ＲｏｏｍＮｕｎｍｂｅｒ「０００」

第８章 ００９

２５

　鼻息を荒くする智樹と、そんな智樹をどうにか宥めようとする翔真を前に、黒瀬は「落ち着いて下さい」と言い置くと、静かな口調で自らの推論を語り始めた。

「お二人……いや、岸本さんが立てた計画は、きっとこうでしょう……」

　黒瀬はスっと息を吸い込むと、リビング部分と寝室部分とを隔てるパーティションを移動させた。

「岸本さんと弘行さんは元々恋愛関係にありました。ところが、何らかの理由で二人の関係にヒビが入り、岸本さんは弘行さんが邪魔になった。そこで、以前から自分に対して好意を向けている相原社長に協力を頼んだ……」

　そこまで言って黒瀬はフッと鼻を鳴らすと、それまでの冷静沈着な様子からは一転、クスクスと笑い声を立て始めた。

「と、普通ならばそうでしょう」
「え、どういうこと……？」
「そもそも、弘行さんが会社の金を横領していた……、なんて話は真っ赤な嘘です」
「え？」
「実際に横領していたのは、岸本さん、貴方です」

　予想もしていなかった事実に、翔真も智樹も驚きと、そして困惑の表情を浮かべる。

「貴方は、会社の金を使い込んでいたのを弘行さんに知られ、脅されていた……違いますか？」
「え……？　意味わかんないんだけど……」

　再び混乱し始めた翔真は、黒瀬と岸本を交互に見ながら、頭を乱暴に掻き混ぜた。

「えっと、つまり……。二人は恋人じゃなかったってこと？」

　そして、やっとの思いで出した一つの答えを、黒瀬は首を横に振って否定した。