君の声が聞きたくて

誠奈

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第10章  trill

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 普段よりはちょっとだけ温度高めのシャワーを頭から被り、桜木さんと同じボディーソープで全身を洗うと、なんだか桜木さんの腕に包まれているような、不思議な感覚を感じる。

 それでもいくらか頭はスッキリした気がして、軽く水分だけを拭き取り、桜木さんと同じように、腰にバスタオルだけを巻き付けバスルームを出た。

 フッと息を吐き出し、リビングへと続くドアを開けると、そこには明かり一つも灯ってなくて……

 『桜木……さん……?』

 不安になって名前を呼ぶけど、俺の声が届くことはない。

 俺は握り締めていたスマホの明かりだけを頼りに、リビングと隣室とを隔てるドアを手探りで探し当て、静かにドアを押し開いた。

 『桜木さん……?』

 もう一度名前を呼んで部屋の中を見回すと、間接照明だけが灯る薄明るい部屋のベッドの上に、こんもりと丸くなった布団が視界に入った。


 寝てるの……?


 俺はなるべく足音を立てないようにベッドに近付くと、そっと布団を捲った。すると、まるで俺がそうするのを待っていたかのように、布団から両手が伸びて来て……

 『えっ……!?』

 腕を掴まれたかと思うと、そのまま布団の中に引き込まれた。
 想定外の状況に、引っ張られた拍子に捲れたバスタオルを掻き合せようとするけど、背中から回された手がそれを許さない。


 首筋にかかる吐息が……、熱い……


 「さっき君は聞いたよね? 答えは出たかって……」
 『……うん』
 「俺の答えはNOだ。まだ自分がどうしたいのか、自分が君とどうなりたいのか……、明確な答えは出てはいない」


 だったらどうしてこんなこと……を?


 「でも、俺が君を好きな気持ちは変わらない。ただ……、さっき君にキスをされた時感じたんだ」
 『何……を?』
 「君が本気で俺を抱きたいと思ってない、って。君ももしかしたら迷ってるんじゃないか、ってね?」


 なんだ…… 、バレてたんだ?


 「だから、今はまだこのままでいよう……って言うのは、都合良過ぎ……かな?」
 『ううん……、それで良いよ……』


 別にセックスすることだけが全てじゃないし、それにお互い迷いを抱えた中でセックスしたって、得られるモンなんて何もない。


 意味のないセックス程、虚しいモンはないから……
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