H･I･M･E ーactressー

第15章 日常６：焦る僕と浮かれる彼

２

　なのにさ……

　「なあなあ、コレ見てくんない？」

　わざわざ背中を向けた僕の前に、桜木くんが自分のスマホを差し出して来て、ＨＩＭＥとのツーショット写真を僕に見せて来る。


　ＨＩＭＥの本体（この表現合ってる？）でもある、この僕にだよ？
　ほんっと、桜木くんって鈍感なの？


　「超可愛くね？　もうさ、天使っつーかさ、マジ女神って感じじゃね？」
　「そ、そう……だね……」
　「だろ？　俺、マジで惚れちゃいそうだよ」


　ああ、そうですか……
　その天使だか女神だか知んないけど、それ今桜木くんの目の前にいるこの僕なんですけどね？


　僕は元々丸まった背中が、更に丸くなるのを感じた。


　でもちょっと待って？

　ＨＩＭＥとのツーショット写真を、こうも自慢げに僕に見せて来るってことは、桜木くんは僕がＨＩＭＥだってことには気付いてない？

　だってそうだよね？

　もし僕がＨＩＭＥだと気付いてたら、普通は見せらんないよね？
　桜木くんは、ＨＩＭＥの正体には気付いてない……って事じゃない？

　そうだよ、絶対そう！


　ホッとした僕は、勢いを付けて椅子ごと身体の向きを変えた。
　その時……

　「あっ……」

　桜木くんの存在をうっかり忘れていた僕は、すぐ後ろ……それこそ鼻息さえぶつかるくらいの距離に桜木くんの顔があったことに、思いがけずドキッとしてしまって……

　僕は咄嗟に視線を逸らした。


　だって魅力的なんだもん、桜木くんの唇って。
　ふっくらしてて、見るからに柔らかそうで……、キスしたくなっちゃうような唇なんだもん。


　だから視線だけじゃなく、顔まで逸らしたのに、鈍感な桜木くんときたら……

　「なあ、シャンプー変えた？」

　なんて聞きながら、僕の髪に鼻先を埋めて来るから困る。

　「か、変えてないけど、なんで？」
　「何かいつもと匂い違うからさ……」
　「そ、そう……？」

あ、そっか……、昨日和人のお家でお風呂入ったから、だからかも。

　「た、多分、入浴剤のせいだよ」

　僕は適当に誤魔化した。


　ってゆうか、桜木くん……
　シャンプーの匂いまで知ってるのに、僕がＨＩＭＥだと気付かないなんて……

　ほんっと、鈍感なんだね。