197 / 369
第17章 Betrayal
1
しおりを挟む
普段はタバコの匂いが充満している支配人室に、紅茶の芳しい香りが漂う。
雅也の友人で、趣味の一環として探偵の真似事をしていると言った男は、どこから持ち込んだのか、優雅な仕草で品の良いティーカップを持ち上げると、鼻先に近付けて香りを楽しんだ後、漸くカップに口を付け、紅茶を一口啜り、満足気に笑みを浮かべた。
そして未だに封筒の封を切ることの出来ない俺の様子を、窺うように覗き込んだ。
「どうしました? 中をご覧にならないのですか?」
「いや、そんなことは……」
見たくないわけじゃない、ただ迷っていた。
この封筒の中には、おそらくは智樹の居所を記した報告書が入っている。
智樹が今どこにいて、何をしているのか、無事なのか、生きているのか……
知りたいのは山々だ。でもこの封を切ってしまったら、きっと俺が望んでいない情報まで知ることになる。
そう思ったら、どうしてだか手が震えて、中々封を切る事が出来なかった。
「雅也、悪いけど開けてくんねぇか?」
俺は封筒を雅也に託すことにした。
「えっ、お、俺っ?」
雅也が驚くのも無理はない。でも残念なことに、自分で封を切る勇気が、今の俺にはない。
「悪い、頼むわ」
情けねぇけど……
「分かった。翔真がそう言うなら」
じゃ、開けるよ……と、最終確認だろうか、言葉もなく目だけで訴えられ、俺がコクリと頷くのを見てから、雅也封筒にハサミを入れた。
カサリ……と音を立てて口の開いた封筒から、丁寧に綴じられた冊子を取り出した雅也が、ページを捲りながら目を通して行く。
その顔が、ページを捲る毎に険しく変わって行くのを、俺は徐々に胸に積み重なって行く不安を感じながら見つめていた。
そして、最後のページが閉じられ、表紙に報告書と書かれた冊子が置かれた時、ゴクリ……と一つ息を飲んでから、俺は漸くその口を開いた。
「何て書いてあった?」と。
でも雅也は俺の質問に答えることなく首を横に振ると、「ごめん……」今にも消え入りそうな声で言って、そっと瞼を伏せた。
雅也の友人で、趣味の一環として探偵の真似事をしていると言った男は、どこから持ち込んだのか、優雅な仕草で品の良いティーカップを持ち上げると、鼻先に近付けて香りを楽しんだ後、漸くカップに口を付け、紅茶を一口啜り、満足気に笑みを浮かべた。
そして未だに封筒の封を切ることの出来ない俺の様子を、窺うように覗き込んだ。
「どうしました? 中をご覧にならないのですか?」
「いや、そんなことは……」
見たくないわけじゃない、ただ迷っていた。
この封筒の中には、おそらくは智樹の居所を記した報告書が入っている。
智樹が今どこにいて、何をしているのか、無事なのか、生きているのか……
知りたいのは山々だ。でもこの封を切ってしまったら、きっと俺が望んでいない情報まで知ることになる。
そう思ったら、どうしてだか手が震えて、中々封を切る事が出来なかった。
「雅也、悪いけど開けてくんねぇか?」
俺は封筒を雅也に託すことにした。
「えっ、お、俺っ?」
雅也が驚くのも無理はない。でも残念なことに、自分で封を切る勇気が、今の俺にはない。
「悪い、頼むわ」
情けねぇけど……
「分かった。翔真がそう言うなら」
じゃ、開けるよ……と、最終確認だろうか、言葉もなく目だけで訴えられ、俺がコクリと頷くのを見てから、雅也封筒にハサミを入れた。
カサリ……と音を立てて口の開いた封筒から、丁寧に綴じられた冊子を取り出した雅也が、ページを捲りながら目を通して行く。
その顔が、ページを捲る毎に険しく変わって行くのを、俺は徐々に胸に積み重なって行く不安を感じながら見つめていた。
そして、最後のページが閉じられ、表紙に報告書と書かれた冊子が置かれた時、ゴクリ……と一つ息を飲んでから、俺は漸くその口を開いた。
「何て書いてあった?」と。
でも雅也は俺の質問に答えることなく首を横に振ると、「ごめん……」今にも消え入りそうな声で言って、そっと瞼を伏せた。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる