君の声が聞きたくて

誠奈

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第20章  delicato

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 そんなこと……

 普通に人を好きになって、普通に恋愛をして、普通に結婚して、そうやって普通の人生を歩める人はきっとそう言うんだろうな。


 でも俺達は……

 俺達が特別な訳じゃない、ただ異性に全く興味の持てない俺達みたいな奴らにとって、普通であることがどれだけ羨ましかったか……


 俺だってもし普通であったら、こんなにも苦しい思いはしなくて済んだのかもしれない。

 でもそれを言ったところでどうなるわけでもないし、普通の人に理解が出来るかって言ったら、それは難しいことなのかもしれない。


 そう、今の雅也さんのように……


 「俺は別に結婚とか、そんなこと一度だって考えたこともなかったし、潤一とこれからもずっとこうしていられたらって……、それじゃ潤一は不満だったってわけ?」

 普段はあまり感情的になることのない雅也さんが、珍しく声を荒らげる。

 けど、潤一さんは至って冷静で……

 「不満なんてないよ。雅也と一緒にいられることは、俺にとって何より幸せなことだし、お前から一緒に暮らさないかって言われた時だって、お前は気付いてなかったかもしんないけど、本当は飛び上がる程嬉しかった」
 「じゃあ……」
 「でもさ、一緒に暮らしたところで、俺達の関係はそれまでと何一つ変わることはなかった。お前は俺を同居人と呼び、和人のことは弟だと……家族だと呼んだ。それがどれだけ悔しかったか……」

 雅也さんからしてみれば、ただ世間体を気にしただけのことなんだろうけど、それは潤一さんからしてみれば、恋人であるということ自体を否定されたような、そんな風にも感じたんだろうな…………


 膝の上で握った潤一さんの手が、怒りではない、ただただ悔しさに震えていて、その手を包むように雅也さんが手を重ねた。

 「ごめん、潤一がそんな風に思ってたなんて、俺気付かなくて……」

 俯いた雅也さんの横で、潤一さんが小さく首を振り、薄らと涙の浮かんだ目を天井に向けた。
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