独占欲

２１

　明け方になってこっそり自室に戻った僕の手には、松下が調合したお薬が握られていた。


　このお薬を兄様に……
　そうすれば兄様は僕だけの兄様になる。

　でも、もしも……もしも失敗したら？

　兄様は……
　でも松下は大丈夫だと言った。


　僕は松下の言葉を信じて、計画を実行に移した。




　僕はその日、兄様のお部屋に和也君を近寄らせないために、熱があると噓をついて学校を休んだ。
　僕が屋敷にいる時間には、和人君は兄様のお部屋を訪ねないことを、僕は知っていた。

　使用人として雇った相原には、和人君の世話をするよう言い付けた。

　偶然なのかもしれないけれど、その日和人君は朝食を済ませた後、ベッドから起き上がれない程の腹痛を訴えていたから。

　和人君の部屋には、事が済むまで部屋から出られないよう、松下が外から鍵をかけ、僕はと言えば、松下が呼びに来るのを、暖炉の前でスケッチブックに鉛筆を走らせながら待った。

　何もかもが松下の立てた計画通りだった。


　ああ、兄様……
　もうすぐ兄様は僕だけの兄様になるんだ……

　兄様に愛されるのは、後にも先にも僕だけ……

　誰にも兄様には触れさせない。


　そう思うと僕は嬉しくて堪らなかった。

　だから松下が扉を叩いた時には、僕の心臓は張り裂けんばかりに跳ね上がり、鼓動はかつてない程の速さで脈打った。

「智樹様、準備が整ってございます」

　松下と一緒に入って来たのは、木製のワゴンで、そこには西洋風のカップが二つと、ティーポットが乗せられていた。

「智樹様もご準備を……」

　うんと頷いた僕は、スケッチブックと鉛筆を床に放り投げ、松下がお茶を注いだカップに手を伸ばすと、それを一息に飲み干した。