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第13章 特別編「偏愛…」
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その日は朝から随分と雲が低くて……
僕は鉛色の空を見上げては、心の奥底では智翔の帰郷を嬉しく思っているのに、晴れ晴れとしない……鬱屈とした想いを抱えた、まるで自分の心のようだと感じながら、唯一残った腕を空に向けた。
それでも、数ヵ月ぶりに見ることになるであろう智翔の姿を想像すると、不謹慎とは知りつつも自然と笑みが零れた。
元々、智子に良く似て愛らしい顔立ちをしていたし、さぞかし美しい娘に成長したことだろうな、と……
「ああ……、こんなことなら僕も駅まで出迎えに行けば良かった……」
僕は潤一に智翔の迎えを頼んだことを酷く後悔した。
片腕が無く、自動車の運転など出来ないのだから仕方がないのだけれど……
僕は壁の時計を見上げては、まだかまだかと庭に降り、家の前を所作なさげにうろうろと歩き回った。
そうしてどれだけの時間が過ぎただろう……
田畑の間に伸びる畦道を、轟音を響かせ黒煙を吐き出しながらこちらに向かって来る一台の自動車が見えた時は、僕は今にも駆け出したい衝動に駆られた。
が、実際には僕の両足は地面に貼り付いたようになってしまっていて、その場から一歩を踏み出すことすら出来なかったのだけれど……
やがて自動車が止まり、運転席から降りた潤一が、後部座席の戸を開けた。
僕は鉛色の空を見上げては、心の奥底では智翔の帰郷を嬉しく思っているのに、晴れ晴れとしない……鬱屈とした想いを抱えた、まるで自分の心のようだと感じながら、唯一残った腕を空に向けた。
それでも、数ヵ月ぶりに見ることになるであろう智翔の姿を想像すると、不謹慎とは知りつつも自然と笑みが零れた。
元々、智子に良く似て愛らしい顔立ちをしていたし、さぞかし美しい娘に成長したことだろうな、と……
「ああ……、こんなことなら僕も駅まで出迎えに行けば良かった……」
僕は潤一に智翔の迎えを頼んだことを酷く後悔した。
片腕が無く、自動車の運転など出来ないのだから仕方がないのだけれど……
僕は壁の時計を見上げては、まだかまだかと庭に降り、家の前を所作なさげにうろうろと歩き回った。
そうしてどれだけの時間が過ぎただろう……
田畑の間に伸びる畦道を、轟音を響かせ黒煙を吐き出しながらこちらに向かって来る一台の自動車が見えた時は、僕は今にも駆け出したい衝動に駆られた。
が、実際には僕の両足は地面に貼り付いたようになってしまっていて、その場から一歩を踏み出すことすら出来なかったのだけれど……
やがて自動車が止まり、運転席から降りた潤一が、後部座席の戸を開けた。
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