英雄は恥を晒す

yulann

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第一章 第十六節

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 ペイの率いる一団は第二拠点に向かって移動を開始していた。ペイ達が目的を達成したことにより賑やかな雰囲気であるのに対し、マオとメルの間に会話はなく、とても重たい雰囲気だった。

「どうしたんだい? せっかく命が助かったのに。夢も叶えられる。最高じゃないか」

 ペイの質問に対してもマオは答えない。そのまま時間が経ち、一団は第二拠点に到着した。

「さあ休憩だ。街で足止めをしている戦士を待って移動を開始するぞ」

「「はい」」

 建物内でマオとメルは監視をされながら一息つくことになった。だが、二人の間に会話はない。何も行動を起こさない二人を見たペイは部屋を後にする。マオとメルはその時を待っていた。一瞬のうちにマオは抜刀してペイの部下を切り裂く。メルも最速で魔法を発動して相手を拘束する。命を奪う行為をよしとしないマオだが、メルの命と敵の命、天秤にかける必要もない。優先すべきものは決まっていた。

「行こうメル」

「うん」

 マオとメルはきた道を全速力で戻っていく。とても広い建物だったが道中には不気味なほど敵がおらず、数分もせずに外に出ることができた。

「どこに逃げればいいのかな?」

「分からない。でも逃げなきゃ」

 マオ達は建物まで目隠しをされていた為、街への方角が全く分からない状況になっていた。だが、そんなことは関係ない。

「もう絶対に離さない。行こう」

 マオはメルの手を握りしめて森に向かって走っていく。

「うん。絶対に離れない」

 マオとメルは夢中で森の中を進んでいく。少し進むと森の中にポツンと灯りがつく建物が見える。

「あの灯りはなんだろう?」

「助けを呼べるかもしれない。行ってみよう」

 街から外れた場所。それも森の中に。コンティの拠点の近くで。普通なら絶対に一般人などいない状況だがマオ達はその灯りに向かって走っていく。それだけ今の状況が危機的であり、冷静さをかくのも仕方なかった。

「すいません」

 建物のドアを叩く。

「やっぱりダメだったか」

 数秒後。ため息と共にドアを開けて現れたのはペイだった。マオは即座に抜刀してペイに斬りかかる。それはアビスも使用した全力の一撃となった。

「危ない」

 だが、ペイは目にも止まらぬ一閃を瞬時に回避する。

「なんだと」

「本当に仲間になってくれると期待してたのに。残念だよ。せっかくのチャンスを無駄にして」

「チャンス?」

「そうチャンスだ。真の仲間になって平和な世界を目指すためのチャンスだ。あの拠点に監視がほとんどいなかったのを不審に思わなかったかい? あのまま君たちが何もせずに時間がくれば合格だったのに。本当に残念だ。君たちは不合格。強大な力を持つ者はいずれ障害になる。ここで排除するけど恨まないでね」

 ペイの号令と同時に建物を囲うように異常なまでの人数があらわれる。

「さっきまで気配も何も感じなかったのに」

「気付こうと思えば気付けたはずだよ。僕は闘技大会で幻視の魔法を使っていたんだから。それだけ冷静じゃなかったかな」

「メルいけるか?」

「うん。勿論」

「こんな人数僕とメルなら楽勝だ。勝って帰ろう。まだ伝えたいことがいっぱいあるんだ」

「私もいっぱいある。負けるわけにはいかないね」

 尋常ではない人数を目にしてもマオとメルに絶望の表情はない。むしろ希望に溢れており、この戦いが終わった後のことを見据えていた。

「さあいこう」

 二人対数百の戦いが始まった。マオとメルは全ての力を使い次々と敵を倒していく。人数の減りは尋常ではない速度だった。

「やはり君は神にも悪魔にもなれる人間だ。でも、僕らにとって悪魔になるのなら手加減はしない」

 ペイも戦いに参加する。マオの技はペイには当たらず、他の敵を狙うとペイが攻撃をしてくる。ペイが参戦したことによってマオは動きがかなり制限されることになった。そのしわよせがいくのはメルの方だった。今までよりも多くの敵がメルに向かって攻撃をする。だが、メルの目に恐怖はない。

「ラーズ」「グリーズ」

 巨大な青い炎と黒い稲妻が敵に向かって進んでいく。その魔法に触れた者は体の原型を残すことなくチリへと変える。数分は上位の魔法を使い敵を捌くメルだったが、その時はやってきた。魔法を主体に使うものにとっての限界。魔力切れだ。

「マオ。私魔力が・・・」

「諦めるな。絶対に僕が守る。僕のそばから離れるな」

 メルを庇うように戦うマオ。言葉は強気だが、無理をしているのは明らかだった。数百いた戦士を数十にまで減らした二人だったが、互いに限界を迎える。

「動きが鈍くなってきたな。もう限界だろう」

 メルの盾となって戦っていたマオはもう立ち上がれないほどにボロボロになっていた。その代わりにメルはまだ立っていられていた。

「まだだ。まだ僕は・・・」

「最後のチャンスだ。僕たちの仲間になれ。今ならまだ二人を助けてやる。この機会を逃せば二度はないぞ」

 メルが捕まっている状態よりもさらに危機が迫る状態。その状況で差し伸べられる救いの手。すがってしまうのも仕方のないことだった。

「分かった。仲間になる。二度と裏切らない。だから、メルを・・・」

「ダメだよ」

 メルが真剣な眼差しでマオを見詰める。 

「全部私が悪いんだよ。夢に向かって頑張るマオがかっこよくて。それなのに私の夢は諦められなくて。そうゆう人間だからバチがあたったんだよ」

「何を言ってるんだ」

「本当に都合のいい女だよね。勝手に学校について行って。勝手に怒って決闘を挑んで。それなのに負けて。本当にどうしようもないと思う。今もマオの足を引っ張ってばかり。でも、私にはまだできることがあるの」

 真剣な眼差し。覚悟の決まった顔。マオはこれからメルのやろうとすることがわかってしまった。だが、体は動かない。

「私、英雄に向かって頑張るマオが大好きなんだ。だから、そのマオの夢を諦めさせてまで私に生きる価値はないの」

「やめてくれ。僕はそんなの望んでない」

「私だって本当はこんなことしたくないよ。ずっとずっと一緒に生活する夢を見てきたの。結婚して。子供を作って。歳をとっても二人で笑い合いながら生きていきたいって。マオと離れ離れになるなんて考えたくもない。でも、こうするしか方法がないの」

「ダメだ」

 マオは地面を這いながらメルに向かって手を伸ばす。

「孤児院で育って。あまり恵まれない人生だと思ってた。でも、私はマオに出会えた。マオと出会ってから全てが変わったの。つまらなかった私の毎日が太陽のように輝き始めた。あの日。マオと出会って私に生きる意味が生まれたの。本当に楽しい人生だった。こんな私と今まで一緒にいてくれてありがとね」

「そんなこと言うな。諦めるな」

「一人ならマオは逃げ切れるって私は知ってるよ。でも、私がいたらマオは逃げないでしょ。だから、こうするしかなの」

 メルは地面に落ちていた剣を握りしめる。

「さようなら。マオ・・・・・・愛している」

「やめろーーーー」

 メルは自身の首を切り裂いた。

「あーーーー」

 言葉にならない叫びが森の中に木霊する。

 宙に舞う鮮血の中でマオはただ涙を流していた。
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