RoomNunmber「000」

誠奈

文字の大きさ
140 / 143
第8章  009

29

しおりを挟む
 相思相愛だと思っていた岸本に裏切られたショックからか、相原の目尻にはジワジワと熱いものが浮かび始めたが、相原はそれが毛足の長いカーペットを濡らす前に握ったままの拳で拭った。

「済まないが警察を呼んでくれないか」

 相原が項垂れたまま言う。

「それは、自首する……と言うことで宜しいですか?」

 黒瀬が〝自首〟と口にしたことで、慌てたのは岸本だ。

 「ちょっとアンタ何考えてんだよ……。つか、俺は関係ないから……」

 岸本は相原の肩を掴むと乱暴に揺すったかと思うと、今度は思い切り突き放し、ズカズカと足音を鳴らして
部屋の入り口へと向かった……が、ドアノブを握ったところでドアが開かないことに気付き、一つ舌打ちをした。

 その間にも黒瀬は自身のスマホを手に、どこかに電話をかけ始め……

「……っだよ、クソッ!」

 岸本は苛立ち紛れにドアを一蹴りし、その場に胡座をかいて座り込んだ。

「いいか、俺は何もしてねーかんな!」

 何とも往生際の悪い男だ。
 その岸本に対し、勿論黒瀬だって黙ってはいない。

 翔真の手を借りながら相原をソファに座らせ、耳元で何やら小声で囁くと、続けて岸本の肩を軽く叩いた。

「確かに、貴方は人を殺してはいません。ですが、横領の罪を逃れることは出来ないし、偽装誘拐に関しても同様にです」

 少しだけ強い口調で諌めた。

 そして相原にしたのと同じように、岸本の耳元に口を寄せると、やはり小声で何かを囁きかけ、それから漸くソファに腰を下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

処理中です...