君の声が聞きたくて

誠奈

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第11章  pesante

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 ショックだった。

 目が覚めて彼女が隣にいたこともそうだが、それ以上に、智樹を好きだと言いながら、それが例え酒のせいだったとしても、女性の身体に反応してしまった自分が恨めしかった。

 「ねぇ、トモキって?」
 「えっ……?」

 彼女が知る筈もない名前を口にしたことに心底驚き、ズキンと痛む頭のことも忘れ顔を上げると、ヒヤリとした指が俺の頬を滑り、明らかにそれと分かる柔らかな感触が、俺の背中を覆った。


 長い髪が、まるで蜘蛛の糸のように腕に絡み付いて、気持ち悪ぃ……


 「どう……してその名前……を?」

 腹の底から込み上げて来る吐き気に、目の前がクラクラする。

 「あら、覚えてないの? 貴方ったら、私を抱きながら、何度もトモキって呼ぶんですもの、気にならないわけないでしょ?」


 俺……が、彼女を抱きながら、彼の名……を?

 嘘だ……!
 いくら酒に酔っていたとは言え、いくら俺の彼に対する想いが強かったとはいえ、彼女に彼の姿を重ね合わせるなんて……

 そんなことあるわけない。いや、あっちゃいけない!


 そう自分に言い聞かせてはみるが、それ以外に彼女が彼の名を知る理由が見つからなくて、きっと青ざめているであろう顔を手で覆った。

 「君には関係のないことだ……」

 やっとの思いで絞り出した声が、酷く掠れている。

 「関係ないって何? 私と貴方は八年も付き合った仲じゃない、今更隠し事なんておかしいわ?」


 そうだ、八年だ……
 八年もの間、俺は脇目も振ることなく、彼女だけを思い続け、彼女との未来予想図だって描いてきた。
 その八年間を無にしたのは……、一方的に終わりにしたのは、他でもない……彼女の方だと言うのに、今更とか……意味分かんねぇよ……


 「済まないが帰ってくれ」
 「久し振りなのに随分冷たいのね? いいじゃない、もう少しこのままでいましょうよ、ね?」

 赤い唇が俺の唇を絡め取り、そのまま下へ下へと降りて行く。その感触がまるで蛇でも這っているかのようで、背中に悪寒が走った。
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