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第13章 coda
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沈黙のまま、時間だけが虚しく過ぎて行った。
ふと窓に視線を向けると、ついさっきまで晴れ渡っていた筈の空は曇り、まるで、智樹との旅行に心を踊らせていた俺を嘲笑うかのように、大粒の雨が降り始めていた。
約束の時間はとっくに過ぎているし、その上この雨だ、流石にもう待ってないよな……
俺は心の中で智樹に詫びると、目の前で足を組み、スマホの上で細い指を踊らせる彼女を見上げた。
「それで、どうするつもりだ」
「どうするって、決まってるでしょ、 産むわよ。 だって貴方言ってたじゃない、子供は三人は欲しいって」
そうだった。彼女と付き合っている頃は、そんな夢を想い描いたこともあった。
でも今俺の心の大半を占めているのは智樹ただ一人。
何の補償もないし、先のことなんて全く分からないけど、それでも僅かな希望に向かって歩もうとしている。
なのにまさか、こんなことになるなんて……
「まさか堕ろせなんて言わないわよね?」
「それは……」
彼女は知ってる。俺が、嘘でもその一言を言えない性格だってことを、彼女は良く知ってる。
八年だもんな、俺の性格も考えも、知っていて当然か……
「それで、今お腹の子は……」
「何ヶ月か、ってこと? そうね、丁度三ヶ月目に入ったところかしら」
「病院には?」
「あら、もしかして疑ってるの? ちゃんとお医者様にも診て頂いたわよ? 証拠だってあるわ」
そう言って彼女がバッグの中から取り出したのは、所謂エコー写真ってやつで、そこにはとても小さいけれど、確かにそれと思われる陰が映っていて、どこにも疑う余地などないってことを、そのたった一枚の写真が証明していた。
「ね、本当でしょ?」
「あ、ああ……」
「どうしたの、嬉しくないの? 貴方と私の赤ちゃんよ?」
長く伸びた爪を真っ赤に染めた指が俺の指に絡められ、そして心做しか腹回りのゆったりしたドレスを着込んだ彼女の腹に導かれた。
「ふふ、分かるかしら? パパよ?」
一時はそう呼ばれることに憧れを抱いた時期もあった。
でも何故だろう、今はそう呼ばれることに吐き気さえ感じる。
ふと窓に視線を向けると、ついさっきまで晴れ渡っていた筈の空は曇り、まるで、智樹との旅行に心を踊らせていた俺を嘲笑うかのように、大粒の雨が降り始めていた。
約束の時間はとっくに過ぎているし、その上この雨だ、流石にもう待ってないよな……
俺は心の中で智樹に詫びると、目の前で足を組み、スマホの上で細い指を踊らせる彼女を見上げた。
「それで、どうするつもりだ」
「どうするって、決まってるでしょ、 産むわよ。 だって貴方言ってたじゃない、子供は三人は欲しいって」
そうだった。彼女と付き合っている頃は、そんな夢を想い描いたこともあった。
でも今俺の心の大半を占めているのは智樹ただ一人。
何の補償もないし、先のことなんて全く分からないけど、それでも僅かな希望に向かって歩もうとしている。
なのにまさか、こんなことになるなんて……
「まさか堕ろせなんて言わないわよね?」
「それは……」
彼女は知ってる。俺が、嘘でもその一言を言えない性格だってことを、彼女は良く知ってる。
八年だもんな、俺の性格も考えも、知っていて当然か……
「それで、今お腹の子は……」
「何ヶ月か、ってこと? そうね、丁度三ヶ月目に入ったところかしら」
「病院には?」
「あら、もしかして疑ってるの? ちゃんとお医者様にも診て頂いたわよ? 証拠だってあるわ」
そう言って彼女がバッグの中から取り出したのは、所謂エコー写真ってやつで、そこにはとても小さいけれど、確かにそれと思われる陰が映っていて、どこにも疑う余地などないってことを、そのたった一枚の写真が証明していた。
「ね、本当でしょ?」
「あ、ああ……」
「どうしたの、嬉しくないの? 貴方と私の赤ちゃんよ?」
長く伸びた爪を真っ赤に染めた指が俺の指に絡められ、そして心做しか腹回りのゆったりしたドレスを着込んだ彼女の腹に導かれた。
「ふふ、分かるかしら? パパよ?」
一時はそう呼ばれることに憧れを抱いた時期もあった。
でも何故だろう、今はそう呼ばれることに吐き気さえ感じる。
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