264 / 337
第23章 passionato
14
しおりを挟む
「誰が最低だって?」
拳をテーブルに叩き付けたくなるような怒りに、声までもが震える。でも上杉は意に介することなく、フンと鼻を鳴らすと、まるで俺を蔑むような、そんな笑みを浮かべた。
「だってそうじゃないっすか。口では相手のこと考えてるとか、格好良いこと言ってっけど、結局は自分のことしか考えてないじゃないっすか」
「そんなことは……」
ない……と、果たして今の俺が言えるのだろうか……
自ら課した戒めに雁字搦めになって、ただの一歩も踏み出せずにいる俺に、一体どんな言い訳が出来るんだろう……
俺は握り締めていた拳を開き、そのまま顔を覆い、ハッと息を吐き出した。
「そうだよ、お前の言う通りだよ、上杉。俺は逃げてんだよ、智樹から。智樹の為だと言いながら、結局自分の都合ばっか押し付けてたんだよ」
思えばいつだってそうだった。
狡い男なんだよ、俺は……
「智樹に別れようって言われた時、俺がどう思ったか分かるか?」
「……いえ」
「俺な、ホッとしたんだよ。智樹が別れを切り出してくれた時……」
勝手だよな、きっかけを作ったのは俺なのに……
「俺から別れを切り出せば、智樹を傷付けることになると思ってな。でもさ、それってとんだ思い違いでさ……。実際には、智樹の口から別れの言葉を言わせることが、どれだけ智樹を苦しめることになるのか、全く分かってなかったんだよ」
自分が傷付きたくないがために、智樹を深く傷付けたんだ。
「馬鹿だよな、俺は。今頃気付いたってもう遅いのに……」
目頭が熱くなって、顔を覆った手の平を、涙の粒が濡らす。それに気付いた上杉が、ティッシュの箱をそっと差し出した。
「俺は……、今からだって全然遅くないと思いますけどね」
えっ…?
上杉のその一言に、俺は顔を覆っていた手を離し、箱からティッシュを一枚抜き取った。
拳をテーブルに叩き付けたくなるような怒りに、声までもが震える。でも上杉は意に介することなく、フンと鼻を鳴らすと、まるで俺を蔑むような、そんな笑みを浮かべた。
「だってそうじゃないっすか。口では相手のこと考えてるとか、格好良いこと言ってっけど、結局は自分のことしか考えてないじゃないっすか」
「そんなことは……」
ない……と、果たして今の俺が言えるのだろうか……
自ら課した戒めに雁字搦めになって、ただの一歩も踏み出せずにいる俺に、一体どんな言い訳が出来るんだろう……
俺は握り締めていた拳を開き、そのまま顔を覆い、ハッと息を吐き出した。
「そうだよ、お前の言う通りだよ、上杉。俺は逃げてんだよ、智樹から。智樹の為だと言いながら、結局自分の都合ばっか押し付けてたんだよ」
思えばいつだってそうだった。
狡い男なんだよ、俺は……
「智樹に別れようって言われた時、俺がどう思ったか分かるか?」
「……いえ」
「俺な、ホッとしたんだよ。智樹が別れを切り出してくれた時……」
勝手だよな、きっかけを作ったのは俺なのに……
「俺から別れを切り出せば、智樹を傷付けることになると思ってな。でもさ、それってとんだ思い違いでさ……。実際には、智樹の口から別れの言葉を言わせることが、どれだけ智樹を苦しめることになるのか、全く分かってなかったんだよ」
自分が傷付きたくないがために、智樹を深く傷付けたんだ。
「馬鹿だよな、俺は。今頃気付いたってもう遅いのに……」
目頭が熱くなって、顔を覆った手の平を、涙の粒が濡らす。それに気付いた上杉が、ティッシュの箱をそっと差し出した。
「俺は……、今からだって全然遅くないと思いますけどね」
えっ…?
上杉のその一言に、俺は顔を覆っていた手を離し、箱からティッシュを一枚抜き取った。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる