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第3章  004

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 智樹は力ずくで翔真の手からモップを取り上げると、それでも尚岸本に飛びかかろとする翔真の肩を引き、パーティションごとなぎ倒した。

「痛ってぇ……」

 転んだ拍子に打ち付けた腰を摩りながら、のろのろと立ち上がろうとする翔真に、智樹はざまあ見ろとばかりに鼻を鳴らし、何が起きているか分からず、怯えた様子で身体を丸くする岸本の前にしゃがんだ。

「お、お、俺のこともこ、こ、こ、殺すのか……!」
「はあ? あんた何言ってんの?」
「だ、だ、だ、だって……」

 岸本の震える指が、ベッドの上に横たわる死体に向けられた。

「俺らじゃないし……」

 寧ろ、そう問いたいのはこっちだとばかりに智樹は溜息と同時に方を落とした。
 ただこの状況を見る限り、自分達が犯人だと思われるのは致し方のないことだ。

「あ、あれ……?」

 何か言いたげに口をパクパクとさせ、智樹と死体とを交互に見る岸本の目が不意に止まった。

「あんた……、もしかしてこの人知ってんのか?」
「え、マジで? だ、誰だよ……」

 大分痛みが和らいだのか、二人の元へと翔真が床を這い寄る……が、智樹の眼光鋭い睨みに、咄嗟にその動きを止めた。

「え、えっと……、実はこの男は俺の……」

 言いかけたところで、岸本の頬を一筋の涙が伝った。
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