ＲｏｏｍＮｕｎｍｂｅｒ「０００」

第１章 ００１

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「どうする、のむか？」

　回答を迫られ、翔真は一瞬片眉をピクリと持ち上げる様子を見せたが、すぐに表情を和らげ、

「分かった、のむよ。で、もう一つは？」

　答えると同時に次を急かした。

「二つ目は……」

　言いながら智樹が今度は中指を立て、立てた二本の指を翔真の前に突き出した。

「俺が店の金くすねてることは、親父には絶対秘密だ」


　まだ上手く誤魔化せているうちは良いが、もしこの事が知れたら……


　智樹は確実に住む場所を失うことになるし、最悪親子の縁さえも切られかねない。

　演歌歌手の真似事をして得られる報酬なんてたかが知れているし、自主制作したＣＤの売上だって、制作にかかった費用にはまだ遠く及ばない程しか売れていない。とても十分とは言えない収入しか得られていない智樹にとって、どちらか一方でも失えば、それこそ死活問題になる。

「どうする、のむか？」

　言葉にこそしなかったが、智樹の目は「のめないのであれば、協力はしない」と、そう物語っていて……

　翔真は小さな笑いを零すと、ピッと立てられた智樹の指を自分の手の中に握り込んだ。

「契約成立だな」と、ニヤリと笑いながら。



　それから二人は公園ではなんだからと、翔真のアパートに場所を移動し、返信されて来たメールを元に、綿密な誘拐の計画を立てた。

　尤も、誘拐を決行する日時も、誘拐後にターゲットの身柄を隠しておく場所も全て指定済みだから、二人が立てた計画と言えば、誘拐に必要な車の手配と、ルートの確認くらいのものではあったのだが……