英雄は恥を晒す

yulann

文字の大きさ
16 / 27

第一章 第十五節

しおりを挟む
 森深部にある廃墟にメビウスは現れた。

「ここは違うのか。ここが本部としては最適かと思ったが」

「「「ファイアボール」」」

 廃墟の中心で佇むメビウスを複数の魔法が襲う。

「やったか?」

 煙がはれる。そこには傷一つないメビウスの姿があった。

「ここにマオという人間はいるか? 俺はその人間を助ける依頼を受けている」

「教えるわけがねえだろ。死ね」

 切りかかった人物は一瞬で無惨な姿に変貌する。

「なにが起きた?」
「何かに押しつぶされたように見えたな」

「全員戦闘体勢だ。目標は達成している。街にいる戦士が戻るまでの時間を稼げ」

 廃墟に潜んでいた数十名がメビウスを囲うように姿を現す。

「それでいいんだな? さっきのは脅しのつもりだったんだが。依頼で来ている以上手加減はしないぞ」

「抜かせ。俺たちだって世界を変えるために鍛錬を積んできた戦士。死ぬのはお前だ」

「分かった。全力で相手をしよう」

 それは戦いですらなかった。メビウスに近づいた人物は例外なく何かに押しつぶされ、血液へと姿をかえる。魔法も一切通用せず、メビウスは無傷だった。

「た、助けてくれ。命だけは。命だけは」

 戦意を喪失して命乞いをする者も現れはじめる。だが、メビウスは容赦をしない。一人一人確実に血液へと変えていく。

「慈悲はないのですか?」

 涙を流し懇願する戦士に向かってメビウスはゆっくりと近づいていく。

「お前はバカか。ここは戦場だ。勝ちも負けもない。生があるか死があるかそれだけの場所だ。そんな場所に覚悟も持たず踏み入ったお前が悪い。死ぬ覚悟もない奴が戦場をウロウロするな」

 そしてまた一人血液へと変わる。

「まだだ。まだ諦めるな。街にいる戦士が帰ってくれば戦況は変わる。信じて待つんだ」

 魔法の音を聞きつけて森の付近で警戒を行っていた戦士が集まってくる。その数は二百に迫っていた。

「無駄死にだな。相手の力量を測れないから撤退もしない。お前らを育てた人間は本当に間抜けだ。もっとしっかり教えていれば、全員死なずにすんだかもしれないのに」

 数分もしないうちに廃墟は血の海に変わっていた。

「これは一体どういう状況だ? 何故結界の中に知らない人間がいる」

 戦士があと数人になったところにバランドが現れた。バランドはメビウスの姿を見た瞬間戦慄した。それはそうだ。目の前の男はイヤリングをつけている。赤色であって赤色とは全く異なる、真紅の輝きを放つイヤリングを。

「撤退だ。ペイに伝えろ。紅が来ている」

「しかし・・・」

「黙って行け。二度目はないぞ」

「「はい」」

 戦士達はペイがいる第二拠点に向かって移動を開始する。

「さて、どこまで時間を稼げるか。トライデント」

 戦闘体制に入ったバランドは魔法を放つ。だが、メビウスに魔法が届くことはない。続けざまに何十発もの魔法を放つが同じことだった。

「そういうことか。透明の・・・」

 バランドが何かを言いかけた瞬間メビウスが一気に距離を詰める。咄嗟に後退したバランドは背後にある何かにぶつかった。体勢をすぐに立て直し上空への跳躍を開始する。だが、再び何かに遮られ飛び立つことができなかった。全方向への移動も試したが、バランドを囲うように何かが遮っていた。

「もう無理か」

 バランドは悟ったように目を閉じる。

「命乞いはなしか。流石だな」

 先程までの人物と何も変わらず、バランドは押しつぶされて血液へと姿を変えた。

「さて、行くか」

 メビウスはゆったりとした足取りで戦士達が逃げて行った森の中に消えていたった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる

灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~ 幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...