ＲｏｏｍＮｕｎｍｂｅｒ「０００」

第２章 ００２

９

　店舗入口から離れた場所に車を停め、翔真が智樹の膝の上からボストンバッグをヒョイと取り上げる。

　膝の上の重しが無くなったことにホッとしたのも束の間、智樹には別の不安が湧き上がって来る。

「お、おい、マジで爆弾とかだったら……」

　翔真は冗談だと言ったが、イマイチ翔真の事が信用出来ない智樹は、「大丈夫だって」と何度翔真がそう繰り返したところで、やはり不安が消えるわけではない。

　当然だ、智樹には「大丈夫だ」と言われ続け、若くしてこの世を去った友人との辛い過去があるのだから。

　尤も、翔真はその友人を知らないし、智樹も翔真には彼……富田耕介とのことについては、これまでもそしてこの先も話すつもりはないのだから、翔真が「大丈夫」と繰り返すのも仕方のない話しなのだが……

「開けるよ？」
「お、おう……」

　翔真の手がチャックの引手にかかる。
　智樹はそれを息を飲んで見つめ、そしてジッと音を立ててチャックの引手が引かれた瞬間、ギュッと固く目を瞑った。

　時間にしたら数秒……のことだろうか、想像するような事が起こらないのが分かったのか、智樹は瞼をゆっくり持ち上げ、先にボストンバッグの中身を確認した翔真の後を追うように、ボストンバッグの中を覗き込んだ。

「何だ……これ……」

　ボストンバッグの中には、上下ツナギになった作業着が二着入っていて、その胸元には世情にも疎い智樹でも知っている名前のホテルのロゴが入っていた。