英雄は恥を晒す

yulann

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第一章 第三節

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「午前中は魔法関係。午後からは武術関係だ。三十分後に校庭に集合だ」

「楽しみで仕方ないって感じだなマオ」
「本当だね。目が輝いてるよ」

「そうかな? でも、楽しみなのはそうだね。魔法や剣術。学びたいことばかりだよ」

 期待に目を輝かせる生徒がいる一方で、トネーからの指導が不服という生徒も少なからずいるようだ。

「集まったな。これから魔法の説明を行う。頭で理解できているのと、勘でできるのは全く違う。そのことを肝に銘じてよく聞くように」

「まず、魔法はどうやって発動するかだ。魔法は魔力を使った詠唱によって精霊から力を借りることで発動することができる。魔法は大きく分けて七属性。火 水 氷 土 雷 風 草 だ。詠唱の種類によって力を借りる精霊の属性が変わるわけだ」

「それぞれに得意不得意があるが、一番需要なのは土属性だ。土属性の代表的な魔法がわかる人はいるか?」

「シールド」

 マーカがボソッとつぶやく。

「正解。流石大国の貴族だな。シールドは攻撃を防ぐための魔法だ。シールド系統の魔法が使いこなせない人間はすぐに死ぬ。逆に使いこなせる人間は優秀で高階級が多い。まずは見てくれ」

「シールド」

 トネーの周囲に薄い壁が出現する。

「これがシールドという魔法だ。誰か殴ってみるといい」

「いくぜ」

 アーバが勢いよく拳を振るうがシールドに弾かれる。

「硬え」

「ありがとう。見てもらった通り薄い壁だが、攻撃を防ぐことができる。さあ、実際にやってみてくれ。魔法は手から発動するイメージだ。詠唱によって精霊をよび、手から出た魔力を食べさせる。俺はそういうイメージでやっている」

「「「シールド」」」

 シールドが発動しない人。途切れ途切れでシールドを維持できない人。様々だ。

「ほお。流石だな」

 マーカとその取り巻きはトネーと遜色ないシールドを出現させていた。

「だが、あれはもっとすごいな」

 トネーはとても厚く形成された綺麗なシールドの元へ向かう。

「しんどくないか?」

「はい。全然平気です」

「魔力の使い過ぎということでもなさそうだな。すごい魔力量だ」

「すごいよメル」
「俺たちとは大違いだな」

 シールドを発動させていたのはメルだった。だが、マオとアーバはシールドを発動せられていなかった。

「今できなくても焦る必要はない。一度コツを掴めばどんどん上達していく」

 その後、各属性の魔法を試していく。マオは火属性のみ。メルは全属性の魔法を発動させることができた。全ての魔法を発動できない人も数人いた。その中にはアーバも含まれていた。

「そんなことってあるのかよ」
「アーバ。気をしっかり持って」

「魔力がないことはないだろう。落ち込むことはない。そのための魔法銃だ。全員集まってくれ。これからは魔法銃の説明をする」

「魔法銃?」

「魔力はあるが魔法が使えない人のために作られたのもの。それが魔法銃だ。実際に見た方が早いな」

 腕程の大きいもの。手程の小さなもの。様々な種類の銃が並べられている。

「魔法銃の内部には特殊な方法で精霊が内蔵されている。トリガーを押すことで魔力が勝手に吸収され、その魔力が精霊に届き魔法が発動するという構造だ」

「それなら初めからそれでいいのでは?」

「そういうわけにもいかない。大きな弱点があるんだ。一つの魔法しか使えないこと。巨大な魔法を使うには巨大な魔法銃が必要になること。この二つが大きな欠点だな。つまり、魔法が使える人間からするとただの劣化でしかない」

「「劣化」」

 魔法を発動できなかった数人が肩を落とす。

「だが、利点もある。それは詠唱がいらないことだ。詠唱を必要とする魔法では遠くからでないと先制で攻撃できない。逆に魔法銃はどの距離でも不意をつくことができる。そして、どんな魔法が発動するかも分からない。二発目まではとても大きな有利を取れるわけだな。要は時と場合だ。魔法銃だけの部隊もいると聞いたことがある」

 肩を落としていた数人の息が吹き替える。

「さあ、使って的を狙ってみるといい」

 手にしたことのない武器に生徒は釘付けになった。魔法を発動できていなかった人も魔法を発動できている。喜ぶ生徒の中で唯一肩を落としている人物がいる。アーバだ。

「魔法銃で魔法が発動しない理由は一つだけだ。魔力が一つもない」

「嘘だろ?」

 アーバはその場にへたり込む。

「気にしないで。アーバにはもっと強い力があるじゃん」
「そうだよ。アーバは強いから問題ないよ」

「まあそうなんだけどな。そんな気はしてたけど。少しは使ってみたかったよな」

「さあ一旦休憩だ。魔法銃は危険だから持ってかえるぞ。少ししたら帰ってくるから適当に休んでいてくれ」

 そう言われたが、魔法に触れた直後に休憩しろというのは無理な話だった。トネーが去った後も生徒達は魔法の練習を続ける。

「頑張れ」

 マオも応援されながら魔法の練習をする。メルに聞きながら何度も練習すると、少しだけシールドを発生させることに成功する。
 
「さすがマオだな」
「次はもっとできるんじゃない?」

「やってみるよ」

「シールド」
「ファイアボール」

 マオのシールドに火球が激突する。シールドに守られていたがマオは少し傷を負ってしまった。

「なんの真似だ?」

「どれくらいのシールドかテストしてあげたのさ。これで強度がわかっただろう?」

 火球を飛ばしたのはマーカだった。

「大丈夫?」

 マオの側にメルが駆け寄る。

「うん。大丈夫だよ」

「ああ悲しい。そんな人間未満と一緒にいると君の価値が下がってしまう。君の魔力は特別だ。そんな奴らとは釣り合わないよ」

「それは私がきめること。勝手に決めないで」

 メルがマーカを睨みつける。

「うーん。もう少し強くするべきだったかな。力の差を見せたつもりだったのに」

「じゃあ、さっきのはテストなんかじゃなくて怪我をさせるつもりだったってことか?」

 アーバが敵対心剥き出しで睨みつける。

「当たり前だよ。あんなの冗談に決まってるじゃないか」

「分かった。先に手を出したのはお前らだ。後悔しろ」

「僕のは魔法の訓練ということにするけど君はどうするの? 魔法も使えない君は訓練だって言い張ることもできないよ?」

「関係ねえ」

 アーバの纏う空気が変わる。筋肉が異常に膨れ血管が皮膚に浮き上がる。

「ダメだよ。アーバ」

 止めようと間に入ったマオをアーバが押しのける。こうなったアーバは止まらない。アーバは自分よりも友の為に本気で怒れる人間なのだ。

「下がってください」

 アーバの前に取り巻きの三人が立ち塞がる。

「どけ。僕がこんな人間未満に負けると思っているのか。ここで処分してやる」

「しかし」

「ダイラシア王国の貴族。マーカの言葉が信じられないのか」

 取り巻きは渋々と道を開ける。

「こい」

 マーカは手招きをして自信満々に挑発をする。アーバは一気に距離を詰め、そのままの勢いで心臓に向かって拳を放つ。

「シールド」

 バキンッ

「なんだと?」

 マーカの作ったシールドは唯の膜のように容易く破壊された。拳は勢いを失うことなく心臓に迫る。

「スモールシールド」

 心臓と拳の間に手のひらほどの小さなシールドが出現した。シールドと拳が接触する。爆音と共に衝撃波が発生し、周囲の人を吹き飛ばしていく。

「おいおい。一点集中で作ったシールドが一撃か。結構魔力使ったんだけどな」

 アーバの前にはトネーが立っていた。

「一旦落ち着け。マーカも今の一撃で吹き飛んでる。少しは気が済んだだろう」

 だが、アーバは拳をおろさない。

「俺に魔法を使わせるな。今のお前相手には手加減できんぞ」

  トネーの威圧に負けアーバは拳をおろす。すると、ゆっくり体が元の姿に戻っていく。

 その後、事情聴取が行われ二人には厳重注意が入った。マーカは最後まで訓練だという主張を曲げなかったが、周囲の生徒の証言もあり主張は通らなかった。

「二日目の午前中でこの酷さ。この先荷が重すぎるな」

 トネーは頭を抱え午後の訓練の準備をするのだった。

 「色々とあったが午後からは武術の訓練だ。武術の訓練は的が相手というわけにもいかない。安全も考慮して、もう一人先生についてもらうことになっている」

「武術の訓練を請け負う『マシュウ』だ。俺はお前達を強くするという依頼を受けている。そのために加減をするつもりはない。トネーほど甘くないから覚悟しとけ」

「まずは武器だ。好きなものを選ぶといい。素手なら素手でも構わん」

 剣や盾。槍や刀。見たことのない武器まで大量の種類が置かれている。

「武器をとったか? じゃあ始めるぞ。まずは俺かトネーとの試合だ。俺達は対戦相手と同じ武器を使う。実力を図るための簡単なテストだ。アビスもちは使っても構わんぞ」

 その言葉にアーバは少し広角が上がっていた。

「さあこい」

 マオは剣を手にとりトネーと向き合う。反対側ではアーバがアビスを使いマシュウと戦っているようだ。

「よそ見はよくない」

 隙をついたトネーの攻撃をすんでのところで回避する。

「すいません。いきます」

 しばらく撃ち合いをした後試合が終わる。

「なんとも言えないな。強いとも言えんが弱いとも言えん。もっと頑張れ」

「はい」

 アーバの方はいい評価をもらっているようだ。すぐ後でメルも試合をしたが、トネーは完全に手を抜いて子供と戯れているようだった。

「全然できないよ」

「大丈夫。初めはそんなもんだよ」

 悲しげな顔で近づくメルをマオが慰める。

「全員終わったな。ここからは同じ評価の生徒同士で戦ってもらう。その試合を見てアドバイスするから全力で戦うように」

「「はい」」

 数試合した後にマオはマーカと対峙する。その試合は訓練と思えないほどの苛烈さをまとっていた。

「これを待っていたよ。真珠さんに君の弱さを見せつける時だ」

「僕だって負けられない。僕は英雄になる。そのために強くなるんだ」

 だが、結果はマオの敗北だった。しっかりとルールに乗っとった上での敗北。先生二人がかりの監視もあり、危害を加えるのは控えたようだった。

「笑わせないでくれ。この程度で英雄なんて。面白い冗談だ」

「よし。今日はここまでだ。体が疲れているだろうからしっかり休むように」

 今日の出来事を三人で語りながら寮に帰る。

「マーカは絶対許さねえ。次はない」

「流石の強さだったね」

「そんなことねえよ。メルの魔法も化け物だったぞ」

「化け物は言い過ぎだよ」

 楽しそうに話す二人。マオは少しだけ顔を暗くする。

「どうした? さては俺たちに嫉妬してるな?」

 それを察してアーバが話を振ってくる。

「そうなの? マオにはマオのいいところたくさんあるけどね」

 そう言われてマオの顔は少しだけ明るさを取り戻す。

「本当にアーバには敵わないよ」

「そうだろ。ハッハッハ」

  ベットに入り今日のことを振り返る。嫉妬のこと。気遣われたこと。考えれば考えるほど自分が嫌になる。マオは考えるのをやめ、眠りにつくのだった。
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