英雄は恥を晒す

yulann

文字の大きさ
14 / 27

第一章 第十三節

しおりを挟む
 マオは目を覚ました。いつも通りの朝。いつも通りの授業。今まで過ごしてきた何気ない生活が永遠のように長く愛おしく感じた。

 長い長い一日の授業を終え、帰路に着く。いつもの夕食は半分も喉を通らない。それだけこれから起こる出来事に緊張しているということだろう。夕食を終え、寮の敷地内にある公園に向かう。マオは自分の心臓が異常なほどに早く鼓動しているのを感じていた。その鼓動を収めながら今か今かとメルを待った。

 どれだけの時間が経ったのだろうか。それがマオの感覚によって引き伸ばされた時間なのか。本当に過ぎ去った時間なのかは分からない。だが、それでもマオは待った。いくらでも待った。そこにメルが来ないなんて微塵も考えていなかった。それだけメルのことを信じていた。

 ガサッ

 月が高く上がり夜も更けてきた頃。マオの背後から足音がした。マオの心臓は今まで抑えれていたのが嘘のように激しく動き始める。

「メルが遅れるなんて珍しいね」

 マオは何気なく振り返る。そして、自分の心臓が止まりそうなのを感じた。

「やあ、久しぶりだね」

そこには自分が殺したはずのペイの姿があった。その光景でマオは全てを理解するに至った。メルのことを殺そうとしていた人物が現れ、メルの姿はない。最悪の未来がマオの頭をよぎる。

「大丈夫だよ。まだ、死んでいないから」

 その言葉にマオは一気に戦闘体勢に入る。

「おっと、攻撃はやめてくれ。僕が死ねばメルさんは確実に死ぬことになるよ? それでも良いのかな?」

 マオは魔法の詠唱を止めて戦闘体勢を解除する。

「そうだな。それが一番利口な選択だ。僕たちは戦いをしにきたんじゃない。話し合いをしたいんだ。さあ、着いてきてくれ。彼女の元へ案内するよ」

 マオ達は寮から出て街の付近にある森に入っていく。森の深部にある巨大な廃墟にマオは案内された。

「マオ!」

「メル!」

 廃墟の中に入るとメルが鎖に繋がれて柱に括られている光景が目に入った。咄嗟に駆け寄ろうとするがメルの背後から剣もった男が現れあた。

「近づくな。近づけば殺す」

「くそ」

「大丈夫。君の大切な人は殺さない。いや、殺したくない。だから、僕たちの話をもう一度考えてくれないかな?」

 マオは頭を抱えていた。いや、頭を抱えているふりをしていた。時間を稼ぐためだ。時間が経てば経つほど二人がいないことを不審に思う人は増えていく。同室のアーバは尚更だ。そうなれば教師陣が動く。マオはそれを狙っていた。

「良いことを教えよう。いくら待っても教師達はここには来ないよ」

「え?」

 自分の考えを見透かされていたようでマオは気の抜けた返事をしてしまう。

「僕たちはこの計画に大きな賭けをしている。そのための準備もしてきた。今頃街は炎が上がり、教師達と僕たちの戦士が戦っていることだろう。それに、この森には超強力な結界魔法がかかっている。結界内の空間を引き伸ばし通常の人間では進んでいることにすら気づけないほどの特殊結界だ。応援が来ることはない」

 マオは黙り込んでしまう。

「さあ、意地など捨ててこちらにおいで。僕たちの理想も間違ってはいないだろう。僕たちの世界で君は英雄になるんだ。英雄になりたいんだろう?」

「ダメだよ。マオは夢を諦めちゃダメ。マオは自分の意思を貫いて」

「黙れ」

 メルが近くにいた男に顔を殴られる。

「おい」

 その光景にマオは怒りが込み上げる。

「そうだろう。彼女には死んでほしくないはずだ。だから、手を貸してくれ。君の力が必要なんだ」

 マオは究極の選択に黙り込んでしまった。

 その頃。アーバはマオが戻らない異変に気づいていた。いくらなんでも遅すぎる。マオがメルと話をするのは聞いていたので公園に向かった。だが、そこには二人の姿はなかった。アーバは二人が仲良く散歩でもしている可能性も否定できなかった。だが、最悪の展開の場合はいますぐに動く必要があった。足に力を込めて職員のいる建物に向かって一気に跳躍を開始する。

 ドガッ

 アーバの体を激しい衝撃が襲う。勢いを殺しきれずそのまま地面に叩きつけられた。

「君に行かれるわけにはいかない。君には俺と一緒に来てもらう」

 アーバの目の間には赤色の髪と目をした。中年に近いであろう男性が立っていた。

「痛えな。だが、今の音で何かが起きたのは明白だ。見通しが甘かったな」

「そうでもない。ここからが本番だ」

 その声とともに街の至る所で爆発が起き炎が上がる。

「私だけではない。多くの仲間がこの街で足止めの命を受けている。教師とて引退したものも多い。計画は完璧だよ」

 アーバは自分の予想した最悪の未来が現実のものであると理解した。マオから教えてもらったコンティの襲来。傭兵学園に忍びこみ街に戦争を仕掛けるほどの規模を持つ集団。冷や汗が止まることはなく、夜風は暑くなったアーバの体を少しずつ冷やしていく。

「私はもういいから。私が全部悪いの。今までのバチが当たったんだよ」

「黙れと言ってるだろうが」

 何度殴られようとメルはマオに夢を諦めないでと伝えた。今までのマオならメルを見捨てていたかもしれない。だが、あの時のあの戦いを終えたマオにとってメルを見捨てるという選択肢はなかった。

「僕が仲間になればメルは助けてくれるんですか?」

「勿論だ。仲間の大切な人を殺すわけがないだろう。僕たちは君を歓迎するよ」

「私はいいから。だから・・・」

 メルの目からは涙が溢れていた。

「そんなこと言わないで。僕はメルのことが大切なんだ。メルが僕のことを思ってくれているように、僕はメルのことを思っている。だから、僕はもういいんだ」

「よし。これで計画は成功だ。誰の命も奪わなくて済んでよかった。さあ、二人でアジトに行こう。次期に君達の仲間も到着するはずだ。また三人仲良く生活してくれ。ただ、目的が違うだけだ。さあ、縄を解け。移動を開始するぞ」

「「はい」」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる

灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~ 幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...