英雄は恥を晒す

yulann

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第一章 第十二節

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  闘技大会が終わり三日がたった。マオを取り巻く環境は大きく変化していた。マオは恐怖の対象になっていた。生徒の首を飛ばした人間が同じ学校で生活している。その事実に怯えないほうが無理な話だった。前の時とは違い、嫌がらせ等は行われなかった。それだけ恐怖されていた。

 なぜそうなったか。一番大きな理由は学校側の対応だった。マオは学校に全てを話していた。コンティのこと。勧誘されたこと。だが、学校はそれを公表しなかった。今回の件は処罰しないとだけ発表した。学校は利益を優先したのだ。悪を見抜けなかったこと。魔法具の発動など。その全てを有耶無耶にすることによって評判を落とすことを防いだ。全てを学校が公表すればマオは悪を殺した正義となったかもしれない。マオ一人を苦しめることなど気にもしていなかった。

「どうして何も言わないの?」

「そうだ。俺たちに教えたくれように皆んなに真実を伝えればいいだろ」

「別にいいんだよ。僕は生徒を殺した狂人。そう認識されている人が言い訳をしても聞いてくれるわけがないんだ。事実としてそうなっただから」

「それでも、それは」

「大丈夫。僕は気にしてないよ」

「どうしてまた嘘つくの」

 メルはマオを睨みつける。

「嘘なんてついてないよ」

「分かった。私はマオに決闘を申し込む」

「え?」

「決闘に勝った方が負けた方の言うことをなんでも聞く。私が勝ったら、マオは英雄を目指すのをやめてもらうから」

「「え?」」

「私はこんなことのためにマオについてきたんじゃない」

「どうして?」

「それも私に勝ったら教えてあげる。私は本気だから」

 メルの顔は真剣そのものだった。強い決意を宿した眼差し。マオは決闘を受けなくてもいいと思っていた。だが、その姿を見て逃げてはいけないと悟った。ここで逃げたら一生後悔する。それに、メルの言動の真意を知るためにも、逃げるわけにはいかなかった。

「おいおい。メルがマオに喧嘩を売るなんて見たことないぞ」

「うん。僕も驚いてる。でも、勝って知りたい。今までメルが何を思って僕たちと一緒にいたのか」

「そうか。俺はマオを応援するぜ」

「ありがとう」

 決闘の日。マオはメルと対峙する。放課後の訓練場を貸し切った模擬戦闘だ。魔法具も適用されており、トネーとアーバが見届け人として観戦していた。

「私がなんのために今まで頑張ってきたのか分かったの。この試合に勝つためだよ」

「それでも僕は負けない。メルの気持ちを知るためにも」

「始め」

 メルは魔法を一気に展開する。その隙をつこうとマオも最速で攻撃する。だが、シールドに阻まれた。マオの最速を凌ぐ速さでメルは魔法を展開していた。その光景にマオとアーバは再確認する。メルは闘技大会の時は手加減をしていた。本来の半分も力を出していないかもしれないと。
 
 マオに四種類の高位魔法が襲いかかる。マオはそれを難なく回避する。だが、魔法は消滅しない。魔法はマオに向かって追尾を続ける。マオは剣を使って魔法を消滅させる。

「さすがマオ。でも、私の戦いはここからだから」

 メルは魔法を次々と展開させる。全てが追尾能力をもつ魔法だ。速度はそこまででもないが、当たればひとたまりもない。マオが魔法に対処している間に次の魔法が展開される。メルの魔力量を生かした物量戦法だ。マオは防戦一方になる。マオは為す術がなかった。ただただ、時間が過ぎていく。

 隙をついてマオが反撃に出る。

「スモールシルード」

 マオの攻撃を防ぐためと思われた魔法は攻撃の一手だった。シールドはメルの前ではなくマオの腹の前に出現する。剣をもち前方に集中しているマオはそれに気づけない。高速で動く体はシールドに直撃する。激しい衝撃がマオを襲った。

「ラージシールド」

 体勢を崩している隙に周りを巨大なシールドが囲ってゆく。三重のシールドがマオを取り囲んだ。マオはすぐさま反撃に転じる。技を使いシールドを攻撃する。だが、三十の壁は厚く二重までしか一気に剥ぐことができない。すぐさま新たなシールドが展開されマオを取り囲む。

「マオ。私の勝ちよ。降参して。シールドの中に魔法を発動することもできる」

「それでも僕は諦められない。僕は英雄にならなくてはいけないんだ」

「やっぱりそうだよね。マオはそうでなくっちゃ。でも、だからこそ、私は心を鬼にする」

 マオの足元に魔法が展開される。絶対絶命かと思われた瞬間、マオの目つきが変わった。

「テン」

 高速の連撃はシールドに回復の隙を与えない。三重のシールドが砕けると同時にマオは一気に距離をとる。

「さすがマオだね。でも、ここからが本番だよ」

  メルは次々と魔法を放つ。マオは剣を使って魔法を防いでいく。だが、少し前のように防戦一方ではない。隙をついてメルに反撃をする余裕がある。だが、その反撃もシールドによって防がれる。

 数分が過ぎた後、決着の時はすぐに訪れた。

 お互いに手札を出し尽くして戦っていた。そう思っていた。その隙は決定的なものとなった。

「ジンカン」

 メルの周囲にあるシールドを剥がそうと放たれた技。だが、マオは一気に体勢を崩す。地面が液状に変化していた。だが、メルは魔法の詠唱を行っていない。マオは理解が追いつかない。

「ラース」

 そんなマオをメルは待ったりしない。マオの頭上に超巨大な火球が出現する。メルのシールドは剥がれ、この一撃に全てを込めているのは明白だった。必死に抜け出そうとマオは足を動かす。だが、地面の液状化は収まり一気に硬化が始まる。マオは足が地面に埋まり、頭上には火球。絶対絶命な状況だった。

「ラージシールド」

 足が使えない状況の剣術ほど役に立たないものはない。マオは魔法に全力を賭ける。何重にも重なったラージシールドと火球が激突する。だが、魔法の申し子たるメルの魔法と、マオの魔法には圧倒的な差があった。シールドは火球に触れた瞬間粉々に砕け散る。拮抗することもない。火球はそのままの威力でマオに降り注いだ。

 巨大な爆発は地面を抉る。メルが抉れた地面を覗き込むとマオが倒れ込んでいた。まだ、魔法具のシールドは発動していない。だが、メルの表情は変わらない。冷たい目で淡々魔法の詠唱を始める。勝ちが確定した場面ですら手を抜くことはない。それだけの理由がある。

「フレイムランス」

 マオの体の上に数本の槍が展開される。

「マオ。これで私の夢は叶うよ。ずっと一緒にいようね」

「まだだ。まだ僕の夢は終わらせない。僕がこの夢を諦めたら僕で無くなってしまう」

 マオは瞬時に立ち上がりメルとの距離を一気に詰めて魔法を躱す。その顔は必死そのもの。その目には誰もが恐怖を抱くほどの強い意志がこもっていた。メルはその目に怯えず目を逸らさない。

「マオの気持ちも分かるよ。でも、私も同じ気持ちなの」

 マオは拳で近接戦を仕掛けるが既に満身創痍の状態。一方メルは魔力は殆どないが体は万全の状態。

 マオとメルの拳がぶつかり合う。戦いというより子供の喧嘩という方が適切な光景だった。圧倒的にメルが優勢だった。何度倒れても立ち上がるマオをメルが何度も何度も殴って地面に叩きつける。幾度も行われる行為にメルの目には涙が浮かんでいた。

「何で諦めてくれないの? こんなに辛いのに。こんなに痛いのに。何がマオを突き動かしてるの?」

「分からない・・・。でも、諦められない」

 その言葉にメルは再び拳を振るう。

「諦めて。諦めてよ。降参してよ」

 涙を流しながらメルは何度もマオを殴る。だが、魔法具は発動しない。殴り合いは無理だと判断してメルは最後の魔力を使って魔法を放つ。

「ライトニング」

 マオは必死に避けようとするが間に合わない。魔法に当たり吹き飛ばされる。だが、魔法具は発動しない。

「どうして? 体はとっくに限界のはずなのに」

 それはマオにも理解できなかった。既に体はボロボロでまともに動くこともできない。マオの異常なまでの意志が魔法具に干渉しているのか。それは誰にも分からない。

「ライトニング」

 再び魔法を発動するメルの姿はマオの目には他の何かに見えていた。自分の命を脅かす強大な、邪悪な何かに見えていた。命の危険を感じたからの防衛本能か、はたまたアビスの影響なのか。吹き飛んだ位置には運よくか、運悪くか剣が地面に埋まっていた。剣を手にしてマオは勢いよく立ち上がる。目の前にいる存在。命を脅かす存在を抹消するために。

 メルはマオの変化に気づいていた。今での雰囲気とは訳が違う。メルの手は自然と震えていた。

「テン」

 ゆっくりと発せられた言葉とは真逆。マオの体は先ほどからは想像できないほどの速度でメルに詰め寄る。そして、刹那の内に十六連撃が放たれる。メルは反応できなかった。瞬時に魔法具が発動する。だが、マオの十六連撃は魔法具のシールドすら破壊していく。十連撃目でシールドは砕け、剣がメルを目掛けて振るわれる。咄嗟にトネーも反応するが間に合うはずもない。その光景に誰もが息を呑んだ。それはマオも例外ではない。今まで見えていた虚像は消え、大切な存在に移り変わる。そして、自分の持つ剣がその人目掛けて迫っている。

 ダメだ。誰か、誰か止めてくれ。

 心の中で必死に叫ぶマオ。だが、体は言うことを聞かない。刹那の内に放たれる技。その連撃を途中から止めるなど無理な話だった。マオが目の前の光景を見まいと目を瞑る。

 こんなことの為に僕は生きてきたのか。英雄になる。そのために大切な人を犠牲にする。これなら、英雄なんて夢消えてなくなればよかった。もっと話したかった。今までのこと。これからのこと。心の内に隠していること全部。なのに、もう遅い。僕は取り返しのつかないことをしてしまった。

 数秒の後に目を開けると、そこは一度見たことのある空間。少し前に母と出会った空間だった。だが、そこに立っている人物は母ではなかった。見たことのない男性だった。

「大切な人に手をあげるなんて酷いな」

 開口一番現実を叩きつけられる。

「わざとじゃ・・・」

 そう言いかけた言葉は最後まで出てこない。

 わざとだから許されるのか? 
 
 後悔の念はマオの心を少しずつ押しつぶしていく。

「そうだな。わざとじゃない。だが、模擬戦という形であれ大切な人に剣を向けたのは事実だろう。僕ならそんなことはしない。どれだけ時間がかかっても、必ず言葉で解決する。何かの解決手段として戦いをすることはこの世で最も愚かな行為だ」

 その言葉はさらにマオの心を押しつぶしていく。

「僕にとって英雄とは全ての人を愛する者。命を傷つける行為を許さず、誰かの為に命をかけられる者。そんな英雄に君になって欲しい。だから、こんなことは二度としないでくれ。約束できるかい?」

「でも、僕のしたことはもうどうしようもない。過去は変えられない。こんな僕に英雄を目指す資格はない」

「そうだ。だが、未来は変えられる。約束してくれ。二度と大切な存在に剣を向けないと。そして、この戦いで気づいた自分の感情に正直に生きると」

「ああ。約束する」

「そうか。よかった。頑張って。応援しているよ」

 そう言って男性は消えていった。その声はどこかで聞いたことのある声だった。だが、こんなに優しいものではなく、もっと禍々しく攻撃的な声だった気がした。

 マオは気がつくと再び同じ場面に戻っていた。だが、何かが違った。驚愕しているメルの姿はなく、少し微笑みマオの剣を待っていた。まるで別人のように。マオは何かを感じ取り、目を背けず剣を振るわれるメルを直視する。そこからは驚愕の光景だった。

 メルは目にも止まらぬ速さの剣を全て素手で受け流したのだ。到底人間とは思えない芸当だ。

「二度目はないよ。頑張って」

 メルの口から聞いたことのあるセリフが出たと思えば、力が抜けたようにそのまま地面に倒れ込んだ。マオはすぐにメルを抱き抱える。

「私、負けたんだね」

「うん。だから、聞かせてほしんだ。今までメル積み重ねてきた思い全部。その後に聞いてほいしいんだ。僕の思い。この戦いで気づけた僕の本当の思いも」

「分かった。明日の夕食のあと時間をとっておいて。私も自分の気持ちを正直に伝える」

 二人は気が抜けて地面に倒れ込む。満身創痍の体とは違い、二人は満面の笑みだった。

 頑張れよ。愛は世界を救う。
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