君の声が聞きたくて

第２３章 passionato

１８

　店のチョイスは上杉に任せた。
　上杉は顔が広いし、昔は相当なワルだったと本人は言っていたが、それなりに人望も厚い。上杉に任せておけば、皆が納得する店を選んで来ると思った。

　ところが、だ。
　上杉から「予約済み」と送られてきたメールに添付されていたのは、オープンしたら行こうと約束していた、商店街のあの店のホームページだった。

　てっきり上杉の馴染みの店になると思っていた俺は、最初こそ驚きはしたものの、実際俺も気になっていたこともあってＯＫを出すことにした。




　そして親睦会当日、終業時間が迫って来るにつれ、ソワソワし始める社員達。皆親睦会が楽しみで仕方ないと言った様子だ。

　そんな中、俺のデスクの電話が鳴った。
　電話の相手は、漁港の近く鮮魚の卸売を営んでいる人で、得意先の一人でもあるから、急な要請であっても無下に断るわけにはいかない。

　俺は上杉と所長に事情を伝えると、他の社員よりも一足先に会社を飛び出した。上杉も同行すると言ったが、上杉の名前で店の予約がしてあるからと断った。

　時間には遅れるが、仕方ない。

　俺は大急ぎで用事を済ませ、商店街へと向かった。

　流石に休日を前にした週末ということもあって、普段よりは擦れ違う人の数も多い。勿論、予約済みのあの店の前にも、空き待ちの客だろうか、人並みが出来ていて、俺はその人並みを掻き分け、店のドアを開けた。


　店内は超が付く程の満員で、俺の姿に気付いた店員が、威勢の良い声で俺を出迎えてくれた。


　つか、この雰囲気といい、店の造りといい、どこかで見た記憶が……


　ただそれがいつの事だったのか、どこだったのかが思い出せず、俺は店員に案内されるまま、上杉達社員が待つ座敷席に上がった。

　「遅くなって済まないね」

　頭を下げ、上がり端の席に腰を下ろした俺の前に、すかさず手拭き用のおしぼりと、口取りの小鉢が差し出された。

　「しょ……まさ……ん？」

　聞き覚えのある声と共に……