君の声が聞きたくて

第１５章 diminish

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　昨日今日と、続け様の来客に若干嫌気が差しながらも玄関ドアを開け放ち、松下をプライベート空間へと招き入れる。

　「お邪魔します」

　いちいち礼儀正しい松下は、自分が脱いだ靴は勿論のこと、俺の靴まできちんと揃えて玄関の脇に並べた。

　お互い営業職に就いているから、最低限のマナーは身に付いているが、基本仕事以外はズボラな俺と違って、松下は仕事以外でも几帳面な性格で、そこが俺と松下の決定的な違いでもある。

　「コーヒー淹れるから、適当に座ってて？　あ、それともアルコールの方が……」
　「ビールがあればその方が良いけど、なければコーヒーで良いよ」

　リビングに入るなり、俺は忙しなく動き回る。
　智樹が初めてこの部屋に来た時もそうだが、特別気を使う相手でもないのに、来客となるとつい落ち着きを無くしてしまうのは俺の悪い癖だ。

　比べて松下と来たら、一通り部屋の中を見回したかと思ったら、ソファの真ん中にドカッと腰を下ろして、これ見よがしに長い足を組んでやがる。


　つか、そこ俺の座る場所だし……


　とは言え、相手が松下であろうと客には違いないから、そこはグッと堪えて冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、テーブルの上に置いた。
　ツマミは、以前営業先で貰った煎餅の詰め合わせしかないが、松下が来ること自体急なことだってから仕方ない。

　俺はラグの上にクッションを敷くと、その上に胡座をかいた。

　二人してほぼ同時にプルタブを引き、缶と缶をを軽くぶつけ合ってから、冷えたビールを喉に流し込むと、乾いた喉にビールの冷たさと、炭酸の刺激が染み渡る。

　「美味い」

　松下が満足そうに呟いて、口元を手の甲で拭う。


　ったく……、何をやっても様になる男だ。


　「つかお前、車だよな？」
　「そうだけと？」

　壁の時計を見上げると、時刻は２３時を僅かに過ぎた頃で……

　車は駐車場に停めておくとしても、終電を逃してしまったら、他に交通手段はない。

　「タクシーとか、ここら辺あんま通らないけど……」
　「うん、知ってる。いいよ、泊めて貰うから」
　「は、はあ？」

　あまりにもあっけらかんとした口調に、俺は口に含んだビールを危うく吹き出しかけた。