静江が光子の問いに説明する。
「ここは光子ちゃんと同じ、力を持った子をスカウトして訓練する所なの」
「訓練?」
「そう!だいたい高校生くらいまでの子がここに、おうわあ」
ついにどすんとこどもが一人、静江にぶつかって会話が盛大に崩れた。ごめんなさい!と即座に謝罪したのは、やっと少女と呼ばれるようになったであろう幼いその子で、はしゃいだせいかセミロングの髪はぴんぴんと乱れている。空色のふわふわとしたワンピースに身を包んでいるが、甘いデザインを着ていても膝小僧の絆創膏のせいか、活発さがにじみ出ている。
可愛らしく頭を下げ顔を上げた瞬間、少女を見た光子がえっ!と短く驚いた声を上げた。
「汐織ちゃん?」
「あ、ミツねーちゃんだ!」
「知り合いなの?」
静江の問いに、光子が驚いた様子で頷く。それににこやかに少女、汐織が答えた。
「私の兄ちゃんと、小学校んときと中学校んときの同級生なんだ!そんでね、家近所だからミツねーちゃんのおばーちゃんに、ジャム貰ったりしてたの!」
両手を上下させながらのじたばたした説明に、静江がそうなんだあと深く頷いた。その横で見ていた拓也が呆れたように、しずえさあんと言いつつ頭をかく。
「人喰い鬼の手鏡の封印が緩んだ時、森の方がちょっとおかしいって言ってくれたの、しぃとその友達でしょ?そん時同じ説明してたじゃんか」
そうだった!静江はしまったと眉をハの字するが、直ぐに笑顔で光子に向き直る。
「あ、その次の日に光子ちゃんに会いに行ったんだよ」
光子は汐織を未だに信じられない表情のまま、頭をことりと斜めに倒した。
今まで、光子にとって自分以外に見えるのは祖父母の他には拓也達だけだった。拓也達との出会いも衝撃だったのに、思わぬところから日常が崩れている。ここにいるということは、そういうことなのだろう。けれど訪ねるのに緊張して、喉が渇いた。常識が崩れて行く。
「み……見える、の?……汐織ちゃん」
光子の戸惑いなど露知らず、汐織はまたぱあと笑って大きく頷いた。正解を言って貰えた、まさにそんな笑顔だった。
「幽霊とか妖怪とか?見えるよ!お兄ちゃん達はちょぴっとだけ!あとねえ、いっちゃんとノブも見えるよ」
その笑顔を、光子は眩しい物を見るように何度もまばたきした。
まばたきを繰り返し、小柄な光子よりもう少し背の小さい汐織の両腕に手を伸ばす。きゅうと掴んでも、眩しい汐織は消えない。変わらぬ純真無垢な笑顔で光子を見上げている。丸い汐織の瞳には、光子がきらきらと映って見えた。
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